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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第六部 絶界の山脈篇
63/117

062 茶番 ★

挿絵(By みてみん)

※世界観把握のためのもので、細かな距離感などは反映できていません。




 俺とグレイス、ロベルトの三人は闘いを終えると、離れて闘っていたセレスティアとシルヴィアの様子をうかがった。丁度彼女たちも巨人トロルを仕留めたところなのか、憑代よりしろを回収しようとしているところだ。

 巨人トロルの落とした憑代よりしろは、緑に光る宝石だった。親指ほどの大きさだが、光をキラキラと反射して美しい。きっとシルヴィアが喜んでいることだろう。


 俺たちは合流してお互いの無事と健闘を称え合い、再びロベルトを先頭にして部屋の奥へと進んでいく。

 ロベルトは迷いなく俺たちを先導していたが、部屋から出て、その先にある階段を上がったところで足を止めた。

「ここの扉は特殊なんです。構造を知っていないと、開けられません」

 彼の言葉に誘導されるように、俺はその扉を凝視する。

 俺の能力ちからは生物であろうとなかろうと、その状態ステータスを見抜くことができる。

 ただ、この扉の開け方は判らない。

 それが、俺自身に与えられた能力ちからの特性であり、限界であるとも言える。


 この能力ちからは、これまで俺にとって、有利な状況を作るのに非常に役立ってきた。

 例え最後は魔法や武器で闘うにしても、“情報を知る”という初手が作る圧倒的な優位性アドバンテージは大きい。

 だが俺は、この能力ちからに慣れていく内に、この能力ちからにはくせがあり、全能オールマイティではないということにも気づき始めていた。


 俺はこの能力ちからで、単一のモノの性質、材質、大きさ、要素など沢山の情報を、そのモノの状態ステータスとして把握することが出来る。

 ところがモノとモノの組み合わせ――つまり複数のモノによって発生する事象は、状態ステータスとして認識するのが難しい。どちらかというと、認識できないことの方が多いのだ。

 だからこそ、俺は扉と壁が合わさって“施錠されている”状態を見抜けない。複数のモノを組み合わせて仕掛けられた罠にも、気づけないことが多い。


 更に言えば、俺は人間の感情のような、数値化が難しいものも見抜くことができない。もちろん“高揚”、“激怒”、“睡眠”、“出血”といったような、状態そのものは認識することができる。だが、例えば“激怒”で言えば、それが誰に対して何のことで怒っているのかといった情報は、全く読み取ることができない。


 元々俺は、この世界フロレンスに来る時に、そうしたあらゆることを含めた“状態”を読み取れる能力ちからが欲しいと希望したはずだった。だが、俺が望んだものと実際に与えられた能力ちからに、小さくない隔たりギャップが存在しているのは、もはや隠しようがない。


 あの時――世界と世界の狭間で会った老人は、確かに与えられる能力は“一つ”と言っていた。

 ――だが、俺の状態ステータスの中には「ステータス★」と「鑑定★」という二つのスキルがある。


 それを改めて考えると、これまで見えていなかった事実が見えてくるように思えた。


 ひょっとして俺は、人間や魔物モンスターを見る時には「ステータス★」のスキルを、道具や装備を見る時には「鑑定★」のスキルを、無意識に使い分けていたのではないだろうか?

 俺の“あらゆるものの状態ステータスが判る能力”というのは、実は単なる熟練度の高い二つのスキルの“組み合わせ”によって作られていたのではないか――?


 俺はこの世界フロレンスにおいて、「ステータス」や「鑑定」のスキルを使う者を見たことがない。

 だが仮に、その二つのスキルは珍しいだけで、普通にこの世界に存在するスキルなのだとしたら――?


