表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第3章
12/212

第4話 亜人娘が求めるもの その2

「君は強いから援護いらないのかもしれない。けどな、この戦いは一人では勝てない。だって相手は一人じゃないんだ。何のために使役士がいると思ってるんだい?」


アヒトの言葉によって、ベスティアは体の重みが消えた気がした。霧が晴れ、彼の顔を見た瞬間力が戻った気がした。


「ティア、君にもできないことがある。それをおれが補ってやる。何でも一人でできるほど世の中甘くはないんだ」


巨大トカゲがアヒトとベスティアに向かって突撃してくる。


「ちょっと今は大事な話をしているんだ。来ないでくれるかな……『氷柱壁(パゴスティロン・パゴウ)』」


アヒトとベスティアを囲うように空に向けて先端が鋭く尖った氷でできた円錐状の壁が出現した。


アヒトが使用したのは中級魔術。本来初級魔術しか発動できない杖剣から無理矢理魔術を使用しているため、現在杖剣がかなり軋んだ音を立てている。


巨大トカゲは目の前に現れた氷でできた柱の壁の一歩手前で停止せざるおえなくなった。


「いいか、ティア。おれはティアみたいに強くない。ただそこら辺の使役士より魔術が得意なだけだ。でもね、君はまだまだ強くなれると思うんだ」


「……私が、強く?」


俯いていたベスティアの顔が少し上がった。


「そうだ。君は強いしまだまだ強くなれる。おれはそう思った。一緒に強くなろーぜ」


そう言ってアヒトはベスティアに手を差し伸べた。


ベスティアはその手をじっと見つめる。


「あー、有無は言わせないよ。君はおれのものだ。おれの意思に従ってもらうよ。大丈夫、ティアには居場所がある。おれが作ってやる」


「……私にも居場所がある?」


影が差していたベスティアの目に光が宿り始めた。


「ああ、あるとも。おれはティアを見捨てたりしない。おれは君の強さをちゃんと認めてるからな。こんなに強いやつを誰が捨てるんだよ」


その言葉を聞いて、ベスティアは自分が間違っていたことを理解した。


ベスティアは差し出された手をそっと握った。


一方、アヒトの氷壁によって手を出すことができない光景を見てアホマルが叫んだ。


「はあ⁉︎魔術って卑怯じゃないっすか!オレたちはまだほんのちょっとしか教わってないんすよ!何であんなに沢山の魔術を」


「アホマル、少しは黙れ。教わってなくても自主練とかすりゃいいだけの話だろうが」


「す、すんません兄貴」


アホマルの叫びをバカムが黙らせた。


確かにアヒトの魔術は驚異的である。先程から巨大トカゲが氷壁の中に侵入しようと試みてはいるが、上どころか、地面の中にまで壁があり侵入することができなかった。


「ちっ、やっぱ優等生だったか。あのクソ野郎、あんなに魔術が扱えるのかよ」


バカムが当初予定していたものより大きく変更する必要があると考え出した。


その頃、氷壁の中ではベスティアの重かった体は完全に消え去り、元の状態に戻っていた。


「はは、なんて顔してるんだ」


アヒトはベスティアの顔を見て笑った。


「……にゃ、にゃにを笑っている!」


「くすくす……いや、かなりボコボコにされたのかと思ってな」


ベスティアの顔は涙で眼を腫らして土で汚れていた。


「う、うりゅさいっ」


「はいはい」


アヒトはポケットからハンカチを取り出して顔を拭いてやった。


「ふぎゅ……んむん〜!」


「ほれ、綺麗になったぞ」


「……むぅ……もっと丁寧に拭くべき」


「無茶言うなよ。それより、もう動けるみたいだな」


ベスティアの無理な要望に呆れつつ、アヒトは容態を聞いた。


「……ん。大丈夫」


「それじゃあ、おれを信じて作戦を聞いてもらいたいんだが」


そうしてアヒトはベスティアに作戦を伝えるのであった。




「長えなあいつら、何やってんだ?」


「逃げ出したんすかね」


「ヤっちまいましょう兄貴」


