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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第四部 深淵の迷宮篇
43/117

042 修練

 時間など、過ぎてしまえばあっという間だ。

 結局、修練の道きたえてもらうを選ぶしかなかった俺だが、それがまさか一ヶ月もの期間になるとは思いも寄らなかった。


 レーネの住処すみか深淵しんえんの迷宮の最奥である第二十四層にあるのだが、二十四層の祭壇から縦穴で下に移動して書庫に到達したように、実質は二十五層か二十六層の深さにある。

 レーネはその二十五層目に、書庫とは別の広い空間を作っており、そこが俺にとっての毎日の修練の場になっていた。


 レーネは俺が想像した通り、幻影魔法イリュージョンを得意にしていた。

 だが、彼女が使う幻影魔法は、単なるまぼろしを作り出すだけの魔法ではない。

 俺が祭壇で闘ったオークたちのように、完全に質量をもつ魔物モンスターを作り出すことすらできる。

 イメージとしては召喚魔法に近いのだが、召喚魔法と違ってどこかにいる魔物モンスターを呼び寄せるのではなく、完全にレーネが魔力で作り出したものである。恐らく召喚魔法よりもレベルが高い魔法だ。


 俺は、あれから二十五層目の修練場で、毎日レーネが作り出した幻影魔物モンスターと闘わされていた。

 問題は、レーネが手加減というものを知らず、さらに俺がピンチにおちいっても全く助けようとしない点にあるのだが――。

 一週間も経つと、レーネは俺を鍛えようとしているというより、俺をいじめてそのさまを見て喜んでいるということに気づいた。ひどい。


 俺はこのいじめに耐えるために、朝からレーネの書庫にある魔法書を読みあさり、それを実戦で試すという毎日を送った。

 実戦で負った傷は、レーネがその日の終わりに完全回復フルヒールと、水属性魔法の高位回復である水清ピュリファイを使っていやしてくれる。


 最初はこれが非常にありがたかったのだが、よくよく考えると毎日徹底的に痛めつけられて、最後に完全に回復させられて、翌日また徹底的に痛めつけられるというループを強制されているに過ぎない。

 毎日がこれだと、さながら地獄のような話だが、おかげで俺の数値パラメータとスキルは、前とは比べものにならないレベルまで上昇した。


 一ヶ月経った時点の、俺の主な戦績だが――、

 麻痺状態パラライズを喰らった末に、骸骨戦士スケルトンに切り刻まれて死にそうになったのが一度。

 翼竜ワイバーンから振り落とされて、全身打撲で死にそうになったのが一度。

 土竜ドレイクに飲み込まれて消化されそうになったのが一度。

 食人植物オチューにおかしな病気をうつされて、もがき苦しんだのが一度。

 ――というところだ。


 朝から晩まで続く修練は、俺を相当に疲弊ひへいさせたのだが、この一ヶ月の間で俺を“最も”悩ませたのは毎日の修練そんなことではない。


 まず、レーネの住処すみかには寝室が一つしかなかった。しかもベッドは一つだ。

 これはそもそもこんな場所にレーネだけが住んでいる訳だから、仕方のないことだ。客間があったら、その方がおかしい。


 無論、レーネは毎晩そのベッドに寝ているのだが、俺はそのベッドのそばにあるソファを寝床として与えられた。

 同じソファなら書庫のソファという選択もあるはずだが、レーネから「書庫で眠ると魔力のバランスを崩す」と言われたため、結局は同室のソファで寝ることになったのだが――。


