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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第6章
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第6話 彼・彼女たちの戦いは

バカムと常に行動を共にしていたアホマル。だが今回はそうも行かない。一人でやって行けるのかと少し不安になってはいたのだが、珍しくすんなりと剣士、魔術士の二人と行動することができた。しかも運がいいことに、魔術士の方は女の子である。これはバカムに報告しなければならないなとこっそり手紙を書いていたりする。


アホマルとしては可愛い女の子の部類でなんならかなり好みである。たしか、名前はリオナと言っていたなと考えながら目の前の魔物と向き合っていると


「使役士の人、ボサッとしてない。そのスライムで足止めして」


「う、うっす!」


「剣士の人、右から大きく周って魔物の背後を取って」


「お、おう」


「私は魔術で貴方達が死なない程度で援護する」


「スライム!分裂して足止めっす!」


「うおおおおお!」


女の子はあまり喋らない子だと思っていたアホマルだが、戦闘になった途端に饒舌になったことに目を丸くした。ものすごい勢いで指示が飛んできて女の子と親睦を深めるための会話をしている暇がない。アホマルはこの戦闘が終われば話せる時間ができることを信じて戦闘に励むのだった。


                            

そしてリオナは現在、とてもやる気が出ないでいた。なぜなら


「アンがいない。はやくアンに会いたい」


といった理由からである。初めは一人でもできる気がしていたが、いざアンがいなくなった途端、不安が湧き上がってきた。こんな魔物退治などやってられるか、今はただ、一刻も早くアンに会ってアンチャージしなければならない。


「剣士の人、私が魔術で気を引くから、その間に背後から足の腱を斬って」


とりあえず、速攻で終わらすためにリオナが指揮を執り、戦術を巡らせる。


幸い、戦い方は『騎士団の歴史』や『騎士戦記』、誰が書いたのかわからないが『魔軍戦記』などといった書物をよく読んでいたためある程度理解している。


早く倒してアンのいるパーティーを探し出す。できれば夜までには見つかると願いたい。なぜなら、リオナのパーティーは、いかにもリオナ目当てで近づいてきたアホそうな顔つきの使役士と友達作りが下手そうな(ブーメラン)判断力が低い剣士である。正直、リオナの心が持つか怪しい。


だいぶ魔物が弱ってきたので、とどめを刺すためにリオナは中級派生魔術『煉獄』を使用した。その際、「スライムぅう!」と悲痛な叫び声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。


邪魔な魔物が全て死んだことを確認し、アンに会いに行くためにリオナはすぐに場所を移動するのだった。




その頃、リオナが探しているアンのパーティーはというと、既に魔物を何体か倒し終えており、今は魔物の襲撃がおさまっているため歩きながら雑談をしていた。


「それでねマヌケント君、僕が嫌っている奴がこう言ってくるんだよ。お前の剣筋はナメクジだって。どう思う?これでも僕は頑張ってるんだよ」


「ヤっちまいましょう兄貴」


「あ、兄貴だなんて、そんな呼び方をされたのは君が初めてだよ!」


マヌケントの言葉で剣士育成学園の男子生徒であるザン・ネンナヒートが歓喜して声が大きくなる。マヌケントの両手を握り「マヌケント君とは良い友達になれそうだよ!」と言いながらぶんぶんと腕を上下に振る。


「ちょっと二人とも、もう少し静かに歩いてよ。魔物に聞こえるかもしれないでしょ」


アンが危機感のない二人に注意をする。このパーティーで森の中に入ってからアンは呆れてばかりいた。口数の少ない使役士に体が細身で誰が見ても剣筋がよろよろで軟弱に見える剣士である。


そんな剣筋でどうやって勝てたのかというと、アンが剣士の筋力を上昇させる魔術を使ったおかげで剣にブレがなくなり、うまく倒すことができていたのである。魔術をかけられたことにすら気づかないのは剣の事を知らないアンですら「こいつ弱いな」と思ってしまった。


