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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第6章
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第2話 少年と亜人娘の仲間とは

「アンちゃんアンちゃん!もうすぐ他の学園との合流地点だよ!」


馬車の中で誰もが緊張で会話をすることができないでいる中、サラはいつも以上に明るかった。


その原因が何なのかは隣に座るアンとリオナにはもちろん想像がついていた。


「はいはい、アヒトさんに会えるからってはしゃぎすぎるのはよくないよサラちゃん」


アンは興奮で席から腰を浮かせていたサラの肩を掴んで座り直させる。


「ち、違うよ、そんなんじゃないからね!全然違うからね!」


頰を赤く染めながら両手をブンブンと横に振りながらサラは否定する。


「ふーん……で、本当は?」


アンはサラに顔を近づけてにやりと笑う。


「……すごく、楽しみです……」


サラは視線を逸らしながら言葉を漏らす。


それを聞いてアンはサラの肩を叩きながら「だよねだよね!」と言っているかのように微笑み大きく頷く。


アンにとって最近のサラはどこか元気がないように感じられた。一緒に遊んだりはするものの、笑顔が取り繕っているように思えた。


おそらく、アヒトと商店街で買い物をして以降から会えていないのが原因なのではないかとアンは考えている。


そのため、学園で合同合宿があると聞いた時のサラはすごかった。


嬉しすぎる話だったのか、先生の話が終わるなり勢いよくぶっ倒れた。保健室に運んで目が覚めた時にもう一度合宿の話をすると鼻から噴水のごとく血を流していた。


「な、なんでそんな人を慰めるような目をしているのかな?」


サラが頰を引きつらせながら訊いてくる。


「いやさー、こんなに元気よくアヒトさんに会いに行って、実際戦闘になった時に迷惑かけたら大恥だよねーって思って」


「だ、大丈夫だよ、魔力回復薬はたくさん持ってきたから!」


そう言ってサラは自分の腰についてるポーチを開けて中を見せる。


「うわ、すっごい。こんなに買って大丈夫なの?」


サラのポーチの中には十本の魔力回復薬が入っていた。


回復薬といったものは決して安いものではない。


実際にサラは今後の生活費を大幅に削ることとなった。しかしそれはサラにとって苦ではなかった。アヒトの前で恥をかくくらいならばどうということはない。どうせこの合宿が終われば夏休みである。その時にバイトするなり何なりして稼げばいいだろうという考えに至ったのである。


「大丈夫だよ。これだけあれば私も強力な魔術を撃つことができるから!」


ふんっと鼻息を荒くしてサラは拳を強く握る。


アンはサラの生き生きとした表情に柔らかい笑みを浮かべる。


こんなに明るいサラを見るのは久しぶりであったためにアンはそっと胸を撫で下ろした。


「どうしたの?」


少し表情に出ていたのか、サラが不思議に思った。


「なんでもないよ」


「ふーん」


しばらくサラは気になってアンの表情を伺っていたが、何もわからないため諦めて外を眺めた。


「もうすぐ到着」


リオナが指で示した方にアンとサラが視線を向けると、巨大な門の前に沢山の馬車が停められているのが見えた。


「はじめて帝都の外に出るね。やっぱり緊張するなぁ」


アンが呟くと両手を暖かいものに包まれた。


片方はサラでもう片方はリオナがアンの手を握っていた。


「サラちゃん、りっちゃん……」


「大丈夫だよ。お互いにがんばろ」


「がんばろ」


サラとリオナが励ます。


「よぉしっ、いっちょ頑張りますか!」


「「おー!」」


アンの掛け声とともにサラとリオナが拳を高く上げた。


「そこ三人!もう少し静かに話しなさい」


声を張り上げすぎて同乗していた教師に注意された。


他の生徒からしても、今から死ぬかもしれないというのに「何であんなに元気なんだ」と言いたいほどである。


三人は教師に謝り、お互いに顔を見合わせてクスクスと笑った。


そうしている間に魔術士育成学園の馬車は門の前に到着し、無事合流することができたのだった。




「お、もうすぐ到着だ」


アヒトは何台もの馬車が門の前に停まっているのを確認した。


馬車の周りには教師であるだろう人たちが見える。腰には剣や杖を携えている。


「おれたちが一番最後か」


馬車が停止し、ダン先生が他の学園の教師たちのもとへ駆け寄るのをアヒトは見た。


「少し待ってろ」


グラット先生が生徒たちに向けながら指示する。


しばらくして、ダン先生が馬車のもとへ戻り、一台ずつ門を抜けるために動き始めた。


「いよいよ門を抜けるぞ。ここからはいつ襲われてもおかしくはない、気を引き締めろよ」


グラット先生が注意を言い渡す。


それと同時に、アヒトたちが乗っている馬車も動き出した。


隣でアヒトの肩を枕にして寝ているベスティアを起こすためにアヒトは声をかける。


「ティア、起きろ、もうすぐ門を抜けるぞ」


アヒトはベスティアの肩を揺する。


「……んぁ……んん」


ベスティアは大きく背中を逸らして伸びをする。


「ティア、こっからはいつ襲われるかわからないから気を引き締めるぞ」


「……わかった」


そうしているうちにアヒトたちが乗っている馬車が門を抜ける。


門を抜けた先、そこには青々とした草原が広がっていた。


「すごいな」


アヒトは思わず呟いていた。


あまり人が歩かないのか、陽光に照らされた草花は風に揺らされる毎に銀色に煌き、美しく魅せていた。


「ん、きれい」


ベスティアの髪が風になびく。空色混じりの白い毛並みが風に揺れ、陽光に照らされて美しく輝いているベスティアに思わず見惚れてしまったアヒトは目を見開いて固まった。


「……どうした?」


ベスティアは自分を見つめるアヒトに気づいて小首を傾げる。


「い、いや。なんでもない」


アヒトは頰をポリポリとかいてベスティアから視線をはずす。


未だにベスティアのことを意識してしまう時がある。これから戦場に赴くというのにこれではダメだと思いアヒトは両頬を叩いて気を引き締め直すのだった。


「……へんなの」


ベスティアはアヒトの行動に訝しみながらも特に追及することはなく、再び外に視線を向けた。


そして、馬車に揺られること数十分。学園の馬車は魔物に襲われることなく、無事に目的地に到着することができた。美しい草原は辺りにはなく、目の前には沢山の木々が並ぶ森が存在していた。


