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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第1章
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第1話 少年が入学した学園は

初投稿です。正直うまく書けているかよくわかりません。自分なりには楽しく書けているので、読者の皆さんにも楽しんでもらえると幸いです。

 鳥の鳴き声とカーテンの隙間から差し込む朝日によって少年――アヒト・ユーザスは目を覚ました。


 目元を照り付けるその光があまりにも眩しく、思わず手で覆う。


 寝心地が悪かったのか、体を起こすも巨大な欠伸を一つするとしばらく目蓋を細めて動かなくなる。だがそれも数分のこと。


「……よし」


 そう言葉にしたアヒトはベッドから降りて再び大きく伸びをし、カーテンと窓を開ける。


 春の生暖かい風が肌をくすぐり、庭に咲く桜の香りが心を落ち着かせてくれる。誰に向けるでもないが思わずアヒトは微笑んでしまった。


「いよいよ学園生活が始まるんだな」


 十六歳になったアヒトは両親に無理言って学園に通わせてもらうことができた。


 初めは酷く反対されていたが、執拗に食い下がりを見せると盛大な溜息をついて折れてくれた。


 なぜここまで反対してくるのか。


 それは、この大帝国に建つ学園が『魔族』という存在を滅ぼすために若者を育成させる場所だからだ。


 魔族の住う領域がこの大帝国に最も近い。それは長年の歴史書から変わっていない。未だ魔族と人の戦いは続いている。


 つまり学園を卒業すれば、必然的に死地へと駆られることとなるのだ。真っ当な両親ならば反対するのは当然というものである。


「そろそろ時間か」


 学園指定の制服に着替え、朝食を終えたアヒトは鞄を片手に男子寮を出る。


 アヒトがわざわざ両親の反対を押し退けてまでこんな危険な学園に通う事にした理由、それはとてもシンプルなもので、自分の力で魔族を倒したいという要するに思春期あるあるの思考によっての事だった。


 魔族は恐ろしい存在、憎い存在と両親や多くの大人たちに聞かされ続ければ、こういった理想を持つのも当然と言える。


 そして、魔族に対抗するために建てられた学園は三つ存在する。


 剣や槍といった武器を使い戦う力を身につけさせる、剣士育成学園。多種多様な呪文で遠距離から高威力のダメージを与えられるだけの力を身につけさせる、魔術士育成学園。そして、使い魔を召喚して戦わせる術を身につけさせる、使役士育成学園の三つである。


 アヒトはこの使役士育成学園に通うことになった。


「はぁ……」


 朝から気合いを入れて身支度して寮を出てきたが、学園が近づくにつれて徐々に憂鬱な気持ちになって行く。


 アヒト自身、使役士育成学園には入学したくないという気持ちだった。


 接近戦を得意として確実に戦えているという高揚感を味わえる剣士や攻撃、支援、防御といったあらゆる役割を担うことができる魔術士などの方が自分が活躍できていると感じられるからだ。


 それがなぜ使役士育成学園に入学することになったのか。


 理由はもちろん、両親が断固として首を縦に振らなかったからだ。剣士の場合は最前線で戦うことがほとんどであるため、自分の息子を死亡リスクが高い場所には行かせたくないのだろう。


確かにそれで死んだら親不孝にも程があるというものだ。


魔術士を反対したのは母親の方で、後方であれば父親は反対しなかった。


杖を奪われてしまえば魔術士はそれで終わり。その点、使役士は使い魔を前線で戦わせるため、身の危険を感じた場合はそれを盾に逃げることができる。それが両親の一致した考えだった。


だが、それでは男らしさというものがないではないか。


両親の過保護度合いはいつになっても変わらない。いくら言葉にしてもそれ以上は耳を傾けなかった。仕方なく折れたアヒトは、使役士育成学園に通うことにしたのだ。


 だが、アヒトが使役士育成学園に通いたくない理由は他にもある。


「……おれは毛で覆われたものが苦手なんだよなぁ」


 物心ついた頃からどうしてもそれだけは好きにはなれなかった。


 毛の生えた魔物ならなんの躊躇いもなく殺せるかもしれない。


 それでも嫌いとまでは言えないため、時間をかければ少しはマシになるのではとアヒトは軽く考える。


 学園へ行かせてもらうということだけでも感謝するしかないと思い、学園へと足を運んでいると、前方に三人、アヒトと同じ制服の男子がケラケラと楽しそうに歩いているのが目に入った。


 この日に制服を着て学園側に向かっている生徒は一年と部活のある生徒だけである。だが彼らは明らかに部活をしているような荷物を持ち合わせていなかった。となると、現在アヒトの目の前を歩く三人の男子生徒は同学年であるはずだ。


 すでに二人も知り合いを作っていることに羨ましく思っていると、三人のうちの中心を歩いていた赤みがかった茶髪の男子生徒が食べ終わった菓子なのか飯なのか定かではないが、ゴミとなる袋を道脇にポイ捨てした。


