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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第4章
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第4話 大胆少女の能力は

結局、服を買い終わった時は既にお昼をまわっていた。


今から食事をしたら夕飯が食べられなくなると思ったアヒトたちは、軽めの食事にしようと近くの喫茶店に入ることにした。


「今日はありがと。とっても楽しかったよ」


「それは良かった。こっちもティアの下着選びなどで助けてもらったし感謝しかないよ」


下着選びをする時はかなり助かったのだが、ベスティアが選んで買った服以外に、もっと可愛い服があると言って店内を連れ回されたり、急にアヒトとの距離を縮めるかのようにお揃いの服を買わせようとしてきたりと会って間もない相手にする行動ではないサラにアヒトはなかなか大胆な少女だと感じた。


アヒトは疲労が溜まった自分の体に労いの言葉を浮かべて紅茶を口に含む。


「少し聞いてもいい?ベスティアちゃんのその髪についてだけど、産まれた時からそんな髪なはずないよね」


サラはパンケーキを大きな口を開けて食べるベスティア、そのフードの隙間から見える白髪に視線を向けて聞いた。


それについてアヒトが答える。


「やっぱり気になるよなそりゃ……実はおれにもよくわかっていないんだ。過去に辛い出来事があったっていうことくらいしかわかっていない。他人の辛い過去を無理に聞き出すことはしたくないから彼女から話してくれるのを待つしかないんだけどね」


「そう……ごめんね。ちょっと気になっちゃったから」


「いや、誰もが気になることだし、しょうがないさ」


会話が途切れる。


しばらくベスティアのパンケーキを食べる音だけが聞こえていた。


サラが窓の外に視線を移す。それに倣ってアヒトも外に視線を向ける。


外には世界の情報を売りに活動している情報屋が新聞というものを販売しているのが目に入った。


サラが「あ!」と言って思い出したかのように口を開いた。


「そうそう、なんか噂で聞いたんだけどね。魔族が今までとは違った行動を始めたらしいよ」


「違った行動?」


サラの話にアヒトが聞き入る。


「うん、なんでも単独でも十分に集団相手と戦えるだけの強さがある魔族が魔獣を従えるようになったって聞いたよ。そろそろ人界に攻め込むんじゃないかって一部のところでは噂になってるの」


「そんな。今攻めてこられたら冒険者や騎士団の方々に任せるしかないぞ」


アヒトは驚きとともに顔を青ざめさせた。


「そうだよね。私たちは力不足だよね」


そう言ってサラは紅茶を一口飲む。


「そ、その割には落ち着いてるよな」


「そうかな?これでも焦ってるんだけど……」


そんな風には見えないとアヒトは思い、サラの能力を聞いてみることにした。


「ちなみにサラはどこまで魔術を扱えるんだ?」


「上級魔術は大体使えると思う」


「じ、十分じゃないのか?その歳で上級魔術が扱えれば魔族や魔獣なんて普通に相手にできそうな気がするぞ」


一年の入りたての生徒は魔術士育成学園なら基礎魔術がほぼ全員が完璧に扱えるだろう。優秀な生徒でも中級魔術が扱える程度だ。


そう思うとサラは優秀すぎる程だ。


しかし、アヒトの言葉にサラは首を横に振った。


「上級魔術が扱えてもそれだけなの。魔力量が圧倒的に追いついてない。できるようになったからって次々と新しい領域に足を踏み入れすぎた結果なんだろうけどね」


サラは大きく肩を落とした。


魔術は階級が上がるごとに比例して消費する魔力量も多くなる。そして、魔術を行使すると最大魔力量が使う前の魔力量より少し増えた状態で回復する。


最大魔力の量は魔力の消費量ではなく、魔術の使用量によって決まるのである。


そのため、通常は基礎魔術で膨大な数の練習を行い、最大魔力量が規定値に達すれば次の階級魔術に行くことができる。


サラの場合は好奇心で次の階級に手を出してしまったために使用できるが魔力量が足りないから連続で使用できないという壁にぶつかってしまったのだ。


「君も苦労してるんだな」


「君もってことはアヒトもそうなの?たしか使役士育成学園に在学してるんだよね」


「ああ、召喚した使い魔の性能は悪くないんだけどね。自分が制御しきれてない状態なんだ」


そう言ってアヒトはベスティアに視線を向ける。


ベスティアはパンケーキを食べ終わり、ジョッキに入ったオレンジジュースをストローで口に含んで飲んでいた。


ベスティアと目が合う。オレンジジュースを飲みながらアヒトへ向けてドヤ顔した。


アヒトはベスティアの表情に苦笑いを浮かべるしかなかった。


そんなアヒトとベスティアのやりとりを理解できていないサラは頭に疑問符を浮かべながら小首を傾げた。


「……?よくわからないけど、大変なんだね……あ、私そろそろ行くね」


サラは店の壁に掛けられている時計を見て言った。


「ああ、今日はありがとう。気をつけて帰るんだよ」


「こちらこそありがとう。またアヒトと出かけられると私もうれしいな」


サラは微笑み、テーブルに自分の分のお金を置いて店を後にした。


それを見届けたアヒトはベスティアに視線を移した。


「おれたちも行くか」


「ズズズズ…………ん」


ベスティアはジョッキの中を空にして頷いた。


アヒトはサラの置いていったお金を手に会計に向かうのだった。

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