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亜人娘が得たものは  作者: 戴勝
第13章
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第8話 剣士たちとの戦いは その1

「いやぁ。すごかったっすね! あのアヒトってやつの使い魔あんなに強かったんすね。オレらと戦った時はヘニョヘニョだったっていうのに」


アヒトたちの試合を見ていたアホマルは頭の後ろに手を組んで椅子にもたれかかりながら呟いた。


隣にいたマヌケントも何度も首を縦に振っている。


「ていうか、なんで兄貴は来てないんすかね。風邪か何かっすかね」


「…………」


アホマルの言葉にマヌケントは無言を返す。


「兄貴も鮮花祭だけは絶対に行くって言ってたんすよ。アヒトが無様に負けるところを見てやらぁ! って息巻いてたんすけどね」


通学時や学園祭の準備の時にバカムはアヒトと騒動を起こしている。精神状態が不安定になっていたのではないかとマヌケントは心配気に俯いてしまう。


それを横目にアホマルは大きなあくびを一つする。


「んま、兄貴のことっすからきっと大丈夫っすよ」


そう言ってアホマルは周りを見渡し、一人の女性が歩いているのを見つけてニヤリと笑みを浮かべる。


そしておもむろに立ち上がり、女性のもとへ近づいていく。


「ちょっとそこのお姉さん。今時間あるっすか?」


「な、何ですかあなた」


女性は妙に馴れ馴れしいアホマルに背を向けながら答える。


「もうすぐ昼っすよね。ちょっと近くの喫茶店でお茶でもどうっすか?」


「すみません。間に合ってるので」


「そんなつれない事言わないで、一緒に行くっすよ」


「やめてください!」


「ごぶへっ‼︎」


女性に遠慮など微塵もない平手打ちを頰にくらったアホマルは綺麗なターンをしながら地面に倒れる。


女性は急いでアホマルから遠ざかって行った。


アホマルが自分の席へと戻って来る。


「うぅ……世の中の女性は冷たい人ばっかっすね」


頰をパンパンに腫れさせながら呟くアホマルを見てマヌケントは深くため息を吐くのだった。








アヒトたちの試合が終わった後は三年の生徒同士の試合が行われた。しかし、三年生にはベスティアやロシュッツといった変わった人物はいなかったようで一年の試合の時より歓声が小さいように感じられた。


それでもつつがなく試合は行われていき、三年の第一試合は終了。一年の第二試合がやってきた。


「腕はもう大丈夫なのかしら?」


ゲートへ先に来ていたアヒトの背後からアリアが声をかける。


「大丈夫だ。回復術師ってのはすごいな。おれも少しくらい使えたら良いのに」


アヒトが先程まで折れていた腕を動かしてみせる。


「そうね。私もそう思うわ。でも回復系の魔術は中級以上。私たちの持つ杖剣では扱うことはできないわ」


初級魔術しか使えない杖剣で中級魔術を行使すれば、魔力の負荷に耐えきれずに壊れてしまう。その危険を冒してまで術を使うくらいなら魔術士育成学園に通った方がいいのだろう。


だが、今となっては使役士育成学園に入学して良かったとアヒトは思っている。なにせ、入学していなければ出会うことのなかった心強いパートナーが隣にいるのだから。


アヒトは無意識に隣に立つ小さな亜人娘の頭を撫でる。


撫でられた本人は一瞬ピクッと反応したが、すぐにくすぐったそうに瞳を閉じる。


「そういえば、次に対戦する剣士育成学園だけど、何かわかった事ってあるのか?」


アヒトはベスティアの頭を撫でながらアリアに質問する。


「ええ、もちろんわかったわよ」


壁にもたれかかり、アリアが腕を組みながらアヒトにじっと視線を向ける。


「なんだよ。勿体ぶってないで説明しろよ」


「あなた、よくあんな子と知り合えたわね」


「あんな子ってチスイのことか? 彼女がどうしたんだ?」


チスイの事でわかったことがあるならぜひ聞いておきたい。アヒト自身、チスイの技についてはほとんど理解していない。アリアの口から聞くことができれば対策することができる。


そう考えて少し期待を込めた目でアリアを見るが、彼女からは朗報といえるような明るい表情はしていなかった。


アリアがゆっくりと口を開く。


「彼女……チスイ・ナミヒラが繰り出す技の種類は未知数よ。記録にもそう書いてあったわ」


「未知数って何だよそれ」


アヒトは目を見開いて思わず聞き返す。


「私が知るわけないでしょ? あんな小さな体格をしていながら筋力は男性のそれ以上。とても人間とは思えないわね。第一、剣士なのに魔術的なものを扱える時点でおかしいのよ」


通常、剣士は魔術を使うことはできない。なにせ杖がないのだから。だが、体内に溜めている魔力を一気に解放させることで一時的に身体能力の向上を図ることはできる。


チスイの技の場合、そういったものを使っていたことはなく、刀から出る技は魔術というよりどちらかというと魔法に近いものだった。


妖刀『幻月(げんげつ)』。彼女が持つあの刀を作った人物はいったい何者なのだろうか。チスイでも勝つことができないというその人物は本当に人間なのだろうか。アヒトの頭に次から次へと疑問が湧き上がってくる。


