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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第五部 サリータ篇
52/117

051 高揚 ★

挿絵(By みてみん)

※世界観把握のためのもので、細かな距離感などは反映できていません。




 俺とシルヴィアが試練サリータの塔に入ると、入り口の扉が大きな音を立てて閉まった。

 施錠せじょうされた訳ではないと思うが、正直退路を断たれたように思えて、気分は良くない。


 目前に広がっているのは、大きな広間だ。広間にはいくつかの柱が立っており、どうやらこの階層のほとんどが、この広間になっていると考えて良さそうだった。

 見たところ、何もない空間に見えるが、どんな罠が仕掛けられているか判らない。

 俺はシルヴィアと自分に一通りの付与エンチャントを掛けると、シルヴィアの時計にも付与エンチャントを掛けておいた。念には念を入れて、だ。


 俺はそれまで持っていた祝福の杖をしまい、資産インベントリからレーネに与えられた支配者の魔法剣ローリンザーを取り出した。普段から支配者の魔法剣ローリンザーを持たないのは、俺がレーネと会い、彼女からこの剣を与えられたという事実を、不用意に察知されないようにするためだ。

 もちろん、シルヴィアは俺が新しい武器を取り出したのを見て、興味を抱く。

「あら、新しい武器?」

「ああ、深淵しんえんの迷宮で手に入れたものだ。

 ただ、まだ実戦で使ったことはない」

「ふーん――」

 助かることに、シルヴィアは必要以上に詮索せんさくするつもりが無さそうだ。


 準備が整ったことを確認すると、俺が前に立って、シルヴィアがその後を付いてくる隊列で進んでいく。

 俺は得意ではないが、一応武器戦闘ができる。

 だが、シルヴィアは武器戦闘ができない。もし仮に接近戦になったら、俺がシルヴィアを護らなければならない。

 できれば接近戦に持ち込まれる前に、魔法で片を付けてしまいたいのだが――。


 俺は、周囲に罠がないことを慎重に確認すると、ゆっくりと見えている階段の方へと近づいていった。

 どうやら最初の階層は、入り口だけで何もないようだ。

 俺とシルヴィアが階段を上っていくと、登り切った先が扉になっていた。

 扉を開けようと手を出すが、そこにはつかむべき取っ手がない。

「――待って」

 後ろからシルヴィアが近づいてくる。彼女は扉の状態を確かめていたが、何かが判ったのか、少し離れて杖を構えた。

「レベル1で施錠せじょうされてるわ。

 今から開ける」

 そういって解錠メイスの魔法を使うと、確かに扉がゴゴゴという音を立ててひらいていく。

「――助かった。

 シルヴィアがいないと、いきなりアウトだったな」

「フフフ――感謝しなさい!」

 シルヴィアは得意げに微笑むと、俺の後ろに戻っていく。

 俺は扉を抜けて、二階層目へと入っていった。


 二階層目は、入ったところが部屋になっている。

 部屋の規模は数十人が入れるような空間で、それなりの大きさがある。

 見たところ何かが置いてある訳でも無く、非常にシンプルな作りになっている。

 俺は警戒しながら部屋を見渡すと、そのまま部屋の奥にある扉に到達し、手を掛けた。

 扉を開くと、その先にも同じような部屋が続いている。

 俺は危険がないことを確認し、シルヴィアを部屋に招き入れた。


 その部屋も特に何かがあるわけでもなく、奥の扉まで到達する。

 だが、その扉を開けようとして、俺は動きを止めた。

「――どうしたの?」

 尋ねるシルヴィアに、声を落とすように指示する。

魔物モンスターだ。

 待てよ――魔石像ガーゴイルのようだな。数は多いが、レベルはさほど高くない」

挑発タウントがないけど――どう闘う?」

 確かに多数の敵と戦うには、シルヴィアに攻撃対象ターゲットが向かない闘い方を求められる。


 だが考えのあった俺は、その質問に相当無茶な計画プランを提案した。

「――攻撃を受ける前に、倒してしまうしかないな。

 強引なやり方だが、俺が部屋に入って走りながら敵を集めるから、範囲の広い魔法で一掃してくれ。

 叩き漏らすと攻撃対象ターゲットがシルヴィアに向くから、強めの威力のやつで頼む」