馬車が停止するなり、グラット先生が口を開いた。


「全員馬車から降りるんだ。これから他の学園の生徒たちとパーティーを組んでもらう。パーティーメンバーの中に剣士、魔術士、使役士の生徒が一人ずついれば成立するから男女選びは自由にするといい。……かわいい女の子は早い者勝ちだぞ」


声を潜められた最後の言葉を聞いて、多くの男子生徒たちが奮い立った。


「しゃおらあああ!とっととかわい子ちゃん見つけてパーティー組むぞ」


「兄貴なら楽勝っすよ。オレもオレなりに頑張ってみるっす!」


「ヤっちまいましょう兄貴!」


そんな男子生徒たちを見て女子生徒たちは呆れてため息を吐くものが多くいた。


すると、グラット先生が女子生徒たちに向けて


「イケメンもいるかもしれないぞ」


と言った瞬間、女子生徒たちが一気に馬車から駆け降りた。


それにつられて男子生徒たちも続々と馬車から降りて行く。


「教師がそんなこと言っていいのかよ……」


「馬鹿ばっかり」


アヒトは頰を引きつらせながらベスティアとともに馬車から降りた。周囲の土には今乗って来た馬車とは違い、古い馬車の跡が付いていることから、毎年この森で合宿を実施していることが伺えた。


この行事がなくなっていないことから森で出てくる魔物もさほど強くないのだろうとアヒトは思った。


「そうだティア、一応フード被っとくか」


「いいけど、尻尾は隠せない」


ベスティアの尻尾が風によって少し揺れる。


「まあ、なんとかなるだろ」


アヒトは周りを見渡す。すでに他のクラスの生徒は馬車から降りており、多くの生徒でごった返していた。ベスティアはアヒトの背後に隠れ、フードで三角の耳を隠した。


「パーティーを作ったものから森の中へ入って行け!馬車はこれ以上は進めない。我々教師たちも後々ついて行くつもりだ」


剣士育成学園の教師が声を張り上げて言った。


ものの数分のうちにパーティーが作られていく。


アヒトが誰に声をかけようかと歩き回っていると、聞き慣れた声が聞こえた。


「いいじゃねえか嬢ちゃんよ〜。パーティー組む相手いなくて困ってたんだろ?」


「い、いえ大丈夫です。私は友達を探しているだけですから」


バカムだった。側から見たらただのダサいナンパオヤジにしか見えなかった。バカムの背中で隠れて見えないがおそらく女子生徒であろう人物を助けるべく声をかける。


「な、なあちょっといいか」


「あぁ?……てめえアヒト、俺が見込んだ女に手ぇだしに来やがったのか?ああ?」


バカムが振り向いて威嚇してくる。


「え?あ、アヒト?」


バカムの体で隠れていた女子生徒がひょっこりと顔を出した。


栗色の癖のない髪で魔術士育成学園の制服を着ていた。聞き覚えのある声と容姿を見てアヒトは思わず目を見開く。


「さ、サラ⁉︎」


「なにぃ⁉︎」


バカムがアヒトとサラを交互に見る。


「アヒト!探してたんだよ」


「うおっ⁉︎」


サラがバカムの体を押してアヒトの下へ駆け寄る。


「やあサラ、久しぶりだな」


「ほんとだね……ベスティアちゃんも久しぶり」


サラはアヒトの後ろから顔だけを出していたベスティアに声をかけた。が、ベスティアはサラを睨むだけで口を開かない。


「あはは……やっぱり、嫌われてるのかな……」


サラが落胆していると背後からバカムが声をかけてきた。


「おいアヒト!その女は俺とパーティーを組む予定だ、どっかに消え失せろ」


「彼女はおれを探していたみたいだが?」


サラはバカムに向かって自分の指を目の下に当てて「べー」と舌を出す。


「こ、このやろっ」


バカムの顔が怒りで赤くなる。


「行こっアヒト!」


「お、おう」


サラはバカムを無視してアヒトの手を掴んで駆け出した。


「くそが!覚えてやがれ!」


バカムがダサい捨て台詞を遠くで叫んでいたが今のアヒトにはどうすることもできなかった。


「お、おいサラ、どこに行くんだ?」


サラに手を引かれながら尋ねる。


「どこって、魔物を倒しに行くんでしょ。もう三人揃ってるし、私たちもはやく森に入ろ」


「え、三人?」


あきらかにベスティアを剣士か何かだと思い込んでいるサラはグイグイと森の中に入って行く。アヒトはサラに引っ張られながら 後ろからついて来ているベスティアに視線を向けて助けを求める。が、ベスティアは「知るか」と言いたげに眉間にしわを寄せて視線をそらした。


「……ダメじゃん」


アヒトはため息を吐きながら後でサラにベスティアのことを何て説明しようかと頭を悩ませるのだった。


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