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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第6章
31/212

第1話 少年少女の合宿は

ベスティアと買い物へ行った日から二ヶ月が過ぎた。気温が上がり、学園の生徒の制服が夏用のものに変わりつつあった。


「合宿ですか?」


朝のホームルームで生徒の誰かがグラット先生の話の中に出て来た言葉を復唱した。


「そうだ。お前たちは入学してから使役士としての基礎知識、基礎魔術、基礎剣術を教わったはずだ。それを今度は実戦に活かしてもらう。それに、仲間との連携もしっかりとることも覚えてもらわなければならないからな」


グラット先生の話にバカムが口を挟む。


「なあ先生、俺たち知り合い同士が組めば連携とか覚えるまもなくできちまうんじゃねえか?」


グラット先生は首を左右に振って答える。


「残念だな、バカム。今回は実戦形式だ。他の学園の者たちが仲間になる。お前たちが騎士団や冒険者になった時、仲間は使役士だけではないはずだ」


「うげっ、てことは合同合宿ってことっすか!」


アホマルが嫌そうに表情を歪める。


「ちっ、まじかよ」


「兄貴なら一人でもいける気がするんすけどね」


「ヤっちまいましょう兄貴!」


バカム、アホマル、マヌケントがそれぞれ不満や過信の声を漏らす。


「自分なら一人でも戦える。そんな考えが死に繋がるからな。よく覚えておけよ」


グラット先生が話し終えた時、ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴った。


「もうこんな時間か。合宿は二週間後だ、他の学園の生徒に笑われないようにしっかり準備をしておくんだな。それでは、これにてホームルームを終了する。一限目の準備をしておけよ」


そう言ってグラット先生は教室から出て行った。


すぐに教室の中が騒がしくなる。


おそらく話している内容はほとんど同じだろうとアヒトは考えていると背後から服の裾を引っ張られて振り返る。そこにはロマンに作ってもらった新しい戦闘服に身を包んだベスティアがいた。


全体的に動きやすさを重視した服で、ベスティアの体のラインがわかるほどにぴったりとしている。さらに丈が胸までしかないフード付きのコートを上から着ている。耳だけでも隠せるようにとロマンからのせめてもの配慮だろう。


「どうかしたか、ティア」


「合同合宿……つまりこの前の子とまた会うことになる?」


「この前の子?……ああサラのことか。そうだな、また会えたら嬉しいな」


アヒトが笑みを浮かべる。だが、ベスティアはあまり嬉しくはないのか、ただ一言


「……ふーん」


と表情一つ変えずに呟き、自分の席へと戻っていった。


「なんなんだ?」


アヒトはベスティアが何を言いたかったのかが分からず首を傾げた。


ベスティアとはこの二ヶ月でだいぶ距離が近づいたとアヒトは思っていた。今のベスティアの態度からアヒトは自分が何かしたのではないかと不安な気持ちになった。


アヒトが腕を組んで自分の行動を思い返していると授業が始まる鐘が鳴る。


「やっべ」


アヒトはとりあえず考えていたことを頭の片隅に置いておいて、急いで授業の準備をするのだった。




二週間後、太陽がまだ昇らない時刻。


アヒトたち使役士育成学園の生徒は正門の前に集まっていた。


「よし、お前たち全員集まってるな」


グラット先生が出席確認をする。


「これから合宿の説明があるからしっかり聞いておけよ」


そう言って、グラット先生は持ち場に戻って行った。


まだ今回の合宿で付き添う教師たちの打ち合わせがあるのだろう。しばらくは待たされそうだとアヒトは思った。


「ふぁ……ぁ……」


隣でベスティアが大きなあくびをしている。


「眠いか?」


「……問題にゃい」


ベスティアは目元をこすりながら答える。気が抜けているのか素の口調が出ている。


少しからかいたい衝動に駆られたが、ベスティアを怒らせて戦闘時に命令を無視されては困るので今回はそっとしておくことにした。


数分過ぎた頃、打ち合わせが終わったのか、教師たちが整列する生徒たちの前に対面に並び始めた。そのうち一人の男性教師が一歩前にでる。


「今回、この合宿においての学年担当教師を務める、ダン・チョウンだ。これから合宿の説明をはじめる。まず、この合宿は他の学園とともに行う合同合宿であることを理解してくれ。場所はこの帝都を出た先にある魔物が多く潜伏している森の中だ。決して弱くはないから気を抜くなよ。実戦形式のため、今回は森の中で寝てもらう。これはお前たちが必ず身につけておかなければならないことだ。わからないことがあっても教師は極力援助はしないものとする」


一息。


「それから、そろそろお前たちにはこれを渡しておこうと思う」


ダン先生の合図とともに生徒全員にあるものを配った。


「これは……ブレスレットか?」


アヒトたち生徒に配られたものは銀であしらわれたブレスレットで中心に魔石のようなものがはめられていた。


ダン先生は生徒全員にブレスレットが行き渡ったのを確認し、説明を再開する。


「そのブレスレットの中心にある魔石にお前たち自身の使い魔の血を一滴染み込ませることでどんな場所でも呼び寄せることができる。人よりも大きな魔物を使役している生徒はこれを使うと便利だ」


その説明を聞いてバカムが感心したように呟く。


「これはありがてえな。俺の相棒はちとでけえからな、これでいつでも呼び出せるぜ」


こんな凄いものどうやって作ってるのだろうとアヒトはブレスレットをいろんな角度から眺めていると、ブレスレットの裏側に文字が彫ってあった。小さくロマンという文字が書かれていることが確認できた。


アヒトは頰をひきつらせる。


「……ロマンさんでしたか」


あの筋肉巨漢なら作り上げることができてもおかしくないと思ってしまった。アヒトの脳裏に投げキッスをするロマンの姿が思い浮かんだ。


隣にいるベスティアが身震いする。ベスティアはあの時の出来事がトラウマになってしまっていた。おかげで眠気も少し覚めたかもしれない。


しかし、このブレスレットはかなり重要なものだ。遠くにいる使い魔を呼び寄せることができるのとできないのとでは戦闘においてかなり差が生じる。


「ティア、少し血をくれないか?」


「なぜ?私は貴様から離れることはない」


ティアが血を与えることを拒否する。


セリフだけでは勘違いしてしまいそうなセリフである。


「万が一ってことがあるだろ」


「むぅ……」


しぶしぶベスティアはアヒトに向けて手を差し出す。


アヒトはベスティアの手を優しく握り、杖剣で人差し指の先端を薄く切った。


傷口から血の玉が浮かぶ。


アヒトはベスティアの人差し指をブレスレットの中心にある魔石の上に置く。すると、血を吸った魔石が淡い水色に発光した。


「これで何かあっても大丈夫だな」


アヒトは自分の手首にブレスレットをつけた。


「そろそろ時間だ。他の学園と門の前で合流しなければならないからな。一番端の列の生徒から順番ずつ馬車に乗り込め」


ダン先生の言葉を聞いて続々と生徒たちが馬車に乗り込んで行く。アヒトとベスティアも馬車に乗り込む。

「よし、それじゃあ出してくれ!」


ダン先生の掛け声により先頭の馬車が動き出す。


門の所までは馬車で二十分ほどである。


アヒトたち生徒はこれから起こる戦いに緊張で顔を強張らせながら会話もなく目的地へ向かうのだった。


今回は新キャラたくさん出ますよー


✳︎重要人物とは限らない

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