序章
「おばあちゃん...お願いだから、まだ死なないでよっ!!」
「命あるものはいつかは死ぬ、私にもその時が来たようだねぇ...。」
今にも潰えようとする命は、満面の笑みでぼくに微笑んだ。
ぼく、生沼祐樹は14歳、中学二年生、そして、もうすぐ天涯孤独の身となる。
兄弟はいなく、両親は交通事故で失った。9歳のころだった。
父方の祖父母はぼくが生まれる前に亡くなっているため、顔も知らない。
そのため、事故の後は唯一の肉親であった祖母の下に預けられた。
事故の直後は、子供ながらに自分の存在価値を見失いかけていた。
腫れ物に触るように接してくる先生、友達も一人もいなくなった。
それも当然だろう、周りなんか見えていなかったんだから。
学校に行っても知らない間に下校の時間になる。
誰の姿も見えず、話し声も聞こえない。
世界に一人しかいなくなったような感覚、周りには”トモダチ”がいるはずなのに。
そんななか、一人だけ自分のほかに人がいた。それがおばあちゃんだ。
何度も何度も話しかけてきて、最初はうざったかった。
どうせすぐにあんたもぼくのもとを離れていくんだろう...そう思っていた。
けれども、毎日毎日、おばあちゃんだけはぼくの目をみて話しかけてくれた。
周りはだれも僕の目を見て話してはくれない、多分かかわりあいたくないんだろう。
おばあちゃんの優しい目は、少しずつぼくの凍った心を溶かしていった。
それから、僕の目は、少しずつ、世界の色を取り戻していった。
学校でも、友達と会話することが増え、中学に上がるころには、どこにでもいる普通の中学生になった。
それから、おばあちゃんが病気がちになった。
無理もない、ぼくのために朝早くに起きてお弁当を用意してくれたり、休日にはぼくを喜ばせようといろんなところへ連れて行ってくれた。
若い体でも大変なことなのに、当時67歳だったおばあちゃんの体には、非常に負担がかかっていたのであろう。
でも、そんなことをぼくに感じさせないように、いつでも笑顔でいた。
ぼくの記憶の中で、おばあちゃんが笑っていなかったことなどほとんどなかった。
そして、死ぬ間際である今でも、笑っていた。
「おばあちゃんがいなくなったら、ぼくなんている価値がないよ...また、前のぼくにもどっちゃうよ...。」
「そんなことないさぁ、ゆうちゃんは強くなった、もう一人で生きていけるぐらいにねえ。」
弱弱しいその声は、今にも命が絶えようとしていることを残酷に表していた。
「ゆうちゃん、さいごにおばあちゃんからのお願いを聞いてもらってもいいかえ?」
「うん...なあに?」
おばあちゃんは、いつも以上ににっこりと笑い、最期のねがいを告げた。
「笑っておくれ、私はゆうちゃんの笑った顔が大好き...その顔を見ながら、天国に行くことができれば、なあんも後悔することなどありゃせんから...。」
「うん、ちょっと待っててね。」
もはや、声はほとんど聞こえない。それだけその時が迫っているのだろう。
おばあちゃんの最期の願いに応えるべく、ぼくは涙を拭き、そして・・・
思いっきり笑った、おばあちゃんと過ごした日々を思い出しながら。
辛かったこと、うれしかったこと、たのしかったこと、たのしかったこと、たのしかったこと.......
出そうになる涙を必死にこらえながら、おばあちゃんの旅立ちに花を添えるため、一生懸命笑った。
それにこたえるかのように、おばあちゃんも、思いっきり笑い返してくれた。
ぼくは時が止まった世界で、永遠に二人で微笑みあっているように思えた。
そしてこの瞬間がずっと続けばいい、と心の底から思った。
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<???>「うぅっ、泣かせる話じゃの… どうにかしてやりたいのじゃが… そうじゃ!!」