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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第四部 深淵の迷宮篇
39/117

038 罠

 ――頬を叩く、冷たい感触がある。


 その定期的な感触の後に、何かが頬を流れている。

 恐らく何かのしずくが、頬に流れ落ちているに違いない。

 ただ、落ちる滴が水なのか血なのか――俺は、直前に起きた出来事を思い返しながら、そんな想像をしていた。


 薄らと目を開けてみると、周囲は真っ暗闇だ。

 ――確か、こんなことが前にもあった。


 以前、暗闇の空間で目覚めた後、俺は老人――クランシーの使徒に会い、この世界に運ばれて来た。

 あの時の“世界と世界の狭間”を彷彿ほうふつとさせる情景だ。


 俺は固い地面に、完全に仰向けに倒れ込んでいる。

 目が慣れて来たのか、暗いながらも周りの情景が少しずつ見えて来た。


 ここは、世界と世界の狭間ではなく、迷宮ダンジョンだ。

 魔石像の王ガーゴイルロードとの闘いの最中さなかに、俺は床に開いた穴に落ちた。

 落下している間に気を失ったのかもしれないが、落下してからの記憶がハッキリしない。


 周囲にはわずかな水が流れるような音が聞こえる。

 身体が濡れている感覚はないので、床が濡れている訳ではない。


 俺はゆっくり右腕を動かしてみた。

 ひじに少し痛みはあるが、動かせない状態ではない。


 自分の頬をさすると、手にしずくが落ちてきたのが判る。

 感触としては、血のような粘ついたものではない。恐らくこれは水だ。


 俺は横に転がりながら、身体を起こそうとした。

 背中や頭、脚に痛みが広がる。

 俺は自分自身に大回復エルダーヒールを使うと、身体を起こして自分の状態ステータスを確認してみた。


**********

【名前】

 安良川あらかわ けい

【年齢】

 21

【クラス】

 賢者セージ

【レベル】

 36

【ステータス】

 H P:2725/3364(+200)

 S P:3373/3420(+350)

 筋 力:773

 耐久力:691(+50)

 精神力:1466(+120)

 魔法力:1283(+140)

 敏捷性:492

 器用さ:540

 回避力:488(+30)

 運 勢:131(+100)

 攻撃力:793(+20)

 防御力:1250(+559)

【属性】

 なし

【スキル】

 ステータス★(全対象)、鑑定★、無属性魔法3、火属性魔法3、水属性魔法2、風属性魔法2、土属性魔法4、光属性魔法1、闇属性魔法1、回復魔法2、付与魔法4、生活魔法、光属性耐性★、闇属性耐性4(+4)、攻撃魔法抵抗レジスト4、状態異常魔法抵抗レジスト4、接触付与エンチャント、属性付与エンチャント光結界オルター、回復魔法強化、属性魔法強化2、状態異常魔法強化、付与エンチャント強化、攻撃スキル強化、魔力増幅2(+2)、精神統一5、精神集中1(+1)、魔力制御★(+4)、剣術1、斧術1、体術3、棒術3、突術2、交渉術2、属性耐性3(+3)、精神耐性★(+3)、睡眠耐性4、苦痛耐性4、病気耐性2、状態異常耐性3(+3)、自動体力回復7(+2)、自動状態回復2、自動魔力回復4、収集3、編み物1、家事2、フロレンス語学

【装備スキル】

 軽量化

 魔法盾マジックシールド絶対防御結界アブソリュートディフェンス、武器攻撃力強化

【称号】

 クランシーの使徒、異邦人、探求者、蛮族狩り、教会手伝い、魔法使い(ソーサラー)、狩人、治癒術士、付与術士エンチャンター賢者セージ、社畜

【装備】

 審判の法衣ジャッジメントローブ(防御力+438)

 支配者の籠手ロードブレイサー(防御力+121)

