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プロローグ

お久しぶりです。連載物です。よろしくお願いします。


 「―女の子はね、みんな宝石なの…」


 それが祖母の口癖だった。


 幼かった私を膝に乗せ、母親曰く祖父譲りなのだと言う、ゆるく波打つ黒髪を、祖母は慈しむように、皺だらけの手でそっと撫でる。お気に入りの水色のリボンがほどけてしまわぬように、優しく髪を撫でる右手はとても心地よく、幼い私の体を支える左手も優しくて暖かい。


 その時、ふと、祖母の左手の薬指を飾る銀色の指輪が目に入った。祖母の洗礼名に合わせて祖父から贈られたという、黒いスピネルの宝石がついた結婚指輪。その濡れているような艶やかな輝きに、『あぁ、なんて綺麗なのだろう』と子どもながらに溜息をついた。


 私が祖母の宝石に見惚れていることに気づいてか気づかずか、頭の上から優しい声が降ってくる。


 「宝石は、そのままでも綺麗だけど、好きな人と愛し合うことで、きらきらと輝くのよ」

 

 「好きな人?」


 私はその言葉の意味が分からず、祖母を見上げ首を傾げた。


 あの頃の私は、両親や兄への家族愛も、お気に入りのウサギのぬいぐるみへの独占欲も、全て『好き』という一言だけで片付けていた。それほどまでに幼かった私に、男と女の性の自覚も伴う恋というものが分かるはずがなかった。


 疑問に思う私の様子がおかしかったのか、皺だらけの顔で祖母はクスクスと笑った。


 「あなただけの運命の人のことよ」


 祖母は優しく『私にとっての運命の人は、あなたのおじいちゃんで、お母さんの運命の人は、あなたのお父さんだったのよ』と言った。その笑顔はまるで少女のようで、私はとても驚いたのを今でも覚えている。


 「私も、運命の人に会えるかなぁ?」


 「もちろん、あなたも宝石なんだから」


 まるでスピネルのようなその黒い瞳が優しく、それでいて力強く輝き、


 「あなたは、洗礼名どおり、アメジストの宝石よ。そのままでも綺麗だけど、きっといつか、運命の人と愛し合えたらもっと輝ける」


 孫のことであるのに、まるで自分のことのように嬉しそうだった祖母。彼女はその未来が目に浮かぶと言わんばかりに幸せそうな笑顔を私に向けている。


 『私の可愛い宝石ちゃん』と歌うように囁き、今度は右手で私の体を支え、しわくちゃの左手で頬を撫でる。


 変わらず視界に入る指輪の黒いスピネルは、一層艶やかに輝きを増して、再び綺麗だと思った。


 けれど、艶やかに輝く宝石よりも、皺だらけの祖母の笑顔の方が、眩しいくらいに輝いていた―


お読み頂きありがとうございました。

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