ではなぜこのメンバーでパーティーを組んだかというと、単純な話で余ったからである。


アンは、仲間は誰でもよかったので自分から声をかけることはせず、ただ声をかけられるのを待っていたら最後まで残ってしまっていたのだ。


「大丈夫さ。襲って来ても僕たちなら勝てるさ。そうだろう?マヌケント君」


「ヤっちまいましょう兄貴!」


「ははは、そうだろそうだろ」


ザンはマヌケントの肩を抱いて歩く。さらに、歌まで歌い始めてしまった。


アンはパーティーを組むとき、積極的に行動するべきだったと今更ながら後悔してしまった。


「はっ、いけないいけない、こんなんじゃサラちゃんに笑われちゃう。こんなメンツでもあたしならなんとかしてみせるよ」


アンは胸の前で拳を強く握る。そうして、気合いを入れ直したアンは前を歩くザンとマヌケントに視線を向けたその時、森の茂みからガサガサと音がした。


「な、なに?」


茂みから十を超えるのではないかというほどの狼の魔物がゆっくりとこちらに向かって来ていた。よく見ると、眼球が赤一色に染まっており、牙が異常に長くなっている。


「魔物、じゃない⁉︎ふ、二人とも戦闘態勢!魔獣だよ!」


アンはザンとマヌケントに声をかける。なぜ、魔界に生息する魔獣がここにいるのかわからないがとてもまずい気がした。


「ちょ、ちょっと数が多くないか?」


ザンが背後を振り向くとそこにも魔獣がいた。しかも今度は狼の魔獣ではなく、腕の筋肉が異常に発達し、同じく眼球が赤く染まっているゴリラの魔獣の群れであった。


「か、囲まれてるのか?……逃げた方がいいんじゃないか?」


ザンが顔を青ざめさせて剣の柄を握る手を震えさせる。


「だから騒ぐなって言ったでしょ!かなりまずいことになっちゃったじゃない!」


アンは魔獣の隙をついていつでも逃げられるように腰を低くする。


「マヌケント君、君はこの状況をどう判断する?」


ザンはマヌケントに判断を委ねる。そして、マヌケントは辺りを見渡し、最後にザンのところで視線を止める。そして


「ヤっちまいましょう兄貴」


と言った。


「……は?」


アンは目を丸くし一瞬固まった。マヌケントが何を言っているのか脳が理解することを一瞬拒んでしまった。


「ちょっ、間抜けなこと言わないd--」


「本当にやるのかい?」


アンの言葉をザンが遮る。マヌケントはザンに対して大きく頷く。


「ヤっちまいましょう兄貴」


「マヌケント君には勝算がみえてるんだね、僕にもあいつらに勝てると思うかい?」


「ヤっちまいましょう兄貴」


「ははは、ただじゃ済まないと思うよ。それでもやるかい?」


「ヤっちまいましょう兄貴!」


「よぉし!やるぞマヌケント君!アリソンさん援護を頼むよ!」


ザンは腰に携えている剣を鞘から抜いて構える。既にザンの手の震えはなくなっていた。


「……誰も突っ込む人がいなくても、これだけは言わせてほしいな!なんで会話が成立してるのかな⁉︎」


もうどうにでもなれとアンは深くため息を吐き、逃げることを諦めて杖を構える。


「んで、いつあいつらに攻撃する?」


現在、アンたちを中心に狼の魔獣の群れとゴリラの魔獣の群れが威嚇しあっている。獲物を横取りされたくないのだろう。前に出ることも引くこともなく唸りあっている。


マヌケントはゆっくり両手を上げていき、頭上で大きく手のひらを二回打ち鳴らした。すると、地面が少し揺れたかと思うと、狼の群れの先頭にいた魔獣の何体かが地面から飛び出して来た巨大なトカゲに丸呑みにされていった。


何を隠そうマヌケントの使い魔である。


「「なっ⁉︎」」


アンとザンはマヌケントに顔を向ける。マヌケントはしてやったりといった顔をしてサムズアップする。これを見たアンにも勝算が見えてきた。


「行くよ!二人とも!」


「ヤっちまいましょう兄貴!!」


「あたしは女だからね⁉︎」


もう突っ込みにためらいなどなかった。アンに新しい特技ができたかもしれない瞬間であった。


「うおおおおおお!やるぞぉぉおお」


ザンは剣を構えて駆け出した。それに合わせてアンはザンに筋力上昇の魔術をかける。


狼の魔獣の群れはマヌケントに任せて、アンはザンの援護だけに集中する。


「まだ、こんなところでは死ねないからぁああ」


アンは二人の親友を思い浮かべながら立ち向かう。


そうして、勝てるかわからない三人の戦いが始まった。


アンの話し方を少し変えました。

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