【状態】

 クランシーの制約LV97▼

**********


 宰相オルガから譲り受けた装備のおかげで、相当に豪華な状態ステータスになっている。

 とはいえスキルは多彩でも、それぞれのレベルはさほど高くないこともあり、実際に敵と相対した時に、攻撃手段に困ることが多いのも確かだ。正直ここまで魔弾マジックボール以外の攻撃手法を、真面目に磨かなかったという負い目もある。


 そして――予測はしていたが、“クランシーの制約”は、やはりレベルを一つ落としていた。

 レベルが一つ落ちた――つまり、俺は落下によって生命の危機にひんし、制約という名の“加護”の力によって、回復されたことを意味している。


 俺は左手の支配者の籠手ロードブレイサー光源ライトともすと、自分の身の回りの様子を探ってみた。

 暗い空間だが、ここは明らかに迷宮ダンジョンの中だ。

 かなり深い階層まで落ちてしまったのか、上を照らしても暗闇が広がるばかりで、天井が見えない。

 声を上げてみることも考えたが、そもそも上から戦闘音が聞こえてこないし、声を上げることで魔石像の王ガーゴイルロードのような、強力な敵を引きつけてしまうリスクもある。


 一番の問題は、俺が落下してからどれくらいの時間が経過したのか、全く判らないことだ。

 グレイス、シルヴィア、セレスティアはちゃんと敵を撃退できただろうか? 無事でいるだろうか?


 ――そんなことを考え始めると、思考が前を向かなくなってくる。

 一旦全ての考えを封じ込めて、目の前の事態にどのように対処すべきかということに集中しよう。


 俺は回復ヒールを使ってHPを最大まで戻すと、自分の身体と装備に損傷がないか、確認を行った。

 幸いにして、どちらも取り返しの付かないことにはなっていない。


 俺は資産インベントリから食料を取り出して食べ、その後にあらかじめ買っておいた、かしの木で作られた“祝福の杖”を取り出した。

 市場バザールで買っておいた店売りの武器で、特に強くはないのだが、魔力を通す。

 結局魔法で闘うことになる俺としては、この“魔力を通す”という部分が一番重要なのだ。

 樫の木なので、杖で敵の攻撃は受け止められないが、その役割は支配者の籠手ロードブレイサーで十分だろう。


 俺は自分に付与エンチャントを掛け、装備にも接触付与エンチャントを掛けた。

 祝福の杖に光源ライトともし、周りを詳しく調べてみる。

 比較的大きな空間の中に落ちたようだ。足下を見ると溝があって、そこに少しだけ水も流れている。

 できるだけ足音が大きくならないように、空間の中を調べていく。

 空間からの出口になる通路は一カ所しかないようだ。

 かく、ここが何層のどこなのかは判らないが、落ちた以上は上を目指して登っていくしかない。

 俺は空間からの出口になる通路に足を踏み入れた。


 通路は突き当たりが左への曲がり角になっているようだ。

 警戒するなら明かりを消して進むべきなのだろうが、俺は祝福の杖に明かりを点けたまま、その曲がり角を慎重に曲がっていく。


 そこから足を進めて行くと、更に二度の曲がり角があり、通路は広い空間へと繋がっていた。

「――――」

 俺は慌てて祝福の杖の光源ライトを消す。

 光源ライトを消しても、到達した部屋には明かりがあるため、中の様子はうかがい知ることができた。

 俺が到達した部屋は、かなり広い空間になっており、部屋の一部がロフトのように二階になっている。

 俺が出てきたのは、その二階部分に当たる場所だ。

 そして、一階部分には明かりが付いており、そこには一枚の扉と、扉を護るように立っている骸骨スケルトンの戦士が二匹いる。

 骸骨戦士スケルトンウォーリアは、それぞれ右手に長剣を持ち、左手に長方形の盾を持っていた。

 立ってじっとしていると、それこそ理科室の標本みたいだが、標本なんかよりも二回りぐらい大きく、恐らく背の高さは俺よりも高い。

 俺は骸骨戦士スケルトンウォーリアをじっと見つめると、状態ステータスを確認していく。


**********

【名前】

 スケルトンウォーリア

【クラス】

 魔物モンスター

【レベル】

 28

【ステータス】

 H P:1544/1544

 S P:461/461

 筋 力:740

 耐久力:811

 精神力:783

 魔法力:159

 敏捷性:574

 器用さ:317

 回避力:343

 運 勢:308

 攻撃力:823(+83)

