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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第17章
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第1話 刀少女 × 仮面の魔族

前回の話で、最後辺りの文章が少しだけ抜けていました。すみません。

ちょこっとだけ追加しました。

 若くして国を治めることとなった帝王は右も左もわからない状況で都市を発展させていった。


 家臣たちはとても忠実で王の命令には必ず従った。

 願いは何でも叶い、やがて自分はなんでもできる存在だと思うようになっていった。

 

 ある日、新しく家臣に入った人間が王の命令に意見を出してきた。

 まさか意見してくるとは思わなかった王は思わず、「我の命令に逆らうのか?」と言葉にしてしまった。

 あれこれと言い訳のような逃げ言葉を連ねる家臣に王の内心から怒りが煮えたぎってくる。

 許さない。許してなるものか。王の言葉は絶対なのだ。

 

 王は意見を述べた家臣を処刑した。

 以降、何かが弾けたようにタガが外れ、王は絶対の王となった。逆らうものは許さない。例えそれが女であっても。

 もはや自分では止められない。これが王だ。王の在り方なのだ。


 終わらせてなるものか。まだ、計画は始まったばかりなのだから……。







 城の入り口周辺にいた警備兵をあらかた倒し終えた智翠は堂々と正面の扉から中へと入る。


 残念ながら、中ではチスイが期待していたような多くの騎士が待ち構えているというような事はなく、まるでどこかに隠れ潜むかのような静けさがそこにはあった。


「……チビ助は上か? ……いや、そんなわけがあるまい」


 かなり広い城ではあるが、捕らえられている人物を捜すとなると、何処にいるのかは自ずと絞られてくる。


 おそらくいないであろうと思われるが、灯台下暗しという事もあるため、智翠は近場の部屋から捜すべく動き出そうとしてその足を止めた。


「何故そのような場所で隠れて私を見ているのだ。今すぐ姿を見せねば私から斬りに行くが良いな?」


 左手を鞘にかけ、親指で鍔を前に押して鎺を見せる。


 すると、陰となっていた暗闇から一人の男が姿を現す。


「いやはや、驚いたな。流石といった方が良いかね?」


「……知ったふうな口を利くな。名を申せ。私はお前のことなど知らぬ」


「これは失礼。ミュートニーと言います。使役士育成学園の学園長を務めていると言えばお分かりかな?」


「……そういうことか」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべるミュートニーに智翠は全てに合点がいく。


 ベスティアが連れて行かれたこともアヒトが退学になったことも、そしておそらく学園祭の事件のことについても、全てこの男が仕組んだことなのだと、直感的に判断した智翠はゆっくりと刀を鞘から抜き放つ。


「痛い思いをしたくなければそこを動くな。その素首今すぐにでも斬り落としてやる」


「おぉ、怖い怖い」


 不敵な笑みを崩さず、余裕の立ち姿をみせるミュートニーに向けて智翠は問答無用で肉薄する。


 しかしその刀が届く刹那、横から絶大な衝撃に襲われ、智翠は吹き飛ばされる。


 体が床に衝突するよりも先に体を丸めることで受け身をとることに成功するが、勢いは殺せずに何度もバウンドを繰り返す。


「うっ……げほっげほっ……な、なにが……」


 何が起こったのかが理解できなかった智翠は咳き込みながら刀を構え直し、立ち上がる。そして先程己がいたであろう場所に視線を向けて目を見開く。


 そこには黒いフードにヤギの仮面をつけた女がミュートニーとともに立っていた。


 いつの間にやってきたのか、そもそもいつからいたのだろうか。智翠の反射神経と反応速度があれば誰かが近づいて来れば分かるはずなのに、突然横から攻撃された。


 今は平然と立っているふりをしているが、おそらく肋骨のいくつかはイカれただろう。折れた骨が肺に刺さらなかっただけでも幸運だと考えるべきだ。


「何者だ! 邪魔をするなら容赦はせぬぞ」


 仮面の女からは魔力が感じられない。生命体であるならば誰しもが多少の魔力を保持しているはずなのだ。それが感じられないということは、つまり己で魔力の漏れを制御しているということだ。