 ――問題はここからだ。

 まず、レーネは夜寝るときに、一切の衣服を着けない。

 それはもう、彼女が寝ている間には、“あんな光景あっちへポヨン”や“こんな光景こっちへポヨン”が毎晩繰り広げられたりしている。


 同じ寝室で寝た最初の日、俺はこの状況は“どう考えても誘われている”と一二〇%思い込み、レーネのベッドに忍び込もうとした。

 だが、まさにベッドに入った瞬間、電撃ボルトの直撃を喰らい、危うくクランシーの制約レベルを一つ落としかけた。

 結局それ以降、ベッドに忍び込もうとするのはやめたのだが――。


 毎晩、真横でとんでもない光景が繰り広げられているのは変わらないし、俺が寝ているソファ位置の関係で、どうしても視界に入ってくる。

 だが、そうは言っても毎晩毎晩生殺し状態なのだ。


 俺は当然しばらくの間、気になって気になって全く眠れなかったのだが、数日後に寝不足と修練の疲労がピークに達してからは、微妙に気にならないようになってきた。

 そう、まるで欲望を満たしたやることやった後の、“賢者モード”のように――。


 これも“あらゆる意味”で鍛えられている一環なんだろうか?

 とはいえ賢者モードの達人だから賢者セージと呼ばれるなんて、絶対イヤすぎる。



 そんなことを考えているのを知ってか知らずか、修練開始から一ヶ月が経過した日、レーネは珍しく書庫にいる俺に声を掛けてきた。

 レーネは俺が朝、書庫にいる間は本を読んでいることを知っているから、普段はほとんど声を掛けてこない。

「ケイ、いい具合に野獣のような目をするようになったな。

 見つめられると今にも襲われそうな気分じゃ」

 そう言って声を上げて笑う。

 ぶるぶる胸元が揺れていた。出来るなら今すぐ襲いたい。

「正直この一ヶ月はキツかった。

 修練とは名ばかりの虐待ぎゃくたいばかりだったしな」

「言いよるわ。

 あの程度で音を上げているようでは、私のしもべには成れぬぞ」

「――おい、ちょっと聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ!?」

 俺がツッコミを入れると、レーネは笑って誤魔化ごまかした。

「フフフ。

 ――さて、おぬしがここに来て、既に一月ひとつきが過ぎた。

 そろそろ二十四層目の守護者に、挑戦しても良かろうと思ってな」

 二十四層目の守護者と聞いて、俺は一ヶ月前にレーネから聞いた名を確かめてみた。

「確か、二十四層目の守護者は半蛇女王ラミアクイーンだったか」

「そうじゃ。

 最終的に闘うか闘わないかは、自分で決めるが良い。

 支度ができたら、一度様子を見に行こう」


 俺はレーネの言葉に従い、完全装備をした上で、自分の状態ステータスを確認する。

 修練の間は支配者の籠手ロードブレイサーの装備は許されていたのだが、審判の法衣ジャッジメントローブの装備が許されていなかった。理由は簡単で、修練中に“壊れる可能性があるから”というものだった。

 なので、俺が審判の法衣ジャッジメントローブ姿になるのは、一ヶ月ぶりだ。


**********

【名前】

 安良川あらかわ けい

【年齢】

 21

【クラス】

 賢者セージ

【レベル】

 46

【ステータス】

 H P:4891/4891(+200)

 S P:5020/5020(+350)

 筋 力:933

 耐久力:874(+50)

 精神力:2089(+120)

 魔法力:1713(+140)

 敏捷性:670

 器用さ:744

 回避力:646(+30)

 運 勢:143(+100)

 攻撃力:993(+60)

 防御力:1433(+559)

【属性】

 なし

【スキル】

 ステータス★(全対象)、鑑定★、無属性魔法7、火属性魔法4、水属性魔法3、風属性魔法3、土属性魔法4、光属性魔法5、闇属性魔法2、回復魔法6、空間魔法6、幻影魔法4、付与魔法8、状態異常魔法デバフ3、生活魔法、光属性耐性★、闇属性耐性4(+4)、攻撃魔法抵抗レジスト4、状態異常魔法抵抗レジスト4、接触付与エンチャント、属性付与エンチャント賢者の祝福ブレスオブセージ光結界オルター開門ゲート、回復魔法強化、属性魔法強化2、状態異常魔法強化、付与エンチャント強化、攻撃スキル強化、魔力増幅2(+2)、精神統一7、精神集中3(+1)、魔力制御★(+4)、盾防御3、剣術2、斧術1、体術4、棒術4、突術2、交渉術2、属性耐性4(+3)、精神耐性★(+3)、睡眠耐性6、苦痛耐性8、病気耐性3、状態異常耐性5(+3)、自動体力回復7(+2)、自動状態回復2、自動魔力回復4、収集3、編み物1、家事2、フロレンス語学

