憂慮
空は暗く肌寒い風が背中をなでる。
「少し遅くなったか」
時刻は8時をとうに超えていた。
一縷との約束ではすぐに帰るから先に帰ってくれ。
と言ったもののどれだけ手伝いに慣れていてもこのくらいは時間がかかるらしい。
それにしても、教室での会話。
あそこまで真剣な表情で話をするなんて転校生一人対してなんだというのか。
謎がさらに深まる。
べつに自分には関係のないことだと言ってしまえばそれまでのことだろう。
何も気にせずに日常を過ごせばいい。
だがなぜだろうそれで終わりにしてはいけない気がする。
胸に引っかかる何かかがあるのだ。
「まぁ探すだなんだと言ってみたものの」
自ら進んで、しかも格好良く宣言したはいいが今日はもう遅い。
それに家では一縷を待たせている。
「帰るか」
胸に引っかかるものが何か分からないまま家路につくのだった。
「ただいま」
ドアを開ける。
一縷が立っていた。
仁王立ちしていた。
鬼のような形相の妹がいた。
「た、ただいま」
「・・・・・・」
返事がない。
やばいこれはやばい。
「ねぇ、お兄ちゃん。言ったよね?」
声が低い普段の一縷とは別人のようだ。
「な、何をだ?」
「そう、分からないんだ」
「いや、そのわるい、もちろん分かっている」
くそなんて言うのが正解なんだ。
分からない、だがもしも自分が逆の立場だったなら...
「心配させて悪かった」
一縷の表情が和らぐ。
「ほんとだよもう、お兄ちゃん。すごく心配したんだから、携帯に連絡したのに返事もないし、なにかあったらって」
すぐに確認する。
そこには一縷からの連絡の通知があった。
心配してくれていたんだな。
「わるかった一縷、次はもっと早く帰ってくるから」
頭を撫ででやる。
落ち着いたようで呼吸も一定になる。
「うん、許してあげるよ、お兄ちゃんじゃあご飯食べよっか!」
「ああ、正直なところもう腹が減って仕方がなかったんだ。先生が手伝いの後に転校生の話なんかす...あ」
一縷がリビングへ向けていた足が止まる。背中から迸るプレッシャー。
「ふーんそうなんだ私の連絡を無視してまで、してたお話が転校生についてふーん」
「いや違うんだ、これには深い訳が―――」
「もう本当に知らない!お兄ちゃんのご飯はなし!」
いかにも怒っています。
というオーラをにじませながら部屋へと向かう一縷。今夜の夕食は本当にないらしい。
こうなってしまったのも全ては転校生のせいだ。
そうして矛先を転校生へと向けなければ自分の気持ちは収まらないだろう。
だが、何はともあれ、明日になったらまずは一縷に謝ることにしようと心に強く刻むのであった。