 防御力:869(+58)

【属性】

 闇

【スキル】

 剣術4、盾防御4、シールドバッシュ、闇属性耐性7、状態異常耐性★

【装備】

 鉄の長剣アイアンロングソード(攻撃力+83)

 方形の盾ヒーターシールド(防御力+58)

【状態】

 なし

**********


 レベルは俺よりも低い。数値パラメータ的にも勝てない相手じゃないはずだ。

 盾の一撃シールドバッシュには気をつけた方がいいが、問題は敵が二匹いることだろう。

 魔弾マジックボール・特大を当てたところで、1500ものHPを一気に吹き飛ばすのは難しいように思える。広域化スキルのない俺は、一体ずつを攻撃しなければならない。

 いきなり礫雨ロックレインに光属性を付与エンチャントしたもので攻撃することも考えられるが、付与エンチャント中は精神集中のために動くことができない。敵の足を止めずに礫雨ロックレインを使った場合、攻撃範囲から抜け出して襲われると、目も当てられない状況になる可能性がある。


 俺は音を立てないように自分がいるロフト部分から一階に至る階段に移動すると、いくつかの魔法を仕込んだ上で、骸骨戦士スケルトンウォーリアの片方に魔弾マジックボール・特大を放った。

 魔弾マジックボール・特大は扉の右側に立つ骸骨戦士スケルトンウォーリアを吹き飛ばし、壁に激突させる。一瞬骨格がバラバラになったように見えたが、直ぐさま元の姿に戻り立ち上がった。見ると、HPは半分ぐらいまで落ち込んでいる。

 二匹の骸骨戦士スケルトンウォーリアは、俺の存在に気づき、走って俺を追い詰めようとしてくる。

 俺は二階のロフト部分に上がり、骸骨戦士スケルトンウォーリアがやってくるのを待った。


 俺を追いかけてくる骸骨戦士スケルトンウォーリアがロフト部分に駆け上がろうとした瞬間、階段のみ板に仕込んだ接触魔法の土銃ドレイクガンが発動する。

 二匹の骸骨戦士スケルトンウォーリアは、足下の骨を崩され、バラバラになって転げた。

 俺はそこへ礫雨ロックレインを発動し、意識を集中して光属性を付与エンチャントしていく。

 光り輝くつぶての雨は、階段の下に転がった骸骨戦士スケルトンウォーリアに降り注ぎ、最初に魔弾マジックボールを当てた骸骨戦士スケルトンウォーリアは、HPをなくし、消滅していく。

 残ったもう一匹は、バラバラになっていた骨格が組み上がると、階段を駆け上がって、鉄の長剣アイアンロングソードを振るって来た。

 俺は攻撃を支配者の籠手ロードブレイサー魔法盾マジックシールドで受け止めると、右手に持った祝福の杖から、魔力を込めた光弾スターシェルを複数放った。

 光弾スターシェル骸骨戦士スケルトンウォーリアの頭と身体と腕にそれぞれヒットし、残りわずかとなっていた敵のHPを削り去った。


 ――何とか上手く倒せたようだ。

 俺は憑代よりしろおぼしき銅色のカギを拾うと、骸骨戦士スケルトンウォーリアが護っていた扉の前まで移動する。

 扉の周りを調べると、松明たいまつか何かだと思っていた部屋の明かりは、実際は松明たいまつした燭台しょくだいに、光源ライトの魔法がついていたことが判る。

 骸骨戦士スケルトンウォーリアは倒してしまった訳だが、光源ライトは消えていない。ひょっとしたらまだ魔法使いソーサラーが近くに隠れているのかとも思ったが、どうやらそうでもないようだ。

