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後編


 夏休み直前の暑い日、彼は私に現実を突きつけた。それはある簡単な質問から始まった。


「中村は猫派?犬派?」


「随分と突然ね。どちらかといえば、犬かな」


 私は犬も猫も好きだけれど、なんというか同族嫌悪のようなもので、いまいち猫を好きになりきれない。だから、どちらかといえば犬、なのだ。


「お、気が合うな!俺も犬派!」


 妙にテンションが高い彼はポケットからスマートフォンを取り出して私に画面を見るように言った。

 画面の中には茶色の毛をもつ可愛らしいトイプードルが写っていた。


「可愛いだろ、俺のコロネ!」


「……コロネ?」


「この子犬の名前だよ。実はコロネのお母さんが妊娠したときから譲ってもらう約束しててさ。やっと昨日、親戚から譲ってもらったんだ」


 中嶋くんはいつになくはしゃいだ様子で私もなんだか嬉しくなった。けれど、彼の次の言葉に一気に沈むことになる。


「この丸くてぱっちりとした目が特に可愛いんだよ!それにさ、コロネって名前を呼ぶとすぐに飛んでくるんだ。すごく素直で可愛くてさ!」


 丸くてぱっちりとした目、素直で可愛い。そのどちらも私にとっては正反対の特徴で。

 嫌だ、そんなの。聞きたくない。目をつぶり、下を向いた。


「なあ、中村も可愛いと思うだろ?」


 頭が真っ白になった。


「私は、思わない。私、トイプードル好きじゃないから」


 え。私、今なんて言った?


 慌てて視線を彼に戻して否定しようとしたが、できなかった。

 彼の笑顔は崩れていた。

 けれども彼は怒ることなく悲しそうな顔で、ごめんな、と一言だけ告げて自分の席に戻っていったのだった。

 私は謝ることができなかった。


 夜になっても後悔で眠れなかった。何であんな嘘ついたんだろう、きっと中嶋くんは傷ついた。明日になったら絶対謝ろうって。

 そして次の日の朝、登校してきた彼に駆け寄った。


「あ、あの。……嘘ついて、ごめん」


「嘘?」


「コロネ!……可愛いと、思う」


 そう言うと彼はいつもの笑顔で笑ってくれた。何で嘘をついたのか聞いてこなかったのは彼の優しさだと思う。

 彼は何も聞かずにありがとう、と言ってくれた。私は、耐えられなくなった。


「……ごめん」


「何で謝るの?」


「何でって、何もかも。普段から……素直に言えなくて困らせてる、から」


「そんなこと気にすることじゃないだろ」


 それは予想外の返しだった。

 昨日の事は水に流すとして、と前置きした彼は次のように言った。


「まずひとつ、俺はお前とそういうやり取りをしたくて話してる。だから中村が気にすることはない。そしてもうひとつ、この対応の仕方に変わって、実はすごく嬉しい」


「え?」


「だって、前よりは仲良くなれたって事だよな?その前は無難な答えしか返してくれなかったんだから」


 そう言って私の大好きな笑顔を向けてくれたのだ。





 そういえば中嶋くん、今日は朝から何をしに来たんだろう。結局、宿題を忘れた私をからかっただけという彼らしくない謎の行動をしていたけど。

 彼の後ろ姿を目で追うと、彼の席の周りの女の子達と笑顔でお喋りをしているのが見えた。全く、何のために来たのよ、ほんと。

 私が彼を睨み付けるように観察していると後ろから背中をつつかれた。


「直ちゃん、先生来ちゃうよ?」


「あっ、しまった!」


 観察している場合ではなかった。今はまず、宿題を終わらせなくてはいけない。

 再三教えてくれた真紀ちゃんに感謝。あとで彼女が好きなミカンゼリーを進呈しようと心に決めて、シャープペンシルを握りしめた。


 そんなこんなで私は無事、一限が始まる前に宿題を終わらせることに成功したのだった。


 そして昼休み、私は三階の東側にある教室から一階の西側にある食堂へダッシュしてミカンゼリーをゲットした。

 このミカンゼリーは両手にちょうど収まるサイズで中には果実も入っている美味しいやつだ。食堂は私たちの教室から遠いけれど、ミカンゼリーのためならば廊下の寒さも我慢だ!

