第6話 亜人娘の新装備は
後日、武器や防具が完成すると言われていた日になったのでアヒトたちは再びおねえさん店主がいる店に伺った。
「こんにちは、注文していたものを受け取りに来たんですけど……」
店の中はとても静かで、本当に売れているのだろうかとアヒトはますます心配になってしまった。
奥へ進むと、カウンターの裏にある扉の隙間から金属を打ち合う時に響く甲高い音が聞こえてきた。
アヒトとベスティアはお互いに顔を見合わせて中に足を踏み入れてみる。
音のする方へ足を運ぶ。
「……少し、暑い気がする」
ベスティアの言葉の通り、この部屋の中は外より圧倒的に温度が違かった。
ひとまず音の発生源までやってきた。
中では……
「ふんっ!」
野太い声とともに武器と思われる金属部を素手で殴って奏でる、おねえさん店主がいた。
「はああああ⁉︎」
思わずアヒトは叫んでいた。
「あら?あなたたちこんなところまで入ってきちゃったの?恥ずかしいところを見られちゃったわ〜」
「あ、あの……今、素手で」
「ええそうよん。この手袋はあたしが作ったの。どんな高温の熱にも耐えられる手袋よん」
「けど、なんで素手なんですか?」
「あたしの力が美しすぎるほどに強すぎて、他の道具でやるとすぐ壊れちゃうのよ」
アヒトは世の中には化け物じみた人間もいるんだなと引きつった笑みを浮かべて思うのだった。
「子猫ちゃんの装備はこっちにあるわよん、ついてらっしゃい」
そういって店主は隣の部屋へ移る。
アヒトたちも追いかけて中に入る。
机の上に布がかけられているものの前におねえさん店主が立っていた。
「これよ」
布をめくってアヒトたちに見せる。
「す、すごい」
机の上にはアヒトが注文した通りのものがあった。
その一つ、ナイフを手に取る。
「こんなに細かく……ん?」
アヒトは持ち手に何か書かれていることに気づいた。
「ろまん?」
「それ、あたしの名前よん」
「主人、ロマンって名前だったんですか!」
ロマンはタオルで汗を拭いながら頷く。
「そのナイフの名前は、『無限投剣』って名付けたわ。正直言ってこれほど完璧に作り上げた武器はないわ」
アヒトは『無限投剣』をベスティアに渡す。使い方は後でゆっくり教えることにする。
「ありがとうございます……それで、いくらほどですかね」
アヒトは立派に作られた武器を見ておずおずと聞いた。
「うふふん、そんなに怖気づかなくていいわよん。子猫ちゃんの可愛い表情が見られたから特別に半額にしてあげちゃうわよん」
ロマンは半額になった値段を口にする。
アヒトはその金額をロマンに支払う。
「まいど。また来てちょうだいね〜、ん〜ちゅぱ♡」
ロマンはアヒトたちに向かって投げキッスをしてきた。
「は、はい。ぜひまた伺わせてもらいます」
アヒトは苦笑いで後退りながら店を出て行く。
ベスティアも出て行こうとして足を止める。そしてロマンの方へ振り返る。
「……大事に使う。ありがと」
ベスティアは頭を下げて店を後にした。
「あの子たちは危険な存在になりそうね。もしかしたらこの腐った世界を変えてくれるかもしれないわね」
静かになった店の中でロマンは長年の勘によって思うのだった。
帰り道、アヒトはベスティアにあるものを渡そうと立ち止まる。
「ティア、装備と一緒にこれも渡すよ」
アヒトは以前拾った指輪をベスティアに渡す。
「なにこの輪っか」
ベスティアは今まで指輪というものを見たことがなかったのか、指輪を受け取るなり小首を傾げ、望遠鏡のように片目を閉じて穴を覗きこみながら空を見上げる。
「違う違う。そう使うんじゃない。これはどうやら空間に物を入れておくアーティファクトのようなんだ。これにロマンが作った『無限投剣』を入れておくといいよ」
アヒトはベスティアの行動に笑いをこらえながら説明し、ベスティアの人差し指に指輪をはめる。
ベスティアはしばらく自分の指にはまった指輪を眺めていた。
「じゃあ、帰ろっか」
「……ん」
なぜだろうか、アヒトにもらったものの中で一番嬉しく感じた。
ベスティアは指輪に埋め込まれた魔石をそっと撫でた後、先を歩くアヒトの後を追って歩き出した。
これらの装備がさらなる強さを与えてくれることを願いながら、二人は学園寮に向かって歩を進めるのだった。
これで4章は終わりです。あれ、今回は話短いな(笑) まあいいか。
5章もしっかり書いていきます!
予告みたいになりますけど、次の話ではティアちゃんの世界の住人がまた一人、か二人ほど出る予定です。