 流石にその提案にはシルヴィアが驚く。

「ええっ!? そんなことしたらケイごと丸焦まるこげにしちゃうじゃない!?」

「ああ、そのつもりでやってくれ」

 俺はニヤリと笑うと、扉を開け、部屋に侵入する。


 部屋の大きさは、ここまで通り抜けてきた部屋と大差はない。

 その部屋の中に、一〇体ほどの魔石像ガーゴイルが“設置”されている。

 ガーゴイルは俺が部屋の中程に立つと、目に光がともり、ゆっくりと動き出した。

「シルヴィア、俺が剣を振り上げたら攻撃してくれ!」

「ホントにいいのね!?」

 そのやりとりの後、俺は自分に防護結界プロテクションフィールドの高位付与エンチャントを掛けた。

 防護結界プロテクションフィールドは暫くの間、全方向からの物理攻撃を防いでくれる、いわば光の結界オルターの物理版のようなものだ。


 俺は防護結界プロテクションフィールドに護られながら、ガーゴイルに向けて魔弾マジックボール・小を放ち、自分に襲いかかってくるように仕向ける。

 果たしてガーゴイルたちは、俺を追いかけるように集合し始めた。

 周囲にはカンカンと、ガーゴイルたちが防護結界プロテクションフィールドを叩く音が響き渡っている。

 俺はガーゴイルに囲まれてしまわないように、部屋の中を円を描くように走り回った。

 俺が足を止めようものならたちまち結界を破られ、タコ殴りにされてしまうだろう。

 まさに魔物列車モンスタートレインだ。


 俺は全てのガーゴイルが俺を攻撃対象ターゲットにしたのを確認すると、右手の支配者の魔法剣ローリンザーを高く掲げて合図した。

「――いくわよ!!」

 シルヴィアのかけ声とともに、俺は立ち止まり、光の結界オルターを発動する。

 更にいつでも絶対防御結界アブソリュートディフェンスを発動できるよう、支配者の籠手ロードブレイサーを構えた。

 ――その瞬間、シルヴィアが放った巨大な炎が、俺とガーゴイルを包み込んだ。

 業火インフェルノの炎が、今回は岩壁ロックウォールさえぎられることなく展開されている。

 俺はその炎を光の結界オルターで防ぎながらも、シルヴィアが放った魔法の範囲の広さに驚いた。

 ほぼ部屋を丸ごと焼き尽くすような勢いだ。

「確かに丸焦まるこげにするつもりで、とは言ったが――」

 光の結界オルターは、業火インフェルノに押されて徐々にその範囲を小さくしていっている。

 このままだと、本当に丸焦まるこげになってしまう――と思ったところで、業火インフェルノの炎は小さくなっていった。

 周囲には、既にガーゴイルたちの姿はなく、その憑代よりしろだけが転がっている。

「ケイ、さすがにヒヤヒヤしたわ」

 シルヴィアが憑代よりしろを拾いながら言った。

「それは俺の台詞セリフだ。本当に丸焼けになるところだった」

「こんな無茶なこと、あんたが言い出したんだからね!

 ホントに焼けちゃったら、一応骨ぐらいは拾ってあげるわよ?」

「――全然嬉しくない」

 シルヴィアは楽しそうに笑うと、憑代よりしろを集め終わり、俺の近くに戻ってくる。


 俺はシルヴィアが戻ってきたのを確認すると、部屋の奥の扉を出た。

 目前には次の階層への階段が見える――のだが、その手前に通行不可能なぐらいの瓦礫がれきが積もっていた。

「崩れた訳ではないと思うんだが――これじゃあ通れないな」

「いいわ、任せて」

 シルヴィアはそういうと、暁星の杖スタッフオブレーシュを構え、土銃ドレイクガン瓦礫がれきを全て吹き飛ばしてしまった。

 確かに通れるようにはなったのだが、何というか――豪快だ。


 俺とシルヴィアは続く三階層目へと上がっていく。

 三階層目は上がった瞬間から狭い通路が続き、それが折れ曲がっているのが判った。

「何これ、迷路?」

「――かもしれないな。取りあえずここで敵が出てきても、斬り合うような通路の広さじゃないな」

 俺は空間魔法の地図作成マッピングスキルを発動し、頭の中に地図を描いて行く。

「左手の法則で歩いて行く」

「左手――? 何それ?」

 ひょっとしたらこの世界には存在しない言葉だっただろうか? 左手の壁に沿って歩けば必ず出口に到達するという、元の世界では迷宮ダンジョン攻略のイロハだったわけだが、シルヴィアに詳しく説明するのも面倒だったこともあり、俺は彼女に、「取りあえず付いてくるといい」とだけ伝えて歩き始めた。