 ……何故隠す必要がある? 己が強者だと知らせたければ隠す道理など皆無だが……。


「名乗る必要があんのか?」


 智翠の思考を遮るように仮面の女がダルそうに答える。


「私は波平智翠。戦人であれば、名を残すことは礼儀と同義。それができぬようでは臆病以下の愚鈍者だな」


 智翠の挑発するような言葉に仮面の女はフンと鼻で笑い、「言うじゃねぇか」と呟くが、どこか思うところがあるのか僅かな思考の後、一歩前に出て口を開いた。


「カプリだ。俺を愚鈍者呼ばわりしたってこたぁ死ぬ覚悟ができてんだろーな?」


 そう言葉にした時、今まで潜めていた魔力がジワリと溢れ出してくる。


 空気が重くなるようなどんよりとした魔力の質に智翠の頰から汗が伝う。明らかに相手は強者だ。だがここでやられるわけにもいかない。


 するとミュートニーがそっとカプリに近づき、口を開く。


「カプリ殿。本当によろしいのですか?」


「あ? 何がだよ」


「あなたはボレヒス王の護衛。私よりもするべきことがあるのでは?」


 その質問にカプリは面倒くさげに答える。


「あーそれな。これがあの王様からの命令でよ。どうやら全くと言っていいほど信用されてねぇみてぇだわ」


 カプリは「困った困った」と適当に呟き、退いてろとでも言うかのようにミュートニーを手で払う。


「さぁて仕事だ仕事。パパッと片付ければ俺の予定に間に合うだろ」


「ふん、世迷言だな。お前は取らぬ狸の皮算用という言葉を知らぬのか」


「ハッ、いちいち癪に障る言い回しだなてめぇわよぉ!!」


 そう叫んだカプリは智翠のもとへ一瞬で距離を詰めた。


 まるで落下しているかのように智翠へと肉薄したカプリは身体を回転させながら蹴りを放つ。


「くっ……」


 智翠はギリギリのところで躱し、床を転がる。


「おいおいどーしたぁ!」


「……!!」


 次々と放たれる蹴りに智翠も上手く合わせて躱し、カプリが左脚を軸に放った蹴りに対し、身体を右にずらした智翠は右手に持った刀を素早く振り下ろす。


 しかし、それよりも速くカプリは左に落下する。


「かはっ……!」


 カプリの脚が腹部に直撃し、智翠は肺の空気を一気に吐き出した。


 そのまま身体を捻ったカプリは、脚を振り切る事で智翠を軽々と宙に投げ飛ばすが、智翠は上手く足から床に着地し、一度転がってから立ち上がる。


「波平流剣術・翔の型……」


 智翠は刀を後ろに切っ先を上に向けて構え、腰を深く落とす。同時に刀の周囲に風が纏わり付く。


「あ? あの刀……まさか」


 その一瞬の思考がカプリの動きを止め、そして隙となる。


「……翡翠『飛燕(ひえん)』!!」


 そう言葉にした智翠は刀を一気に振り上げた。


 風を纏った斬撃がカプリに向けて飛来する。


「やっべ……」


 床のタイルを削り巻き上げながら迫る風の斬撃を横に落下して避けるカプリだが、行動が僅かに遅れたため黒コートの一部が引き裂かれる。着地と同時に捲れたフードの下は、前髪をかき上げた葵色のショートヘアで右耳には小さなピアスが差し込む朝日によって輝いていた。


「……てめぇその刀どこで手に入れやがった」


「…………?」


 何故そのようなことを問いかけるのかと刀を構え直す智翠。


「ちっ、鍔鬼の野郎、余計なことしやがって……」


 カプリが小さく吐き捨てた言葉に智翠は瞬時に反応する。


「おい待て、今何と言った!?」


「あーやめだやめ。てめぇとヤリあってもなーんもおもんねぇわ」


 カプリは捲れたフードを被り直し、どこかへ歩き出す。


「お、おい、……どこにいくのですかカプリ殿??」


 ミュートニーが慌てて止めようとするが、カプリは無視して歩いて行く。


「こ、こやつはどうするのだカプリ! 王に言い付けるぞ!」


「うっせぇな。てめぇがやれ。カスごときが俺に意見すんな」


「うぐぬぬ……」


 ミュートニーとカプリのやり取りに未だ何が起きているのか、戦いはどうなったのかなど理解が追いつかずに智翠は呆けてしまっている。


 すると、カプリは「あーそういえば」と言葉にして足を止め、懐から片手に収まるほどの小さな銀の箱を取り出す。


「王様からてめぇに土産もんだ。ま、カスなりに足掻いてみろってこったな」


 カプリは銀の箱をポイッとミュートニーに投げ、そのまま今度こそ歩みを止めずに去っていった。


 残されたミュートニーは藁をも掴む思いで箱の蓋を開ける。


「こ、これは……!」


 そう呟くと同時にミュートニーの口から歓喜の笑いが聞こえてくる。


「ガハハハハ。これはすごい! だが今使ってしまっては台無しであるな」


 ミュートニーは懐に手を入れる。


 智翠はそれに合わせて警戒するように腰を低くして足に力を入れる。


 取り出されたのは一つの指輪であり、それを智翠はどこかで見たような気がした。


「出でよ我が使い魔」


 指輪を指にはめたミュートニーは手をかざし、そう言葉にすると、床に魔法陣が浮かび上がり、そこから一匹の巨大な鳥の魔物が飛び出してくる。


「鷲か。鳥の相手なら得意だぞ」


 智翠はニヤリと笑みを浮かべ、刀を己の目線まで持ち上げて霞の構えをとる。


「行け! 奴を叩きのめせ!」


 ミュートニーが智翠へ指差すのと同時に、飛翔する巨大鷲の魔物がひと鳴きして智翠へ突進した。


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