第3話 亜人娘と刀少女の対面は
翌日、太陽が空に一番高い位置にある頃、アヒトとベスティアは昨日の料理屋へ向かっていた。グラット先生の言葉で祝勝会は終了し、サラと別れて寮に戻った後、アヒトはベスティアが目を覚まし次第チスイのことを話した。
初めは「勝手に決めるな!」と怒られるかと思ったがそういうこともなく、逆にベスティアは拳を固めて気合いを入れるほどやる気満々だった。
ちなみに、ベスティアは酒を飲んで以降の記憶は曖昧らしく自分がどんな風に眠ったのかも覚えていないみたいだった。
昨日の料理屋へ向かっている途中、サラが制服を着て歩いているのを見かけた。
「おーい、サラ〜」
少し大きめに声をかけるとサラはアヒトたちに気づいて駆け寄ってくる。
「おはよう、アヒト、ベスティアちゃん」
「おはよう、サラ。制服なんか着てどうしたんだ? 今は夏休みだろ?」
お互いに挨拶して歩き出す。
「制服を着ているのはアヒトもでしょ。昨日私もあの場にいたからね。私も先生と一緒に立会人になろうかなって」
「そっか、すまないな」
なんだかサラに申し訳なくなってしまいつい謝ってしまった。
アヒトの言葉にサラはただ優しく微笑むだけで何も言わなかった。
しばらく歩いて行くと昨日の料理屋が見えてきた。お昼頃ということもあり辺りには人が多く行き交っている。
すでに店の入り口付近には昨日いきなり勝負を挑んできた少女――チスイ・ナミヒラが腕を組んで立っていた。
「……あの女がチスイ・ナミヒラ?」
ベスティアがアヒトに聞いてくる。その質問にアヒトは頷いて答え、チスイに近づいて行く。アヒトが近づくことによってチスイも気づき、肩を怒らせてこちらに向かってくる。
「遅いぞ! どれだけ待たせる気なのだ」
「どれだけって、君はいつからここにいるんだ?」
アヒトの質問にチスイは太陽に向かってビシッと指をさして答える。
「あの太陽が顔を出したくらいだな!」
「めちゃくちゃ早いな! どんだけやる気あんだよ」
「む。おまえたちが何時頃集まるのか教えないのが悪いのだぞ」
「君がさっさと帰るのが悪いだろ!」
そんなことを言い合っていると横から声がかけられた。
「やあやあ、待たせたねみんな」
グラット先生が頭を掻きながらやってくる。
「さあ、ついてきてくれ。いい場所を知っているんだ」
そう言うなりグラット先生は歩き出す。
それを見てチスイはアヒトに向かって「ふん」と鼻を鳴らしながら藤色の羽織を翻してグラット先生の後を追う。アヒトたちも二人の後を追って歩き出した。
グラット先生が向かった場所は街から少し出た先にある何もない空き地である。一軒家が二つも建てられるのではないかというほどの広さがあり、確かにここなら周りに迷惑をかけずに十二分に戦うことができるだろう。
「うむ、良い場所だ。では、アヒト・ユーザス。改めておまえに勝負を挑む」
「はいはい」
そう言ってお互いに『即死不可』の魔術をかけ、一定距離を開けて配置に着く。
「む……二対一とは些か卑怯ではないか?」
「いや、今回おれは手を出さないよ。君の相手はこのティアがする」
チスイはベスティアに視線を向ける。
「おまえは強いのか?」
その言葉にベスティアは少し考え、力強い目でチスイを見つめて答える。
「……強くはない。だけど弱くもない。少なくとも貴様には負けるつもりはない」
ベスティアの言葉にはアヒトも少し驚いた。今までは「強くない、足が速いだけ」と言い張るベスティアだったが、今回は違った返答をしていた。
そしてベスティアの言葉にチスイも「ほう」と感心した呟きを漏らし
「よく吠えた。ならばこの波平智翠、正々堂々相手をしてやる。死ぬ気でかかってこい!」
と言って腰に携えている刀を鞘から抜き放ち、右足を左足より一歩前に出し、剣先をベスティアに向けた中段の構えをとる。
それに合わせてベスティアも腰を低くし、いつでも動ける態勢をとる。
「それでは、今からベスティアとチスイ・ナミヒラの試合を行う。決着はどちらかが戦闘不能になった時だ」
グラット先生がゆっくり息を吸い、そして一言
「はじめ!」




