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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第六部 絶界の山脈篇
64/117

063 天井

 竜人ヴァイスから迷宮ダンジョンに現れた“魔人”の話を聞いた俺たちは、即座に西の街イオへと戻った。

 昨晩の事件の余波なのか、西の街イオの街中は非常に慌ただしい。

 昨日は姿のなかったロアールの軍隊らしき姿も見受けられ、街ゆく人たちも何事が起こっているのかと、路地で情報を交換しあっている。


 俺たち五人は支度を調え、完全武装した上で竜の狩り場へ至る迷宮ダンジョンへ転移した。

 竜人ヴァイスが言うには、魔人と思われる敵は、迷宮ダンジョンから外には出ていない。


 思えば昨日、竜の狩り場へ至る迷宮ダンジョンの出口は、一部分が崩れていた。

 あれはつまり俺たちが迷宮ダンジョンの中で、“魔人”と行き違ったことを意味していたのだ。

「よく出くわさなかったものだ」

 竜人ヴァイスが言った言葉が思い出される。

 だが、昨日俺たちが迷宮ダンジョンで魔人と出くわさなかったことが、十三人もの冒険者の命が奪われた遠因えんいんになっているのだとしたら、少なからず複雑な思いもある。


 竜人ヴァイスは、魔人の討伐隊を組織しようとしていることを教えてくれた。その上で俺たちにどうするのかを尋ねてきた。それはつまり、俺たちには敢えて魔人と対決せずに、転移門への道を急ぐという選択肢があるということを意味していた。

 だが、俺は即座に魔人を追う選択肢を選んだ。

 竜人ヴァイスの意思は判りきっている。俺たちと魔人を闘わせたくなかったら、そもそも首都サリータへ呼び戻したりはしないだろう。もちろん、俺の中には亡くなった十三人への複雑な思いもある。

 だが、それよりも俺はその魔人が“誰であるのか”を、しっかり確認しておかなければならない。

 恐らくそれは、グレイスとシルヴィアも同じ思いのはずだ。


「――旦那、過去に魔人と闘ったことは?」

 迷宮ダンジョンに入る直前、ロベルトが尋ねてくる。

「ある。ロベルトはあるのか?」

 そう聞くと、ロベルトはニヤリと笑いながら言った。

「もちろん、ありますよ。ただし、戦績は二勝二敗です。

 負けたときは、尻尾を切られ、腕を折られて逃げ出したこともあります。まあ、それだけ派手に負けてもこうして生きているんですから、何とでもなります。

 奴らを無理矢理倒そうとしても、勝てない時は勝てません。なので、引き際だけは間違えないようにしましょうね」

 ロベルトは槍を軽く持ち上げて、俺に笑いかける。

 それは、絶対に魔人を倒さなければならないという気負いを、緩やかにほぐそうとしてくれているようだった。

 ロベルトはこう見えても蜥蜴リザードの英雄だ。きっと俺の想像を超える、数々の修羅場をくぐり抜けて来たに違いない。若干お笑い体質なところはあるが、こういう時には頼もしい仲間だ。


 俺は全員に付与エンチャントを掛けると、出発を告げた。

 隊列はロベルトを先頭に、セレスティア、俺、シルヴィア、グレイスの順にする。

「昨日とは別の道を行きますんで、敵が増える可能性があると思います。ご注意を」

 ロベルトはそう告げながら、迷宮ダンジョンへと降りていった。


 入り口を入って、昨日複数の冒険者たちとすれ違ったところに到達する。

 だが、そこには一人の冒険者の姿もない。それが、昨日とは事情が違うということを、いやおうでも教えてくれる。

 俺たちは無言のまま階層を下り、分かれ道に到達した。今回は、突き当たりに幻影魔法が仕掛けられた左の通路ではなく、扉の見える右の通路を選択する。

 ここから先は、昨日辿った道とは完全に別の道だ。それが、全員の警戒心を少しずつ高めていく。

「――この通路の先にある扉を開けたところは、広間になっています。

 魔物モンスターがいることが多いので、今日も恐らくいるでしょう」

 ロベルトの話を聞いて、セレスティアとロベルトが隊列を入れ替えた。

「罠はありません。ただ、魔物モンスターと闘っている間に魔人が現れるかもしれませんので、気をつけましょう」

 ロベルトの言葉にセレスティアが頷くと、彼女は扉に手を掛けゆっくりと中へと入っていった。


「――骸骨スケルトンだ」

 一足先に広間に入っていたセレスティアが言う。俺はその言葉に合わせて、彼女の視線の先を凝視した。

 そこには、合計一〇匹ほどの骸骨スケルトンが見える。

「一匹だけ骸骨弓兵スケルトンアーチャーがいる。光の結界オルターを張るから、シルヴィアは俺の側を離れないでくれ。グレイス、骸骨弓兵スケルトンアーチャーを先にやるんだ。

