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銀の魔導外伝 魔人形  作者: 雪中 響
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6

「あと家には三人か……、そろそろラストスパートと行くか」

 フィッシュが二階に上がってきたシンヤの姿を、天井の蛍光灯にぶら下がりながら見下ろしていた。

 誰もいない部屋の中を除くシンヤめがけて、持っていたナイフを構えて飛び降りた。右肩に突き刺した。

「ぎえぇぇ……!」

 右肩に激痛を感じて顔を向けると肩にナイフが刺さっていて、それを手の平ぐらいの人形が笑いながらこちらを見ていた。

「ぎゃああ」

 痛みよりも恐怖で叫んだシンヤは、人形を振り払おうと左手を伸ばすとフィッシュがナイフを引き抜いて床に飛び降りる。

「キキキッ……」

 フィッシュの笑い声がシンヤを一層恐怖に駆り立てた。

「に、人形が動いとる……な、何やこれぇ」

 それだけでも映画や漫画の世界の出来事でしかないのに、笑い声を上げながらこちらに歩いてくる事に頭の中が混乱し、目の前の出来事が現実なのか理解したくても出来なかった。

 フィッシュがナイフで刺してこようと振りかぶると、シンヤは思わず蹴りを入れると、フィッシュは簡単に隣の部屋まで飛ばされてしまい、目の前の恐怖が消えたことでシンヤの呪縛が解けると急いで階段を駆け下りた。

 画鋲が足に刺さる痛みすら感じる暇もなく金切り声を上げて一階に降りるが、そこにはミエールが立っていた。

「キキッ」

 すかさずミエールがシンヤのアキレス腱を包丁で切り裂く。

 パンッとゴムが切れたような音で、居間にいたノブと戻ってきていたサユリが何事かと部屋から出てきた。

 階段の下まで来た二人が見たものは、倒れたシンヤに乗り掛かって刃物で何度も串刺しにしている二体の人形の姿だった。

「…………」

 キキキッと笑い声を上げながら、楽しそうに砂場で作った山を壊して遊ぶ子供のように、シンヤの上で飛び跳ねながら刃物を刺し込んでいた。

 何が行われているのか瞬時には理解できない二人は、一呼吸の間の後に声を荒げた。

「うわああああぁぁぁ」

「いやあああぁぁぁぁ」

 ノブとサユリが一目散に外へと飛び出していくと、フィッシュとミエールはピタリと手を止めて振り向き、二人が逃げていった方へと足を向けて動き出す。

「なんやあれは……」

「助けて怖いぃぃ」

 二人が外に出ると暗闇の中に人影があった、するとその人影の足元に明かりが灯された。

 積んだ薪に火を付けたのはシルクハットを被ったデビで、隣にはマルが立っていた。

「うわあああ」

「きゃあぁぁ」

 幽鬼のように立つマルに驚いた二人が後退りをしたが、それがマルであると認識すると、

「お前か! ぶっ殺したる……」

 相手が人間だと分かると、今まで溜まっていた鬱憤を晴らそうとノブが勇んでマルに詰め寄るが、いきなりその足が止まる。

 違和感、背中に何かが張り付いてるような重さを感じて振り返ると、サユリの驚愕した表情に自分の身に危険が迫っていることに気付く。

 もぞもぞと背中にある物が動いている……。

 悪寒が走り首を後ろに向けると、肩まで上ってきた物と目が合った。

「ぎゃああぁぁ」

「ですう」

 にっと笑ったバルの開いた口からは、ギザギザの歯がキラリと光ったと思った途端、ノブの頬に喰らいついてきた。

「いぎゃああぁ」

 バルを剥がそうと両手で掴むが、頬に食い込んだ歯は引っ張れば引っ張るほど肉に食い込む力が強くなり、メリメリと頭に響く音に恐怖した。

 それを見ていたサユリは血の気が引いて、震える体は完全に硬直してしまい、ノブを助けることなど到底出来ず、ただ悲鳴を上げるだけだった。

 そこに後ろからやって来たフィッシュ達がサユリに襲いかかる。

 両足の健を切断してサユリが地面に崩れ落ちると、フィッシュとミエールが馬乗りになって笑い合った。

「いやああああ、ノブゥゥ助けて」

 半狂乱するサユリの声もこの深い森の中で聞く者はこの場にいる者達だけで、無意味な悲鳴だった。

 サユリの声も今のノブには助けることが出来ない、自分に張り付いたバルの対応で手一杯だった。

「くそお離れろ!」

 ノブは渾身の力で、バルの首を締めて噛む力を緩めた所を一気に引き剥がして遠くに放り投げる。

 ノブの頬にはバルの歯型でぽっかりと空いた穴から血が吹き出ていたが、痛みより何よりも今は殺るか殺られるか……自分が殺される前にマルを殺ってやろうとする執念しかなかった。

「この化け物女ぁ……いてもうたるわ」

「さっさと帰らへんあんたらが悪いんや、この森に足を踏み込んだら出られんようになる、最後の忠告を聞き入れんかったあんたらは……もう帰られへん」

 マルは幽鬼のように突っ立ったまま、その目は冷徹にこの世から切り離されたような感情のない表情でノブを見つめ返していた。

「うるさいわ!」

 ノブがマルに飛び掛かる、するとデビがマルの前に立ち塞がり、持っていたステッキの筒を外して飛び掛かった。

 抜いたステッキの先はレイピアのように尖っていて、ノブの掴みかかろうとする右腕に突き刺した。

「痛えっ!」

 足を止めて手元に腕を戻したノブが、ステッキを刺したデビを振り払おうと腕を回すと、デビが勢いで地面に転がり落ちる。

「くそ人形が……」

 ノブは顔から流れ落ちた血が右半身を赤に染まり、その上右腕からも一筋の血が流れ出ていた。

 満身創痍、痛みでズキズキする顔は脈を打つごとに熱を持ち、感覚がなく朦朧としていた。

 それでも意識が途切れないのは、生死の堺の極限状態なのか興奮状態なのかノブの意識を保たせていた、一瞬でも気を抜き状況を理解すれば己の死が眼の前に迫ってきていることに恐怖しただろう、だがノブの目はマルを見据え何としても道連れにしてやろうと考えていた。

 起き上がったデビが再度ステッキを構えなおすと、ノブが突進してきてデビを思いっきり蹴り上げた。

 宙高く見上がったデビはマルの後ろの暗闇へと消えていくと、

「はぁはぁ……、ううっ」

 血が出過ぎてノブの足がガクガクと震えてよろめく、その顔は青ざめて視点が定まらなくなってきていた。

「マルがやばいな……、この女よりあっちが先だ、行くぞミエール」

「うん」

「ひいぃ、人形が喋った……」

 サユリを背乗りして押さえつけていたフィッシュとミエールは、バルとデビがいなくなったのを見てマルを守る者が居なくなったので加勢に走っていく。

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