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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第4章
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第3話 亜人娘のライバルは

「君は確か……以前路地裏にいた、サラ……マギアンヌ、さん?」


一瞬誰かわからなかった。あれから結構経っていたため記憶が曖昧になっていた。


「そう!覚えていてくれたんだね。あの時はどうもありがとう」


サラは礼を言って頭を下げた。


あの時のサラは制服を着ていたが今日は休日であるため私服であった。


制服の時も思ったがなかなかな大きさの胸を持っている。顔も整っており学園の方ではかなりモテるのではないだろうか。


そんな事を考えていると足先に激痛が走った。


「痛っ⁉……なんだよ」


隣のベスティアがアヒトの足を踏みつけていた。


「……鼻の下伸びてた」


「ーーッ⁉︎」


とっさにアヒトは口元を手で覆った。出会って間もない相手にだらしない顔は見せるべきではないだろう。というより単純に恥ずかしかったのだ。


「?……そっちの方は?」


サラはアヒトの行動に小首を傾げながらフードで顔が隠れているベスティアについて聞いた。


「あ、ああ。彼女はベスティア」


「へぇ、サラです。よろしくね、ベスティアちゃん」


「…………」


サラはベスティアに手を差し出すが、ベスティアはサラを睨みつけてアヒトの後ろに隠れてしまった。


「あらら、私何か悪いことしたかな?」


サラの困った顔を見てアヒトもおもわず苦笑いを浮かべた。


「ははは……気にしないでくれ。少し人見知りが激しいだけだから。こんな態度はまだかわいいもんさ。怒った時は死を覚悟したほうがいいかもな」


アヒトの背中の肉をベスティアが勢いよく引っ張った。


「いぃててててて、冗談だってば、痛い痛い……待ってこれ以上はほんとにちぃぎれるぅ!」


アヒトが痛みで涙目になる。


そのやりとりを見たサラは笑いを堪えきれずに吹き出してしまった。


「ぷふっ……ふふふ、二人とも仲良いんだね。どういう関係なの?」


「ん?えっと……彼女はおれの親戚の子で最近こっちに引っ越してきたばかりなんだ。今日は今後の日用品や服といったものを買うためにここに足を運んだんだ」


とりあえず、しばらくの間だけは誰にもベスティアのことを教えないことにした。


「そうなんだ。てことは、今日はアヒトさんとデートだったんだね。ごめんね、なんか邪魔しちゃった感じで」


 サラはアヒトに気づかれないようにため息を吐いた。


「にゃ⁉︎で、でででぇと」


アヒトの後ろにいる少女がビクっと肩を揺らし、小声でつぶやく。


ベスティアは尻尾を左右に振ったり、頰をぺちぺち叩いたりしている。


そんなサラやベスティアの行動に気づくこともなく、アヒトはサラの言葉に答える。


「ははは、デートだなんて、そんなわけないじゃないか」


その言葉を聞いてベスティアはアヒトの脇腹をどついた。


「ぐふっ!こ、今回は何もしてないぞ⁉︎」


アヒトは後ろを振り返って叫んだ。


どついた本人は振り返ったアヒトと目も合わせずにそっぽを向いた。


そんなベスティアの行動にアヒトは理解できずにいると、サラが先ほどよりも声を少し上げて聞いてきた。


「あ、アヒトさん!もしよかったら、私も一緒に行動してもいいかな?ちょうど私も新しい服を買いにここに来ていたの」


「それはありがたいな。服はどうにかなるとしても、下着類はおれが近くにいるとまずいと思ってたんだ。サラさんがいてくれると助かるよ」


その言葉を聞いてサラの表情が明るくなっていく。


サラは少し頰を赤くして体をもじもじさせながら上目づかいになる。


「その……サラでいいよ。サラさんなんて呼ばれ方はなんか変だよ」


「そっか、わかった。じゃあサラ、おれの名前も普通にアヒトって呼んでくれて構わないよ」


「わかったわ。早速行きましょう、アヒト。私良いお店知ってるの」


そう言ってサラは歩き出す。


アヒトとベスティアもそれについて行く。


「…………名前、呼び捨て……」


途中ベスティアが小声で呟いていたが、聞こえたものは誰もいなかった。




服屋に来て数時間、アヒトたちは未だに服選びをしていた。


「みてアヒト!この服とっても可愛いと思うの!」


サラは気に入った服を体の前に持っていき、アヒトに駆け寄っていく。


「あ、ああ、すごく似合うと思うぞ」


「ほんと⁉︎じゃあこれも買おうかなぁ。けどたくさん買っても着るときに悩みそう」