 もちろんこのミカンゼリーは、プリントを写させてもらったお礼に真紀ちゃんに献上する。


「ほんとありがとう!助かった!」


「間に合ってよかったね。困ったときはお互い様だから、私に何かあった時に助けてくれればいいよ」


 菩薩さまのような笑顔を浮かべながら、これは貰うけどね、と利き手でがっしりとミカンゼリーをつかんだ真紀ちゃんをみて少し笑ってしまった。


「ところで、直ちゃん。直ちゃんは次の授業、どこに行くつもりなの?」


「え、なんのこと?」


「もう、直ちゃんってば、先週の美術の授業、先生の話聞いてなかったんでしょ」


 美術という単語が出てやっと理解出来た。毎週火曜日の五、六限は美術の授業があるのだ。

 そして今回の課題は学校から見える景色。好きな景色を描くためならば、授業中は校内の好きなところへ行っていいと先週の授業の最後に先生が仰っていたのだ。


「やだなぁ、聞いてたよ!ちょっと忘れてただけ、です。そうだ、真紀ちゃんはもう決めたの?」


 真紀ちゃんのことだからまだ決まっていなくて、直ちゃんについていくよと言われると思っていたが予想とは違って彼女は頷いた。


「え、どこいくの?誰かと一緒?」


「うん、あのね。大川くんと約束してるの。校舎の一番西側の窓から見える景色を描こうって」


 大川くんは真紀ちゃんの彼氏だ。私がまともに話せる数少ない男子のうちの一人でもある。

 彼は隣のクラスだが、美術の授業は合同なので一緒に行動するのは可能だった。


「そっか、デートか」


「うん、デート」


 照れたように笑う真紀ちゃんを見ていたらこちらまで幸せな気分に……なっている場合ではない。

 私、どうしよう。デートというものに縁がなくて思いつきもしなかった。デートを邪魔するわけにはいかないし、まさかのぼっちか。うーん、寂しいのは嫌だな。


「幸村!大川が来てるぞ!」


 中嶋くんの声だ。ドアの側の席の彼は、よくこうして人を呼んでいる。すぐに真紀ちゃんは連れてきてー!と返した。


「え、行かなくていいの?」


「だって廊下寒いし、それに」


 中嶋くんもこっちに来てくれるかもよ、と言って笑った真紀ちゃん。見ると、真紀ちゃんが言ったとおりに中嶋くんが大川くんと連れ立ってこちらに来るのが見えた。


「真紀ちゃん、感謝。またミカンゼリー奢る」


「ミカンジュースをつけてくれてもいいのよ?」


 仰せのままに、と答えた私は間違っていないと思う。


「こんにちは、真紀、中村さん」


「そういえば、中村は宿題間に合った?」


「……もう。中嶋くん、またその話?」


 なんか彼らしくないな、と思いながら彼を少しにらむとその笑顔がこわばった。え、私が悪いの?


