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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第21章
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第4話 追走

 サラは屋根伝いにチスイを追いかけて走る。


 チスイの刀に吸われた自分の魔力がわずかに痕跡を残していることから、それを追っていけばいずれチスイに追いつく事ができるはずだ。


「痛って……もうちょっと揺れないように走れないっすか」


 サラの腕の中で抱えられるアキヒが傷口を押さえながら小言を述べる。


「無理だね。今急いでるし、応急処置はしたんでしょ」


「したけど痛いものは痛いじゃん。それにあんまり全速力で走ると、人目について下からサラさんのパンツ見られるぞ」


 残った下半身が履いていた下着とアキヒから上着を借り、下半身を処分した後に現在に至っているが、その事に触れられるとサラの頬が僅かに赤くなる。


「うっ……も、もういいかな! 自分の事よりあの子が優先なんだから!」


「えええええ! サラさんのパンツを他の人はタダで見れるとか羨ましいんですけど!?」


「代わりに抱っこしてあげてるでしょ!」


 そう言葉にした後でサラは自分の発言が失言であった事に気がついた。


 アキヒの瞳がキラリと光り、すばやくサラの腰に腕を伸ばし、胸に顔を埋める。


「ふっふっふ、確かにその通り。このノーブラおっぱいを堪能できるのは俺だけだからな!」


「投げ飛ばしてもいいかな!?」


「そうしたければすればいいじゃん。ま、どうせサラさんにはそんなことできっこなぃぎゃあああああ」


 左手でアキヒの襟首を掴んだサラは何の躊躇いもなく、そのまま勢いよく投げ飛ばしていた。


 だが、流石に投げ飛ばした先のどこかで死んでもらっても困るため、サラは速度を上げてアキヒの落下位置に入り、しっかりと元の体勢で受け止める。


「次は受け止めないから」


「じぇ、ジェットコースターなんてレベルじゃない、まじ心臓に悪いじゃん」


「ジェットコースターっていうのが何か私には分からないけど、どうせアキヒ君は落ちても死なないんでしょ」


「死ぬわ! ショック死する! 俺は女の子からの攻撃に強いだけじゃん!」


「え……?」


 アキヒの言葉にサラは目を丸くする。


 今までサラの攻撃の悉くを耐え凌いでいたのはアキヒが持つ能力だったとでも言うのだろうか。


 だがしかし、人間が魔術や魔石を使わずして技を扱うことなど不可能である。


「ここだけの話するけどさ、俺のこの能力、実は元は俺がたまたま入った洞窟にあった魔鉱石からなんだ。ちょっとした拍子に誤ってその魔鉱石を飲み込んじゃってさ。気づけばこの能力。発動条件はなんと女子の攻撃に対する防御力アップ! ある意味すごいじゃん?」


「いや、すごくないし、使い勝手悪すぎだし、自慢げに話さないでくれるかな」


 そこまで言葉にしてふとサラはアキヒの布で巻かれた傷口に視線を向ける。


「じゃあさ、何でナミヒラさんの攻撃には発動しなかったの?」


 チスイも女性であるため、アキヒの話が真実なのであればサラとの戦い同様に鋼の肉体になって良いはずだ。それがまったくの正反対な結果になってしまっている。


「んー、まぁ単純に考えて、チスイ・ナミヒラという人間が女ではないという考えになるんだけど、俺の目に狂いはない、間違いなくあの子は女の子だ!」


 サラほどまでの大きさはなけれども、病衣の下にははっきりと二つの膨らみが確認できた。


 そんなアキヒの考えている事を何となく察したサラは呆れたようにため息を吐く。


「はいはい」


「それ以外の理由としてはぁ……」


 サラの腕の中で考え込むアキヒだが、なかなか答えとなるものが導き出せないのか小さく唸るだけだった。


 だが、サラの脳内ではある言葉が思い起こされ、無意識にその言葉を反復していた。


「……『幻月』に斬れぬものはない」


「あの子が持つ刀って『幻月』って言うの? うひぇ、かっけぇじゃん、っていうか何で知ってるわけ?」


「え、あれ? 何でかな。わかんないけど、あの子が持つ刀の名前はそれであってると思うよ」


 使用者の名前と顔は覚えていないのに、刀の名前は知っていて、その時の会話を覚えているというぐにゃりと歪んだ気持ち悪い感覚に眉根を寄せるサラ。


「ふーん、つまりその『幻月』には防御貫通的な何かがあるわけだ。……あの、サラさん、あれ何すか」


 アキヒが思考を中断させて、目の前に見える光景を指差す。


 それに合わせてサラも足を止める。


「…………」


 魔界と人界を隔てる結界壁に誰が見ても分かるほどに巨大な穴が開けられており、そして穴の奥に見える濁った景色の先からはサラたちが追う魔力の痕跡が漂っていた。


「行くしかないじゃん? サラさん」


「うん……そう、だね」


 あの穴の中に入ってしまえば、また自分の意思を失くしてしまうのではないだろうか。


 またアキヒや他の人たちを傷つけてしまうのではないだろうか。


 そんな不甲斐ない気持ちに駆られるサラに気づいていたのか、アキヒが励ますようにサラの腕の中でニッと笑みを作る。


「大丈夫。何かあっても俺がいるじゃん。危なくなったらどんと俺の胸に飛び込んで来な!」


「カッコつけてるつもりかもしれないけど、現時点で死にそうで私に抱かれてる以上説得力皆無だからね?」


「ち、ち、ち、腕にって言わないと誤解を招くじゃん」


「う、うるさい。そんな事で喜ぶのはあなたみたいな変態だけでしょ」


 そんなサラの言葉に照れたように笑うアキヒ。


 身体が痛むのか、笑顔ではあるが本気で笑うようなことはしなかったが、それでもサラには今のアキヒの笑顔はとても楽しそうで、今が一番幸せそうに見えた。


 気づけば湧き上がっていた不安もどこかへ消え去り、前向きな気持ちだけが湧き上がってくる。


 サラは大きな深呼吸を一つする。


「よし! 行くよ!」


「がってん!」


 サラはアキヒを抱えたまま、強く地を蹴りだす。


 結界壁の穴までの距離はかなりあったのだが、サラは指折りで数えられる程度足を地面に付けただけで、穴の前にまで辿り着く。


 そして、そのまま足を止める事なく、サラとアキヒは魔界の地へと足を踏み入れるのであった。

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