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牛若と霧原  作者: 浮雲
2/6

甘党

もう一人の主人公、牛若が登場します。

牛若目線です。

 



「甘党」それは俺のためにある言葉。




 古今東西、日本中の甘いものを食べ尽すことが、人生の目標である俺、牛若龍平うしわかりゅうへいがこう呟くと、こんな台詞が返ってきた。

「その顔で?」

 机を挟んで目の前にいるクラスメイト、霧原翔きりはらかけるはありえないというような表情をした。

 聞き返したくなるのもわからないわけではない。自分は生まれつき目つきが悪く、中学校に上がって背が伸び、声変わりがおとずれてからは、ヤクザだ、殺し屋だ、と言われた。十七歳になった今も相変わらず、やのつく筋の者だという噂が絶えない。女子も男子も近づくことを恐れ、教師までもがビビる始末。おまけに俺は口数が少ない。このことも噂に拍車をかけている。好き好んで話しかけてくるやつは、霧原だけだ。前に、怖くないのか?と聞いたところ「まあ、確かに目つきは悪くて無愛想で無口なやつだけど、根はいいってことわかるしそれほど怖くない」だそうだ。

 そんな彼は今、俺の前で昼飯を食べている。手元にある弁当箱をちらりと見ると、おふくろの味を連想させるようなおかずばかり入っていた。

「……悪いか」

「いや、悪くはないけど、人は見かけによらないって本当なんだな」

 霧原は卵焼きを一つ箸でつまんで、ひょいと口へ入れた。美味しそうに口を動かす姿を見つめる。

「……お前も食う?」

 タコの形をしたウインナーを差し出してきた。

「ずいぶん懐かしいものを作ったな」

「かわいいだろ?こいつ」

「……これがあるからいらない」

 あんぱんにかじりつく。霧原はそっかと呟きウインナーを口に放り込んだ。それを見届けてから、牛乳瓶を傾け白い液体を流し込む。

「……あんぱんに牛乳って、お前刑事にでもなりたいの?」

「別に」

 刑事などにはなりたくないが、実際この組み合わせは意外に合う。昔の刑事ドラマでよく見かけるが、一体誰が考えついたのだろうか。ちなみに俺は粒あん派だ。

「牛若、甘いもの好きなら、蜂蜜と生クリームと水飴でも混ぜたやつ今度作ってやるよ」

 なめてもらっては困る。そんなの砂糖の塊を食べているのと同じだ。

「真の甘党はそんなもの食べない」

「真の甘党ってなんだよ」

「さあな、俺にもわからん」

「わかんないんだ」

 ふっ、と霧原は苦笑した。

 それにしても霧原はこういう料理が得意だよな。

「……和食、好きなのか?」

 霧原は、にまーと口角をあげた。

「ああ!毎日作ってる。両親ともに仕事してるから、家事はほとんど自分でやってるんだ。特に料理は母さんが下手でさあ、小学生の頃から作らされてたなぁ……」

「大変だな。嫌になったりしないのか?」

 霧原はかぶりを振った。

「全然。俺、料理するの好きだから」

 お前はなんか作ったりしないの?と問いかけられた。

「…………たまに、カレーを作る」

 ぽつりと呟く。

「何カレー⁉」

 すると、霧原が机の上に身を乗り出した。

「……普通のやつ」

 驚いて目を見開いていると、霧原は、はっとした表情をした。

「あ、ごめん。男で料理してるやつ、なかなかいなくて……。仲間に出会ったの初めてなんだ」

 少し目を伏せて椅子に腰かけた。

「そうなのか」



「そういえばさあ、牛若はもう、テスト勉強始めてんの?」

 いや、と首を横に振る。

「今度一緒に勉強しようぜ。牛若の家で」

「……構わないが、なぜ俺の家なんだ?」

「いいじゃん」

 開いていた窓から風が吹き込む。髪があおられるが、心地よい。

 机の上にひらりと花びらが落ちる。

「桜か、しばらく見に行ってないな……」

 霧原は窓の外を眺め、そう呟いた。



次回は霧原目線です。

屋上でお昼ご飯を食べる話です。

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