習志野事件【5】
「ほほう。名案だ。じゃ早速官邸に君の姉を派遣してくれ。」
「では私はここで。失礼しました。」
大臣執務室のドアが開き、閉じた。
「神崎補佐官?」
「はい、部長。どうかなさいましたか?」
「いいやー。大臣が君を(部長)会議でかなり褒めていたが、あの人がそんなことを言うなんて珍しくてね。」
「あなたが人の噂に関心を持ち過ぎるのは珍しくないみたいですね」
「いやー、そんなわけじゃなくてね」
「じゃあ何なんですか?仕事が有るので失礼します。」
「また革命旅団…」
日本版nsaの飯沼は二冊の報告書を読んだ。一つは防衛省謹製の二十五頁のもの、もう一つのは第一空挺部隊、特殊作戦群共作の八頁のもの。彼女にとっては八頁のものの方が重要だった。だからと言って防衛省謹製レポートがゴミな訳ではなく、法律とか基地外での軍事行動の意義とかが詰まった、其れなりに優秀な官僚が書いた素晴らしいものだった。
特殊作戦群の報告書の中には極めて重要な一段落があった。
"人が消えた"
正確には逃げてしまった、と言う事。実は以前にもこのような事案が発生していたのだ。
五年前の雨の日、革命旅団による前防衛大臣狙撃未遂事件が起こった。未遂で止めたのは、彼女がテロを察知し、厳重な警備網を敷かせたからだ。特殊作戦群が狙撃地点の部屋に突入した時にはライフルしかなかった。雲隠れしてしまったのだ。
その後の電子調査により、"顎鬚"という人物が実行犯と分かった。 五年間探していた証拠が出て来たかも知れない。そう淡い期待を浮かべた。
「…しかし今回のテロは自衛隊も悪い。この左翼化した世の中で急激に右翼化するからだよ。」
出る杭は銃で撃たれちゃう。いやでもそんな奴らも一部だ。
現在の自衛隊は反政府派、親政府派、中対派に別れている。
因みに中対派は両方に批判的な意見を持っている。特に不穏な動きを見せていない。
問題は反政府派と親政府派だ。代表である特殊作戦群は怪しい。クーデターを起こすとの話だ。まあしかしこれだけ噂が流れていれば行動出来ないだろう。
親政府派は主に官僚であり、こぞって自衛隊の予算を削っている。あの飛龍防衛大臣もそうだ。
結局"全くクズ同士でやってろ"というのが彼女の感想だった