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小さな奇跡

作者: 準々

 毎日毎日、同じことの繰り返し。

 大学のためにこちらに上京してそのまま就職。だからこちらでの暮らしは約5年ほど。高校生の時はこんなくだらない毎日を送るだなんて全く思ってなくて、ただただ田舎の退屈さに息を詰まらせていて、都会での生活はあこがれだった。

 でもそれは違った。田舎でも都会でも、結局同じ毎日に息を詰まらせて、今ではすべてが灰色になって見える。

 今日だってそう。歩道橋、大きな荷物を持ったおばあさんが目の前を歩いている。やっぱりおばあさんだからなのかヨタヨタ、フラフラ。僕は急いでいるというのに、目の前のおばあさんにイライライライラ。

 毎日ここで足止めしてくるおばあさん。僕は思わず手が出そうになる。

 会社につけば、先輩の怒鳴り声。

 「これ違うだろ!」「やり直して来い!」「話にならない!」

 そんな言葉を何回も聞いた。

 僕だって、わざとやっているわけじゃない。というより、真剣に仕事に向かっているつもりなのだ。それでも、先輩の言葉は厳しくて、思いっきり叫んでやりたい気持ちになる。

 

 あぁ、つらい。つらい。


 家に着き、ヨタヨタ、フラフラ、件のおばあさんみたいに体を揺さぶりながらベッドの前まで歩くと、僕はそのまま倒れこんだ。

 (そういえば、風呂入ってないな。歯も磨かなきゃ。服だって着替えなきゃ。)

 そういった思考は働くのに瞼はだんだん重くなる。

 そしてそれは、夢と現実の境目、意識の途切れ目に突然なりだした。

 聞き覚えのある電子音。電話の音。

 「こんな時に……」

 僕は思わずぼやいてしまう。それでも体は自然にそちらに向いて、僕は受話器を上げた。

 「もしもし、タクヤ?」

 母さんの声だった。

 「最近どう?元気にしてる?」

 「なんだよ、急に。」

 僕の声音には少しイライラが混じってて、でも母さんは優しい声音で答えてくれる。

 「なんでもいいでしょ。心配してるんだよ。」

 「大丈夫。」

 「会社はどう?うまくやってる。」

 「うん、うまくやってる。」

 「つらくない?」

 「うん……」

 それから、母さんはとりとめのない話をして、時々、僕の心配を挟んできて。そうして最後に、

 「いつでもこっちに帰っておいで。」

 そう、いった。

 気が付けばで涙頬がぬれていて。僕はそれを服の袖でふき取ってから、

 「そうする。」

 と答えた。

 


 目覚まし時計の激しい音。僕はすこし晴れやかな気分で目を覚ます。

 いつもよりすこしだけ早起きで、僕はいろんなことに余裕を持てる。

 食事を少し豪勢に、電車だって二、三本早いものに乗った。そして、

 「あの……」

 目の前には大荷物のおばあさん。僕は一呼吸おいてから言ってみた。

 「それ、持ちましょうか?」

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