【装備スキル】

 軽量化

 魔法盾マジックシールド絶対防御結界アブソリュートディフェンス、武器攻撃力強化

【称号】

 クランシーの使徒、異邦人、探求者、竜族狩りドラゴンベイン、獣人狩り、蛮族狩り、教会手伝い、魔道師ウィザード、魔法使い(ソーサラー)、狩人、幻影術士イリュージョニスト、治癒術士、付与術士エンチャンター賢者セージ、社畜

【装備】

 祝福の杖(攻撃力+40)

 審判の法衣ジャッジメントローブ(防御力+438)

 支配者の籠手ロードブレイサー(防御力+121)

【状態】

 クランシーの制約LV97▼

**********


 俺のレベルは、もはや教会の神父ロドニーを上回り、大鬼の王ジノと同じところまで到達している。

 正直、今内務卿カーティスと闘うならば、俺一人で更に魔人の武器がなかったとしても、それなりに良い勝負ができるんじゃないかと思うぐらいだ。

 ――だが、こういう時に最も怖いのは油断や慢心まんしんだということも、俺は良く知っている。

 レベルが上回っていれば勝てるというのなら、俺は教会の神父ロドニー大鬼の王ジノには勝てていない。

 この世界フロレンスには数値だけでは量れないことが、存在しているのだ。それを忘れてはいけない。



 支度を終えた俺は、俺が最初に書庫に入ってきた時の出入り口とは、別の出入り口に案内された。

 そちらの出入り口は、普段レーネの幻影魔法で壁のままになっている。

 レーネは壁を扉に変えて、そこから第二十四層に入った。

「ケイ、私はここから先は手を貸さぬ。

 半蛇女王ラミアクイーンは、見た目よりもずっと強い。

 おぬしは普段であればやつの魅了みりょうには掛からぬじゃろうが、やつが持つ三叉槍トリアイナで傷つけられれば身体の抵抗が下がり、魅了みりょうに掛かる可能性が出てくる。


 ――良いか、他の攻撃はいくら受けても構わぬ。

 だが、絶対に三叉槍トリアイナの攻撃は喰らうな。

 助ける仲間のおらぬおぬしが喰らえば、恐らく命はない。


 何度も言うが、私はおぬしが死ぬことになろうと手は貸さぬ。

 それを肝に銘じて闘うことを決めるがよい」

 俺はレーネの真剣な視線を受け止めながら、答える。

「良くわかった。気をつける。

 ――しかし、あんたも手を貸さないと言いながら、しっかり助言アドバイスをくれるのは、お人好しの証拠だな」

 俺がレーネを見ながらニヤリと笑うと、彼女は視線を外しながら小声で言った。

「まったく――まらぬところが似ておるわ」

「似ている?」

「――何でもない、さっさと行くがよい!

