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足をぺろぺろされてるんだよ

 



「はいオーケーです。受理されました。では異世界にて新たなる生活を適当に謳歌エンジョイして下さいグッドラック」


 あれ?おい、めっちゃ棒読みな感じの変な単語が聞こえたぞ。異世界とか何とか。


「ちょ、ま、待てっ……………………えぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 突然立っていた地面が消失し、俺は垂直に自由落下した。

 そして直ぐに落下途中で意識を手放した。






 ***





 ぺろぺろ………


「うっ……………」


 うん?なんだろうか。足がくすぐったい。


 ぺろぺろぺろ………


「ひゃうっ…………」


 変な声が出た。でも、誰の声だ?俺のじゃないぞ。


 ぺろぺろぺろぺろ…………


「んくっ………………」


 し、しつけえな。くすぐったいから止めてくれや。


 俺の足を何かにぺろぺろと舐められてる。

 って、いやいや、ちょっと待て。俺の足を舐めるって……………一体全体誰特だよ。


 うっすらと目を開けてみる。


 しかし視界は薄暗闇に覆われていて何も見えない。


 そして未だに続くぺろぺろ………………不快だ。


 俺はぺろぺろから逃げるために、両足を力強く左右に振った。


 バキッ…………。


「ぎひぃっ!!!」


 すると俺の足が何かにクリーンヒットした。そして小さく上がる野太い悲鳴。


 えっ?何だ今の。男の声じゃ無かったか?

 って事は、俺の足を今まで舐めてたのは……………………考えたくないが男かよっ!!


 いや、俺的には女性に舐められていたとしても、ちょっと微妙だったのだが、ましてやそれが男だったと思うと、ゾッとする。


 両腕に寒イボが、ゾワゾワ~っと立ってしまい、必死に擦る。


 と、身体全体に違和感を感じる。

 擦っていた腕から、胸、腹、腰、足の順番で触る。




 へっ??? 俺、これ、まっじゃね?

 は、はあっ!?な、何で?どーして?


 慌てた俺は手探りで周辺を捜索する。何か無いか?服とか服とか服とかぁ………。

 カサカサコソコソ…………一心不乱に探っていると、不意に布らしき物に、手が触れる。


 おお、服だろうか?


 触って感触を確かめる。うーん。残念ながら服では無さそうで、どうやらシーツか何かだろう。

 まぁ、フルティンよりは幾分マシだろうと、適当に身体に巻き付けておく。


「うっ……………ぐぐっ…………痛いのぉ………」

「ひいっ…………!!!」


 布を巻いて一息付いていたら、背後からくぐもった男の声が聞こえてくる。


 ああっ!さっき蹴り倒した男……………忘れてた。


「光あれっ!」


 男がそう言うと、薄暗かった部屋が突然明るくなった。


「…………うあっ!眩しっ……………………」


 ぎゃぁぁぁぁ…………目がぁー目がぁー!!!


 俺は両目を押さえながら踞った。

 薄暗い中から突然昼間の様な明るさになったんだから、そりゃあこうなるわな。


 ひとしきり痛みをやり過ごしたのち、そおっと目を開けると、眼前に仁王立ちしている男が居た。


「…………………ワシの可愛い愛し子よ。教えておくれ。何故なにゆえワシを蹴り飛ばしたのだ?」


 相手が静かに怒っているのは、分かるのだが、俺はこの時まったく全然違うことに気をとられていた。



 そう、それはこの男の顔面だ。

 あれに似てる……………。えーっと………ああ、そうそうカエルだ。ヒキガエル。


 顔面がぺしゃんこに潰れている。気持ち悪い…………と、言うよりは面白いかな。

 だがこのヒキガエル面の男に、自分の足をぺろぺろされていたかと思うとやはり気色悪いな。

 まぁ、面がこんなんじゃなくても、男に舐められていたと思うと気色悪いんだけどな。


 それにしても………やっぱコイツは知らない奴だし、ここは知らない場所だな。うん。


「………………………ワシの問いが聞こえておらなんだか愛し子よ?」


 あっ。そうだ忘れてた。

 何故なにゆえ蹴ったのかだったっけ?

 いや、正直不快だったからだけど。

 それをそのまま伝えて良いものか。


「…………ん。何でぺろぺろした、の?」


 あー。やっぱこの声、俺のじゃないな。元の俺よりも倍は声高い。凄く違和感を感じる。

 違和感を感じつつ、カエル男に理由を聞く。


「………何故なにゆえ 舐めたか…………。それはな、愛し子の魔力マナが濃いゆえ、ワシの魔力マナを回復させるために行ったのだよ」


 うん?またもや訳のわからない単語が出てきたな。

 魔力マナって何だ。愛し子って俺のことか?そんでもってその魔力マナとやらの回復手段が、ぺろぺろとな?



 …………………………………………………うん、意味が分からん。



「…………ぺろぺろするの、嫌。気持ち悪………いえ、く、くすぐったいから?」



 おっと。ヤバい本音が出るところだった。

 さすがに気持ち悪いから、舐めんなやオッサン! なんて面と向かって言えない。

 相手の気持ちを慮り過ぎる日本人気質が憎い。


「ウム………ワシも愛し子の願いはなるべく叶えてやりたいのだが、それは無理なのだ。そなたはそのためにワシの元に居るのだからな」


 おいぃぃぃぃ!?

 悪びれもせず、止める気は無いと言い放ったぞコイツ。じゃあ俺はこれからもコイツにぺろぺろされ続ける運命なのか?


 あの死神男めぇ…………。異世界を謳歌エンジョイして下さいって、何この変態的な世界?

 ここで謳歌エンジョイってまさかこのぺろぺろ生活を謳歌エンジョイしろってこと?アイツ………真性の変態だったのかよぉっ!


「ううっ……………ぐすっ…………ぐすぐす…………」

「おお、泣くでない、泣くでないぞ。今日はもう終わりだ。そなたの好きなものを沢山プレゼントするから泣き止んでおくれ」


 俺は今後の自分の救いの無さそうな状況に、悲しくなってしまい自然と涙が頬を伝う。

 そして悲しいかな、ヒキガエル似の男はそこまで悪い奴じゃないみたいだ。

 でも今後はもうぺろぺろされたくないな。



 俺は泣きながらも、内心はどうしたものかと思案していたのであった。




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