 俺はこれまで老人――クランシーの使徒に与えられた能力を、ある種この世界で俺だけが持つ、相当に特殊な能力だと信じてきたところがある。

 だが、今俺が考えていたことが真実なら――それはとんだ“茶番”なのかもしれない。



「ケイ――ケイ、大丈夫ですか?」

 横から掛けられたグレイスの声に、ハッとする。

 俺は目の前の扉を見据えたまま、呆然としていたようだ。

 既にロベルトが扉の仕掛けを解除したのか、扉は徐々に開いていく。

 すっかりどういう仕組みで扉が開いたのか、見逃してしまった。

「あ、ああ、済まない――。ちょっと考え事をしてしまった。

 ロベルト、先導を頼む」

 俺がそう言うと、ロベルトは一つ頷いた。

「ここを抜ければもう出口まであと少しです。

 出口の先が竜の狩り場になっています。雄大な景色なんで、見応えがありますよ」

 そう言いながら、ロベルトが得意そうに微笑んだ。


 ロベルトに従って通路を抜けていくと、明るい陽の光が見えてくる。

「かなり早かったわね。陽が高い内に外に出られて良かったわ」

 シルヴィアが満足そうに微笑む。セレスティアとグレイスは、それに答えるように笑みを浮かべた。

「――おや? おかしいですね」

 そう言いながら、ロベルトは前方を見据えて首をかしげ始める。

「どうした?」

「いえね、出口が崩れているんです。

 通れなくはないので、問題はないのですが――」

 ロベルトが指さす先を見ると、確かに出口の一角が崩れているようだ。

 出口が狭いことを考えると、どうも大柄な何かが無理矢理通っていった跡のようにも見えた。

「冒険者が崩したということは?」

「うーん、あり得なくはないですが、そもそも冒険者が竜の狩り場に出て行く意味は、あまりありません。竜の狩り場はドラゴンに襲われる危険リスクがありますし、この迷宮ダンジョンの方が、確実に稼ぎはいいですからね」

 ロベルトはそう話しながら、片側が崩れた出口を慎重に上っていく。

 外に出て暫く周囲をキョロキョロと見回していたが、危険がないのか後方の俺たちに声を掛けた。

「旦那、大丈夫そうです。

 崩れたところは足下が緩いので気をつけてください」

 俺はそれを聞いて、慎重に出口へと上がっていく。


 出口を出ると、一瞬周囲の明るさに視力を奪われた。

 左手で目を覆い光をさえぎると、次第に周囲の情景が見え始める。


 目の前は、一面見渡す限りの草原だ。

 ただただ平面が広がる地面が草花に覆われ、流れる風によって様々な表情を作り替えている。

 俺はそれを見ながら、何となくこの世界に初めて降り立った時の情景を思い起こした。


「単なる草原ではあるが――壮大さを感じるな」

 いつの間にか俺の側には、セレスティアが立っている。

 見ると、グレイスとシルヴィアも、目の前の情景に圧倒されているのか、無言で周囲を見渡していた。

「ここが“竜の狩り場”です」

 ロベルトが俺を振り返りながら言う。

ドラゴンは活動期に空から現れて、この草原にいる生き物を喰らうんです。

 壮大で綺麗な場所ではあるんですが、ある意味残酷な場所でもあります。

 それで――草原の向こう側が見えますか?」

 彼の指し示した方を見ると、草原の向こう側にどれほどの標高があるのか判らない程の山脈が連なっていた。

「あれが“絶界の山脈”です。あの山脈のふもとにある迷宮ダンジョンの中に、転移門があります」

 そう言われて俺たち四人は、ロベルトが指し示した場所を眺め見る。

「絶界――」

 俺は繰り返すように呟いた。それを拾うように、ロベルトは説明を続ける。

「絶界の名の通り、あの山脈は世界を隔てていると言われています。つまり、山脈の手前側はこの世界フロレンスですが、山脈の向こう側はフロレンスとは呼ばないんだそうです。