 この先の扉を過ぎれば半蛇女王ラミアクイーンの部屋じゃ。

 油断のないようにな」

「ああ。

 ――そう言えば、開門ゲートくさびを書庫に打たせて貰っているが、問題ないな?」

 開門ゲートはクルトが使っていた空間転移の魔法で、俺はこの一ヶ月の間に習得して、使えるようになっていた。

 ただ、開門ゲートで転移するためには“くさび”と呼ばれるマーカーを打つ必要があり、このくさびのない場所には転移することができない。

 なので、俺は開門ゲートを使って深淵しんえんの迷宮から脱出することはできないのだ。

 くさびは固定された場所だけでなく、人間や動物にも打つことができる。

「呆れた男じゃ。もう無事に帰ってくる時の相談か。

 ――問題ないから、さっさと倒して戻ってくるが良い」

「了解だ」

 俺はニッコリ微笑むと、扉に向けて歩き出した。


 扉の前まで進んで振り返ると、まだレーネは俺を見送っている。

 何だかんだ言って、結構心配性だな。


 俺は装備を確認して、付与エンチャントを掛けると、ゆっくりと重い扉を開いた。



 扉を開いた先は、かなり広い空間になっている。

 部屋の中に水が流れているのか、流水の音がする。

 慎重に足を進めると、ガラガラと、蛇のうろこるような音が響いてくる。


 俺は部屋の中にある柱の影に身を隠しながら、音がする方向をのぞいてみた。


 ――いた。


 上半身が女性、下半身が蛇の姿をしている。右手に三叉槍トリアイナを持っているのが判る。

 上半身だけ見ると、かなり見目麗しい女性だ。顔も、ウェーブの掛かった髪も美しい。


 だが、何よりけしからんのが、上半身が素っ裸だということだ。しかもデカい。

 きっとレーネといい勝負だろう。魅了スキルにやられた覚えはないが、さっきから俺の視線が釘付けだ。


 じっと凝視しつづけていると、意図をんだのかどうか良く判らないが、半蛇女王ラミアクイーン状態ステータスが表示された。


**********

【名前】

 半蛇女王ラミアクイーン

【クラス】

 魔物モンスター

【レベル】

 44

【ステータス】

 H P:16940/16940

 S P:2889/2889

 筋 力:1844

 耐久力:1603

 精神力:810

 魔法力:875

 敏捷性:701

 器用さ:556

 回避力:489

 運 勢:502

 攻撃力:2188(+344)

 防御力:1603

【属性】

 水

【スキル】

 水属性魔法6、風属性魔法4、状態異常魔法デバフ3、魔力制御6、槍術6、棒術4、突術6、串刺しスキュア、吸血、魅了8、属性耐性3、精神耐性★、睡眠耐性★、状態異常耐性★、自動体力回復4

【装備スキル】

 耐性低下、電撃ボルト

【装備】

 三叉槍トリアイナ(攻撃力+344)

【状態】

 なし

**********


 ――レベルは辛うじて俺よりも低い。

 その結果として、相手の状態ステータスが包み隠さず判るのは助かる。

 HPはボス敵なりに多く、全体的にスキルの種類は少ないが、どれもレベルが高い。特に水属性のレベル6は、どんな魔法が飛んでくるか注意が必要だ。

 中には“吸血”などという、おぞましいスキルもある。レーネの言う通り、魅了されたら洒落しゃれにならないことが起こりそうだ。


 だが、一番の問題は三叉槍トリアイナの装備スキルだろう。耐性低下はレーネの情報通りだが、電撃ボルトは聞いていなかった。

 電撃ボルトは俺がレーネのベッドに忍び込もうとして喰らったという過去もあるが、非常に避けるのが難しい魔法だ。

 以前、内務卿カーティスとの闘いで、水壁ウォータウォール岩壁ロックウォールを組み合わせて防いだことはあるが、何撃も続けて防ぐ自信はない。

 となれば、三叉槍トリアイナの攻撃は、喰らわないことは当然として、受け止めることも出来なさそうだ。

 受け止めさえしなければ、電撃ボルトは発動しない。だが、この制限は、正直結構きつい。


 俺は一通りの状態ステータスを確認して暫く考えた後、やはり半蛇女王ラミアクイーンに、このまま挑むことにした。


 俺はここに至るまでで、一ヶ月の期間を使ってしまっている。

 クルトも見つかっていないし、何よりグレイス、シルヴィア、セレスティアがどうなったのかが判らない。

 彼女たちは、無事であれば、きっと俺をさがしているに違いない。それを考えれば、更に時間を使って、進むべき道を迂回うかいするのは避けたかった。


 静かに、俺は精神を集中して、闘うための準備を整える。


 そして、俺の見える位置から半蛇女王ラミアクイーンが後ろ姿を見せた瞬間――俺は柱の影から飛び出した。




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