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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第3章
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第8話 亜人娘にできること その2

『身体強化』それはバカムたちと戦う前にベスティアがアヒトに話していた技である。


その言葉を言った時、ベスティアの体外に溢れる魔力が莫大に膨れ上がった。


その魔力によってベスティアの運動能力や五感といった機能が大幅に上昇する。


「な、なんだ⁉︎」


突如ベスティアの雰囲気が変わったことにバカムは目を見開いた。


ベスティア自身、この技を使うのは今回が初めてである。そのため、一つも魔法を使えないと思っていたベスティアは、一つでも魔法が使えたことに内心驚き、同時にかなり嬉しく感じていた。


「覚悟して……手加減できないかも」


「――ッ⁉︎や、やれ!相棒ッ」


ベスティアの言葉に怖気づいたバカムは黒竜に攻撃の指示を出した。


「ガアアアアアアッ」


黒竜が咆哮をあげてその顎門を開く。


黒竜のブレスとベスティアの地を蹴るタイミングは同時だった。


しかし、ベスティアのスピードは先ほどまでの速度をはるかに超えていた。


黒竜の顎門からブレスが放たれた時にはすでにベスティアの姿はなく、黒竜の真下に存在した。


黒竜の目がギョッと見開く。


ベスティアはブレスで開いたままの黒竜の顎を下からバク転をする勢いで蹴り上げた。


「ブガガオアガガア」


黒竜のブレスは放たれたままの状態から顎を閉じたために口内爆発が生じた。


「な⁉︎……す、『火炎弾(スフェイラ・フローガス)』ッ」


今頃になってベスティアの存在に気づいたバカムは杖剣から火球を放った。


火球がベスティアの背後に迫る。


「ティア‼︎」


アヒトは思わず叫び杖剣を構えるが、ベスティアの行動の方が速かった。


ベスティアは振り向きざまに当たり前のように火球を蹴りつけた。


蹴られた火球はベスティアの足を燃やす事なくバカムの方向へ跳ね返った。


「は?」


バカムの口からそんなまぬけた声が漏れた。が、次の瞬間返ってきた火球がバカムの杖剣を持っていた右手に着弾した。


「あ、がああああっ‼︎」


あまりの熱さに杖剣を落とし、バカムは地面を転がった。


その光景を見た黒竜は仇を打とうとベスティアの背中に向けて鋭い爪で斬り裂くべく振り抜いた。


ベスティアは体を捻って回避すると同時に攻撃を繰り出した黒竜の前足に拳を突き出した。


重たい音とともに黒竜の鱗と爪が破壊された。黒竜の特殊能力による耐性よりベスティアの攻撃のダメージが上回ったのだ。


その事実に驚いた黒竜はとっさに宙に回避しようと飛翔した。


「……逃がさない」


ベスティアは足に少し力を加え、跳躍。するとベスティアのいた地面がえぐれ、一瞬で宙にいる黒竜に肉薄した。


何度目かわからない驚きの表情をよそに、ベスティアは無防備な黒竜の鱗のない部分----つまり腹にめがけて拳を突き出した。


空間に衝撃波が生まれる。


黒竜は空中から地面に一気に叩き落とされた。


派手な音とともに黒竜が落下した場所に巨大なクレーターができた。


あまりの衝撃で息ができない黒竜。その上から重力によって自由落下してきたベスティアの両足が黒竜の腹を穿った。


先ほどのクレーターよりさらに地面がえぐれる。


黒竜は泡を吹いて動かなくなった。


「す、すごい」


アヒトはベスティアが圧倒するのを観て、思わず呟いた。


「あ、兄貴が負けた……」


アホマルとマヌケントも驚きのあまり開いた口がふさがらないでいる。


ベスティアは黒竜の腹の上から跳び下り、そのまま倒れた。


「ティアッ」


アヒトは倒れたティアの下へ駆け寄った。ティアの肩を抱き寄せて様子を伺う。


ティアの額には汗の粒が大量に浮かんでおり、呼吸が荒い。顔も火照っている。


アヒトはベスティアの額に手を置く。


「やっぱり、無理してたな」


回復薬で少しは回復していたのかもしれないが、『身体強化』をしてあれだけ激しく動けば症状が悪化するのは無理もない。


「……ダメじゃん」


アヒトがそう呟いていると、両手を叩いてこちらに歩いてくる人影が見えた。


「お前たちのバトル、観させてもらったよ。とても素晴らしいものだったよ」


「グラット先生……いつから観ていたんですか」


「バカム君との勝負が始まる時からだね。もうすぐお昼だから呼びにきてたのさ」


グラット先生は淡々と語る。


「それにしても、アヒト君の使い魔には驚かされてばかりだよ。まさかバカム君の使い魔を倒しちゃうなんてね。少し興味が湧いてきたよ」


「…………」


グラット先生の言葉にアヒトは目を細める。


「おっと警戒させてしまったね。冗談だよ。もうとっくにお昼は過ぎている。他の生徒は先に戻らせたし、お前たちも終わったのならとっとと戻るぞ。……バカム君と亜人の子は保健室だな。アホマル君は私が治療すればなんとかなるだろ」


そう言って、グラット先生はバカムを脇に抱えて歩き出す。


アヒトもベスティアを抱きかかえて後を追った。

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