ドラゴンとわかわもの 水
昔々のこと。
人と神とが親しかった時代のこと。
レーゲンと呼ばれる龍が生きていた頃の話。
まだレーゲンを愛するクヴェルという神がこの地を去らなかった頃の話です。
クヴェルとレーゲンは神と龍と呼ばれる別々の存在ではありましたがとても仲のいい夫婦でした。
妻であるレーゲンの仕事は地の熱により空に上ってしまう夫の半身である水を冷やし地上に雨として降らせることです。
ある時レーゲンは空にのぼる夫の体が多いことに気がつき地をみました。
火の神が荒ぶり地の神を溶かしています。
地の神の眷族である木々たちは無惨にも焼かれ、それを気まぐれな風の神が煽り地上はまるで地獄のよう。
どうやら水の神でありレーゲンの夫であるクヴェルはそれを止めたいようで身を削りレーゲンへ水を送ってきていたようです。
それにこたえレーゲンは夫の半身である水を冷やし雨として降らせ続けます。
そうして何日もたった頃ようやく火の神は落ち着きを取り戻し、地の神は眷族たちの犠牲を嘆きつつも逞しく元に戻ろうとしました。
風の神はやはり自由に世界を旅します。
そこで困ったのはレーゲンです。
夫が冷やし雨として降らせるために身を削った水たちは、レーゲンが抱えきれないほどの物で、レーゲンはそれを仕方なく地へと降らせます。
ですがそれを弱った地の神は受けとめられません。
地はどんどん水で溢れていきます
荒ぶる火神に田畑を焼かれ水の神の過ぎたる慈悲で困った人々は神に祈りを捧げます。
レーゲンはなんとか地に雨を降らせまいとします、ですがレーゲンの力は及ばず雨は降り続きました。
そこへ現れたのは火の神を荒ぶらせた魔女です。
魔女は元々知の神に仕えていた巫女でした。
知の神に読んではいけないといわれた禁忌の書を読み破門されて以来、神々に嫌がらせをしているのです。
この魔女には神々も頭を悩ませていましたが禁忌の書をよんだが故に、魔女は神々と同じ永遠を手にいれていたため神々でも魔女をどうにかすることはできませんでした。
いつものように悪巧みをした魔女は人にレーゲンを殺せば雨は止むだろうと言いました。
そんなことをしてはいけないと魔女の提案を最初は断った人々ですが、それからも続く雨に困り果てついにレーゲンを殺すという提案にのってしまいます。
魔女は言いました。
レーゲンを宴に招き酒を飲ませ酔わせたなら逆鱗へこのナイフを突き立てよと。
魔女のいう通りにした人々にレーゲンは殺され、雨は止みました。
これに怒った水の神クヴェルは魔女を己が身のうちに封じ込め、レーゲンを殺した人々を己の体で包み溺れさせてしまおうとします。
ですが思いとどまりました。
だってレーゲンは人を深く深く愛していたのです、もしも己が体に人を包み殺してしまったならレーゲンは死してなお悲しむことでしょう。
けれども怒りはおさまりません。
そこでこの地を離れることにしました。
そして己と同じ悲しみを人に知ってもらうため、レーゲンを殺した者たちの中から長の代わる度生け贄を差し出さなければ水を与えないと人々に宣言します。
レーゲンが悲しむからその生け贄も殺しはしません、自分の身の回りの世話をさせるだけです。
ただ人々には悲しんでもらわなければ困るので死んだことになるようにしました。
クヴェルの知らないところ空高く一つだけ雲がのこっています。
そこには薄い水色をした小さな卵が、その中でくるりくるりとまわる影。
クヴェルとレーゲンの子供、それに気がついたのは気まぐれな風の神とその眷族だけです。
そうして風の神は気まぐれに一つの書を作ると卵と一緒に何でも知っている知の神にもわからないように地上へ落としました。
これはそこから始まる物語です
「カーヌス何をやっている。」
「本を読んでいましたがなにか。」
またですか、なぜ無駄なことだと気がつかないのか。
「いつもそうだな。外へ水汲みにいこうことは思わんのか? 」
「私がやらなくともみながやるでしょう? 」
「汲みにいけばもっといい道具の案が浮かぶかもしれんぞ? もしかしたらあそこからここへ水を流し込めるかもしれんだろ。 」
「無理ですよ。」
そう無理でした。
人の手以外ではここに水を運ぶことは出来ないのです。
なんど試したことか。
「 確か次の贄は貴方の娘ですか。」
「知っているなら!!」
「無理ですよもう何度も試したのですから。」
そうなんども何度も試したのです、それでも叶わなかった。
泣こうが喚こうが贄を差し出さなければ汲みにいくことすら許されないのです。
「っもういい。」
「もういいなんていって明日も来るのでしょう?」
「いや、もう来ない。」
「そう。」
「あいつの涙で染みができてますね。にしても他人のうちで泣かないで下さいよ、家が汚れるじゃありませんか。」
はぁ、やっと帰ってくれましたね。
なんと面倒なことでしょうか…まぁ、水を汲みに行かないからなんですけど。
だけど構いすぎなんですよ、めんどくさい。
だったら汲みにいけといわれそうですが彼処には近づきたくはないのです。
さてまた本でも読みますか。
──神に愛されるそれが人の地へと下り人に心を許したなら、神の怒りに焼きつくされ乾いた土地は再び潤うだろう。
この文だけでほかは白紙ですね。
あとは石にリーナスといてあるだけですか。
この書も外れですね。
無駄に派手な装丁の書だからすこしは期待したのですが、はぁ。
──ガタン。
おっと、いつものように外れを引いただけなのに投げるなんて荒ぶりすぎましたね。
真ん中の石は行商人にうれば高く買ってもらえるでしょうし丁寧にあつかわねば。
「ん?」
書が光っている? もしかして魔法書でしたかね、へんな魔法が発動しなければいいのですが。
薄緑と薄青の光が飛び散ります。あお!? 青は水の色なのになぜ…。
そうして部屋中が薄青の光に包まれたとき私は気を失いました。
次に起きたとき目の前にいたのはよくわからない生物です。
薄青のつるつるとした蛇に餌を与え続け肥えさせたような体躯に、小さな手と足があり頭には鹿の角を青玉で作ったような角が生えています。
瞳は角や爪と同じ色で此方を賢いとは言えないぽけーとした顔で見つめています。
「…えーと。」
─きゅるるるる。
「ふむ、なにか食べますか? 」
話しかけなどしてなんになるのでしょう。っておもいっきり首を縦にふっていますね、言葉が分かるようです。
というかこの生物は何を食べるのでしょう?
