表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第5章
26/212

第3話 迷子の小さな魔族

作戦決行して初回の休日。


サラたちは見事な空振りという結果に終わった。


空は夕焼けに染まり、現在三人は商店街からの帰りで寮への道を歩いている。


「んん〜、やっぱ上手くはいかないもんだね」


アンが伸びをしながら呟く。


「まだ一回目、次はわからないよ」


リオナは一歩後ろを歩くサラを見る。


つられてアンも後ろを振り向く。


サラは全身の力が抜けきっているかのようなぼーっとした歩き方をしている。


二人が足を止めたことにも気づかずに二人を追い越して進んでいく。


「サーラちゃん!」


「きゃっ」


アンはサラの背中を勢いよく叩いた。


サラはいきなり背中を叩かれたことで、肺の中の空気を一気に外に吐き出すこととなり、呼吸困難に陥りかけて咳き込んだ。


「げほっげほっ……アンちゃん?……あれ?」


サラは自分がなぜ前を歩いているのか理解ができていないのかあたりを見渡している。


「元気だそうよ!まだ一回目でしょ!」


「う、うん。そうだね」


アンの言う通り、そんなすぐに想い人に会えるなんてサラも思ってはいない。


ただ、サラの中のどこかですぐに会えるという気持ちが強くあったため、今回の空振りは心に痛くきてしまった。


こんなことでへこたれていたらダメだとサラは胸の前で拳を強く握った。


「そうだよね……うん、まだ一回目だもんね」


「うんうん。次もがんばろ!」


そう言ってアンは歩き出す。


サラの後ろからリオナが肩を軽く二回叩いてアンの後を追う。


サラは苦笑して二人の後を追う。


三人は次の休日に向けての話をしているといつのまにか寮に着いていた。


「あ、私もうちょっと外の空気を吸ってから戻るね」


サラは寮への入り口の前で立ち止まり、二人に向けて言った。


遅れた分の魔術の練習をしようとサラは思った。


「そっか、じゃあまたねサラちゃん」


「またね」


アンとリオナはサラに別れを言って寮の中に入っていった。


二人を見送ったサラは辺りを見渡した。


周辺はすでに暗くなっており、空には星が瞬いていた。


「……どこかに練習できるところはないかな」


サラは寮から離れて歩き出した。


夜風が肌にあたり心地よく感じる。


しばらく通りを歩いていると、角から複数の人の声が聞こえてきた。


「なんだろう」


サラは声のする方へ足を向けた。


角を曲がると複数の警備兵が誰かを囲んでいた。


とっさにサラは身を隠し、顔だけを覗かせる。


警備兵は、学園を卒業し騎士団に入団希望の人が就く役職である。


主に、町や村の見廻りが仕事である。


その仕事で良い成果を残すと騎士団見習いとして門の守りに就くことができる。


「なになに?もしかしてお兄ちゃんたち私とあそびたいの?」


どうやら警備兵たちの中心にいるのは十代前後の少女のようだ。


サラはその少女に目をこらした。


少女は飛んでいた。


背中の羽をパタパタと動かし宙に浮かんでいる。


「ま、魔族⁉︎」


サラは声に出してしまい、慌てて口を手で覆い、覗かせていた顔を引く。


どうやらサラの声は警備兵たちには聞こえていなかったのか、サラに気づいたものはいなかった。


サラは安堵し再度警備兵たちの方に視線を向けた。


「私も遊びたいけど今は無理なんだぁ。りんお姉ちゃんを探さないと、お兄ちゃんたちは知らないの?」


少女が警備兵の一人に向かって尋ねる。


「だ、黙れ。そいつもお前の仲間なら生かしてはおけん!」


そう言って腰に携えている剣を鞘から抜き構える。


それに合わせて他の警備兵も武器を構えて間合いをゆっくり詰め始める。


警備兵の中に魔術士もいるのか前には出ずに杖を片手に後ろから援護しようと構える。


「はぁ……あまり殺したくないんだよね。だけど仕方ないよね!」


少女が満面の笑みで言った。


その表情は誰もが見惚れるほどに美しかった。


警備兵たちの間合いを詰める足が一瞬止まる。


「止まるな!攻撃に備えるんだ!」


警備兵たちのリーダーらしい人物の指示に従い、全員が腰を落とし攻撃に備える。


笑みを浮かべながら少女が手のひらを上にかざす。


「……ん?なんだ?」


警備兵の一人が自分の鼻の下に違和感を覚えた。


鼻の下に触れると指に血が付着していた。


「こんな時に鼻血……かはっ⁉︎」


指についていた血が、水滴から先端が鋭く尖ったものに変化し勢いよく喉元を貫いた。


「緊張しすぎるのはよくないよ。体温が上昇するから操りやすいの」


少女がすでに息をしていない男に向かって笑顔を作る。


「な、なんなんだその能力は⁉︎」


警備兵の一人が叫ぶが少女は無視する。


「まだまだ行くよぉ……それ!」


少女が宙でくるっとターンを決める。


先程死んだ男の喉を貫いていた血の刃が男の流した血を含んで大きさを増し、一本の大剣となって少女を一周するように回転した。


周りを囲んでいた警備兵たちの首から勢いよく血が吹き出し、首が落ちる。


少女の周りが一瞬で血の海に変わった。


「ば、化け物が……」


少女の攻撃をなんとか剣で防ぐことができていた警備兵のリーダーはその惨状に後ずさる。


「嘘でしょ……」


サラは血の匂いに吐き気を催したがなんとか堪える。


「あ!お兄ちゃん後ろにいた魔法使いさんたちと違って前に出ていたのに生きてるんだね。でも残念。この糸に気づけないようじゃ私には勝てないよ」


少女は人差し指を内側に少し曲げる。


「うぐっ……こ、これは⁉︎」


警備兵のリーダーの首には血で形成された糸が巻き付いていた。


「いくよぉ!さん、にい……」


少女がカウントダウンをはじめた。


「ーーッ⁉︎お、お前ら早く魔術を使ってやつを殺せ!」


警備兵のリーダーは後ろにいる魔術士の兵たちに向かって呼びかけて視線を向けた。


「な⁉︎」


そこにはすでに首がなく膝から崩れ落ちる屍があった。


「……いち……ばいばいお兄ちゃん」


「まッーー」


少女が手首ごと内側に糸を勢いよく引き寄せた。


首が捻切れ、血が吹き出す。


警備兵のリーダーは自分の体が崩れ落ちるのを視界に収めながら意識を手放した。


「んぅ……ここにいる人間さんたちは弱いんだね」


少女は一息ついて伸びをした。

今回出てきた女の子について紹介します。


アニ・ルーカード

ベスティアの世界から来た魔族の一人。種族は吸血鬼。大好きないもちをいつも抱えている。いもちの新商品が出ると聞いて買いに行く際、リン・サバティアを見かけて追いかけたらアヒトの世界に迷い込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