 敵のレベルがそこそこ高いから、油断するなよ」

 全員が俺の指示にうなずく。


 それから間もなく広間の中を進んで行くセレスティアに、骸骨スケルトンの中の一匹が気づいたようだ。そこから連鎖リンクするように、一〇匹全てがセレスティアを攻撃対象ターゲットとして認識する。

 瞬間、セレスティアは盾を構えて骸骨スケルトンの群れの中へと駆け込んでいった。

 ――戦闘開始だ。

「さあ、こっちへ来い!!」

 セレスティアの声と共に、部屋全体を覆うような気合いの波が伝搬する。

 かなり後方にいる骸骨弓兵スケルトンアーチャーも含めて、セレスティアを攻撃対象ターゲットにしたように見えた。

 だが――距離が遠い。やはり光の結界オルターで身を守っておいた方が無難そうだ。

 俺が光の結界オルターを発動すると、遠くにいる骸骨弓兵スケルトンアーチャーがそれに気づいたようだった。弓の向きが即座に俺の方へと変わり、直後に結構な勢いの矢が飛んでくる。もちろん矢は、光の結界に当たって焼き消えた。

 見ると骸骨弓兵スケルトンアーチャーだけでなく、もう一匹骸骨戦士スケルトンウォーリアが俺の方へと走り出している。一対一なら負けることもない相手だが、俺が動くとシルヴィアが光の結界オルターの範囲から出てしまう可能性がある。シルヴィアが狙い撃たれては意味がない。

「一匹来るぞ。ロベルト頼む!」

「任せてくだせえ!」

 呼びかけに応じて、ロベルトは俺に向かってくる骸骨戦士スケルトンウォーリアを遮って対峙した。

 ロベルトは骸骨戦士スケルトンウォーリアが繰り出す剣を難なく避け、蝕の短槍イクリプスを思い切って横凪ぎに払う。骸骨戦士スケルトンウォーリアはそれを盾で受け止めようとしたが、その勢いに完全に盾を弾かれた。

 盾を弾かれ、一瞬無防備になった骸骨戦士スケルトンウォーリアへ向けて、ロベルトが一気に突進を掛ける。ロベルトの突進突きチャージスパイクが背骨の部分に決まると、骸骨戦士スケルトンウォーリアはバラバラに崩れて動かなくなった。

「ロベルト、後は俺がやる。セレスの方を頼む」

 時間が経つと、バラバラになった骸骨戦士スケルトンウォーリアが復活してきそうな雰囲気がある。何しろ、骸骨戦士スケルトンウォーリアのHPはゼロになっていない。強い衝撃を受けて、単に骨格が纏まらなくなっただけだろう。


 見ると、セレスティアは八匹もの骸骨スケルトンに囲まれている。彼女は重装騎士タンカーの高位アビリティである守護砦フォートレスを発動し、青く輝いて見えた。

 守護砦フォートレスは全方向から迫り来る攻撃の速度を、自分に触れる直前に極端に遅くするアビリティだ。使うと大幅に防御力を上げることができる反面、発動中は一切魔法が使えず、その場から移動することもできない。

「シルヴィア、状態異常デバフを頼む。セレスは巻き込んでも抵抗レジストするからいいが、ロベルトには当てるなよ」

「了解」

 指示を受けて、シルヴィアがセレスティアに群がる骸骨スケルトンたちに状態異常デバフを掛けていく。遅延スロウ筋力低下ウィークネス防御力低下クラッシュ魔法防御低下レジストダウン――それぞれを順番に掛け終わった時に、前方の方からガシャンという派手な音が響いてきた。

 それは、グレイスが骸骨弓兵スケルトンアーチャー不意打ちバックスタブを決めた音だ。

 グレイスは腕の骨格を斬り崩して、弓矢を最初に封じていた。骸骨弓兵スケルトンアーチャーはもう一方の手にナイフを握りなおしたが、追撃の炎弾フレイムボールを喰らって消滅する。戦士ウォーリアに比べて弓兵アーチャーはHPが少ない。わずか二撃の攻撃で、憑代よりしろを晒していた。