 絶界の山脈の向こうは、もうお伽噺とぎばなしに近いですが、“魔人の国”があると言われています。

 魔人はあの山脈の向こうから、転移門を介してやってくると信じられているんです。

 残念ながら、絶界の山脈の向こうがどうなっているのかを実際に知る者はいません。なので、魔人の国も、実際にその存在を確かめた者はいないんです」

 ロベルトがしてくれた説明は、俺がレーネから聞いた話とほぼ同じ内容だ。

 だがレーネと違うのは、恐らく話し手本人が実際にそれを見てきたり、体感してきたかどうかという部分だろう。


 俺たち五人はロベルトに導かれ、そのまま草原を突っ切って歩き始めた。

 目の前にある山脈のふもとと言っても、実際歩くとかなり距離があるように感じる。


 迷宮ダンジョンと違って周囲に敵が見当たらないため、鎧を脱がないと言ったセレスティアを除いて、全員武装は外している。その分、歩くことによる疲労度は小さい。

 だが、最初の内は談笑しながら歩いていた俺たちも、一時間以上歩き、ようやくふもとが近づいてくるころには完全に無言になってしまっていた。

 既に山脈も草原も、赤く色づき始める時間だ。

「――あそこです」

 ロベルトが言った言葉に、下がりがちだった頭を全員が上げる。見ると、草原を抜けた先の岩場に、ポッカリと大きな横穴が空いていた。

「ちゃんと管理されている訳ではないのか?」

 横穴の近くには誰も立っておらず、何の目印サインもない。

「管理はされているんですが、外側を飾ると逆に目立ってしまいますから。穴の中に一応施錠された扉がありますが、その気になれば壊せる程度のものです」

 俺の疑問にロベルトが答えてくれる。


 俺は横穴の側まで到達すると、そこに開門ゲートくさびを打った。

 時間的にも疲労度的にも、今日はここまでだろう。

「ロベルト、案内ありがとう。

 今日はここまでにして、一旦イオに戻ろう」

 俺がそう言うと、張り詰めたものが切れたようにシルヴィアが大きく伸びをした。

「あーっ、歩き疲れちゃったわ。

 イオでゆっくりお風呂に入りたいわね」

「確かに、私も汗だくだ」

 セレスティアだけは最低限の警戒を解こうとしなかったため、鎧姿だ。鍛えているとはいえ、俺たちよりも疲労度は高いだろう。

 首を伝う汗が、彼女の金髪を身体に張り付かせている。流れた汗が胸元に流れ落ちるのを見て、俺は真面目くさってセレスティアに提案した。

「セレス、一つ良い提案がある。

 イオに戻ったら、俺がセレスの背中を流そ――」

「黙れ」

 俺の折角の好意が即座に拒絶される。

 それを見たシルヴィアが、疲労も忘れてアハハと笑っていた。



 俺たち五人は開門ゲート西の街イオに戻ると、休憩を挟んで食事をとった。

 女性陣は休憩の間に汗を流して来たようだ。残念ながら、そこには俺の出番は無かったらしい。まあ、風呂上がりの姿を見ることができたので、我慢しておくことにしよう。


 夕食はいつもに比べると、比較的豪勢な食事を選択した。一応名目としては、ロベルトの歓迎も兼ねているからだ。だが、誰も何も言わないが、明日転移門のある迷宮ダンジョンに挑むことが、その選択に少なからず影響を与えている。

