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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第4章
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第5話 亜人娘の採寸は

喫茶店を出てしばらく歩いていると路地の細道から『武器・防具店』という看板がアヒトの目に映った。


「なあ、ティア。どうせなら戦闘服も新しくしてみないか?今持ってるやつはかなり傷んでいただろ」


ベスティアの戦闘服は子供が着ているような服を魔物の皮や毛を剥いで繋ぎ、無理やり着れるサイズにしたようなものだった。


洗濯すると布の部分が破けてしまうため、今まで手洗いで破けないように洗うしかなかった。


「……たしかに、新しくするべきかも」


ベスティアもアヒトと同じことを思ったのか、新しくすることを望んだ。


そういうことで、アヒトたちは看板のあった路地に入り、そこにあった小さな店の中へ入ることにした。


しばらく二人で店の中の品を見て回る。


その店には剣士が使う武器もあれば魔術士が使う杖も置いてあった。その他にも対魔術用のコートやいかにも重そうなガチガチの鎧などもあった。


「すごいな。いろんなものが置いてある」


「ん。よりどりみどり」


「これなんかすごいぞ。魔石や魔法陣がいくつか組み込まれてる」


アヒトがある剣を手に取って眺めていると店の奥から人影が見えた。


「あら〜、お兄ちゃんたちいらっしゃぁい」


「げっ」


出てきたのは筋骨隆々の漢だった。


「あらやだ、なんか変な声が聞こえた気がしたけど気のせいよね。……あらその剣、その剣には属性攻撃の魔法陣が取り付けられていてね。魔力を流すだけで火属性魔術や水属性魔術といったものが放てるのよん。もちろん剣にまとわせることもできるわ」


