現実逃避とかしたいんだよ
あれから1年の月日が流れた………………………………いや、嘘です。
実際はまだ1日しか経っていない。
泣き止んだ俺が望むままに、ヒキガエル似の男は色々と教えてくれた。
この世界では魔力というものが存在しており、魔力の量によって階級が決まる世界らしい。
男の身分階級は侯爵。王族を抜かすと、上から2番目の位に居るそうだ。
で、俺は何だって言うと、魔力は使用すると減ってしまう。基本的に魔力の回復には十分な食事と睡眠が必要なのだが、俺(愛し子)は自身の魔力を他者に分け与えることができ、あまつさえ王族を軽く凌ぐ魔力の量を保有している…………………………らしい。
元居た、地球という世界の概念に縛られているせいなのか、俺自身には魔力なんて全く理解出来ないのだが。
で、魔力の譲渡は、相手に触れなければ出来ないそうで、早く補充したかったからぺろぺろしたのだと、真顔で伝えられた。
そして本当は粘膜同士の接触が1番効率が良いのだと言われ血の気が引いた。
ぺろぺろでも不快なのに、それ以上のことをせねばならないのかと、俺はまた泣いた。
ヒキガエル似の男……………改めバラモス氏は、さすがにそれは緊急時以外にはしないからと、宥めてくれたが緊急時にはするんだろ?
ぺろぺろされたのですら不快なのに、ベロチューとか絶対に無理。
舌を噛みきってやるからな、オエッ………。
そんな話を長々としている内に夜が明けたらしく、バラモス氏は仕事があると言って部屋から出ていった。
現在俺はかなり広い部屋の中に居る。
扉は外から鍵が掛かっており、こちらからは開けられない。
愛し子ってのは稀少種らしく、高値で取引されるため、悪い奴等に連れ去られたら大変だから、安全のために外から施錠しているんだと説明されたが、嘘くさい。
ただ単に、俺に逃亡されない様にしているだけだろうな。きっと。
この部屋には続き部屋があり、もうひと部屋には浴室と、トイレが併設されている。
ご飯は部屋の壁にある小窓から、この家のメイドさんから1日3食差し入れられる。さすがは侯爵家。ご飯はとっても美味い。
俺が欲しいと言ったものは直ぐに用意されるし、本当に至れり尽くせりな状況だ。
うーん。これでぺろぺろが無かったら、最高なんだけどな。
ずっと部屋の中で過ごさねばならないため、俺が自主的に出来ることはかなり少ない。
何冊か差し入れてもらった本を読んでいると、部屋の外から子供特有のはしゃぎ声が聞こえて来る。
少し気になって窓に近付き外を見ると、そこには美しく整備された大きな庭園が拡がって居た。
「おおっ…………。色とりどりの花が咲き乱れていて綺麗だなー」
そしてその庭園の中央には巨大な噴水が設置されており、キラキラと太陽の光を反射させながら上空へと水を噴き上げていた。
はあっ………こんな大きい噴水がいち個人宅にあるって…………バラモス氏はどんだけ金持ちなんだよ。
って、ああ確か侯爵だって言ってたっけ?
なら頷ける、か?悪どいことをして民から金を巻き上げちゃいないだろうな?
まぁ、顔はともかく心根はそこまで腐っちゃいないと思うが。(失礼)
「きゃははははははっ!待て待てぇ~~~」
俺が若干失礼な事を考えていると、俺の視界を元気に横切る少年が居た。
さっき聞いたはしゃぎ声の主であろう少年は、物凄い笑顔で使用人らしき少年の後を追い掛けている。
その顔は完全にバラモス氏と似通っており、間違いなくバラモス氏の息子だと確信できる。
ここまでそっくりだと、浮気とかは絶対に疑われないので、バラモス氏の奥様の正妻の地位は安泰だな。
そう、バラモス氏は俺をぺろぺろしていたにも関わらず、既婚者だったのだ。
しかも愛人とかもいらっしゃる様です。
この世界では魔力 =正義 の図式らしく、犯罪行為以外は大抵目こぼしされる、らしい。
その代わり身分が高い人が犯罪を犯すと即刻極刑(市中を引き回した上、広場にて民の前で罪状を読み上げられたのち、首を落とされる)そしてその一族はもろとも国から放逐されるそうです。
怖っ………………。何か色々ミックスされてるけど、想像しただけで、胃がシクシク痛む位怖ろしい罰やな。
悪いことはしては駄目ですよってことなのだろうが、それを抜きにしても怖しい。
まぁ、現在この部屋から出られない俺には、全くもって関係無いことなんですがね。
ははっ。