「中村さん、宿題忘れたの?」


 そう聞いてくる大川くんに慌てて答えを返した。


「わ、忘れたけど、間に合ったの。真紀ちゃんに見せてもらったから」


「流石、俺の真紀。優しいね」


そう言った大川くんはなんというか、女装が似合いそうな可愛らしい容姿をしている。けれど、性格はわりと男前で真紀のことを最大限に甘やかすのが好き、らしい。


「ていうか、……中嶋くんは授業中に私の名前が呼ばれてないの気がつかなかったの?」


 宿題を忘れた人は授業の最後に名前を呼ばれるのだ。今日呼ばれたのは男子が二人だけだったと覚えている。


「聞いてたよ。わざとに決まってるじゃん」


 あっけらかんといい放った中嶋くんに怒りすらわいてこなかった。だって今日の彼、何かおかしい。


「それより大川くん、私に何か用事?」


「用事って、可愛い彼女の顔を見に来るのに理由が必要?」


 真紀ちゃんの質問に、首をかしげた大川くん。私も全力で賛成です。


「はーい、いらないと思う!」


「ちょっもう、直ちゃん!」


 いやあ、怒った真紀ちゃんも可愛い。もちろん、強かな真紀ちゃんも好きだけれど。やっぱり、彼氏の前だとより可愛らしい。私では引き出せない魅力で、少し悔しい。

 真紀ちゃんは彼氏にも可愛いと言われたのが恥ずかしかったのか少しむきになっていた。


「もう、私そんな可愛くないから!」


「何言ってるの、真紀は可愛いよ。ねえ、中村さん」


「そうだよ、大川くんの言うとおり。可愛いは正義なんだから!」


 真紀ちゃんは私が普段言う可愛いをスルーする傾向にあるのでこう言うときにいっぱい言って置かないとね。

 私が力一杯肯定したからか調子にのった様子の大川くんは中嶋くんに話をふった。


「尚、お前もそう思うだろ?」


 やだな、と思ってしまった。中嶋くんが真紀ちゃんのことを可愛いといったら羨ましいというレベルではなく、大事な親友を妬んでしまうと思った。


「可愛いに決まってるでしょ。ねぇ、中嶋くん?」


 私は明らかな嫉妬の感情に無理やり蓋をして大川くんに同調した。けれど、彼は。


「え、何?」


 と返してきた。


「話、聞いてなかったの?」


「ごめん、親から連絡来ててさ。スマホ見てた」


 意外な答えに拍子抜けしてしまう。大川くんも苦笑していた。

 中嶋くんはそんな私達を気にせずまたスマホをいじりだした。何をしてるんだろう?


「ねぇ、中嶋くん。直ちゃんは私なんかよりも可愛いよね」


 中嶋くんの動向に気を取られて油断していたら、真紀ちゃんによる逆襲が始まった。

 でもね、知ってますよ。私は可愛くない。ここで彼に期待する方が間違ってる。だって前にも立証されたし。

 そりゃあ直接否定されたら傷つくけど、と思いつつ中嶋くんの方を見ると彼はゆっくりと目線をスマートフォンの画面からこちらへ移した。


「可愛い」


 え?


「いつ見ても、可愛い」


 意外なフレーズを発する声が聞こえた。耳に心地よい彼の声が。


「いま、なんて……」


「だから、可愛いって言ってんの」


「え」


 可愛いという言葉に思考が停止した私は、ぽかんと口を開けて中嶋くんの顔を見つめることしかできなかった。そんな私の顔を見て彼はふっと笑った。けれど気のせいだろうか、その笑みは僅かに強ばって見えた。

 そして中嶋くんは、スマートフォンの画面をこちらに向けて……え、スマホ?


「可愛いだろ、俺のコロネ。いつ見ても本当に可愛い!」


「え?」


「え、ってコロネだよ。ほら見ろよ、この可愛さ!」


 彼がこちらに向けている画面の中には茶色でふわふわした毛をもつトイプードルがいた。そう、彼の愛犬のコロネだ。

 あの日以来、初めての登場である。


「この丸いぱっちりとした目とか、ほんと可愛いよな!」


 中嶋くんは呆然としている私の様子なんか微塵も気にすることなく、画面の中のコロネを愛でていた。


 ああそう、期待した私が馬鹿だった。やっぱり私が可愛いわけじゃなかったんだ。

 頭が真っ白になった。


「中嶋くんのばか!」


 叫んでしまった声の大きさに我ながら驚き、慌てて回りを見回したが、昼休みのクラスメイト達のお喋りは意外と大きな声で、私の声をかきけしてくれたみたいだった。


「もう。尚ってば、また話聞いてなかったんだ?今のは尚が悪いと思うよ」


 呆れた様子の大川くんがそう言い出してくれなければ、場は凍りついてしまっていただろう。全く学習できていない自分がすごく嫌になった。


「えっと、中村ごめん」


「……いや、あの。こっちこそ……大きい声出しちゃって」


先が続かない。素直にならなきゃ。


「……ごめん」


「いや、気にしてないから、大丈夫」


 そんな感じにぎこちなくやり取りをした。やっぱり今日の中嶋くん、おかしい。いつもの彼なら友達が話している途中にスマートフォンをいじることなんてしないし、あの日以来私の前ではコロネの話を出すことを一切しなかった。それなのに唐突に、である。明らかにおかしい。

 けれど、何が原因なのか全く見当もつかない私は、何もすることができず。中嶋くんは何かを考えているようすで黙りこんでいるし、何故か大川くんまで黙っていた。

 そんな私達を見かねたのか、真紀ちゃんが話題を提供してくれた。


「直ちゃん。この後行く場所、結局決めたの?」


 しかも、私が忘れ去っていた話だ。真紀ちゃんナイスフォロー!


