表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第五部 サリータ篇
50/117

049 得意技 ★

挿絵(By みてみん)

※世界観把握のためのもので、細かな距離感などは反映できていません。




「グレイス――あなたがああいう発言をするとは思わなかった」

 竜人ヴァイス豹男レンツが立ち去った後、セレスティアが半分とがめるような声色でグレイスに言った。

「――申し訳ありません。

 あの場はあのように答えないと、後がないと思いましたので」

 素直に謝罪をするグレイスを、シルヴィアが擁護ようごする。

「グレイスが悪い訳じゃないわ。

 あたしも闘うって言わないと、どうにもならなかったと思うし」

「俺もそう思う。

 大変なことになったのは確かだが、実力を示せれば道がひらける保証がある」

 俺とシルヴィアの発言を聞いて、セレスティアは下を向いてしまう。


 セレスティアはもちろんグレイスを責めようとして、発言した訳ではないだろう。

 彼女の本心はどちらかというと、この後に言った内容のような気がした。

「ヴァイスどのは――相当に手強てごわい。

 あのレンツどのも同様だ。

 闘って勝てるものか――私には自信がないんだ」

 セレスティアの言葉に、三人とも無言になってしまう。


 竜人ヴァイス豹男レンツ状態ステータスはしっかり見れていないのだが、それでもあの二人が“深層”のレーネほどの強さだとは思えない。

 だとすれば、きっと何か闘い方があるはずだ。

「セレス、俺たちがやるべきことは実力を示すことであって、彼らに勝つことじゃない。

 きっと上手い闘い方があるはずだ。それをしっかり考えよう」

「――わかった。

 済まない、グレイスを責めるつもりはなかったんだ。

 どちらかと言えば、私がヴァイスどのに会おうと言い出したこともあって、責任を感じている――」

 俺はうつむいたセレスティアをなぐさめるように、肩に手を置く。

「心配することはない。

 奴らは強いのかもしれないが、俺はここにいるみんなも強いことを知っている。

 ――俺が闘うなら、やつらが二人同時に掛かってきたとしても、負けるつもりはないしな」

 なぐめるように言った俺の発言を聞いて、グレイスがフフフと笑う。

 シルヴィアも、明るい調子で口を開いた。

「ケイの根拠こんきょのない自信も、こういう時に聞くといやされるわ。

 たまには役に立つのね」

「フフ――確かにな」

 雰囲気がなごやかになって良いのだが――正直、俺のあつかわれ方は、ひどい。



 翌日、朝食を終えた後に、再び豹男レンツが部屋に顔を出した。

 昼食を食べる前ぐらいの時間に、俺たちを闘技場へ案内するのだという。


「闘技場は兵舎の中にありますので、直前にご案内します。

 武器や防具は着けずに待機していてください」

 彼の発言通り、俺たちは丸腰のまま、部屋で案内を待つことにした。


 一時間ほど待つと、豹男レンツが扉をノックして、俺たちを呼びに来る。

 豹男レンツも、トレードマークのように似合っていた白い鎧を外している。防具を外してどういう勝負になるのか判らないが、取りあえず彼の案内に従うことにした。


 豹男レンツに案内された先は、兵舎と連結された別棟べつむねで、屋根はないが広い空間になっていた。

 石造りの床で、かなり頑丈そうな石造りの壁がある。

 その壁には観客席のようなものがあり、形は円形でこそないが、彼らが“闘技場”と呼んだように、それなりのおもむきがある。


 闘技場の中心には既に竜人ヴァイスがいて、俺たちを待っていた。

 竜人ヴァイスの隣には、猫頭の獣人がいて、魔法使いらしき杖を持っている。

「全員、覚悟はできたか?」

 竜人ヴァイスは、笑いを交えながら、そう声を掛けてくる。

 竜人ヴァイスもやはり防具を身につけておらず、身軽な格好だ。

「――まず、どう勝負をつけるのか、聞きたいのだが」

 俺がそう応えると、竜人ヴァイス豹男レンツの方を向く。

 その視線を感じて、豹男レンツが説明を始めた。

「ロアール流の、一対一の対決とさせていただきます。

 武器はお手持ちのものを使い、防具は闘技用の特別なものを着けて闘います。

 ルールとしては武器破壊は禁止で、先に身体に傷を負った方が負けになります。

 傷を負うといっても、かすり傷のようなものは傷と見なしません。

 魔法も使用制限はありません」

「――最初の傷が、致命傷になる可能性は?」

 俺はルールを聞きながら、もしもの場合のことを確かめようとする。

 すると、そこへ竜人ヴァイスが横から口を出した。

「初撃で致命傷を受けるようであれば、そもそも転移門の破壊などに行けるような実力ではない。

 それが恐ろしいのであれば、勝負を取りやめ、王国ハーランドに戻れば良いと考えるが、どうだ?」

 言葉の最後の方は、ほとんあざけりに近い。

 俺は無言で竜人ヴァイスにらみつけた。


「――傷は、回復魔法でいやせるよう、高位司祭を呼んであります。

 もちろん事故が絶対にないとは言い切れないのですが――」

 豹男レンツの言葉に合わせて、竜人ヴァイスの隣にいた猫頭の獣人が、軽く会釈えしゃくをした。

「ルールは理解した。

 ――では、私とヴァイスどのが闘えばよろしいか?