バカムとアホマルの言葉にマヌケントが遠くから呟く。


しばらくすると、氷壁が崩れ、中からアヒトとベスティアが出てきた。


「ようやくお出ましか。待ってやったんだ。次はその亜人を使いこなしてみせろよ、クソ野郎」


クソ野郎は余計だとアヒトは思いながら一応の謝罪をする。


「すまなかったな。こっからはおれたちのターンだ」


「はっ、いいぜ見せてみろよ。やれ!マヌケント!」


バカムの言葉でマヌケントが巨大トカゲに突撃の合図を送る。


それを見て巨大トカゲは攻撃を開始した。


「ティア、おれの作戦通りに頼んだぞ」


「……ん。がんばる」


そう言ってベスティアは巨大トカゲに向かって駆け出した。


巨大トカゲはベスティアを視認すると、空中に跳び前方に回転しながら尻尾を叩きつけるようにベスティアに攻撃した。


それをベスティアは横に跳ぶことによって回避した。横に跳んで着地した足を軸にして一気に距離を詰める。そして二本の短剣で巨大トカゲの腹を斬りつけた。


「ギィヤ!」


しかし、体が大きいためあまり深い傷を与えられなかった。


「やっぱ短剣じゃあまりダメージは与えられないか」


アヒトは顎に手をそえながら呟いた。


巨大トカゲは尻尾を使ってベスティアを遠ざけた。


ベスティアは尻尾を一旦後ろに跳び退くことで回避し、着地と同時にすぐに駆け出した。


そこでマヌケントが両手を強く打ち鳴らした。


その瞬間巨大トカゲのエラからまたも黒い霧が出てきた。


それを見たベスティアだが今度は止まらない。


「おっけい。来ると思ったよ。『疾風(ガーレ)』ッ」


「……二度は、効かない!」


アヒトの術で黒い霧が一瞬で晴れる。それだけでは終わらない。


「『(ロック)(・ラウンジ)』ッ」


アヒトの目の前で生成された人間の顔ほどある大きさの岩を発射した。


どこに?ベスティアにだ。


ベスティアは飛んでくる岩を確認すると、少し体を横へずらした。そして岩がベスティアの横を通り過ぎようとした瞬間、ベスティアはその岩を思いっきり蹴りつけた。


蹴りつけられた岩は速度を増して巨大トカゲに向かい着弾した。


「ギィイヤ⁉︎」


巨大トカゲがよろめいた。


その隙を狙ってベスティアがさらに追加と言わんばかりの勢いで肉薄し、蹴りを打ち込んだ。


「ーーッ」


巨大トカゲは呻き声もあげられないようだ。


「よし!効いてる!やっぱこれが一番だったようだな」


アヒトは続けざまに岩を射出した。


それをベスティアは一つのミスもなく的確に捉えて巨大トカゲに打ち込んだ。


「ギッ……ギュエ……グギィ」


初めは尻尾などで岩を弾いていたりしていたが次第に飛んでくる岩を捉えられなくなっていき、巨大トカゲの動きが少しずつ鈍くなってきた。


逆にベスティアの動きは速くなってきていた。次第にアヒトの生成速度が追いつかなくなってきたころで巨大トカゲがバランスを崩した。


そこを逃さないベスティア。高速で駆け出し跳躍、落下と同時に縦に回転しながら巨大トカゲの頭に向かって踵落としを決めた。


巨大トカゲは頭に星を浮かべ、今にも倒れかけていた。


「……安らかに眠れ」


そう言ってベスティアは跳躍し、体を大きく捻って巨大トカゲの顔面に向けて横蹴りを放った。


風を切って放たれたベスティアの蹴りは巨大トカゲの体ごと横に吹き飛ばした。そして巨大トカゲはそのまま動かなくなった。


マヌケントもそれを確認したのかゆっくりと肩を落とした。


「やったな、ティア」


アヒトがベスティアに近づいて行き笑顔で言った。


「……ん。余裕」


ベスティアはアヒトに盛大なドヤ顔を向けて答えた。


「やっぱ、ティアは強いじゃんか」


そう言ってアヒトはベスティアの頭を撫でようとした。が、すんでのところで腕を払われた。


行き場をなくしたアヒトの腕は自然と自分の後頭部に持って行かれ、ポリポリと頭を掻くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