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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第6章
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第5話 変態筋肉の戦い方は

アヒトたちが森の中に入ってから少しして、バカムも剣士と魔術士を連れて森の中に入ることができた。こちら側では森に入るなり早々に魔物と戦闘になった。


襲って来たのは前足の爪が異常に長く鋭いものをもった熊である。頭の毛がとさかのようになっていてとてもハンサムだ。今にも白い歯を見せてサムズアップしそうな出で立ちであることからバカムはこれからこの魔物を殺すということにためらいを感じていた。


「ちっ、なんだよあの熊やろう。雰囲気が馴れ馴れしいじゃねえか」


「おや、バカムさん倒さないのですか?ならわたくしが相手してもよろしいですかな」


バカムに話しかけて来たのは魔術士育成学園の生徒の一人である、ロシュッツ・キョウナーという男子生徒である。


「あ?いいぜ、やれよ」


バカムはロシュッツの後ろへと下がる。代わりにロシュッツが一歩前に出て来る。


「ありがとうございます。あの魔物の体躯には少し目を引くものがありましてね。一つ手合わせをお願いしたいところでした。剣士の方も手は出さないように」


ロシュッツは剣を構えて警戒する剣士育成学園の男子生徒にも下がるように言った。


剣士育成学園の一人である、デキルという男子生徒は構えていた剣を下ろし、バカムの方まで下がる。デキルは孤児らしく、姓がないらしい。


「体躯?あいつ魔術士育成学園のやつだろ、魔術使うのに相手の体の何が関係してるってんだ?」


基本、魔術士は後方から遠距離魔術を放つのがほとんどなため、相手の体躯などはあまり気にする必要はない。そのため、バカムはロシュッツの言動に疑問を感じた。


しかし、バカムの疑問はすぐに解決される。


ロシュッツが熊の魔物の前まで出て、相手の間合いより少し外のところで立ち止まった。


「ふんっ!」


ロシュッツがいきなり体を丸めて自分の筋肉の張りで上半身の制服を粉々に引き裂いた。引き裂かれた勢いによりロシュッツの髪の毛が飛んで行き、スキンヘッドが露わになる。


「んな⁉︎」


魔術士あるまじき行動にバカムは度肝を抜かれる。ロシュッツの体は背後から見ているバカムでもわかるほどに鍛え抜かれた肉体であった。


「さあ、勝負と致しましょうか、魔物さん」


ロシュッツが腕を伸ばして熊の魔物に向かって人差し指をクイっと内側に曲げる。


「ガアアアアアア」


それが戦闘の合図かのように熊の魔物が突進してくる。


ロシュッツは一歩も動かない。


熊の魔物が長く鋭い爪を持った腕を大きく振りかぶり、そのまま斜めの角度で振り下ろすのをロシュッツは片腕を上げて肘を九十度に曲げることで防ごうとする。


「ばかやろう!それじゃお前の腕がなくなるぞ!」


バカムが助けに入ろうとするが距離があって間に合わない。だが、バカムの焦りは無駄に終わる。


バキィンという音とともに熊の魔物の爪が砕け散った。


「ウガア⁉︎」


「……………は?」


あまりにもあり得ないことが起こったため、バカムの口からつい間抜けな声が出てしまった。隣にいたデキルも唖然としている。


「ふんむ、この程度ですか。見掛け倒しでしたな」


ロシュッツは自分の腕についた熊の爪の粉末を手で払いながら落胆する。


それを見た熊の魔物は大きく後ろに下がり、下から腕を振り上げる動作をする。すると、ロシュッツに向かって空気でできた刃が飛び出す。熊の魔物は腕を交互に下から振り上げることで多くの空気の刃を形成し、ロシュッツに放った。


当のロシュッツはというと、飛んできた空気の刃を首を傾げたり、体を半分横にずらすことだけで躱してみせる。


「魔法ですか、近接攻撃がダメならと遠距離にしたのでしょうが、あいにく、わたくしを仕留めるには遅すぎます。つくづくがっかりですな」


ロシュッツはゆっくりと熊の魔物に近づく。そのブレのない歩みを見て熊の魔物は動けなくなる。


「どうしました?動けませんか?……こんな話を聞いたことがあります。恐怖を過剰に抱くと脳が混乱して神経細胞が上手く伝達できなくなり動けなくなると。……所詮、あなたはその程度だったということですな」


ロシュッツが熊の魔物の下にたどり着く。そして、そっと熊の腹部に手を添える。


「これで終わりにしましょう。わたくしと出会ったことを後悔するのですな」


言い終わると同時に、ロシュッツは重心のエネルギーを一気に熊の魔物の腹部に添えられていた手に移動させた。その瞬間、大気が震え、熊の魔物は口から血を吐きながら後方に吹き飛び、太い木の枝に腹部を貫かれて絶命した。


「……ありえねぇ」


こんな魔術士がいて良いのだろうか。いや、良いわけがない。こんな、魔術も使わずに魔物を倒す化け物じみた人間がいてたまるかとバカムは思った。


「ん?バカムさん、何か言いましたかな?」


バカムとロシュッツとの距離はだいぶ離れているのだが、たった一言の呟きがロシュッツの耳に届いたということにバカムはもう何も言えなかった。


「あのぉ、ちょっといいですか?」


バカムの隣にいたデキルがロシュッツに声をかけた。


「はい、何でしょう?」


「制服、ボロボロになっちゃいましたけど、どーするんですか?」


「あー、そうでしたね」


ロシュッツは思い出したかのように腰に携えている杖を抜いた。そして、自分が粉々に破いた制服の切れ端であろうものに向かって杖を構える。


「……『修繕(エピスケビ)』」


その言葉によって、周りに散らばった制服の切れ端たちが一つにまとまり始める。ものの数秒で切れ端が先程まで着ていた制服の形に戻った。


「わたくしは、魔術はこれだけしか扱えないのですよ」


苦笑いしながらロシュッツは頰をポリポリとかいた。


「けどよ、基礎魔術ぐらいは使えねえのか?」


「使えませんな。なにせ、魔術のやり方を教わって以降は常にトレーニングルームで体を鍛えているものでして」


「はあ⁉︎おめえ、なんで魔術士育成学園に通ってんだよ」


バカムはロシュッツに詰め寄る。ロシュッツはずっと苦笑いを浮かべたままである。


「わたくしたちキョウナーの家系は戦う前は肌を見せ合うという習わしがありましてな。ただ脱ぐだけでは格好がつかないということでご先祖様が始めたのが『極おはだけ儀礼』つまり、わたくしが先程見せたものですな」


ロシュッツは直した制服を着る。ついでに服を破いた勢いで飛んで行った髪の毛――つまり鬘を拾い上げて被る。


「なるほど……つまり、ロシュッツさんは戦うたびに破けてしまう服をいちいち新しく買うのが面倒なため魔術を習いに学園に通っているわけですね」


デキルはロシュッツが学園に通う理由がわかり、口を開いた。


「ご名答」


「けどよ、親とかから教われば良いんじゃねえか?どーせ親もその術使えるんだろ?」


「確かに、使えるのですが……失礼なことを申すのですが、わたくしの両親並びに近しい者たちは皆教えがとてもとても下手でしてな。仕方なくここに来たのです。しかし後悔はありませんよ。こうして体を鍛えることもできていますしな」


「そ、そうか」


はっはっはと声高く笑うロシュッツにバカムはこんな合宿早く終わらせて、こんな魔術士(露出変態筋肉ダルマ)からおさらばしたいと思うのだった。


魔術って何だ……

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