甘党
もう一人の主人公、牛若が登場します。
牛若目線です。
「甘党」それは俺のためにある言葉。
古今東西、日本中の甘いものを食べ尽すことが、人生の目標である俺、牛若龍平がこう呟くと、こんな台詞が返ってきた。
「その顔で?」
机を挟んで目の前にいるクラスメイト、霧原翔はありえないというような表情をした。
聞き返したくなるのもわからないわけではない。自分は生まれつき目つきが悪く、中学校に上がって背が伸び、声変わりがおとずれてからは、ヤクザだ、殺し屋だ、と言われた。十七歳になった今も相変わらず、やのつく筋の者だという噂が絶えない。女子も男子も近づくことを恐れ、教師までもがビビる始末。おまけに俺は口数が少ない。このことも噂に拍車をかけている。好き好んで話しかけてくるやつは、霧原だけだ。前に、怖くないのか?と聞いたところ「まあ、確かに目つきは悪くて無愛想で無口なやつだけど、根はいいってことわかるしそれほど怖くない」だそうだ。
そんな彼は今、俺の前で昼飯を食べている。手元にある弁当箱をちらりと見ると、おふくろの味を連想させるようなおかずばかり入っていた。
「……悪いか」
「いや、悪くはないけど、人は見かけによらないって本当なんだな」
霧原は卵焼きを一つ箸でつまんで、ひょいと口へ入れた。美味しそうに口を動かす姿を見つめる。
「……お前も食う?」
タコの形をしたウインナーを差し出してきた。
「ずいぶん懐かしいものを作ったな」
「かわいいだろ?こいつ」
「……これがあるからいらない」
あんぱんにかじりつく。霧原はそっかと呟きウインナーを口に放り込んだ。それを見届けてから、牛乳瓶を傾け白い液体を流し込む。
「……あんぱんに牛乳って、お前刑事にでもなりたいの?」
「別に」
刑事などにはなりたくないが、実際この組み合わせは意外に合う。昔の刑事ドラマでよく見かけるが、一体誰が考えついたのだろうか。ちなみに俺は粒あん派だ。
「牛若、甘いもの好きなら、蜂蜜と生クリームと水飴でも混ぜたやつ今度作ってやるよ」
なめてもらっては困る。そんなの砂糖の塊を食べているのと同じだ。
「真の甘党はそんなもの食べない」
「真の甘党ってなんだよ」
「さあな、俺にもわからん」
「わかんないんだ」
ふっ、と霧原は苦笑した。
それにしても霧原はこういう料理が得意だよな。
「……和食、好きなのか?」
霧原は、にまーと口角をあげた。
「ああ!毎日作ってる。両親ともに仕事してるから、家事はほとんど自分でやってるんだ。特に料理は母さんが下手でさあ、小学生の頃から作らされてたなぁ……」
「大変だな。嫌になったりしないのか?」
霧原は頭を振った。
「全然。俺、料理するの好きだから」
お前はなんか作ったりしないの?と問いかけられた。
「…………たまに、カレーを作る」
ぽつりと呟く。
「何カレー⁉」
すると、霧原が机の上に身を乗り出した。
「……普通のやつ」
驚いて目を見開いていると、霧原は、はっとした表情をした。
「あ、ごめん。男で料理してるやつ、なかなかいなくて……。仲間に出会ったの初めてなんだ」
少し目を伏せて椅子に腰かけた。
「そうなのか」
「そういえばさあ、牛若はもう、テスト勉強始めてんの?」
いや、と首を横に振る。
「今度一緒に勉強しようぜ。牛若の家で」
「……構わないが、なぜ俺の家なんだ?」
「いいじゃん」
開いていた窓から風が吹き込む。髪があおられるが、心地よい。
机の上にひらりと花びらが落ちる。
「桜か、しばらく見に行ってないな……」
霧原は窓の外を眺め、そう呟いた。
次回は霧原目線です。
屋上でお昼ご飯を食べる話です。




