闇の中の記憶
バチッと木の幹が弾ける音が鳴った。
辺りは炎で埋め尽くされ、夜の色に染まる空をそれ以上の暗闇の煙で覆い尽くす。
いくつかの木々が炎の勢いに耐えられずに派手な音を奏でて倒れ、それが次の木へと炎を伝染させていく。
その中心にはまだ五歳にも満たないのではないかというほどの幼い少女が混乱と動揺で動けずにへたり込んでいる。
少女の近くには赤黒い液体が流れて来ており、同時に肉が焼けるような異臭が鼻腔を刺激する。
だがそれは決して豚や牛といった生物ではないのは、地面に倒れている二人の男女を見れば一目瞭然だった。
胃の中が逆流する感覚に襲われる。
「お、とう……さん? おか……さん……?」
絞り出すようにして紡がれた言葉。
目の前で赤い液体に浸かり、黒く燃え倒れているのは紛れもない少女の両親だった。
殺された。かけがえのない唯一無二の存在を奪われた。それだけは今の少女の頭でも理解できた。
そこに至るまでに何があったのかは少女は思い出すことができなかったが、そんなことはどうでも良くなるほどに、少女の視線は両親の亡骸の下に立つ一人の存在に注がれていた。
「はぁーめんどくせ」
黒いローブに身を包み、ヤギのような面を付けたそいつは場違いな言葉を口にし、少女の方へと振り向く。
「てめぇも一緒に死ぬか?」
面越しだというにもかかわらず、そいつは愉しそうに笑っているのが理解できた。