「おい!」


 思わずアヒトは声をかけてしまった。


 同じ学園に通い、志を共にするであろう者が、自ら環境を汚す行為に及んでいることにアヒトは我慢ならなかった。


「あ? んだよてめぇ」


 中心にいた男子生徒が振り返り、言葉にする。


「ゴミを道に捨てるのは良くないことだ。そんなんじゃ、いい大人になれないぞ?」


「あぁ? 何言ってんだおめぇ。どうせ掃除屋がここら辺を綺麗にするんだろ? なら問題ねぇじゃねぇか」


 アヒトより少し背が高く、肩幅の広いその男子生徒は片眉をつり上げて見下すように視線を向ける。


「そ、そういう事を言ってるんじゃ……」


「さっすが兄貴っすね! たしかにそうすればわざわざゴミ箱探さずに済むっすね」


「ヤっちまいましょう兄貴!」


 アヒトが反論しようとしたところで、両脇にいた二人の男子が口を挟んでくる。


「あったりめぇだろうが。俺が一度でも間違った事をしたと思うか?」


「いや、間違ってるから。少なくともこの行為は間違いだからな?」


「あ? うっせぇんだよ。何をしようが俺の勝手だろうがよ」


「その勝手が周りに迷惑をかけている事に気づかないのか?」


 アヒトの言葉に、赤みがかった茶髪の男子生徒は周囲に視線を向ける。


 道を歩いているのは何も学園に向かう生徒だけではない。


 一般の市民や高齢者もいるのだ。そういった人たちがアヒトたちのやりとりを見てヒソヒソと会話をしているのが見て取れた。


「……ちっ、覚えてやがれクソ野郎」


 赤みがかった茶髪の男子生徒はそう言葉を吐き捨て、自ら捨てたゴミを掴んで足早に学園側に去って行った。


 それをだいぶ遠くになるまで見送ったアヒトは一息ついて自分も学園に向けて歩き出した。






 使役士育成学園。


 その校舎は恐ろしいほどに大きかった。


 いったい何人の生徒がこの学園を出入りしているのかとついつい歩く生徒の数を数えたくなるが、アヒトは頭を振って思い直し、気を引き締めて正門を潜った。


 外に立って誘導してくれている教師の指示と、生徒たちの向かう流れに沿って講堂へ行く。


 そこで入学式が行われるのだが、アヒトは寝覚めが悪かったせいなのかわずかの睡魔に襲われた。基本入学式という場では学園長が長話をし、来賓紹介や入学おめでとうメッセージが送られてきたものを聞くだけである。そのため聞かなければならない話はないはずだ。


 アヒトは入学式の間だけ、そっと椅子の背に体を預けて静かに眠る事にした。


 入学式が終わり、生徒全員が教室に入る。


 魔族に対抗するために建てられた三つの学園は、他の学校とは授業形式が少し違う。


 普通は一つの教室に三十人ほどの生徒が入り、それが五つか六つの教室があるといったところだろう。だが、剣士、魔術士、使役士の学園は、一学年につき教室は一つというものになっている。


 生徒に学ばせる教師の数が足りていないというのが要因で、その原因のほとんどが魔族との戦争で立派な戦死を遂げているというものだ。


 そのため、学園に勤務している教師は優秀な人材だったりすることが多いと密かに噂されている話というのをアヒトは担当教師が来るまでの間、喧騒で溢れかえる教室内に耳を傾けていた。


 時折周囲を見渡してみると、生徒の中にはいろんな人がいて、髪型や口調から明らかに貴族出身者であるという雰囲気を出している生徒が多くいた。中でもこの国では珍しい金色の髪をした女子もいて改めて世界の広さというものをアヒトは実感していた。


だがそこで、アヒトは別の場所へと視線を向けると、先ほど通学途中でポイ捨てをしようとしていた男子三人組がケラケラと会話しているのを見つけてしまった。やはり同じ学年だったことにアヒトは目をつけられないかと不安になりながら溜息を吐いた。


 そんな事をしている間に、この学年を担当するのであろう教師が扉を開けて入ってきた。それだけで先ほどまでの喧騒は嘘のように静かになっていった。


その教師は見たところ三十後半くらいの顎に少量の髭を生やした男性だった。その男性教師が何かを呟くと顔の横に魔法陣が浮かびあがり、そして口を開く。


「えー、今日から三年間、お前たちが卒業するまで面倒を受け持つこととなったグラット・ストレングスだ。よろしくしてくれ」


 教室中に声が響き渡ったことからグラット先生の横に浮かんでいる魔法陣はおそらく拡声魔術か何かの類だとアヒトは思った。


 それから、グラット先生は一人ずつ生徒の名前を呼んで出席を取り始めた。


 名前を呼ばれたら軽く手を挙げて返事をしていく感じだ。アヒトの名前もすぐに呼ばれたため、他の生徒に倣って手を挙げて返事をする。


 百人以上いる生徒の名前を一人ずつ呼び上げていくのは酷だろうと思ったのだが、グラット先生の声からは疲労のようなものは一切感じられず、そのまま全員の名前を呼び終え、出席確認が終わってしまった。


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