第3話 警戒心の最低者は
「だいぶ奥まで来たね」
サラは鼻歌を歌いながら小石を蹴る。
サラと行動を共にしてから未だに魔物と遭遇していない。周りを見渡しても他の生徒たちがいるということもなく、完全にアヒトたちだけがこの場所にいた。いったいどんな道を歩いたら他の生徒たちがいない場所にたどり着くのか気になったが、背後から服の裾を引っ張られたので振り返る。
「近くにいる」
側にいたい、離れたくないとかそういった意味ではないという事はベスティアの警戒心による尻尾の毛の逆立ちと臨戦態勢による腰を落とす仕草によって理解できた。アヒトもそれに倣って周りを警戒する。が、一人だけ気づいていないものがいた。
アヒトたちより少し前を鼻歌でテンポよく歩いているサラである。
本来、魔術士は剣士と使役士の中間の位置にいなければならないのだが、今回は剣士が不在である。
実際、サラには位置付けとかよりもアヒトと一緒に行動できることになったことに対して嬉しさで頭がいっぱいになっているため何も考えていないのが現状である。
「おいサラ、少しは警戒したほうが……ッ⁉︎」
急激に地面が揺れたことにより、アヒトは言葉を止める。
「えっ、なに⁉︎」
サラの前方の足下が隆起する。そこから十メートルはあるのではないかと思うほどの巨大なムカデが飛び出して来てサラを狙って襲いかかる。
しかし、巨大ムカデが飛び出して来たと同時にベスティアが高速でサラの方に駆け出していた。それを見たアヒトは嫌な体験を思い出し、とっさにサラに向かって杖剣を向けて魔術を放つ。
「『水壁』ッ」
ベスティアはサラと巨大ムカデの間に入る直前に体を大きく捻ることによってサラに向かって横蹴りを放った。が、アヒトの魔術のほうがギリギリ速かったようでサラの前に水の壁が形成され、ベスティアの蹴りを防ぐことに成功した。
「はわっ、ぶはっ」
「ちっ」
ベスティアが高速で蹴りを放ったことでサラの顔に水壁の水が勢いよくかかる。ベスティアは防がれたことに舌打ちをしながらも蹴りの回転を活かして襲いかかって来ていた巨大ムカデの顔面に遠心力の乗った拳を叩きつける。
「ギュイイ⁉︎」
巨大ムカデは狙っていた獲物とは違うところから高速で飛んできた拳とダメージに奇怪な鳴き声をあげながら地面に潜っていった。
アヒトはベスティアの攻撃を防げたことに安堵しサラの下へ駆け寄る。当のサラは水を被ったことでびしょ濡れになり尻もちをついていた。
「大丈夫かサラ!」
「あ、アヒト……」
アヒトはサラの濡れた服を風魔術で少しだけ水分を飛ばし、立ち上がらせる。
「すまない、服を濡らしてしまって」
とりあえず、アヒトはサラに謝罪した。
「あ、ううん。気を抜いていた私が悪いんだから謝らないで」
「そ。貴様が警戒せずにふらふらとしているのが悪い」
サラの言葉に同意の言葉を述べてきたベスティアにサラは目を丸くした。初めて声を聞けたことに嬉しさを感じたが、まさかその初めての言葉が皮肉がたっぷり詰まった言葉だったことに少しがっかりする。
「おいティア。君も蹴ることはなかったとおれは思っているんだけどな」
「む……あの場に突っ立ているこの女が悪い、それだけ」
あくまでもサラが全て悪いと主張するベスティア。そんな態度にアヒトはため息を吐き、サラはどんどん落ち込んで行く。
「はあ……なんでそんなにサラを嫌うんだよ。彼女が君に何かしたか?」
「それは……その……」
アヒトの質問にベスティアは口ごもるが、突然三角の耳をピクッと反応させ姿勢を低くする。
「ん?どうし……ッ!」
アヒトはいきなり姿勢が低くなったベスティアに疑問符を浮かべたが、次の瞬間、ベスティアの横の空間が裂けたことに一瞬ひるむ。
サラは見たことない現象にギョッと目を丸くしている。
アヒトはその現象に見覚えがあった。以前、ある女性が落としていったものであり、アヒトがベスティアにあげたものである、指輪の能力である。
ベスティアはその空間に手を差し込み、中から一本のナイフを取り出す。
そのナイフは『無限投剣』と言い、これは商店街に行った時にロマンに作ってもらったものである。
ベスティアは『無限投剣』に魔力を流し、それをアヒトに向けて投げつけた。
どんどん行きましょう!




