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牛若と霧原  作者: 浮雲
6/6

桜のトンネルと苺大福

霧原目線です。

 駅を降りると、花の香りが鼻孔に入り込んできた。さらりとしたこの香りは、おそらく梅だろう。

 高座渋谷の駅の周りは、人が行き交い賑わっていた。花見シーズンのせいか、子供連れが多い気がする。

「牛若、この道を真っ直ぐだっけ?」

 ああ、と頷く牛若を先頭にして、商店街を進んでいく。


 住宅街を抜け、坂を下ると橋が見えた。桜がある川はあそこだろう。千本桜と書かれた看板を右に曲がり、しばらく歩いていくと、それはあった。


 川の両側に生えている桜の木。覆いかぶさるようにして枝を伸ばしている。

 そう、これはまるでーー

「……桜のトンネル」

「そうだな」

 ふ、と牛若は笑った。

 桜が咲き誇り、ここだけ別世界みたいだ。

 行くぞ、というふうに牛若が顎を引く。



 はらはらと舞い散る花びらの中を進んでいく。

 いくら舗装された道とは言っても、木の根があちらこちらから出ていて、気をつけないと躓きそうだ。

「そこ、危ないぞ」

 牛若が足元に視線を送る。

「おう」

 一際大きい根をまたいでいく。

 ちらりと川の方に目をやると、鴨が二匹仲睦まじそうに泳いでいた。水面には花びらが浮かんでいる。

 木の下の緩やかな斜面には、レジャーシートを敷いて、お花見をしている家族連れやカップルがいた。楽しそうに写真撮影をしている。

 顔を上げると、枝の間から空が見えた。桜の桃色と青い空。見事な色彩だ。

「きれいだ」

 素直にそう思った。

「ああ」



 しばらく時間が経つのを忘れて、牛若と千本桜を眺めた。



 駅への帰り道、牛若がふと一つの店の前で足を止めた。

「美味しい和菓子屋ってここ?」

「ああ。少し高いが、味は保証する」

 月華堂と書かれた看板を見上げる。

 店の中に入ると、甘い香りに包まれた。カウンターのガラスケースには、美味しそうな和菓子が並べられている。隣に半生菓子の詰合せの籠が置いてあった。籠から金太郎がモチーフの菓子を取って、プレートに「夜桜」と書かれたものを頼む。

 会計を済ませ、牛若へと顔を向けた。

「全種類一つずつください」

「ーーっ! ちょ、お前、食べられる分だけ買えよ!」

「食べられる」

「嘘つけ!」

「……じゃあ、これを」



 ありがとうございましたーという店員の声を聞きながら、月華堂を出る。結局、苺大福とその他諸々合計五つも買いやがったこいつ。

 ほくほくと無表情なわりに嬉しそうな横顔だ。

 甘党だし、仕方ないか。

「……霧原」

「うん?」

「途中にコンビニに寄ってもいいか? 新作のプリンが今日発売するんだ」

「いいよ。そのかわり、一つ奢って」

「断る」

「なっ」

「冗談だ」

 くすりと牛若は笑った。

 こいつの冗談初めて聞いた。レア物だ。よほど機嫌がいいんだろう。

 牛若と話すたびに、新しい姿が発見する。こんなに面白いやつなのに、何で近づきたがらないんだろうなあ。

 まあ、今はまだ、俺だけが知っていればいいか。





 こいつのこの笑顔はまだみんなには秘密だ。





また、暫く間が開くと思います。

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