 それともレンツどのと闘うのだろうか?」

 進み出るセレスティアの言葉を聞いて、竜人ヴァイスがニヤリと笑って首を振る。

「いいや、聖騎士デイムよ、そうではない。

 ――おれは発言に責任を持つ者が好きでな。

 なので、そのむすめが実力を示すのだ」

 竜人ヴァイスがそう言って指さしたのはグレイスだ。

 グレイスは目を細め、その視線を受け止めた。

「――判りました」

 素直に返答したグレイスを見て、豹男レンツが口を開く。

「では、こちらは私がお相手しましょう。

 女性と言っても手加減は致しませんので、ご注意を――」

 一瞬、グレイスと豹男レンツの視線が交錯こうさくし、それを見た竜人ヴァイスが満足そうにニヤリと笑った。




 グレイスと豹男レンツが闘技用の防具を装着し、それぞれの支度を調える。

 豹男レンツは左右の手に手斧を持つ、二挺斧にちょうおののスタイルだ。

 対するグレイスも右手に隠者の長剣ソードオブハーミットを、左手に運命の短剣クリスを持つ二刀流スタイルだ。


 俺は二人から距離を取る前に、豹男レンツを強く“凝視”した。


**********

【名前】

 レンツ

【年齢】

 47

【クラス】

 斧戦士ウォーリア

【レベル】

 44

【ステータス】

 H P:9455/9455

 S P:1170/1170

 筋 力:1654

 耐久力:1399

 精神力:422

 魔法力:430

 敏捷性:733

 器用さ:709

 回避力:738

 運 勢:810

 攻撃力:2064(+410)

 防御力:1439(+40)

【属性】

 土

【スキル】

 土属性魔法3、挑発タウント4、強打スマイト連続斬りデュアルスイング、生活魔法、魔力制御1、体術4、斧術7、棒術3、突術2、精神耐性5、状態異常耐性1、睡眠耐性2、苦痛耐性5、自動体力回復3、獣人語、ハーランド語

【称号】

 司令官コマンダー、獅子戦士、獣人戦士、蛮族狩り、獣人狩り

【装備】

 審判の双斧レトリビューター(攻撃力+410)

 闘技用の鎧(防御力+40)

【状態】

 なし

**********


 俺はグレイスから離れる直前に、そっと彼女に耳打ちする。

「レベルは高いが魔法への抵抗は高くない。素早さはないが、攻撃スキルに気をつけろ」

 グレイスはそれに、一瞬視線をこちらに向けて応えた。


 俺たちはグレイスと豹男レンツから距離を取り、闘いから影響のない場所で二人を見守ることになる。

 全員が下がったのを確認した竜人ヴァイスは、武器を構えるグレイスと豹男レンツを確認し、対決の開始を宣言した。


 竜人ヴァイスの声と共に、豹男レンツがグレイスに突進する。

 二人の距離は、それほど近い訳ではない。

 豹男レンツはそれなりの速度スピードで前に突っ込んだのだが、最初に突き込んだ右手の攻撃はグレイスに避けられ、左手の攻撃は絶妙な角度で突き出された隠者の長剣ソードオブハーミットによって受け流された。

