お菓子と弁当
霧原目線です。
彼のおかんっぷりが発揮されます。
「……何食ってんの?」
昼休み、図書委員の仕事で遅れて屋上へ向かうと、牛若がお菓子を食べていた。柵によりかかり、あぐらをかいている。
「ポリッツ」
パッケージの箱には、シュガー&メープルと書いてある。新しい味だろう。
「朝、昼飯買おうとコンビニに寄ったら、新しく発売してた」
やっぱり、と内心思いつつ、隣に座る。しかし砂糖にメープルとは、さらに甘いもの足す必要ないんじゃないか。十分甘いだろ。
ポリポリと美味そうに咀嚼する牛若。
「……食べるか?」
牛若が差し出してきた。
一つ頷き、受け取って口に入れる。
さくさくとした食感と香ばしさがたまらない。……そんなにくどくないな。
「思ってたほど甘くないね」
牛若が頷く。そういえばこいつはもう昼飯は食べたのか?
「昼飯は?」
指さした先には、お菓子とあんぱん。
「……お前なぁ……」
呆れてものも言えない。はあ、とため息をつく。栄養バランス考えて食えっつうの。
「ったく。ほらよ」
ひょいと自分の弁当とあんぱんを交換する。じろりと牛若が睨んだ。
大丈夫。さすがに菓子は取り上げねえよ。
「たまにはいいだろ?」
彼の隣に腰を落とし、パンの袋を開けてかじりつく。
「……おかんみたいだな」
不満ですと書きなぐっている顔で、ぽつりと呟いた。
「そんなんばっか食ってるお前のせいだ」
「……牛乳はちゃんと毎日飲んでるぞ」
思わず声を張り上げる。
「毎日⁉……これ以上でかくならんでいい」
ふと、牛若を見上げる。
「今、何センチ?」
「百八十五」
「がたいもいいし、バスケ部とかに入ればいいのに」
「……小学生の時、バスケクラブに入っていた」
「へえ」
「だが、顔が怖すぎて味方がミスを連発してしまい、やめた。俺がいると勝負にならん」
「そ、それはご愁傷さま……」
「ところで……今日に限ってなぜ屋上なんだ?」
「春の麗らかな陽気の中、こうやって食事すんのもたまにはいいかなあと思って」
両手をあげ、伸びをすると柔らかな風が頬をなでた。
「よくない?」
牛若へ顔を向ける。
「ああ」
口調こそ淡々としているが、口元に浮かぶ笑みから満更でもないことがわかる。
こいつの笑ったとこ、初めて見た。
少しは心を開いてくれているようだ。最初会ったときなんかは表情筋が死んでて、ロボットみたいだったからなあ。これから地道に百面相にしてやろう。驚いた顔とか見てみたい。今度、ドッキリ仕掛けてみるか。
「……どんな風になるんだろう」
「何がだ?」
はっとする。口に出ていたらしい。
「なんでもないよ」
くすりと笑って、空を見上げる。
いつか牛若の満面の笑顔を見られる日が来るといいな。
次回は多分、一ヶ月か二ヶ月くらい間が空くかもしれません……。