アヒトが驚愕で動けずにいるのをお構いなしに剣の解説をしてくれた。


「へ、へ〜。こ、この剣があれば魔術士でも剣士の真似事ができるってことですね」


「いやねぇ、そんなことないわよ。剣士は速さが大切なのよん。その剣はいろんなものが付けられているせいで普通の男の子じゃあ重すぎるわねぇ」


漢の言葉を聞いて、確かにアヒトが持っている剣は片手では持つことが難しく、両手でもつのがやっとであった。


「それに、魔術士が使うにしても取り付けられてる魔法陣の階級が高くないのよ。普通に杖を使うことをお勧めするわよん」


漢がアヒトの全身を舐めるように見ながら言った。


それにアヒトは一歩後ずさりながら質問した。


「か、かなりこの剣に詳しいようですけど、主人が打たれてたんですか?」


「おねえさんって呼んでいいわよん」


「は、はい……」


アヒトの返事を聞いて満面の笑みで頷くおねえさん店主。


顔が顔だけに怖すぎた。


「こんなに欠点ばかり客に伝えても大丈夫なんですか?」


「いいのよ。あたしの趣味で作ったものだし、どうせ売れないってわかってるわよん」


おねえさん店主が肩を落としてため息を吐く。


そんなんで経営していけるのだろうかとアヒトは不安に思うのだった。


「そうだわ。あなたたち、何か欲しいものとかあるんじゃない?おねえさんに言ってごらんなさい。作ってあげるわよん」


その言葉にアヒトは目を見開く。


「本当ですか。それはありがたいですね」


ただ、まだ何も決まっておらず、どのようなものにするか悩んでいると、アヒトの視界にある武器が映った。


「……なあティア。ティアの武器って短剣だったよな?このナイフ系の武器の方がティアにはあってるんじゃないか?」


アヒトは物陰に隠れていたベスティアに呼びかけた。


「あら、可愛い子ね羨ましいわ〜」


店主の言葉に身をぶるっと震わせたベスティアは物陰にさらに隠れ込みながら答えた。


「……き、貴様がそう思うならそうする」


ベスティアの了承は得た。武器の形は決まったがそれだけでは物足りない。


そこでアヒトはあることを思いついた。


「主人、武器の作成を頼んでよろしいですか?」


「お・ね・え・さ・ん♡」


「お、おねえさん、武器の作成を頼みます」


「いいわよん」


そう言って、アヒトはおねえさん店主に伝えた。


「あらそれくらいなら余裕よん」


「本当ですか!じゃあお願いします」


「一週間くらいかかると思うわ〜。その時にまたいらっしゃい」


武器は決まった。あとは戦闘服である。


「それと、戦闘用の服も頼んでよろしいですか?」


アヒトはもう一つ頼んでみた。


「あらあ!大歓迎よ。さあこっちへいらっしゃい。あたしが全身を測ってあげるわ〜」


そう言ってアヒトに熱い視線を送る。


「ち、違います!あそこにいる彼女の戦闘服です」


「にゃにゃ⁉︎」


「あら残念。まあサイズを測るのは変わらないのよね。さあ子猫ちゃんいらっしゃい。来ないならあたしから行くわよん」


そう言っておねえさん店主は一気にベスティアとの距離を詰めた。


「……ッ⁉︎」


ベスティアは逃げようとするがもう遅い。


「うふん、捕まえたわ」


店主はベスティアを肩に担いで歩き出す。


「うにゃあああッ!」


ベスティアは抜け出そうともがくが片手で抑えられているだけなのにビクともしない。


「まじかよ……ティアの力でも振りほどけないとか規格外すぎるだろ……」


「ちょっとこの子借りるわよん」


そう言って奥の部屋にベスティアを連れていってしまった。


アヒトはその一連をただ眺めることしかできなかった。


奥の部屋からはベスティアの叫び声が聞こえてくる。


『は、はにゃせ!服のサイズは適当でいいから!』


『だめよん。ちゃんとしなきゃ……あら、あなたほんとに子猫ちゃんだったの?可愛らしい耳ね』


『さ、さわるにゃ!……ちょっにゃんで服を脱がすの⁉︎』


『正しく採寸するのだから当然よん……あなた下着履いてないじゃない!だめよちゃんと履かなきゃ』


『うにゃややあああああああ!』


「なん……だと」


あの店主にベスティアのことがばれてしまったことより、ベスティアが下着を着けていないという事実にアヒトは驚いてしまった。


たしかに、寮にいる時のベスティアの格好は裸の上にシャツ一枚である。この場合は他の人に見られることがないため仕方なく許してはいるが、さすがに外出の時まで下着を着ていないとは思わなかった。


それから数分経過し……


「ごめんなさいね〜。この子ったら結構力強いのね。おねえさんびっくりしちゃったわ〜」


一緒に出てきたベスティアは顔を真っ赤にして俯いてしまっている。


「すみませんでした。ティアのことは誰にも言わないでもらえますか?」


「別に構わないわよん。あたしは客の事情には深入りしない事にしているから」


なぜかこの人は誰にも言わないという信頼が持ててしまった。


「武器と同じ日に取りにきてちょうだいね。その時にお金も持ってきてちょうだい」


「ありがとうございました。またうかがいます」


「ええ、子猫ちゃんもまたいらっしゃいね」


おねえさん店主はベスティアに語りかけるが、当の本人は何も言わずにフードを被りなおして店から出てしまった。


「あらら、ふられちゃったわ」


「あはは……では」


そう言ってアヒトはベスティアを追って店を出るのだった。


店を出ると既に空は赤く染まっていた。


最後に食材だけ買って帰路につく。


「なあ、ティアさんやい。そろそろ機嫌を直していただけませんかね」


「…………」


ベスティアは武器屋での出来事を未だに怒っているのか、あれ以降口を開いていない。


「装備の件は謝っただろ?なんでまだ怒ってんだよ」


ベスティアは別に怒っているわけではない。


採寸するのに下着を着けていなかった自分が悪いのだ。装備代を出してくれたアヒトには感謝している。ただ、あんな事があったせいでお礼を言い出しづらくなってしまっていた。


アヒトより先にベスティアが前を歩いているため、アヒトからはベスティアが今どんな表情をしているのかわかるはずもないが、今のベスティアはなんて話しかければいいのかということで頭がいっぱいでアヒトの声があまり聞こえてきていなかった。


「あっ」


考えすぎて前を見ていなかったベスティアは段差にあることに気づかなかった。上体が前に傾くが、倒れることはなかった。


ベスティアの腕をアヒトが後ろから掴んでいたからだ。


「まったく君は危なっかしいな」


「ごめん……えと……それと、ありがと……」


「ん?これくらい礼なんていらんぞ」


「ちがう。……装備、そろえてくれたから」


そっちか。とアヒトは納得する。


てっきり転けそうになったことに対する礼かと思っていた。


「ああ、あれはティアにもっと強くなって欲しかったからやったことさ。君はまだまだ強くなれるはずだ」


アヒトの言葉を聞いてベスティアは微笑む。


「かえろ、あひと」


「おう…………ん?今おれのこと名前で呼んだ?」


「……きのせい」


「いや、気のせいじゃない!もっかい呼んでみてくれ!」


「やだ」


ベスティアは笑みを浮かべながら小走りになる。


アヒトはベスティアの見たことない表情に一瞬立ち止まったが、すぐに笑みを浮かべる。


「おい、なんでだよ!いいじゃないか呼んでくれたって」


アヒトもベスティアを追いかけるために駆け出す。


「私に勝つことができたら言ってあげてもいい」


そう言ってベスティアの走る速度が上がる。


「うぉっしゃ、久しぶりに走りますかな」


アヒトは寮に着くまでの間、勝てないであろう勝負に挑むのであった。

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