 周囲には金属同士が引っき合う不快な音が響き、小さな火花が飛んでいる。


 グレイスは最初の攻撃をすれ違うように避けると、そのまま距離を取りながら風刃ウィンドカッターの魔法を放った。

「その程度では倒せませんよ!」

 豹男レンツは余裕があるのか、戦闘中に言葉が出る。

 その言葉の直後に、豹男レンツおおい隠すぐらいの岩壁ロックウォールが展開された。

 グレイスが放った風刃ウィンドカッターは、全て岩壁ロックウォールによってき消されてしまう。


 ――と、その瞬間、自ら展開した岩壁ロックウォールに身を隠していた豹男レンツが、岩壁ロックウォールの影からグレイスにチャージを掛けた。

 グレイスはその勢いを殺そうとして、豹男レンツの目前に火壁ファイアウォールを展開する。

 だが、豹男レンツ火壁ファイアウォールをそのまま身体で突き破り、グレイスに強力な斬撃を放った。

「――くっ!」

 グレイスはその攻撃を右手の長剣で受け止めようとしたが、勢いを殺しきれずに隠者の長剣ソードオブハーミットを弾かれてしまう。

 持ち主の手を離れた隠者の長剣ソードオブハーミットは、空中でくるくると回転しながら、乾いた音を立てて、地面に転がった。

「グレイス――!」

 その様子を見たセレスティアが、思わず声を上げる。

 だが――。


 俺はある種の直感を感じて、豹男レンツを“凝視”し、その状態の変化を確認した。

 ――やはり思った通りだ。

 豹男レンツの状態は、「状態:状況把握・認識力低下」になっている。

 グレイスは、ただ剣を弾かれたのではない。

 豹男レンツがすれ違う瞬間に、呪弾ガンドを放っていたのだ。


 以前、グレイスは俺に「四種類の呪弾ガンドが放てる」と言っていた。

 豹男レンツに当てたのは、その内の一つだと思うが、何故彼女がこの種類の呪弾ガンドを選んだのかは判らない。


 短剣ひとつとなったグレイスを改めて確認して、豹男レンツが再びチャージを仕掛けてくる。

 だが、先ほどまでの突進チャージとは勢いが違う。

 豹男レンツ突進チャージを攻撃スキルの“強打スマイト”で強化して、両手の斧を交差させつつ、グレイスのいる場所へ飛び込んで行った。


 グレイスはその攻撃を後方へバック転しながら避けようとしたが、強打スマイトで強化された一撃は、グレイスの鎧の胸甲きょうこうかすり、彼女の鎧は一撃でバラバラになった。

 鎧を失い、身軽になったグレイスが勢いよく立ち上がると、彼女のボリュームのある胸が大きく弾む。


 グレイスは更に横に飛びながらその場を逃れ、豹男レンツに向けて炎弾フレイムボールを連射した。

 豹男レンツは余裕を見せるように、ニヤリと笑うと、その攻撃を再び岩壁ロックウォールを作ってさえぎる。


 ――まるで、先ほどの再現を見ているようだ。

 豹男レンツは展開した岩壁ロックウォールの影から飛び出すと、グレイスに向けて突進チャージをかけた。

 当然ながらそれを予期していたグレイスは、豹男レンツが飛び出してくるタイミングで火壁ファイアウォールを展開している。

 だが、これも再現されているように、豹男レンツ火壁ファイアウォールをものともせず、そのまま身体で突き破ってきた。

 そして、グレイスに攻撃を放とうとした瞬間――。


「――!?」

 豹男レンツの動きが、その場でピタリと止まる。

 火壁ファイアウォールの先に、グレイスの姿がなかったからだ。

「消えた!?」

 シルヴィアとセレスティアが、驚いて声を上げる。


 ――だが、“状態ステータス”が見える俺には、ゆっくりと豹男レンツ後背こうはいに移動していく “文字と数字ステータスひょうじ”が見えていた。


 グレイスは火壁ファイアウォールによる一瞬の目隠しの間に、潜伏ハイディングとシークレットステップのスキルで姿を隠したのだ。

 そもそもこのタイミングのために、彼女は隠者の長剣ソードオブハーミットを捨ててまで、認識力低下の呪弾ガンドを当てに行ったのだろう。


 そして――。

「――!!」

 突然豹男レンツの背後から現れたグレイスが、“得意技バックスタブ”を放つ!


 彼女の放った不意打ちバックスタブは、見事に豹男レンツの背中にあたり、闘技用の鎧を真っ二つに切り落として、豹男レンツの背中に裂傷を作った。


「――それまでだ!」

 辺りに竜人ヴァイスの大きな声が響く。

 声を聞いたグレイスは、その場で動きを止めた。


 竜人ヴァイスの表情はどちらかというと、満足そうに見える。

 竜人ヴァイスは闘いを終えた二人に近づくと、グレイスに声を掛けた。

「娘よ、名前を聞かせて欲しい」

「――グレイスです」

「グレイスか。

 その名を覚えておく。

 そなたの実力を見誤っていたのは、おれの方だったな」

「いいえ、長期戦であれば、わたしに勝ちはありませんでした」

「その見立ても含めて、気に入った」

 そう言って笑う。

 その笑い声に、シルヴィアとセレスティアの表情がパッと明るくなった。

「では、ヴァイスどの、これで――」

 セレスティアの言葉に、竜人ヴァイスが先ほどよりも大きな笑い声を上げる。

 俺はその笑い声の調子に、嫌な予感を感じた。


聖騎士デイムよ、早とちりをするな。

 ――おれが認めたのはグレイスのみ。

 残りの三人も、実力を示して貰う」


 その発言に、セレスティアの表情が固まった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミックス第①〜⑤巻発売中!】
コミックス

【小説 全①~④巻発売中!】
小説
cont_access.php?citi_cont_id=778032887&s
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