表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/19

他視点なんだよ

視点が別の人物です。あしからず。

 



「兄ちゃーん…………お腹空いたよぉ」

「ああ、じゃあ飯にするか。確かショボイモがまだいくつかあったから、ショボイモのスープだな」

「ええっ?またショボイモ?」

「ああ、まぁお前が嫌そうな顔をするのわかる。ショボイモはその名の通り、味も量もショボイ。だが現在の我が家の収入では、これが限界なのだ。我慢しろ」

「…………………うん。じゃあ僕、井戸から水を汲んでくる」


 弟のロッツは悲しそうに小さく頷くと、桶を持って家の近くにある井戸へと向かった。


 俺はスープの下拵えをするため、ショボイモの芽をナイフの刃先で適当に抉ると、板の上で細かく刻む。

 後はロッツが汲んできた水を鍋で沸騰させたら、そこにショボイモをぶちこみ塩で味を整えれば完成だ。


 ちなみにショボイモを細かく刻むのにも訳がある。こうするとショボイモは少し水分を吸って膨らむので、腹持ちが良くなるのだ。


 平民の知恵ってやつだ。



「兄ちゃん!水汲んできたよ」

「おお、ありがとうなロッツ!」


 バタバタと走りながら桶をつき出すロッツに、礼を言いながら頭を撫でてやる。


「へへっ」


 ロッツは嬉しそうに微笑むと、そのまま軋む椅子に座り、行儀よくスープが出来上がるのを待っている。




「ほら、スープが出来たぞ」


 出来上がったショボイモスープを、ロッツの前に置くと余程腹を空かせていたのだろう、木皿に顔を突っ込む勢いでガツガツと食べ始める。


「はぐっ………はぐはぐはぐんぐ…………」

「おいおい、もう少し落ち着いて食えよ」


 注意しつつ、仕方がないか……とも思う。ロッツはまだ10歳の食べ盛りだ。

 直ぐに空になったロッツの木皿に、おかわりをよそうと、鍋を持って隣室へと向かう。


 コンコン。


 小さくノックをすると、中から「はいどうぞ」と声が返って来たので、ゆっくりと扉を開ける。

 隣室のベッドの上には蒼白い顔で寝ている母、シャドリが居た。


「母さん、またショボイモのスープで悪いんだけど、ご飯だよ」


 母さんはベッドの上で上半身を起こすと、悲しそうな表情で俺と、俺が持ってきた鍋を交互に見やる。


「リケルメ………私の身体が弱いせいで、貴方にばかり苦労をかけてしまってご免なさいね」

「そんなっ!母さんが悪い訳じゃないよ。悪いのはアイツだろ?俺たちを棄てたあの男………………」

「まぁ!お父様のことをその様に言っては駄目よ」


 母さんは恨んでは居ないのだろうか?あの最低な男を。

 貴族であることを理由に使用人であった母へ手を出し、俺とロッツをもうけた癖に正妻にそのことが露見すると、躊躇いもなく俺たちを棄てたゲス野郎のことを。


 母さんは優しく諭すように俺に言うが、その気持ちを俺は理解することができないで居た。




 ***




 ロッツと昼飯の後片付けをしていると、バタバタと走る足音が聞こえてくる。


「ん?何だ?」


 と、呟いた瞬間我が家の入り口の扉が、ドバーーーンと大きな音を立てて勢いよく開け放たれた。


「リケルメッ!!リケルメェェェ!!!」


 ノックもせず突然現れた珍入者は、幼馴染みの1人であるダグであった。


「た、た、た、大変なんだよっ!リケルメ!」

「おいおい、そんなに慌ててどうした?」

「ギ、ギ、ギアンがっ!!」


 ギアン…………ああ、あいつ。また何かトラブルでも起こしたか。

 ギアンは俺とダグのもう1人の幼馴染みで、毎度毎度何かしらの騒ぎを起こすトラブルメーカーでもあった。

 何度あいつの尻拭いをさせられただろうか………と、一瞬遠い目をしてしまったのは致し方がないことである。


「はあっ………。で?そのギアンがどうかしたか?果実屋で積まれているリンゴでもちょろまかしたのか?それとも肉屋の店先に吊るしてある干し肉でも……………」

「そんなことじゃ無いっ!本気でヤバイんだよぉっ!」

「……………?」


 ん?ダグの様子がいつもと違って本気で余裕が無さそうだ。

 俺は茶化すのは止めて、目でダグに続きを話せと促す。


「………ギアンが貴族の邸に、金目の物を盗みに行っちまったんだよっ!ああっ!ど、どうしよぉぉぉぉ!!!」


 ダグが本気で困った様に叫んだのだが、俺はその言葉を直ぐには信じられず、ダグに聞き返した。


「は、はあっ!?貴族の邸に盗みに、だと?嘘だろ?そんなのバレたらただじゃ済まない上に、間違いなく高確率でバレるぞ?」

「………っ。お、俺だって止めたさ!危なすぎるって!だが、ギアンは俺の言うことじゃ聞きやがらねぇ!だからリケルメに止めてもらおうと呼びに来たんだ!」

「チッ…………あのバカは、何を考えて居るんだ!?」


 俺が苛立ちを隠そうともせず、悪態を付くと言い出しづらそうにダグが小さな声で呟いた。


「……………………………ギアンの妹のレリィ居るだろ?」

「あ?ああ………居るな。だがそれがどうした?」

「そのレリィが突発性の魔力(マナ)枯渇病になっちまったらしくってな………その進行を食い止めるためには魔力石(マナストーン)が必要なんだが、それには金が必要なんだよ。俺たち何かが見たことの無い程の金が、な」


 くそっ………また金か。


 貧民窟スラムで暮らす俺たちには、耳の痛い話だ。

 俺たちはその日暮らしていくだけでも精一杯だ。医者にかかる金なんか無い。

 だから弱い奴からどんどん死んで行った。

 これ以上仲間が死ぬのはごめんだ。


「ダグ!ギアンはどこの貴族の邸に盗みに入りに向かった?」

「えっ?ええっと………た、確かゲロッグ侯爵の邸だったと思うけど」

「ゲ、ゲロッグ侯爵!?」


 よりにもよって侯爵家かよっ!?

 バレたらギアンだけの死罪じゃ済まない。一族もろとも、首と胴がおさらばだ。

 しかも貧民窟(スラム)出身者だから、親族情報の精査とかせず、この辺に住む奴等が片っ端から引っ捕らえられ処刑………………とかもあり得そうだぞ。


「チッ……。ダグ!!あのバカを連れ戻しに行くぞ!!」

「あ、ああ!もちろんだ!」


 俺とダグは急ぎゲロッグ侯爵邸へと向かったのであった。



ギアンは前話のギアンと、同一人物です。

あ、注釈せんでもわかるよって?ですよねー。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