 俺は先ほどバラバラに崩れた骸骨戦士スケルトンウォーリア光刃ライトエッジで消滅させると、シルヴィアと共にセレスティアの側に近寄った。

 あとは、数が多いとは言え、無防備に背中を見せた骸骨戦士スケルトンウォーリアだけだ。

 セレスティアが攻撃対象ターゲットを引きつけ攻撃を防いでいる間に、全員が手分けして骸骨戦士スケルトンウォーリアを始末していく。特に火力が高いシルヴィアのお陰で、八匹いた骸骨スケルトンは、見る見るうちに数を減らしていった。

 優秀な重装騎士タンカーがいると戦局が安定するのだが、そのじつ、闘いが単調で作業的になりやすい。

「――グレイス、憑代よりしろを集めてくれ。あと、警戒は解かないように」

「わかりました」

 全体の緊張が緩み始めたのを感じた俺は、グレイスに改めて声を掛ける。

 最後に残った骸骨戦士スケルトンウォーリアをロベルトが突き崩すと、セレスティアは自ら回復ヒールを使って細かな傷を癒やし、息をついた。


「――ロベルト、休憩はいらない。先へ進もう」

 俺が集まって来たみんなに言う。闘いはしたものの、大した疲労はない。

 ロベルトは俺の言葉に頷くと、部屋の奥へと進んでいった。

 部屋の奥には、通路が左右に二カ所あるようだ。

「右の通路は行き止まりです。こちらへ」

 そう言ってロベルトは迷わず左の通路へ進んでいく。

 俺たち四人はロベルトを追うように、足を進めていった。

「この先には下り階段があって、階段を下りたところに扉があります。

 扉の向こうは先ほどと同じように広間になっていますが、恐らくそこにも魔物モンスターがいるはずです」

 ロベルトの言葉に、俺たちは改めて気を引き締める。この先は、部屋に入る度に戦闘になるのかもしれない。


 ロベルトの案内通り、通路の先は下り階段になっていた。

 下り階段の先には、これもロベルトの言った通り、扉が見えている。

 ロベルトは、俺たちが後ろに付いてきているのを確認すると、ゆっくりと階段を下り始めた。

 それが階段の真ん中ぐらいに差し掛かった時、俺は鋭くロベルトを呼び止める。

「ロベルト、待て」

「――どうしました?」

 俺はそれには答えず、ゆっくりと階段を下りて扉の前に立った。ロベルトは俺の動きを静かに見守っている。

 俺は意識を集中し、扉の向こうに存在するものを見抜こうとした。

 すると、いくつかの情報が浮かび、頭の中に飛び込んでくる。

「――大鬼オーガがいる」

「――!!」

 俺の呟いた言葉に緊張が走る。俺は続けて読み取った情報を、伝えていった。

「複数いる。見える範囲には三匹いるようだ。

 ここからでは断定できないが――今のところ、見えている場所には魔人の影はない」

 その言葉にセレスティアが反応する。

「ヴァイスどのは、冒険者たちが被害にあった時、確か大鬼オーガと闘っている途中で、魔人に襲われたと言っていたはずだ。

 状況的に、似たようなことが起こる可能性があるのでは?」

 俺はそれにニヤリと笑いながらうなずいた。

「その可能性は大いにあるな。用心するに越したことはないだろう。

 ――ではセレス、先頭を頼む。大鬼オーガをしっかり引き付けてくれ。

 シルヴィアは大鬼オーガをとにかく最速で倒すことに集中するんだ」

「判ったわ」

 シルヴィアが真剣な顔つきで答える。

「ロベルトとグレイスは周囲を警戒して待機。追加で敵が出てきたら、セレスとシルヴィアが狙われないよう必ず牽制けんせいして欲しい。俺がサポートに入る」

「了解」

 グレイスとロベルトの返答が被った。お互いが少しだけ微笑み、配置につく。

「――では、入る」

 セレスティアは全員の準備が整ったのを確かめると、声を掛けて広間に入っていった。


 目の前には既に三匹の大鬼オーガの姿が見えている。広間は天井が高いようだが、全体的に暗い。それもあってか、大鬼オーガたちは広間に入ってきた俺たちに気づいていなかった。

 セレスティアが部屋の中央へ向けて走り出すと、さすがに大鬼オーガはその存在に気づいたようだ。

 三匹の大鬼オーガたちは互いに吠えるような声を上げて、広間の奥から走り寄って来た。

「さあ来い!!」

 広間の中央に到達したセレスティアが挑発タウントを放つ。大鬼オーガたちはまるで磁石にでも吸い付けられるように、セレスティアの目前に集合した。セレスティアは大鬼オーガの棍棒を盾で受け止めると、鋭く反撃を当てて大鬼オーガにダメージを与える。