 食事の間の談笑も含めて、俺たちは全員普段通りだ。そこに特別な気負いはない。

 しかしながら、明日挑もうとしていることには、本当の意味での覚悟がいる。命を落とす危険だってある。


 いつもより長めの食事が終わると、全員明日の朝に備えて早めに休むことになった。

 宿の部屋は五人が寝ることのできる大部屋がないため、男女に分かれて二部屋に変わっている。


 俺は一旦部屋に戻ると、早速ベッドに潜り込んだロベルトに「少しお酒を飲んでくる」と言い残して、再び食堂に降りていった。

 食堂で給仕に酒の種類を聞いてみると、麦酒ビール果実酒リキュールしか置いてないと言う。

 聞けば、どうも獣人はあまり酒が強くないらしく、そもそも強い酒を置いても誰も頼もうとしないんだそうだ。

 俺は仕方なく麦酒ビールを頼んで、一人手頃な場所の椅子に腰掛けた。

「――まだ、休まないのですか?」

 横から掛けられた言葉に、俺は顔を上げる。

 そこには少しだけ見慣れない姿のグレイスがいた。

 彼女は珍しく、黒髪をアップにせずに下ろしている。いつもは男性的な服装が多いため、たったそれだけのことで、雰囲気が随分違って見える。

 彼女は俺の対面に腰掛け、近づいて来た給仕の女性に果実酒リキュールを注文した。

「眠れないのですか?」

 グレイスの問いかけに、俺は笑って返答する。

「いや、残念ながらそこまで過敏センシティブな訳ではないさ。

 ――自分がやろうとしていることが本当にこれでいいのか、再確認しておきたくてな」

「それは、どういう意味ですか?」

 グレイスは今更再確認という言葉に少し驚いたのか、俺の顔をまじまじと見つめながらいてきた。

「――グレイス、君は目的を持って魔人を追っているようだが、転移門を叩くというのは、その目的に近づくことだと思っていいか?」

 そんな質問を受けるとは思っていなかったのかもしれない。グレイスは少し考えるように視線を外した。

 丁度麦酒ビール果実酒リキュールが運ばれてくる。俺は給仕に金を渡すと、グレイスと小さく乾杯をした。

「こういうと主体性がないと思われるかもしれませんが――」

 グレイスはそう断りながら口を開いた。少し微笑みながら、話している。

「仰る通り、わたしは魔人を追っています。

 そして、ケイ――あなたがそれを共に成し遂げようとしてくれていることも、理解しているつもりです。

 クルトを追う旅は、ある種“復讐”という言葉が、魔人を追う理由を置き換えてくれていました。

 ですが、この転移門への旅は――あなた自身の意思が、強く影響していると思っています。

 あなたはあなたの考えで、転移門を叩こうとしている。

 わたしはあなたが共に魔人を追ってくれているように、転移門を叩くことにあなたの目的があるのなら、それを共に成し遂げたい。

 あなたが選ぶ選択肢を、支持したいのです」

 優しげな目をするグレイスを見て、俺は麦酒ビールあおった。

 彼女の言ってくれていることは、俺にとって光栄なことだ。

 恐らくグレイスは、俺が仮に少々間違った選択をしていたとしても、それを支えてくれることだろう。


 俺が少しうつむき気味にその意味を考えていると、グレイスは更に言葉を重ねた。

「わたしが何故、魔人を追っているのか――。

 “宿命”という言葉だけで片付けて、それを詳しくお話しできずに、ここまで来てしまいました。

 ですが――ケイ、今暫くあなたの優しさに甘えることを、お許しください。

 話すための“覚悟”ができるまで――もう少しだけ、待って欲しいのです」

 俺は自分から進んで、彼女が抱えるものを全て話せと言うつもりがない。

 そもそも俺の方に、話せないことが沢山あるからだ。

 グレイスの話は、きっと彼女が必要だと思ったタイミングで話してくれることだろう。


 俺は麦酒ビールを飲み干すと、お代わりを注文した。グレイスがそれを見て少し微笑む。

 あまり深酒は良くないが、少し酔ってから眠りたい気がしていた。

 グレイスは、それに文句を言わず付き合ってくれる。


 しばらくして俺はグレイスと別れ、部屋に戻ってベッドに潜り込んだ。

 隣のベッドからは、ロベルトの水牛のようなイビキが聞こえて来ている。お酒の助けがなければ、眠れそうにない音量だ。


 俺は目をつむりながら、明日成すべきことを改めて頭に浮かべた。