「えっと、まだ決まってない。でも、ぼっちは避けたいな。だからと言って、デートの邪魔はしないから安心して!」


 だからと言って、真紀ちゃん達の邪魔はしたくない。実に困った話だ。


「え、中村はぼっちなの?」


 ちょ、中嶋くん。その色々と誤解されそうな言い方は止めて。しかも妙に真顔なせいで余計に恐いよ。


「べ、別に友達がいないわけじゃないの。……約束し忘れてただけだし」


 他の友達も、こういうときに限ってみんな先約が入っていたりするのだから仕方ない。別に友達がいないわけじゃないんだからね!ここ、大事!

 そういう中嶋くんはどうなのよって聞きたいけど、どうせもう約束はあるんだろう、と考えると勇気がでない……。


「中嶋くんはどうなの?もうだれかと約束した?」


 真紀ちゃん、私が気になっていたことをよくぞ聞いてくれた!どきどきしながら彼の答えを待つ。


「俺?俺はもちろん」


 も、もちろん……?


「ぼっちだ!」


 なーんだ、やっぱりぼっちかー。


「え、ぼっち?」


「そう。中村とお揃い」


 驚きのあまり目を見開いてしまった。


「え、意外すぎる!もう誰かしらと約束してるのかと思った」


 素直な言葉が出た。だって、中嶋くんのことだから部活の仲間とか友達とか仲いい人いっぱいいるだろうし、とっくに決まっていると思っていたのだ。


「いや、ずっと誘えなくて当日になっちゃったってだけで……」


「ん、何て?」


 すぐに聞き返したが結局はぐらかされてしまった。だって、ぶつぶつ言うから聞こえなかったんだもん。もう一回言ってくれないかなあと黙って待っていると、彼はこれまた意外すぎる言葉を発した。


「中村、一緒に()かない?」


「えっ、いいの?」


 そんなことがあり得るのか。びっくりしたけど、嬉しい。まさか誘ってくれるとは思わなかった。


「よかったね、直ちゃん」


 うん、真紀ちゃん。すべてはあなたのお陰です!お礼にミカンジュースも奢るね!




 そして現在、私はスケッチブックと筆記用具達と共に廊下を歩いていた。その後、どこで描くかを決める前にチャイムがなってしまったけれど、中嶋くんは行く場所を決めていたようで、ついてきて欲しいと言われたからだ。

 私は特に決めていたわけではないからそのままついていく。それ自体は問題ないのだけれど。


「……ねぇ、どこまで行くの?」


「もう少しだから、ついてきて」


 私の問いに曖昧に答えた彼は足を止めることなく進む。このまま行ったら一階につくからどこにしたって寒い場所な気がする。とりあえず、少し抗議しておくことにした。


「ついては行くけど、さ。……寒くない場所がいい」


 そんなことを言っても彼は止まらずに進む。背筋がぴんと伸びた姿は格好よかった。

 それにしても、どこへ行くつもりなんだろう。彼は階段をひたすら下りていく。この先には西側の玄関しかないのだけれど。


「あ、まさか」


「ここだよ」


 彼が立ち止まった所は案の定下足箱の前だった。


「え、ここなの?……寒いじゃない」


 今は冬だ。それなりに古いうちの学校の校舎はただでさえすきま風がひどい。それなのに玄関だなんて、これでは屋外とあまり変わらない。


「もう、なんでここ?」


 不機嫌を隠せずに文句を言ってみたが、彼は外をじっと見て答えなかった。


「ねぇ、……他のところ行かない?」


 二人きりなのは嬉しいが心臓に良くない。しかも返事を返してくれないなんて、余計に心臓に良くない!