「手加減しないわよ」

 セレスティアの後方にいるシルヴィアが、炎弾フレイムボールで攻撃する。狙いあやまたず、炎弾フレイムボール大鬼オーガに命中した。

「セレス! 右端に寄れ!」

 俺が叫ぶとセレスティアは部屋の右端へと大鬼オーガたちを誘導していく。シルヴィアもそれに合わせて部屋の右端へと移動した。代わりに部屋の中央には、ロベルトとグレイスが立ち、周囲を警戒する。

 俺は大鬼オーガ以外からの不意打ちを警戒して、広間の高い“天井”に光源ライトの魔法を掛けた。天井に光源ライトがあれば、暗がりの多い広間全体を照らし出し、柱の陰すらも無くせると思ったからだ。

 ――だが、この何気ない行動が、俺の表情を一瞬で驚愕に変えた。


「――避けろ!!」

 俺が大きな叫び声を上げる。

 慌てて広間の中心にいたロベルトとグレイスが、その場から飛び退すさった。

 直後に地面を叩き割るような衝撃音が響き渡り、広間の中央から土煙がもうもうと舞い上がる。


 “ヤツ”は――天井にぶら下がって俺たちを待ち構えていたのだ。

 徐々に土煙が晴れると、その凶悪な姿が露わになる。

「――!!」

 同時にグレイスとシルヴィアの表情が、驚きに包まれていた。


 もはや疑うまでもない。

 大柄で、大鬼オーガと人間を混ぜたような容姿。筋肉で盛り上がる肩と腕。

 そして右腕には凶悪な大きさの斧。

 俺の目の前に立っているのは、忘れもしない、クライブの命を奪った――大鬼の王オーガキングジノだ。


 ジノは俺の姿を認めると、ニヤリと笑いながら声を掛けてくる。

「フッ――上手く避けたな。

 だが、ようやく貴様への仕返しリベンジの機会が来たようだ」

 その言葉を聞いて、途端に俺の鼓動が早鐘を打つ。


 ジノは確実に俺が倒し、この世界から消滅したはずだった。

 ところが目の前のジノは、過去に俺と会ったことを覚えている。


 これが意味するところは一つ。

 教会の神父ロドニーも、内務卿カーティスも、そして――黒妖精クルトでさえも、再び俺たちの前に現れる可能性が出てきた、ということだ。


「何で――何でアイツが!?」

 ジノの姿を見たシルヴィアが、取り乱したように言う。

 グレイスも声は上げていないが、落ち着いているようには見えない。

 もちろん俺とて平静ではいられないが、この場で冷静な判断ができるかどうかが、分かれ道になりそうだ。

 俺は二人の様子を見ながら、声を上げる。

「落ち着け! 今は何も考えるな! 考えるのは後でいい。今は目の前のことに集中して、自分がやるべきことをやるんだ」

 俺がそう言うと、シルヴィアが大きく息を飲み込んだ。

 そして視線を元に戻し、大鬼オーガに魔法を叩きつける。


 それを合図にするように、ジノがゆっくりと俺の方に近づき始めた。その行く手を遮ろうと、ロベルトとグレイスがジノと俺の間に立つ。

 そのまま襲いかかってくるかと身構えたが、ジノはその場でピタリと足を止めた。

「貴様に聞きたいことがある。

 ――あの男はどうなったのだ?」

「あの男――?」

 突然投げかけられた質問に、俺は眉をひそめる。

「儂をたばかったのであろう、黒妖精ダークエルフのことだ。

 貴様にも仕返しが必要だが、あの男にも相応の報いをやらねばならん」

 ジノが聞いているのは、クルトのことだ。

 確かクルトはリース派、ジノはオーバート派で、魔人の中での派閥が違う。

 そして、クルトは俺たちを利用してジノを始末した。だが、その直前までは、クルトとジノは一緒に行動していたはずだ。

「ヤツは――クルトは俺たちが倒した」

 正直に答えるかどうか一瞬迷ったが、俺がそういうとジノがニヤリと笑った。

「ほほう、そうか。

 ならば、存分に貴様らと闘えるというもの」

 ジノはそう言うと、右手に持った斧を振り上げ、踏み込んで横凪ぎに振り回す。

 警戒していたグレイスとロベルトが、後ろに飛び退いてその攻撃を避けた。

 遮る者がいなくなった場所をジノは走らず、歩いたままで俺にジリジリと近づいてくる。

 俺はそれに合わせてゆっくり後退し、その距離を保とうとした。


 ――と、次の瞬間、一気にジノが走り出し、俺に向けて突進を掛けてくる!