 俺が左の壁に沿って歩いていくと、迷路ダンジョンの構造が非常に単純であることがわかる。

 わざわざ地図作成マッピングが必要ないレベルだ。


 だが、分かれ道を左に進んできた先が、行き止まりになっていることに気づき、俺はその場で静止した。

「――痛っ!」

 立ち止まった俺の背中に、シルヴィアがドスンとぶつかる。

 堅い感覚と柔らかい感覚の両方を感じた。まともにぶつかったようだ。

「ちょっと! 急に立ち止まらないでよね! 鼻打っちゃったじゃないの」

「考え事か? ちゃんと前を見ないとダメだぞ」

 シルヴィアはよっぽど痛かったのか、涙目で鼻を押さえている。


 俺は一旦来た道を戻り、分かれ道を更に左に進んで行った。

 すると、アッサリ四階層目への階段が見えてくる。

「――地図は半分しか埋まってないな」

「えっ?」

 俺のつぶやきをシルヴィアが聞き直す。

「いや、この階層の半分しか地図作成マッピングできてないってことさ。

 残りの半分は、何があるのか判らない状態だが、取りあえず目の前に階段がある以上は、まずはそこを上ってみよう」

 俺はそう言って、シルヴィアを伴って四階層目へと上がった。


 四階層目は、扉を開けた瞬間に広い空間になっていることが判った。

 相変わらず魔物モンスターの姿はない。

 だが、広間を調べて見ると、奥の方に床がない部分があり、それが広間の右から左までを横断している。

 その向こうには広間の床があるため、実質広間の真ん中あたりに、帯状に床のない部分が存在していることになる。

 床のない部分は――数メートルというところだろうか。飛び越えろと言われると、ちょっと難しいかもしれないはばだ。


 俺は床のない部分に近づき、下を確認する。

 落ちた先には、非常に原始的ではあるが、剣山のような突起が無数にあるのが判った。

 どうやら先ほどの三階層目の残り半分に立ち入れなかったのは、このわなが設置されているからのようだ。

「これ、どうやって渡ればいいわけ?」

 シルヴィアの素朴そぼくな問いに、俺は以前活かした方法を提案してみた。

岩壁ロックウォールで階段か橋を作ればいいんじゃないか?」

 シルヴィアは俺の発言に従って、早速岩壁ロックウォールの階段を作りだそうとする。

 だが、彼女はすぐに異変を感じ、大きな声で俺に声を掛けた。

「ケイ、大変! 魔法が使えないわ!」

「何だって――!?」

 そう言われて俺も試しに魔壁マジックウォールを展開しようとするが、彼女の言う通り、魔壁マジックウォールは全く発動されない。

「――何か、この部屋に仕掛けがあるようだな」

 まだ幸いだったのは、この部屋に魔物モンスターがいなかったことだろう。


 俺は部屋の内部を調べると、部屋の四隅に何やら魔法陣が書かれているのを発見した。

 特に隠してあることもなく、非常に判りやすい場所に設置されている。

 どうやらその魔法陣が、この部屋の中での魔法の発動を禁止しているようだ。

「どうする? 魔法陣を壊してみる?」

「そうだな、そうしたいところだが――壊した時に何が起こるのかが予想できない。

 なので、魔法陣を壊さずに、あそこを越える手法で行こう」


 俺はそういうと、シルヴィアに入り口で待っておくよう伝えて、自分は一つ下の階層に降りた。

 俺の位置から見ると、階段を駆け上がったところに扉を開けているシルヴィアが見える。

「そのまま、扉を開けておいてくれ」

 俺はそう言うと準備運動をして、最後に行動加速ヘイスト付与エンチャントを掛けた。


「いくぞ!」

 それをスタートの合図にして、俺は一気に階段を駆け上がり、そのまま魔法が禁じられた部屋に入っていく。

 そのままの勢いで俺は床のない部分まで走り込み、思い切ってジャンプした!

「成功――だっ!!」

 俺は完全に床のない部分を飛び越えると、勢い余って次の階層に行く扉に身体をぶつけてしまう。

「いてて――」

「ケイ、凄いわ! ちゃんと越えられた!」

 シルヴィアが喜んで近づいてきた。

 ところが――。

「って、ちょっと待って。

 あたしはどうすればいいわけ?

