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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第23章
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第8話 一件落着?

「うんうん、めでたしめでたしと言ったところかな」


 サラたちがいる場所から遥か遠方にある崖の端に腰掛けていたルシアは小さな拍手を送った。


 これで彼女たちに立ちはだかる壁はほぼ無くなったと言っても過言ではない。


 いずれに分岐したとしても辿り着く未来は、ルシアが予見できる範疇のものであり、これ以上、この世界に色を加える必要はないだろう。


 ルシアが上機嫌に鼻歌を歌っていると、隣に鍔鬼が立ち並んだ。


「やぁ。ご苦労様、鍔鬼ちゃん。久しぶりに再会した気分はどうだったんだい?」


「特に何もありません」


「あらら、冷たいんだね」


「それが教える立場ですから」


 淡々と答える鍔鬼にルシアは瞼を細め、「ほぉーん」と含みのある言葉を溢した。


「そのままだと、良いお母さんには当分なれないね」


「………………視ていられたのですね」


「当然さ。我々には見届ける義務があるからね」


「司令、質問してもよろしいですか」


「何かな?」


「司令は何故、彼女たちに肩入れするのですか。私なら兎も角、司令には肩入れする義理はないと思うのですが」


 鍔鬼の質問に脚を組み直したルシアは、丁寧に返答する。


「我々のせいで、人生を変えてしまった子がいるからね。たとえそれが人間でも、責任は果たすべきだと思っただけさ」


 確かに、ルシアの言うとおり、鍔鬼のような異世界人によって人生の分岐を余儀なくされた人物は、この世界にはそこそこいる。


 これ以上知らぬ存ぜぬを続け、世界の崩壊を招いてもらっても困るため、ルシアにとっては適度な調節が必要だったのだろう。


「そういえば、幻月ちゃんの調子はどうだったんだい?」


 ルシアが唐突に鍔鬼へと質問する。


 彼女には視る力があり、全てを把握している筈だ。


 会話を弾ませるためなのかは定かではないが、当然のように聞いてくるルシアに鍔鬼は結果だけを端的に伝える。


「……もう数10年ほど残ると」


「なるほどなるほど。良くも悪くも生涯のパートナーが見つかったわけだ」


「? 人間の寿命はそこまで短命でしたか?」


「そういうことではないよ。人生山あり谷ありと言うけれど、それは刀にも言えるということさ」


 相変わらずわけの分からない事を言ったルシアは、背伸びをした後立ち上がる。


「帰還しますか?」


「そうだね。そろそろ新たに下命が下される頃合いだ。この世界に来るのも後一度だけになるだろうね」


 そう言い残し、ルシアは忽然と姿を消した。


 一人残された鍔鬼は、一度チスイたちがいた方向へと視線を向けたが、そんな自分の行動に呆れ、僅かな笑みを浮かべてその場から姿を消すのだった。







 魔界へと踏み入れた結界壁の穴へと辿り着いたサラたちは一度地面に降り立つ。


 サラは太陽の光に触れれば死んでしまうため、ある程度抑制するためにアキヒから貰ったブレスレットを手首に装着させる。


「よし、これで少しは大丈夫になったはず」


「しかし、やはり何か頭に被るものが必要なのではないか?」


 チスイが心配そうにサラの表情を伺う。


「平気平気。ちょっと痛いだけだから安心して」


「何も安心できぬぞ!?」


 チスイはヤレヤレと額に手を添える。


 強い力を得られたというのは羨ましいと思えるが、日常生活に制限がかけられるのは流石のチスイも勘弁願いたいところだった。


「良い。サラはここで待っておれ。私がその男を抱えて病院へ運んでくる。その際に布か何かを貰ってくるぞ」


「え、良いよそんな」


「遠慮するでない。今は己の身体を大事にしろ。寿命が短くなっても助けてはやれぬからな?」


「あ、あはは……」


 少なくとも、半魔族となっている今のサラは一般の人間の寿命より遥かに長生きでき、その事をサラ自身も何となく肌で感じてはいたが、チスイがあまりにも身を案じてくるため、その事実を伝える事ができずに苦笑いで誤魔化すしかなかった。


 チスイのその一生懸命さにサラは甘えることとし、抱えていたアキヒをチスイに渡す。


「しかし、この男は何者なのだ? これだけの傷を受けて何故スヤスヤと寝息を立てとるのだ?」


「んー、何でだろうね」


「サラとは如何なる関係か?」


 チスイの質問にサラは一度アキヒに視線を移す。


 静かに寝息を立てるアキヒの表情を見ていると、ふわふわと満面の笑顔のアキヒが浮かび上がってきて、少しだけクスリと笑ってしまった。


「切っても切れない関係かな」


「う、うむ? なるほど? では行くぞ」


「うん」


 サラの返事を聞いて、チスイは結界壁の穴を潜って行く。


 視界が一瞬白く染まり、チスイが眩しさで瞼を一度強く閉じ、次に開いた時、そこには何故か複数人の騎士兵がいた。


「む、これは」


 騎士兵たちは結界壁から半円を描くように並んでおり、まるでチスイを逃さないようにしているようだった。


「ねえ、どうかした?」


 サラが魔界から声をかけてくる。


「サラ、すまぬがこっちに来てくれるか?」


「え、でも大丈夫かな」


 季節のおかげなのか、幸いなことに空は一面灰色の分厚い雲で覆われており、当分太陽は顔を出すことはないと思われた。


 その事をチスイがサラに伝えるよりも先にサラ自身が結界壁の穴を潜って人界へと戻ってくる。


「あ、あれ……何この人たち」


 サラも並ぶ騎士兵たちを見るなり頬を引き攣らせた。


 その表情を見るからにサラが連れてきたわけではない事を理解し、勿論自分が呼んだ覚えもないため、チスイは騎士兵たちを睨みつける。


「何だお前ら。何が目的だ?」


 そうチスイが言い終えた時、正面にいた騎士兵が横へとずれ、奥から一人の青年が姿を現した。


「久しぶりだね。二人とも」


「ああ!」


「……ん?」


 チスイはその青年の顔に覚えがあったことからビシッと人差し指を指して目を見開くが、サラは全く記憶がないようで、ただ首を傾げるだけだった。


「確か、ケレントの王子だったか? 名は……ま、マキシ……」


「マクシミリアヌス。マックスで良いよ」


「そう! それだ。して、何故私らを包囲しているのだ?」


 チスイの質問にマックスは申し訳なさそうな表情をし、チスイ、サラと二人の顔を交互に見る。


「サラさん、チスイさん。君たち二人を国家反逆罪の容疑で逮捕する」


「「え、えええええええええ!?」」


 周囲に二人の驚愕の声が響き渡った。


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