いろいろと考えているうちにゲートが開き始める。


「あ、もう一人の方は何かわかっているのか?」


アリアが競技場に向けて歩き始めたので、追いかけるようにして歩きながらアヒトは質問する。


「それに関しては何も心配いらないわ。私が相手をするから、あなたはチスイって子をどうやって倒すかだけを考えておきなさい」


そう言ってアリアはゲートを潜っていった。


アヒトはベスティアに視線を向ける。


「倒せるか?」


アヒトの質問にベスティアは「何を不安がっているんだ」と言いたげな視線を向ける。


「一度戦っている相手。あんなやつに負けるつもりはない」


ベスティアの言葉にアヒトはニッと口元に笑みを浮かべる。


「だな!」


そう言ってアヒトは歩き出すとベスティアも落ち着いた足取りで隣を歩き、同時にゲートを潜る。


『即死不可』の魔術によってアヒトたちの体が青白い光で包まれる。


アヒトたちが来た時にはすでにチスイたちが来ていたようで仁王立ちをして待っていた。


「来たなチビ助。この時を待っていたぞ。ようやくあの時の続きができるのだ」


チスイが刀を抜いて構え、ベスティアに視線を向けて言葉にする。


「言っておくけど、私はあの時みたいにはいかない」


「ふん、それはこちらも同じだ」


ベスティアとチスイは互いに睨み合う。


『只今より、一年による第二試合。使役士育成学園の二人対剣士育成学園の二人の試合を始めます……』


アナウンスにより、アヒトたちは身構える。


「申し訳ないのだけれど、一体一にさせる気はこちらにはないのだわ」


「なっ!?」


唐突にアリアがそんな事を言い出し、アヒトが目を丸くする。


『……はじめ!』


「シナツ、『分身』よ!」


開始の合図とともにアリアはシナツに指示を出す。


シナツはチスイたちの元へ走ると同時に何体かに分身する。


「小癪な真似を。数で押し倒す算段か」


「チスイさんまずいですよ。この数を相手にするのはちょっと無理がありますよ」


チスイとそのパートナーのデキルがそれぞれの武器を構えながら口にする。


「まとめて叩きのめしてあげるわ! やりなさいシナツ!」


アリアの指示によってシナツが動く。チスイとデキルを囲み、死角から攻撃を仕掛けていく。


「ティア。おれたちも加勢するぞ」


「わかった」


アヒトの言葉にベスティアは頷き、高速で駆け出す。


シナツはチスイとデキルの二人を囲んではいるが、主にデキルに集中して攻撃しているようだ。シナツの分身体を散らばせる事でチスイの注意力を削ぐつもりなのだろう。それならベスティアもチスイと幾分か戦いやすくなるはずだとアヒトは思った。


「む? チビ助まで来られると些か面倒だな。一気に仕留めるか」


度々攻撃を仕掛けてくるシナツをいなしながら、ベスティアが動き出したのを視界に捉えたチスイは腰を落とし、刀の切先は地面に向けたままの状態で息をゆっくりと吸い込む。


「波平流剣術・翔の型……」


そう言ったチスイの前に出している片足に力が入る。


「ーーッ!」


異変に気づいたベスティアは動かしていた足にブレーキをかける。


それと同時にチスイがカッと目を見開き、剣先を地面に擦らせながら、片足を軸に円を描くように回転した。


「……琥珀(こはく)交喙(いすか)』ッ!」


刹那……


地面から槍のように先の尖った岩が隆起し、左右互い違いになって分身したシナツを啄むかのように襲いかかる。


「キュイッ!?」


突如襲いかかってきた岩に本体のシナツは回避が間に合わず、吹き飛ばされ、それによって分身していたシナツたちが霧のように消えていく。


ベスティアにも岩は襲ってきたが、範囲が限られているのか、ある一定のところまで後退したら襲われなくなった。


「シナツ!」


アリアが血相を変えてシナツが倒れている場所まで走っていく。


「シナツ起きて! しっかりしなさい!」


アリアはシナツを抱きかかえ、声をかけるもシナツは意識を失っているのかピクリとも動かない。


「うそだろ……。アリアの使い魔を一撃で……?」


アヒトは信じられないといった表情で倒れているシナツに視線を向ける。


あんなに小さな魔物でもベスティアと戦った時はかなりいい戦いをしていた。そんなシナツを一撃で倒してしまうチスイに勝てるのだろうかとアヒトは不安を抱く。


そんなアヒトの内心を感じとったのか、ベスティアがそっとアヒトの手を掴む。


「大丈夫。私は負けない」


「ティア……」


ベスティアの揺るがない強い瞳にアヒトの抱いた不安が消えていく。


「そうだな。すまない」


「んっ」


アヒトの言葉にベスティアはわずかに目を細めて微笑む。


「アリア! しばらくシナツとそこで休んでいてくれ! おれたちはおれたちで何とかしてみるよ」


アヒトはアリアに声を飛ばしてチスイに向き直った。


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