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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第3章
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第7話 亜人娘にできること その1

「なあティア、本当に大丈夫なのか?」


「……問題ない。亜人族に対する汚名返上、必ず果たす」


続けざまにバカムと戦うという話が勝手に決まり、今ベスティアとアヒトは一定距離離れた位置に立つバカムを見据える。


バカムは手首や足首を回してストレッチをしていた。


「うおーし。そろそろやるか」


そう言って、バカムは指を口に持って行き音を鳴らした。


すると、空から見ただけで誰もが恐怖を抱くほどの迫力ある漆黒の竜が舞い降りてきた。


「せいぜい楽しもうぜえ。俺たちの戦いをなああ!」


バカムの言葉を合図に戦闘が始まった。


最初に攻撃を仕掛けてきたのは黒竜の方だった。


黒竜は巨大な顎門を開き、灼熱のブレスを放った。


アヒトとベスティアはブレスが着弾する寸前でそれぞれ左右に跳び回避する。


灼熱のブレスが地面に巨大なクレーターを作った。


「ちっ『火炎弾(スフェイラ・フローガス)』ッ」


アヒトはすぐに杖剣を前に突き出し、魔術を放った。


アヒトが放った火の弾が黒竜に着弾する。爆発音とともに煙が立ち上った。


「よし、いけるんじゃないか?」


「……ダメ」


アヒトの言葉を、クレーターを挟んで身構えるベスティアに否定される。


「ガアアアアアアッッ」


ベスティアの言葉通り、煙が消えるとそこには傷ひとつない漆黒の竜がいた。


「なッ、あいつは魔術耐性でもあるのか?」


アヒトの驚きの言葉に笑い声がこだまする。


「その通りさ、俺の使い魔の鱗にはあらゆる魔術、物理攻撃に耐性を持つ特殊能力を持っているんだよ。残念だったな。ご自慢の術が何も効かなくて」


そう言ったバカムはまた高笑いをした。


「……なら、鱗がないところを狙う、それだけッ」


ベスティアは高速で地を蹴り、黒竜との間合いを詰めに向かう。


「うおっとそうはいかねえ『岩壁(ヴァラコス)』ッ」


バカムが魔術を唱え、黒竜の腹の部分を守るように岩の壁を作り出した。


ベスティアはその壁ごと貫こうと拳を突き出すがびくともしない。


「ちっ……ッ」


ベスティアは舌打ちをしていると、黒竜が岩壁ごとベスティアをなぎはらおうと鋭い前足を繰り出してきた。

ベスティアはとっさに後ろに跳ぶが、砕けた岩の破片までは避けきれずに受けてしまった。地面を少し転がり、反動で起き上がる。


――体が重い。


ベスティアはもどかしさを感じつつ、思わず手を開いたり閉じたりした。


「残念だったな。俺もそこそこ魔術を扱えるんだよ。他の奴らと一緒にしてもらっては困るぜえ」


バカムは口角を吊り上げながら言った。


「大丈夫か、ティア」


「……平気。貴様こそ集中して」


アヒトの心配をよそにベスティアはまた駆け出した。


「同じだ!『岩壁(ヴァラコス)』ッ」


またもバカムは岩の壁を作り出す。


「『(ロック)(・ラウンジ)』ッ!」


アヒトはベスティアに向かい岩を発射した。


ベスティアは飛来した岩を少し横にずれ、岩が通り過ぎるところをその後ろから蹴りつけた。先ほどのスピードより速く岩が黒竜に向かう。


岩がバカムの作った壁にぶつかる。その衝撃で壁が砕ける。


「ッ⁉︎マヌケントに使った技か!」


壁の残骸を超えてベスティアが黒竜に肉薄する。


「回避だ!相棒ッ」


バカムの言葉で後ろに飛翔しながら回避する。同時に羽を使った影響で風が巻き上がる。


「……ッ⁉︎くっ」


とっさに顔を覆ってしまうベスティア。それが致命的になる。


黒竜が顎門を開き灼熱のブレスを放った。


「ティア‼︎『水壁(ネロ・ティーホ)』ッ‼︎」


アヒトはベスティアの前に水の壁を形成する。


ブレスが水の壁に衝突した。


「うぐっ」


水が蒸発する音とともにブレスの圧力でベスティアは吹き飛ばされ、後方の地面に叩きつけられた。


痛みに顔をしかめながらもベスティアは何とか起き上がる。


「いいぞ相棒、よくやった」


バカムは自分の使い魔を褒めると、ベスティアの方に視線を向け嘲るような表情を作る。


「おいおい、その程度か?ご主人様が無能になると何もできないのか?そうだよな、マヌケントの戦いの時に思い知らされたもんなあ。一人じゃなあんにも出来ないって事をなあ‼︎」


ベスティアはバカムを睨みつけ歯噛みした。


その通りだからだ。たしかにアヒトにもなんでも一人ではできない、そう言われた。


ベスティアにはできないことが多すぎた。アヒトは剣も魔術もできる。しかし、ベスティアは足が速く、それを活かす体術が出来るだけ。視界を奪われたらアウト。魔術が使えないため下位の魔物に遊ばれる。ベスティアはまだ、何も成果を上げられていなかった。


マヌケントとの戦いで抱いた不安が再び沸き起こる。


捨てられる、居場所はない、役立たず……。ベスティアの中でぐるぐると負のレッテルが飛び回る。


しかし、それを全て払いのけるようにアヒトの言葉がベスティアに力を与えてくれる。


自分は強くない。だが、強くないからといって役に立たないわけではない。決して無能などではない。他にできることはあるはずだ。


そこでベスティアは戦いが始まる前のアヒトとの会話を思い出した。


「……私にも、できることはある」


「あ?なんだって」


「……貴様の言う通り、私は強くない。そこの男より無能かもしれない。けど、何もできないわけではない」


ベスティアはアヒトに視線を向ける。


アヒトと目が合った。


「……見ていて」


その言葉がアヒトの耳に届いたかはわからない。けどそれでいい。


――私は、できる事をするだけ


そしてベスティアは大きく深呼吸した。


自分の内側に流れる魔力に意識を集中する。全身にくまなく魔力が行き渡るように、魔力を操る。


「…………『身体強化』」

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