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牛若と霧原  作者: 浮雲
5/6

カレーライス2

前回の話の霧原目線です。

 玄関の扉を開けると、香辛料の香りがふわりと漂ってきた。

 靴を脱ぎ、リビングへと足を踏み入れる。

「ただいまー」

「ちょうどいいタイミングだ」

 妙に似合っているエプロン姿の牛若が鍋の中身を混ぜながら、視線だけをこちらに向ける。

「何がいいタイミングだって?」

 ふつふつと煮込まれている鍋をのぞき込むと、人参やジャガイモといった野菜が入っており、茶色の液体で満たされていた。

「カレーか」

「ああ」

「味見していい?」

 腕を伸ばすと、ペシリと叩かれた。

「先に手を洗ってこい」

「ちぇっ、わかりましたよ。お前はおかんか」

「どちらかというと、霧原の方がおかんっぽいぞ」

「そう?」



 再びリビングに舞い戻ってくると、キッチンテーブルの上に料理が並べられていた。

 牛若はエプロンを外し、椅子に腰かけた。鼻歌を歌いながら軽い足取りでテーブルに近づき、向かい側に腰を落とす。

「いただきます」

 ルーをご飯に絡ませ、ジャガイモと一緒に口へ運ぶ。ごろっと大きく、とても俺好みだ。ぴりっとしたスパイスが鼻孔へ抜ける。美味しい。

「カレーは甘口じゃないんだ?」

「辛いほうが美味いからな」

「甘党なくせに?」

「カレーは別物だ」

「ふうん」

 こいつの甘党の理論が未だによくわからないが、適当に相づちを打つ。

「……隠し味」

「え?」

「何だと思う?」

「そうだなあ……」

 いつも家で食べているのよりも、コクがある気がする。

「蜂蜜?」

「違う。チョコだ」

 なるほど。どおりで深みがあるわけだ。しかしチョコとは、なんとも牛若らしい。さすが、甘党。

 つい、笑みがこぼれる。

 半分ほど食べ、麦茶を流し込むとつられたのか牛若もコップを傾けた。

「……また牛乳? 合うの?」

「ああ」



 最後の一口をスプーンですくって、口へと入れる。

「おかわり」

 空になった皿をつき出す。

 ふっ、と牛若は苦笑した。

「よく食うな。太るぞ」

「だって、牛若の作ったカレー美味しいし」

「そうか」

 すると牛若は笑った。

 今まで見たことがない満面の笑みだ。


 ーーその顔は反則だ。


 不意打ちをくらった俺はつい下を向いた。先ほどまで、どちらかというと仏頂面だったのに。

 こいつ、こんな顔できたのかよ……。

 心から笑った牛若は、どことなく幼く見えた。今の牛若を女子が見たら、ギャップ萌しそうだ。普段無表情なやつが笑うと、こんなにもパンチ力があると思い知らされた。

 しかし、思ったよりも早くに見られたな……。

「……いつもその顔でいたらモテるのになあ」

 首を傾げられた。自分では気づいていないのか。おそらく無意識なのだろう。

 はあ、とため息をつく。

「早く、カレー」

 不思議そうに牛若は皿を受け取り、立ち上がった。

 黙々とカレーをよそる牛若の後ろ姿を眺めながらふと、思った。



 もしかして、こいつの笑顔を知っているのは俺だけ?



 そう思うと、優越感がこみ上げてきた。

 もっといろんな表情を見たい。俺に見せてほしい。

 牛若にとって自分が心を許せる存在になれたらいいな、と想いをはせた。





「……そうだ、霧原。明日桜を見に行かないか?近くに美味しい苺大福を売っている和菓子屋があるんだ」

 ルーをよそり、牛若が視線をこちらに走らせる。

「行きたい!朝一で行こう!」

 牛若は口元に笑みを浮かべ、そうしようと呟いた。





次回は二人が千本桜を見にでかけます。

少し、間があくかもしれません……。

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