サラは他にも選んだ数種類の服とにらめっこを始める。


「……女子の買い物ってこんなに長いのか」


アヒトは頰をひきつらせながら呟いた。


そして、ベスティアも自分の服を買うためにいろいろと見回っているのだが、なかなか決まらないでいた。


「むぅ……捨てがたい」


サラに紹介されて訪れた服屋はなんでもそろっていた。


ベスティアは派手なものではなく、シンプルで目立たないような服を望んでいた。


もちろん、この店にはベスティアの望む服は置いてあった。ただ、種類が多すぎた。


もともと服は魔物の皮や毛を剥いで編んだものを着ていたため、こういった自分用の綺麗な服を選ぶとなると欲しくなるような服が山ほど見つかってしまった。


そのため、服選びに苦戦することになってしまった。


それ以外にも、支払うのはアヒトの財布からであるため申し訳なさを感じてしまい、多くの服を選べないでいた。


「……これ以上は絞れない」


下の服は後にし、とりあえず上の服を限界の四種類まで厳選した。


ベスティアはアヒトがいる方に顔を向けて、呼びかけようとする。


「あ、あひ……と」


ベスティアの呼ぶ声は小さすぎたせいでアヒトの耳には届かなかった。


当のアヒトはサラが追加で持ってきた服を見せられて言葉に詰まっていた。


ベスティアは四種類の服を手に持ってアヒトのところへ向かった。


「じゃあ、ちょっと試着してくるわね!」


サラは気に入った数種類の服を手に持って試着室に走っていった。


「ふぅ……なんであんなに元気なんだよ」


アヒトはサラが試着室に入って行くのを見送り、一息ついた。


後ろから服の裾を引っ張られる。


「ん?おーティアか」


「……これ」


ベスティアの両手には四種類の服がもたれていた。


「その服たちに決めたのか?」


「ちがう、これ以上数を減らせないから」


「おれに選んでほしいと?」


ベスティアの首が縦に振られる。


それを見て、アヒトは指で頰をかいた。


「別にたくさん選んでも良いんだぞ。ティアが着たい服を選べばいいさ」


「けど……お金は大丈夫?」


「うん、まあ確かに、そこまでの余裕はないけど……」


「じゃあ選んで」


しょうがないと思い、アヒトはベスティアの両手にある服を見つめた。


その中には今ベスティアが着ている服と似たようなものがあった。


「この服欲しいか?似たようなものならおれが貸してやるぞ」


それを聞いたベスティアは自分の着ている服を見下ろす。


「いやか?」


アヒトの言葉に首を横に振る。


「いやじゃない。ただ、少しサイズが大きいと思った、それだけ」


「別にぶかぶかの服でもいいんじゃないか?おれは可愛いと思うぞ」


「か、かかかわ、いい?」


「おう、めちゃめちゃ似合ってると思うぞ」


ベスティアの顔が俯いて行く。


なんかまずいこと言ったか?と不安になるアヒトだが、ベスティアの尻尾が少しだけ左右に揺れていることから怒っているわけではないということがわかり安堵する。


「……じゃあこの服はやめにする」


そう言って顔を上げたベスティアの頰が少し赤らんでいることに気づいたアヒトは苦笑する。


「べつに照れなくてもいいだろ」


「にゃ⁉︎て、照れてにゃい!」


「いや、素が出てるから」


「うっ……ほ、ほかの服はどうにゃの!」


ベスティアは誤魔化そうと他の服を見るように言うが、アヒトのニヤケた笑みが止まらないためベスティアはウガァー‼︎と噛みつきにかかる。


「ははは、ごめんごめん……えっと、他の服だよな?……うん、どれも可愛いと思うし似合うと思うぞ」


「ま、またそうやって可愛いとか……わ、わかった、この三着にする」


そう言って、ベスティアは手に持っていた三種類の服をアヒトに渡した。


アヒトが除いた一着はベスティアが元の置いてあった場所に戻しに向かった。


ようやく一息つけると思い、アヒトは息をゆっくり吐いた。


しかし、入れ替わるように試着室のカーテンが勢いよく開けられる。


「アヒト!やっぱりこれとこれは手放せないと思うの……あれ、その手にあるのはベスティアちゃんの服?ベスティアちゃんも試着してみればいいのに」


「まあ、着る楽しみは家に帰ってからっていう人もいるだろ」


「そうなのかな……そんな事よりアヒト、これとこれどう思う?」


アヒトはため息を吐いて、まだまだ終われないなと思いサラの買い物に付き合うのだった。

1章のところで出てきた女の子です。久しぶりって感じですね。

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