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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第6章
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第12話 亜人娘が抱いたものは

「ちっ、無駄に魔力を消耗したじゃねえか」


一瞬だった。三人がかりでも敵わなかった相手をたった一人で瞬殺してしまった。


ベスティアは呆然とその女魔族を眺めた。


「ん?どうした、そんなに口を開けてると虫が入るぞ」


ベスティアは我を取り戻して女魔族から距離をとる。


「き、貴様は敵?それとも味方?」


「あ? 何言ってんだ、そんなことどうだっていいだろ。ていうかお前……」


そう言って女魔族はベスティアに近づく。そしてベスティアの両頬をむにゅっと掴む。


いきなりのことでベスティアは目を白黒させる。


「にゃ、にゃににょしゅりゅ!?」


女魔族はベスティアをじっと見つめる。


うん、可愛いと、ただそう思った。


「いや、ちょっと知り合いに似ていたもんでな」


ベスティアの顔から手を離す。


少し後ろにふらついたが、転けるような無様なことはせず、ベスティアは女魔族を睨みつける。


「貴様、魔族だろ。なぜ私を助けたの?」


「助けた? バカ言え、あたしが気に食わなかったから殺しただけさ。それより二つ結びの女見なかったか? はぐれちまってよ」


女魔族は煙草のような物を吸いながら聞いてくる。


「……見てない、それより助けてほしい人がいる」


「あぁ? 何であたしが。もしそいつを助けるとしてあたしに何の得がある?」


「それは……」


ベスティアは少し考えてから口を開く。


「……貴様の言うこと、何でも聞く」


「却下だ。これから会うかどうかもわからないやつとそんな約束しても意味ないだろ」


「……私の命と引き換えにする」


「却下だ。それこそあたしに何の得がある」


「……私の体、好きにしても良い」


ピクッと女魔族の指が動く。


「……却下だ。あたしは女だぞ。そんな趣味はない」


「……今の間はなに?」


「気のせいだろ。とにかく全部ダメだな」


必死に考えた案が全て拒否されてベスティアはしゅんとする。三角の耳まで垂れている。


「……ちっ、あーもう分ったよ! とりあえず見せてみろ」


女魔族は煙草のような物を消してベスティアに近づく。すぐにベスティアの垂れていた耳がピンと立つ。


「こっち」


そう言ってベスティアは歩き出した。向かった先は木が密集している場所。先の戦闘でアヒトが飛ばされた場所である。


アヒトはすぐに見つかった。木の根元にうつ伏せの状態で倒れていた。


「こいつ人間じゃねえか」


ベスティアがコクっと頷く。


「大切な人」


それを聞いた女魔族は目を見開く。


「……そうなのか」


そして女魔族はアヒトの体に手を添える。


「ひでえ怪我だな……」


「何とかできる?」


「ああ、問題ない。命に別状はない。とりあえず骨は繋げておいた。あとはお前らでやれ」


「ありがとう」


ベスティアが礼を言うと、女魔族はベスティアの頭を撫でる。


「こいつを治した代わりと言っちゃあなんだが、あたしのことは誰にも言わないでおいてくれ」


「わかった」


そう言って先程いた場所へと戻る。


「……おい、あそこで寝ている女は大丈夫なのか?」


女魔族が示す場所にベスティアが視線を向けるとサラが倒れていた。


「………………一応、見て」


「やけに長い間があったな」


そう言って女魔族はサラに近づく。


「ああ、こいつは大丈夫だ。ただ寝てるだけだな」


サラに触れることなく診察終了。


女魔族はサラのポーチから瓶がはみ出ているのが目に入った。


「おい、これなんだ?」


「魔力回復薬」


「へえ、こいつも見てやったからこれも貰ってくぞ」


女魔族はサラのポーチから魔力回復薬の入った瓶を数本手に取る。


その時、森の奥から声が聞こえた。


「ん? 誰か来るな。そんじゃあ、さっきの約束頼んだぞ」


「待って」


「なんだよ」


「……名前は何て言うの?」


ベスティアの言葉に女魔族は渋い表情になるが、諦めたかのようにベスティアに背を向けながら答えた。


「リーダム・ノック。最強を目指す女だ」


リーダムと名乗った女魔族は、そのまま森の奥へと消えていった。


ベスティアはそれを静かに見送ると、茂みを掻き分けて先程声がしていた人物が姿を現した。


「いた!大丈夫か!」


姿を現したのはグラット先生だった。


グラット先生はベスティアの周りの惨状を見て目を丸くする。大量の魔獣の死体があり、クレーターができている付近には原型が解らなくなった魔族の肉塊まである。


「ここでいったい何があったんだ? それにアヒト君はどこだ」


ベスティアはアヒトのいる方向を指差す。


「わかった、よく無事だったな。すぐ森を出るといい。実は今回の合宿は魔獣が出たことにより中止となったんだ」


それだけ言ってグラット先生はアヒトの下へ走って行く。しばらくしてグラット先生がアヒトを抱えて戻って来る。


「大丈夫、気を失っているだけだ」


それは先程女魔族が言っていたのでベスティアは気にしない。


「そこの魔術士さんも大丈夫そうだな。良かった。すごいことに生徒の誰も重傷者がいなかったんだ。魔獣が出たのにみんな軽傷ですんでいたから今年の生徒たちは強いと保証するぞ」


「…………」


ベスティアはグラット先生の会話に口を開くことなく歩き出す。


「おいおい、待ちなさい」


グラット先生はアヒトとサラを抱えてベスティアを追いかける。


ベスティアはフードを被って耳を隠す。


今回はたまたま助けが入ったことでなんとかなった。だが、もし助けが入らなかったらと思ったらベスティアは反射的に自分の体を抱いていた。


あの魔族と戦っている際に起きた爆発は一体なんだったのかも気になる。もしあの爆発がベスティアの中に眠る未だ知らない隠れた能力なら是非とも使えるようになりたい。


そしてその時は、大切な人を守ることができるほど強くなると誓うのだった。


キャラ紹介


リーダム・ノック 種族 : 悪魔

ベスティアの世界からやって来た魔族の一人。

魔法研究をしている後輩のリン・サバティアと共にアヒトの世界にやって来たのだが、手違いで逸れたらしい。

口は悪いが仲間思いの優しい女性。特に後輩のリンのことを大切に思っている。

とある出来事から二度と「大切」を失わないようにと常に「最強」を目指している。


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