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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第4章
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第1話 亜人娘の休日は

休日。


人界では、学生は七日に二回の休日が与えられている。基本は五日間学園に通い、二日間休むといった感じである。そして、今日はベスティアを召喚して初めての休日である。


「……しょっぴんぐ?」


ベスティアが朝食のパンくずを頰につけながら小首を傾げた。


「ああ、今まで学園があったから街の方へ行けなかったけど、今日は休日で学園は休み。いろいろとそろえる必要があるからな。ベスティアも自分の服とか欲しいだろ?」


アヒトはベスティアの頰についているもののことを指で教えながら言った。


ベスティアは頰についたパンくずを指でとって口の中に入れる。


ベスティアには現在、召喚された時に着ていた服しかない。


そのため、寮にいるときはアヒトの制服のシャツを一枚着ているだけである。


「おかわり」


「はいはい」


アヒトは二枚目のパンをトースターにいれる。


ベスティアの格好には当初はとても動揺していたアヒトだが、今は別段気にすることはない。慣れとは恐ろしいものである。


「服は私も欲しいと思ってた。部屋着はこれで良くても……外に出る服が一着だけなのはだめな気がする」


「いや、部屋着もあまり良くないからな?」


トースターからチンッという高い音が鳴る。


アヒトはトースターから焼きたてのパンを取り出し、ベスティアに渡す。


ベスティアはふわふわの尻尾を左右に振りながらパンにかぶりついた。


「……ッ!あふっ……はふはふ」


パンが熱かったようで、ベスティアは口の中でパンの生地を転がしている。


「他には……新しく食材を買い足さないといけないな……」


食材や服以外にもベスティアの下着なども買わなければならない。今は着用していると思うが、寝るときは裸の上にシャツ一枚である。


アヒトの理性がいつ決壊するかわからないため、早いうちに爆弾は処理するべきだ。


「よし、そうと決まれば早速出発するぞ」


「おかわり」


アヒトの目の前に空の皿が置かれる。


「…………あのーティアさん?」


「なに?」


「何枚目かね」


「……七枚目、たぶん」


「食べすぎだよ!どんだけ食べるんだよ!」


アヒトの言葉にベスティアは少し頰を膨らませた。


「……不愉快、これでも抑えているほう」


「マジで言ってんの⁉︎」


「そもそもパンがダメ。ご飯にするべき」


「君のせいでもう米がきれかけてるんだよ!」


アヒトは額に手をあて、ため息を吐いた。


「はあ、とにかく出発だ」


「……むぅ、わかった」


アヒトとベスティアは外に出る準備を始めた。




「おぉ……」


商店街に到着し、ベスティアはすれ違う人の数に思わずたじろいでいた。


「あまり離れるなよ。ここでの君は異質な存在だからね」


「……その言い方、好きじゃない」


ベスティアはアヒトを睨みつけた。


「ごめんごめん。おれはティアのことを異質とは思ってないさ。けど、他の人は違うからね。今は服装でなんとか気づかれていないけど、亜人を嫌う人たちはたくさんいるんだ」


「……気をつける」


ベスティアの今の服装は、アヒトが普段の私服として使っているパーカーを着ている。アヒトの体より少し大きめのサイズにしてあったため、ベスティアが着るとぶかぶかでいい感じに尻尾まで隠せている。三角の耳はフードで隠せているので今のところ大丈夫である。なにより、ベスティアの空色混じりの白髪はこの世界では少し目立ちすぎてしまうため耳と一緒に隠れてしまうのはアヒトにとって好都合であった。


「食材は最後でいいとして……先に服だな」


アヒトは服屋を探しながら歩いていると、ふとアヒトの後ろを歩いていたはずのベスティアの気配がないことに気づいた。


後ろを振り返って案の定ベスティアがいない事を確認。


「ダメじゃん……」


アヒトはため息を吐きつつ来た道を見渡す。


少し先に突っ立っているベスティアの影が見えた。


アヒトはすぐさま駆け寄った。


「まったく君は、有言実行という言葉を知らないのか?」


「…………」


ベスティアがまったく聞いていないことに気づいたアヒトは、フードの中の顔を伺った。


ベスティアはアヒトが覗き込んでいることにすら気づいていない。


よく見るとベスティアの口からよだれが出て来ていた。


「……おいおい」


ベスティアの視線の先へアヒトは顔を向けて頰を引きつらせた。


屋台があった。肉の焼けたいい匂いがこっちまで漂って来ていた。


「なあ、ティアさんやい」


「…………」


ベスティアの足が少しずつ屋台の方へ進んで行く。


「ティアさーん。おーいベスティアさーん」


「…………」


「はあ……仕方ない」


アヒトはため息を吐いて使い魔の行動範囲を極限まで狭めた。


「はにゃ⁉︎」


急激に狭まった見えない壁にベスティアは激突し、額を押さえてうずくまった。


「おいおい、大丈夫か?誰にやられたんだ?」


アヒトは使い魔の行動範囲をもとの広さに戻してベスティアに駆け寄った。


ベスティアのもとへ辿り着いたと同時にベスティアの指がアヒトの方へ向けられた。


「うぅ……貴様にやられた」


「またまたご冗談を」


「……ぶん殴る」


「わかった。おれが悪かった。だからその拳を納めぐふぅ⁉︎」


アヒトの体がくの字に曲がって地面と平行に飛んで行く。


たまたま人が少なかったため巻き込まれた人はいなかった。


殴った拍子にフードがめくれてベスティアの三角の耳が露わになった。


「……はっ!」


とっさにベスティアはフードを被り直した。


幸い周囲の目は地面を転がったアヒトに向けられていたため、ベスティアの耳や髪色については見られていないはずだ。


「え⁉︎なんでここに狼亜ちゃ……うぐっ……んん⁉︎」


大きな紙袋を抱えた人に見られていた。しかも驚きすぎて食べていたものを喉に詰まらせてもがいていた。


「いっつぅ……しまった!と、とりあえず水だ!」


アヒトはフード付きのコートで顔や服装を見ることができないが明らかに苦しそうにしている人のところへ駆け寄った。


体を支えるとその人は女性であることがわかった。


ベスティアが屋台のおじさんから水をもらって駆け寄って来た。


その水を彼女に渡して飲ませると、彼女は受け取るなり喉を鳴らして水を飲み干した。


「っぷはああ!……し、死ぬかと思った」


「大丈夫ですか?とりあえずあのベンチに座りましょう」


アヒトとベスティアは危うく窒息死しかけた女性を連れて移動するのだった。

4章に入りました!

今回はバトルはなしの話となりますのでよろしくお願いします!

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