表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
最終章
207/212

第8話 取捨選択 その1

 暗い夜の空模様が、突如赤い光に包まれ、一定の間隔で音が鳴り響いてくる。


「あれは信号魔術!! アヒト君たちが倒したんだ!」


 カゲ丸の背から視認したマックスは、急いで伝令兵へと指示を出す。


 すぐに天幕内にいたアリアにもその情報が伝わり、飛び出してきたアリアは隣に魔術士を置いて拡声魔術を使うように指示を出した。


 戦場が見渡せる丘上からアリアは声を張り上げる。


「聞きなさい! 貴方たち魔族の王は我々人間が討ち取ったわ。この音がそれを証明している。これ以上の争いは無意味。命が欲しければ撤退なさい!」


 その声を聞いて、イフリートを含め他の魔族たちの動きが止まる。


 それを確認したアリアは再度同じ言葉を繰り返す。


 すると、アリアの言葉を理解した魔族たちは続々と背を向けて退いて行く。


「…………」


 イフリートも悔しそうに表情を歪めながら、他の魔族と同様に撤退して行った。


 その行動に、その場にいた剣士や使役士、魔術士たちが各々に勝利を分かち合う歓喜の声を響かせた。


「やったっすね! マヌケント! オレたち生きてるっすよ!」


「ああ、そうだね。本当に良かった」


 嬉しさのあまり飛びついてくるアホマルに笑みを浮かべながら受け入れるマックス。


 彼らの光景を丘上から眺めていたアリアの隣に黒竜から降り立ったバカムが並ぶ。


「お疲れ様。流石黒竜ね。あなたの活躍はこの目でしっかり見させてもらったわ」


「ハッ、今更何だよ。褒めるなら俺が学園を辞める前に言えよな」


「あら、褒めていればあなたの暴走は起きなかったとでも言うのかしら」


「うっ、あれは、俺の気持ちが弱かっただけだ」


「そうね。けれど、今のあなたは違うわ。自分の弱さを知っている。私、今のあなたの方が好きよ」


 アリアの言葉にバカムは驚いた表情を見せながら視線を向ける。


「おめぇ……」


「……何かしら?」


 アリアの表情からは、彼女の発言に特に深い意味がない事を示しており、それを理解したバカムはふっと苦笑した。


「いや、何でもねぇよ。おめぇはそうやって騎士団を作り上げたんだなって事がよく分かったよ」


「何を思ったのか知らないけれど、あれは私が作ったのではなくて、勝手に出来上がったのよ」


「へいへいそうかよ」


 バカムがアリアの言葉を適当に流した時だった。


 1人の兵士がマックスに全速力で近づいて行き、目の前で跪いた。


「失礼します陛下!」


「何事だい?」


「はっ! ケレント市街で何者かが陛下の名を名乗り、避難民を集めています!」


「なに? 新手の宗教か何かかい? どうしてすぐに止めないんだ」


「それが、集められている避難民は皆不惑を迎えた以上の者たちで、洗脳されているのか、声をかけても聞き入れる様子がありません!」


「くっ、どうしてこんな時に……!」


 マックスはカゲ丸の背から飛び降りる。


「分かった。僕も向かう。何人か一緒に来てくれないかな」


「はっ!」


 そうして駆け出して行く姿をアリアとバカムは見届ける。


「何かあったのかしら」


「さぁな。王様の仕事は忙しいんだろ」


 頭に手を回しあくびをするバカムにアリアは呆れ気味に嘆息する。


 だが、アリアたちの他に、現場へと向かうマックスを外壁の上から見つめる1人の少女がいた。


「ルシアぁー、そっちに王様が向かったのだ。大丈夫?」


 狼の耳と尻尾を生やした褐色肌の魔族少女は、離れた先にいるルシアへと連絡する。


『大丈夫さ狼亜(ろあ)ちゃん。それよりそっちに対象者はあと何人いるのかな』


「んー、さっきまでの戦闘に紛れてそれなりに殺したのだ。だけど、まだ結構いるのだ」


『了解したよ。後でマーキングした対象者のデータを視覚に送るよ。だからもう少しそこにいてほしい』


「分かったのだー」


 そう言って連絡を切った狼亜の視界に、突如一部の人間が赤色に光る存在が現れた。


「後でとか言って、送ってくるのが早いのだ」


 それはルシアが言っていたデータの事であり、赤色に光る存在はマーキングされた対象者である事が理解できた。


 だが、狼亜はまだ動かない。ルシアの能力が発動するまでは、この場で待機する事にする。