 こんな所ジャンプできないわよ!?」

「あー、確かにそうだな」

 俺は頭をきながら答える。

「――ちょっと、まさか自分だけで進もうと思ってないわよね!?」

 微妙に無責任な態度の俺に、シルヴィアが焦って詰め寄ってきた。

「焦るな、方法はある。

 シルヴィアはさっき俺が駆け上がった、階段下に行ってくれ」

 俺はシルヴィアに指示を出して見送ると、一旦次の階層への扉を開き、部屋の外に出る。

「多分――本当はこうやって突破クリアする場所じゃないんだろうな――」

 俺はそうボヤきながら、お姫様を迎えに行くことにした。



 シルヴィアは、俺が突然そばに転移してきたことに、驚いた様子だった。

「何!? ――空間魔法!?」

 俺はシルヴィアに打っていたくさびを頼りに、開門ゲートを使って転移してきた。

「――では、ちょっと失礼」

 俺はそういって、シルヴィアを問答無用でお姫様抱っこする。

「ひゃぁぁっ、ちょっと、何なのよ!?」

 シルヴィアは今までに聞いたこともないような声を上げる。

 流石にちょっと俺も驚いた。

 シルヴィアは抱き上げてみると、思っていたよりもずっと軽い。


 その柔らかい感触を楽しみながら、俺は再び開門ゲートを使って転移する。

 転移先は、俺が飛び越えた場所の“次の階層に至る階段前”だ。

 俺はそこに、シルヴィアの側に転移してくる前に、くさびを打って来ていた。


 開門ゲートを出ると、シルヴィアをその場に降ろす。

 彼女の顔は、ちょっと赤い。

「――こういうのは、先に説明してからにしてよね」

「ははは――悪い」

 俺はそういうと、先ほどの業火インフェルノの威力を思い出して、ふとシルヴィアを“凝視”してみた。


**********

【名前】

 シルヴィア・エアハルト

【年齢】

 19

【クラス】

 魔道師ウィザード

【レベル】

 39

【ステータス】

 H P:2112/2112

 S P:3927/3927

 筋 力:325

 耐久力:414

 精神力:938

 魔法力:2583(+416)

 敏捷性:530

 器用さ:423

 回避力:552

 運 勢:1113

 攻撃力:413(+88)

 防御力:808(+394)

【属性】

 火

【スキル】

 火属性魔法★(+2)、地属性魔法7(+2)、広域化4(+1)、空間魔法4、状態異常魔法デバフ6、解錠メイス連続魔法デュアルスペル、生活魔法、精神統一4、魔力制御5、魔力増幅1、精神耐性7(+3)、病気耐性3、自動魔力回復4、ハーランド語

【装備スキル】

 反射壁リフレクション

【称号】

 爆炎の魔女、最高の魔法使いシュープリーム、ルールブレイカー、セクシークイーン、魔道師ウィザード魔法使いソーサラー、魔法ギルド会員

【装備】

 暁星の杖スタッフオブレーシュ(攻撃力+88、魔法力+343)

 明星の魔法盾ヴェスパー(防御力+79、魔法力+35)

 黒魔術師のローブ(防御力+172)

 黒魔道師のチュニック(防御力+109)

 黒魔術師の帽子(防御力+34、魔法力+38)

【状態】

 高揚

**********


 火属性魔法に★がついている。暁星の杖スタッフオブレーシュの効力で持ち上がっているのだとは思うが、ちょっと驚いた。

 レベルは俺より低いのだが、魔法力は俺をかなり上回っている。

 そう言えばクルトがシルヴィアのことを、“最高の魔法使いソーサラー”と表現していたが、やはり彼女の魔法力は卓越たくえつしたものだということを、再認識した。


 まあ――状態の“高揚”は、見なかったことにしておく。



 俺とシルヴィアは階段を上ると、五階層目の扉の前まで来る。

 俺はその扉を開こうとして――寸前で踏みとどまった。

 そして、意識を集中して、扉の向こう側を見ようとする。


「――どうしたの? 敵?」

「――ああ。

 それも、ちょっとヤバいのがいる」

 俺がそういうと、流石にシルヴィアも表情を引き締める。

 それを見た俺は、扉の先に見えるものを、シルヴィアに伝えた。


「この先にいるのは、恐らく――名前付きネームドだ」

 俺の伝えた言葉に、シルヴィアの表情がより一層引き締まったのが判った。




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