「もう、返事してよ!」


 一人で話しかけることへの恥ずかしさが勝り、彼へと背を向けた。こんな事、拗ねた子供みたいな真似、するつもりなかったのに。全部、不器用な自分の性格と中嶋くんのせいだ。

 下唇をきゅっと噛んで下を向く、すると真後ろで声が聞こえた。


(なお)、こっち向いて」


 中嶋くんの声。おずおずと振り返ると、一歩あるくだけで顔と顔が触れてしまいそうな位置に彼がいた。


「かわいい」


 え?


「いつ見ても可愛い」


 声が聞こえた。耳に心地よい彼の声が。しかも、ついさっき聞いたのと同じ台詞が。


「い、いま、なんて……」


「だから、可愛いって言ってんの」


 可愛いという言葉に思考が停止した私は、ぽかんと口を開けて中嶋くんの顔を見つめていることしかできなかった。そんな私の顔が間抜けに見えたのか、彼はふっと笑った。そして、この前と同じようにスマートフォンの画面をこちらに向けてくる。


「……どうせ、コロネのことでしょう!?もうその手には引っ掛からないんだから!」


 彼の目を見て言いきってから画面を見るとそこにはなにも写っていなかった。


「え?」


 そう、何も。画面は真っ暗だったのだ。


「……中嶋くん、画面暗いよ?スリープモードになってる」


「いや、これでいいんだよ。ちゃんと映ってるだろ」


 ほら、と言ってこちらの顔ギリギリに画面を近づけてくる彼を不思議に思いながらも覗き込むとそこには、画面をよく見ようと眉間にシワを寄せた変な顔をした私がいた。


「え」


 画像が写っているわけではない。真っ暗な画面が鏡の代わりをして、私の顔を映し出していたのだ。


「わ、たし?」


「そう。直のことを言ってる」


 彼は私の目を見て真剣な顔をして言った。

 何が起こってるの?


「う、う……そ」


「嘘じゃないよ。ずっと可愛いって思ってた」


心臓がどくどくと音を立てる。


「だって、その。……素直なのが好き、なんでしょ?」


「え、そんな事言ったっけ?」


「だって、コロネのこと!」


「ああ!あの時のことか。普通に懐いてくれるのが可愛いって話」


ああそうか、過剰に反応して悩んだ私が馬鹿だったのか。

私が頭を抱えたくなっていると私をじっと見た彼はニヤッと笑って言った。


「それに、なかなか懐いてくれない直も猫みたいで可愛かったし」


「い、犬派なんじゃないの!?」


「どっちも好きだよ?」


悪気ゼロな顔でにっこりと笑われた。またその顔、出会った時と同じ顔で笑わないでよ。私ばっかり顔が赤くなるじゃない。


「……そんなの、知らない」


「さっきだって、本当は()のこと可愛いって言いたかったんだ。だけどつい、はぐらかしちゃって」


恥ずかしくなっちゃってさ、と言って顔を赤く染めている彼を見ていたら少し落ち着いた。彼は本気で気持ちをぶつけてくれているのだ。


「直、好きだよ。付き合ってください」


「……ほんとうに、私でいいの?こんな、……素直じゃない私で」


泣きそうになりながらそういった私の頭を撫でた彼はふっと笑った。


「まだ言ってんの?直だから、いいんじゃん」


彼がそう言うのならそうなのだろう。妙に納得した気持ちで私は彼にもたれかかった。

少し驚いた様子の彼はぎこちなく腕を背中にまわして私を引き寄せた。暖かい温度が冷えた空気を包んで、癒していく。今ならちょっとだけ、素直になれるかもしれない。


「私も、あなたのことが好き」


「……本当か?」


 不安げに訪ねてくる彼の顔を見上げてこくりと一つ、はっきりと頷いた。


「そっか。よかった、本当によかった……!」


 震えた声が冷たい空気に溶けていく。そのうち彼の家に遊びに行こう。そしてコロネに会うのだ。きっともう、ヤキモチはやかないですむから。彼の腕に抱かれてそんなことを考えていた。

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