 ジノは急激に俺との距離を詰めると、右手に持った斧を渾身の力で振り下ろした。

 俺がその攻撃を戦闘転移バトルゲートで避けようとした瞬間――青白い影が俺の前をふさぎ、ジノの斧をガッシリと受け止めた。

 目の前でチリチリと飛び散る火花が、魔法による衝撃の吸収を物語っている。

「ケイ、離れろ」

 振り返らずにセレスティアが言った。シルヴィアと共に三匹の大鬼オーガを倒しきり、こちらに駆けつけて来たのだ。

 セレスティアは続く攻撃も受け止めると、反撃に聖乙女の剣ジャクリーンから光弾スターシェルを放った。だが、その攻撃はジノに当たる前に霧散する。

「何だ――!?」

 セレスティアがその不自然さに声を上げる。どう見ても光弾スターシェル)はクリーンヒットしたように見えた。だが、ジノは笑みを浮かべ、全くダメージを受けていない。


 俺は距離を取りながらジノを“凝視”すると、その状態ステータスを確かめた。


**********

【名前】

 ジノ

【年齢】

 不明

【クラス】

 オーガキング:魔人

【レベル】

 52

【ステータス】

 H P:?????/?????

 S P:????/????

 筋 力:????

 耐久力:????

 精神力:???

 魔法力:???

 敏捷性:???

 器用さ:???

 回避力:???

 運 勢:???

 攻撃力:????

 防御力:????

【属性】

 闇

【スキル】

 不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、ハーランド語

【装備スキル】

 攻撃魔法無効、状態異常無効

【称号】

 不明、不明、不明、不明、不明、アラベラの使徒

【装備】

 真銀の大斧ミトス (攻撃力+533)

 不明

 不明

【状態】

 不明

**********


 以前よりレベルが高い。そして、武器も良くなっている。

 だが、それよりも重要なのは、装備スキルの「攻撃魔法無効、状態異常無効」だ。かなり面倒なものを身につけている。

 見ればジノの左腕には、青白い光を放つ腕輪があった。どうやらあの腕輪が光弾スターシェルを掻き消したようだ。

「ジノは魔法を無効にする装備を付けている。

 シルヴィアは防御に専念してくれ。ロベルト、セレスティア、前を頼む!」

 俺がそういうと、グレイスが指示の“意図”を汲んで、後方へと下がっていく。

 それを見たジノは、過去の情景を思い出したのかもしれない。グレイスを狙おうと足を踏み出した。

「貴様の相手はこっちだ!!」

 セレスティアが聖乙女の剣ジャクリーンを振るう。剣はジノの左腕を掠めたが、微妙に金属的な音を出して弾かれた。

 ジノは続いて正面に立ったロベルトを叩き斬ろうと、真っ直ぐに斧を振り下ろす。

 ロベルトはそれを難なく避けると、蝕の短槍イクリプスを真っ直ぐに構えて、一気に前へと突き出した。

 貫通ペネトレイションのスキルが槍の軌道を赤く彩り、金属音と共にジノの脇腹に大きな傷が出来る。

 ジノは脇下を通り過ぎようとしたロベルトを、五月蠅げに右脚で蹴り上げた。ロベルトは蹴りを受けてしまい、その場から転がっていく。

「ロベルト、逃げろ!」

 セレスティアが声を掛けると、ロベルトは飛び上がってその場から退いた。飛び退いた場所にジノの追撃が、間一髪で落ちる。

 更なる追撃に移ろうとするジノを、シルヴィアが岩壁ロックウォールで遮った。ジノは面倒臭そうに、岩壁ロックウォールを粉砕する。


 ――既にグレイスの詠唱は始まっている。

 そのグレイスを護るように、セレスティアが、ロベルトが、シルヴィアが戦線を維持していた。


 俺は支配者の魔剣ローリンザー資産インベントリに戻すと、グレイスの目前に立って彼女の詠唱の終わりを待つ。

 もう少しで詠唱が終わる――と感じた瞬間、俺はグレイスの鎧の下へ無遠慮に両手を差し込み、両胸を掴んだ。

 詠唱を続けるグレイスに遠慮せず、俺はそのふくよかで暖かい肌を楽しむように、その“存在”をしっかりと確かめる。

 グレイスは目を閉じながら一瞬眉間に皺を寄せたが、次第に頬を染めて、微かな喘ぎ声を出した。

 途切れ途切れになりながらも、彼女は最後まで詠唱を唱えきる。

「あっ――ああっ!!」

 俺の手の動きに合わせて、グレイスが高いあえぎ声を上げた瞬間――。


 ――周囲は眩いばかりの光に包まれていた。




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