 もはや迷うような時でないことは、ちゃんと理解できている。

 そうして俺は雑念を払うように、眠りの世界にゆっくりと落ちていった。




「――ケイ、起きてくれ」

 翌朝俺は、ノックの音と、セレスティアの声に起こされた。

 ベッドから起き上がり、昨晩の酒が抜けていることを確認しながら部屋の扉を開ける。

 セレスティアは俺の姿を見ると、真剣な表情で話し始めた。

「朝からバタバタと済まない。

 ヴァイスどのから至急サリータの兵舎に戻るよう連絡がきた」

 俺は眉をひそめて、それを聞き直す。

「サリータへ?」

「ああ、竜の狩り場へ至る迷宮ダンジョンで何かあったらしい。

 とにかく一刻も早く顔を出してくれと言われている」

「――判った。すぐに支度して飛ぼう。シルヴィアとグレイスはどうしている?」

「シルヴィアが寝ぼけているが、準備はできている」

「ではロベルトを起こしてそちらの部屋に行く。待っていてくれ」

 俺はそう言うと、まだ気持ちよさそうに眠っているロベルトを、文字通り叩き起こした。


 ――それにしても、何かあったのだろうか?

 あの余裕のかたまりのような竜人ヴァイスが、至急という言葉を使うのが気になる。


 俺はまだ半分眠っているようなロベルトを部屋から引っ張り出すと、セレスティアたちの部屋をノックした。

 彼女たちは既に支度を終えて、俺とロベルトを待っていたようだ。

 俺は早速開門ゲートを開くと、首都サリータへと転移する。



 前回西の街イオに戻る前に、くさび首都サリータの兵舎前に打ってきたことで、最速で移動することができた。門番に来意を告げると、即座に中へと通される。

 俺たちが兵舎の応接室に入ると、それから殆ど間なしに、若干早足になった様子の竜人ヴァイスが現れた。

 今回は豹男レンツを連れていないようだ。

 朝の挨拶を交わそうとすると、それも端折はしょって竜人ヴァイスが話し始めた。

「よく来た。

 早速で悪いが、話がある。

 ――昨日夕方から夜に掛けて、竜の狩り場に至る迷宮ダンジョンで複数の冒険者が襲われる事件があった」

「事件――?」

 穏便でない言葉に、全員が神妙な顔つきになる。

「ああ、竜の狩り場に至る迷宮ダンジョンは稼ぎがハッキリしているせいで、比較的遅い時間まで常駐するパーティがいてな。その中の二つのパーティがやられた。

 どちらも四人組のパーティだったようだが、一人も生き残っていない。

 それ以外に、もう二つのパーティが襲われ、五人の死人が出て、二人が生き残っている。

 この事態は生き残った二人の話から、把握できたものだ」

 竜人ヴァイスの話をまとめると、一晩で十三人もの死者が出ていることになる。

 しかもあの迷宮ダンジョンに入る冒険者であることを考えると、全員それなりの強さの冒険者であったはずだ。竜人ヴァイスの焦りがどこから来たのかが判るような気がする。

「どのような敵なのですか?」

 厳しい表情でセレスティアが竜人ヴァイスに尋ねた。

「生き残った者が少なくて、しっかりとした情報が確認できていないが――。

 おれが思うに、恐らく冒険者を襲ったのは“魔人”だ」

 その言葉に、俺たち全員が息を飲む。

「魔人――!」

 セレスティアがこぼした声に、竜人ヴァイスうなずいた。

「だからお前たちを呼び戻した。

 どうやら最初は大鬼オーガが出てきたらしい。問題なく倒せると考えて、どのパーティも油断していたようだ。

 だが、その大鬼オーガの群れの中に、一匹だけ様子の違うやつがいてな。

 そいつは、大鬼オーガと人間の中間のような姿で、斧を持ち、人間の言葉を話したのだという。

 殆どの冒険者は、そいつ一人にやられたのだ」

 ロベルトとセレスティアは、竜人ヴァイスの言葉に真剣な表情でうなずいている。


 たが、俺とグレイスとシルヴィアの三人は――竜人ヴァイスが説明した内容に、うなずくこともできずに凍り付いていた。

「ケイ、まさか――」

 愕然がくぜんとした表情のシルヴィアが、言葉を漏らす。


 そう、俺たち三人が思い浮かべたその姿は、かつて命をして闘った――、


 大鬼の王ジノに、とてもよく似ていた。




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