第11話 亜人娘を助けた者は
「くっ、はにゃせ!」
ベスティアは抵抗しようとするが『身体強化』の効果が切れたことによる脱力感によってうまく体が動かせない。おまけに両脚をがっしりと掴まれているため上半身しか動かせない。それならと思い、ベスティアは空間から『無限投剣』を魔族の顔に向けて数本投げつける。
「ウオット、へへへ」
魔族はさらに背中から腕を出してきて腕に刺さることもお構い無しに受け止める。
「私ノ腕ハ全部デ八本ダ。三本失ッタトコロデナニモ問題ナイ」
ベスティアの顔が絶望に染まる。
「ソノ顔ダ!ソノ顔ガ見タカッタ!フハハハハハ」
「く、くそ……許さにゃい、貴様だけは」
何も抵抗できず、同じ言葉を繰り返すベスティアに魔族は高笑いする。
「フハハハ、最後ノ技ハヨク分カラナカッタガ、私ニコレダケ傷ヲ与エタンダ。気ニ入ッタゾ!喜ベ、アソコデ寝テイル女ハ助ケテヤロウ。代ワリニオマエは私ノ玩具ニナッテモラオウ。殺セト命令サレテイタガ、コノ尻尾ヲ送レバ問題ナイダロウ」
「……あ、ひと……」
ベスティアはアヒトが倒れているであろう方向に視線を向ける。
そんな言葉を聞いてすらいない魔族は口を開く。
「楽シミダナ、オマエノ腹ハドレダケ耐エラレルンダロウナ、フハハハ」
魔族はベスティアの腹部に舌を這わせて舐め回す。
「ひっ……」
両手両足をふさがれ、何も抵抗ができないベスティアの瞳に光がなくなっていく。
また、失うのだろうか。ようやく手に入れることができた居場所。自分を捨てないと言ってくれた大切な人。また、負けた。強くなったと思っていた。けどやっぱりダメだった。
ベスティアの目から涙が溢れる。もうダメだと諦めかけたその時、空から勢いよく何かが降ってきた。
「グヘャッ‼︎」
物凄い音とともに魔族を下敷きに地面にクレーターを作った。それによりベスティアは宙に放り出される。
「うっ、なに?」
ベスティアはゆっくりと体を起こす。魔族がいた場所は大量の砂煙が上がっている。
そして、その中から人影が映る。
「たく、リンのやつ、いきなり空中に放り出すとか何考えてんだ?」
「……誰?」
ベスティアはその人影に声をかけた。
砂煙が晴れる。
「ああ?お前こそ誰だよ」
その人物は銀色の髪を頭の上でくくり、片目は義眼で羊のような角を生やした魔族の女性だった。
ベスティアは新たな敵が来たことに歯噛みし、動かない体に力を入れて構える。
そんなベスティアの行動を無視して女魔族は辺りを見渡す。
「この森どこだよ。てかなんか足元柔らかくねえか?」
女魔族は足元に視線を向け、そこに五本の腕を生やした魔族が倒れていることに気づき目を見開いた。
「うわっ、気持ち悪っ、なんだこいつ」
そう言ってベスティアの方に跳び退く。
下敷きになっていた魔族が怒りを露わにしながら起き上がる。
「ヨクモ私ヲ踏ミ付ケニシテクレタナ。許サン、同ジ魔族デアッテモ許セルコトデハナイ!」
そう言って女魔族に向かって駆け出す。
「何だお前、もう少しまともな話し方はできねえのか?魔族の恥さらしと思った方が良いぞ」
「オラアアアアッ!」
魔族が拳を突き出す。
「おせぇよ。日が暮れるだろうがよ」
そう言った女魔族は地面に落ちていたベスティアのナイフを一本拾い上げて投げつける。それが魔族の拳に刺さった瞬間、ナイフの先端が魔族の腕の中で成長するかのように一瞬で肥大化し拡張し膨張することで魔族の拳から腕を通り、肩を突き破った。
「ガアアアアアアッ!? オマエ、何ヲシタ」
「教える義理はないだろ。さっさとくたばれ、『枝袋』」
その言葉で肩まで到達していたナイフの先端はそこからさらに枝分かれをするかのように心臓めがけて肥大化と枝分かれを繰り返して体内を突き破った。
「ガ……アア……」
魔族はビクビクっと痙攣した後、糸の切れた人形のように地面に倒れ、そのまま動かなくなった。
通りすがりの女魔族だ。覚えておけ




