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牛若と霧原  作者: 浮雲
4/6

カレーライス1

霧原がテスト勉強のために牛若の家におじゃました時の話です。

牛若が手料理を振る舞います。

牛若目線です。

 キッチンにリズムよく、心地よい音が響く。

 人参を少し大きめに切り、水が張ってある鍋に入れる。冷蔵庫を開けて、野菜室から玉ねぎを取り出し、まな板の上に置く。包丁を入れる直前まで冷やしておくと目にしみないらしい。皮を剥き、細く切っていく。徐々に目尻に涙がたまり、視界がぼやけてきた。何だ、意味がないじゃないか。次はもう少し長く入れておこう。

 ジャガイモを切り終え、菜箸がさせるようになるまでふたをしておく。その間、二合分の米をといで炊飯器にセットしておいた。

 再び冷蔵庫を開け、チルド室から特売の挽肉パックを取り出す。フライパンをコンロに置き、火をつけて油を引く。熱したフライパンに挽肉を入れると、いい香りが漂ってきた。まんべんなく火が通ったのを確認し、鍋に移し替える。

 ふたを開け、市販のルーを入れ、半分ほど溶けたところで戸棚からあるものを引っ張り出す。アルミホイルを剥き、一口分の大きさに折ってニ、三個放り込む。すべて溶けたのを確認して、ふたをし、保温の器具に入れる。



 これで準備万端だ。



 カレーを温め直していると、チャイムが鳴った。

 玄関の扉が開く音が聞こえる。霧原がリビングに入ってきた。

「ちょうどいいタイミングだ」

 霧原に視線を送る。

「何がいいタイミングだって?」

 ひょいと霧原が鍋の中をのぞき込む。カレーか、と呟き、手を伸ばしてきた。その手を叩くと唇を尖らせた。

「お前はおかんか」

「どちらかというと、霧原の方がおかんっぽいぞ」

 そう?と言い、洗面所に足を向けた。


 霧原が手を洗っている間、テーブルの上に二人分のカレーを置き、コップに飲み物を注ぐ。エプロンを外し、椅子に腰かけると霧原が戻ってきた。

 体の前で両手を合わせる。

「いただきます」

 人参を一つすくって口に入れる。スパイスが効いていて美味しい。硬さもちょうどいい。霧原をちらりと見ると、満足げに食べていた。こいつの好みに合わせて、大きめに切っておいてよかった。

「カレーは甘口じゃないんだ?」

 不思議そうに霧原が問う。

「辛いほうが美味いからな」

 甘党なくせに? と聞き返された。別に甘党だからってカレーまで甘いわけじゃない。むしろ、甘いカレーは嫌いだ。

「カレーは別物だ」

「ふうん」

 こいつには理解し難い話か。いつかわかってくれればいい。

 ところで、霧原は気づいているのだろうか。

「……隠し味」

「え?」

「何だと思う?」

「そうだなあ……蜂蜜?」

「違う。チョコだ」

 そう答えると、霧原は口の端を引き上げた。この言葉のどこにツボったのだろう。こいつの笑いのツボがよくわからない。

 カレーを半分ほど食べ、もう一度見るとまだにやにやしていた。

 とにかく楽しそうだからよしとしよう。


 牛乳を飲んでいると、霧原に怪訝そうな目を向けられた。あんぱんと同様に合うのに。

「おかわり」

 空の皿を差し出された。太るぞ、と苦笑する。

「だって、牛若の作ったカレー美味しいし」

 そうかと返したところ、なぜか下を向いて黙り込んだ。何か気に障るようなことを言っただろうか。よく見ると、耳がほんのり赤い。霧原は顔を上げ、いつもその顔でいたらモテるのになあ、と呟いた。

 どういうことだ? ため息をつかれた。解せぬ。


 皿にカレーを盛りつけ、明日桜を見に行こうと言ったら、霧原は嬉しそうに笑った。思わずこちらも口元が緩む。こいつはいつもこっちがつられて笑顔になる笑い方をする。霧原の長所だと思う。自分では気づいていないだろう。こいつの隣はとても居心地がいい。






 これからもそばで笑っていたい。






次回はこの話の霧原目線です。


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