「きゅーー。」
まさか肉食ではありませんよね?
とりあえず、肉から魚、野菜から果物までうちにあったものをひっぱり出してみましたがどうでしょう。
「きゅー? 」
「好きなものを食べなさい。」
「きゅ! 」
「まって、なぜ食器を!? あっ、食べ? 」
なんとなく皿とフォーク用意してたらまさかの食いやがりました。
というか、皿とフォーク噛み砕けるって…。
「きゅー? 」
「大丈夫ですか?」
「ぎゅーー。」
「…そら、不味いですよ。」
「ぎゅうぅ。」
おもっきり顔をしかめてますが自業自得ですね。
そして見た限り体調に変化なし…。
「ぎゅーー。」
「ほら、お前が食べるのはこっちです。」
疑わなくても今度は食べ物ですよ。
「きゅー。」
まず先に肉の方にいきましたね、やはり肉食でしょうか。
いや鉄も陶器も食いましたし雑食?
この生物、馬鹿みたいに大きくなったりしまそんよね? なったらどうしようもないのですが。
「…ぺっ。きゅーー!きゅ!!」
思いっきり吐き出しましたね。
そのあとくんくんと鼻を動かしています、ん? なにを見て。
「まって下さいなぜこちらにくるんですか! あっこら、これは私の昼食です。」
「きゅーきゅー!!はぐはぐ。」
無駄に素早い動きで私の肉を奪われました。
やられたらやり返すの精神ですかね。
皿をこちらに引き寄せてたのみて私が取られたくないと思ってることを察してそうです。
んで、分かったことは肉は肉でも焼いた肉が好きと…綺麗に無くなってしまいました。
「私の肉を返しなさい!」
「きゅー? 」
「きゅーじゃありませんよ。また昼食作るのがめんどくさい。」
「きゅー。」
次は野菜ですか、そうですか。
はっ!? これは野菜をこいつが気に入れば調理しなくてすむ!?
「きゅー!!」
こいつ心読めるんじゃないでしょうね?
私の肉が入っていた皿を前足でだしだしと叩いています。
つまりそういうことですか。えぇ、焼けばいいんでしょう毎日!!
あれ? これはいつの間にか私が飼う流れですか…いやこれを始末する方が労力はいりそうですよね。うーん。
そしていつの間にか野菜から果物に移ってますし。
気に入ったのですね、果物。
食べるペースが明らかに早いです。
「きゅぅ!」
「あなた、心読めるんじゃないでしょうね? 」
「きゅー? 」
謎の生き物相手になにやってるんでしょう。
というか、独り身の男が変な生物飼ってるって、いや気にしてはだめですね。
まだ日も上っていないのですがなんなんですかね、この生物。
「きゅー! きゅー。」
「わたしは寝ます。昼まで起こすな!」
言葉は分かってるみたいですしこれで…。
「きゅーー!!!!! 」
「てめぇ捨てんぞ。」
「…きゅ、きゅ。」
「そんな潤んだ瞳でみないで下さいよ、私が悪いみたいではないですか。」
「きゅいー。」
私の丸めた紙屑を持ってきましたね。
そして投げ捨てる。
なにをしたいのです? そしてまた拾う、投げ捨てる。
今度は私の方にもって来ました。
「つまりこれで遊びたいがためにわざわざ起こしやがったと。」
「きゅー!!」
パタパタと尻尾をふると紙屑が舞い散ります。
こいつ私の寝てる間に遊んだな。
「き、きゅー。」
「…駄目なこととは理解してるのですね。」
「きゅー!!」
ふふんと胸をはりやがりました。
「調子がよすぎますよ、お前。」
「きゅー。」
「そう言えば名前を決めてませんでしたね。」
「きゅー? 」
「分かりませんかね? 例えばわたしはカーヌスというのですが…。」
「…きゅ!」
パタパタと取ってきたのはあの魔法書です。
石がなくなってますね。
売れると思ったのですが、大方こいつが出てきたのが関係してるのでしょう魔法書であろうものの装飾ですしそういうこともありますか…。
「って魔法書は貴重なので丁寧に…叩くな!」
変な生物にかかれば貴重もなにもないということですかね。
バシバシと石のあった真ん中を叩いてます、そう言えば石にはリーナスと書かれていましたね。
「きゅ!! 」
「ねぇ、あなたやっぱり心読めるんじゃ…。」
「きゅー? 」
「とりあえずあなたはリーナスでいいんですね? 」
「きゅきゅー!! 」
「…。」