 そして、狼亜へとデータを送り終えたルシアは隣に並ぶサグメへと視線を向ける。


「本物が来るそうだよ。誤って彼らにも幻術をかけてはいないだろうね」


「当たり前じゃないっすか。自分はそんなヘマしないっすよ」


「ふふふ、冗談だよ。君の能力『桂庵口』は完璧に発動している。すまないがデュランちゃん、彼らの相手をしてくれないかな。くれぐれも巻き込ませないように頼んだよ」


 背後に立つデュランに視線を向ける事なく言葉にしたルシア。


 それに対してデュランもその場で一言「御意」と呟き、一礼して飛び去って行く。


「さて、そろそろ私も始めよう」


 両手を広げたルシアは、自身の魔力を解放する。


「……神具『聖裁天鐘(カサリーゾ・クゾーニ)』」


 その言葉と共に現れる桜色に淡く輝く巨大な鐘。その音色は死を誘う。


「鐘は1分に一度鳴る。12回目の鐘の音が鳴れば私たちの任務は達成される」


「意外と長いんすね」


「耳が痛い皮肉だね。強力な技ほど代償は付きものだ。この因果関係だけは『魔神』である私でさえ覆すことができない」


 ルシアの言葉にサグメは「ふーん」と言葉にし、幻術で集う人間たちへと視線を向ける。


 彼らが見て聞いているものは各々で違うだろう。彼らが思う都合の良い世界をサグメはただ見せているだけ。ルシアの鐘がなり終わるとどうなるのか、集まった彼らが知る由もない。


 そうしている間に一つ目の鐘が鳴る。


 その音を聞いて駆けつけていたマックスたちが足を止める。


「何だこの音は……」


「鐘、ですか……」


 兵士たちも困惑しているようで、周囲をキョロキョロと見渡している。


 先程まで戦時中であったがために、普段の活気ある光景は見る影もなく蕭条たる街中であった。


 だが、少し進んだ先にある広場、なぜかそこには多くの人が集まっており、あの場が報告にあった現場である事が伺えた。鐘の音は気になるが、今は目の前の事案に向き合わなくてはならない。


「あそこで間違いないんだね?」


「はい。あの場にいた方々が話していた中に、陛下が集めているという話を耳にしました」


「分かった。行くよ」


 そうマックスが支持したところで、突如目の前に1人の背の高い女性が姿を現した。


 首から口元までを隠している女性ーーデュランは、静かにマックスたちへ告げる。


「すまないが、ここからは立ち入り禁止だ」


「何をしているのか教えてくれないかな。戦時中にたくさんの人を集めて何をするつもりなんだ? 行事許可申請の認可は下ろしていないはずだよ」


 マックスの冷静な言葉にデュランは静かに立ち尽くすだけだった。


「答えないのなら、僕たちも少しばかり荒い手を使わせてもらうよ」


 その言葉を聞いて、兵士たちが次々に剣を抜いた。


 デュランは静かに息を吐く。


「司令官の指示は絶対だ。お前たちをこの先に入れるわけにはいかない」


 デュランが言葉を言い終えた時、再び鐘の音が鳴り響く。


 その音に気を取られ、兵士たちの構えに隙が生まれる。


 デュランが両手を前に出すと、どこからともなく鎖が出現し、マックスの両脇にいた兵士たちに一瞬で鎖が巻き付いて行く。


「なっ!?」


「これは!?」


 デュランは両手を横に振ると、兵士に巻き付いた鎖も同様に勢いよく横へと振られ、兵士2人を建物の壁に激突させた。


「何!?」


 マックスは目を見張り、後方にいた残りの騎士たちがマックスを庇うように前に出る。


「お下がりください陛下!」


 そして一斉にデュランへと駆け出した騎士たち。しかし、


「無駄だ」


 デュランは鎖のみで騎士たちを圧倒して行く。


 たった数十秒の短い戦闘の後、残されたのはマックスただ1人のみだった。


「そんな、国の騎士をこんなにあっさり……」


 周囲に三度目の鐘の音が鳴り響く。


 愕然と立ち尽くすマックスを無視して、デュランは倒れている騎士たちを眺め、2人ほど肩に担ぐ。


「ま、待て! どうしてその2人を連れて行くんだ。生捕りにするなら僕を連れて行け」


「ダメだ。お前は対象者ではない」


「なにを言って……?」


 そう呟いた時、デュランが再び手をかざす姿が見えた。


 だがそれを視認した時にはマックスの意識は闇の中へと落とされていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