 どうも燭台しょくだい自体が魔法の品で、光源ライトをずっとともし続けているようだ。

 これはこれで街に持って帰ったら、結構な値段が付くかもしれない。

 俺は二つある燭台しょくだいのうち、片方を外すと資産インベントリにしまい込んだ。

 どうしても欲しかった訳ではないが、どこかで役に立つかもしれない。


 俺は扉に鍵穴かぎあなが付いているのを見つけると、何となしに先ほど骸骨戦士スケルトンウォーリアが落としたカギを差し込んでみた。ひねって解錠しようとすると、手に持ったカギが粉々になって消え、直後、周囲にガチャリという、鍵が開く音が響いた。

 鍵と鍵穴という形にはなっていたが、どうやら施錠せじょう自体は魔法でされていたようだ。

 上手く開いたことに満足した俺は、そのまま扉を開こうとした。


「――ちっ!!」

 その瞬間、右手に激痛が走る。

 見ると扉から針のようなものが飛び出し、右手の平に突き刺さったようだ。

 傷自体は大きくないが、状態ステータスを確認した俺は顔をしかめる。


 状態が「猛毒」になっていた。


 俺はHPの減少を目で確認しながら、以前『冒険に役立つ魔法術』を読んで覚えはしたものの、一度も使ったことのなかった解毒キュアポイズンの魔法を使ってみた。

 ――どうやら、一度では快復しきれないようだ。

 その後、解毒キュアポイズンを四度使って、ようやく状態が「猛毒」から「毒」に変わった。

 俺の額には汗がしたたり、既にHPは1000近く減少している。


 これが戦闘中の出来事だったら危険だった。

 罠の可能性を忘れていた訳ではないが、今更ながらパーティの先頭を進むグレイスに、どれだけ依存していたかを思い知らされる。


 俺は改めて支配者の籠手ロードブレイサーを着けた左手で扉を押した。

 今度は罠が発動せず、無事に扉が開いた。



 扉の先は、更に広い空間になっており、中央に祭壇さいだんのようなものが設けられているのが判る。

 部屋の左右には、先ほどと同じようにロフト部分が設けられ、手前にある階段から上にあがることができるようだ。

 見渡すと、ロフト部分に魔物モンスターの影はない。

 物陰に隠れていたとしても俺には状態ステータスが見えるので、この部屋には敵はいないと考えて良さそうだ。


 がらりとした雰囲気の中、祭壇の向こうに大きな石像のようなものが見える。

 慎重に近づき、何の石像か確認してみたが、人間のようでいて背中に翼があり、更に腕が左右に二本ずつ、合計腕が四本ある石像だった。

 石像はそれぞれ、右手に剣と槍を、左手に杖と盾を持っている。


 俺はそれが見覚えのない石像であることを確認すると、今度は祭壇に上がって壇上を確認しようとした。

 どうも、祭壇の上に何かが置かれているようで、俺はそれが気になっていたのだ。


 俺は祝福の杖でコツコツと祭壇を叩き、罠がないことを確認しながら壇上に上がった。

 祭壇の上に置かれているのは、何かの書物のようだ。


 俺がそれに手を伸ばした瞬間、急に左側から弓弦ゆみづるの音が響く!

「――くっ!!」

 放たれた矢は、俺の左肩に突き立ち、俺は突然の苦痛に表情をゆがめた。

 見れば、今まで敵のいなかった左右のロフト部分に、複数のオークたちが立っている。

 祭壇が何らかのスイッチになっていたのかもしれない。

 だが、それが罠であるならば、きっとこの先には“罠を仕掛けるだけの何か”がある。


 俺は痛みを感じながらも、どこか心に高揚を抱きつつ、オークたちに魔弾マジックボールを放った。




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