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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第三部 アンセル篇
32/117

031 光

「何――!?」

「何だ!?」

 前方で対峙たいじしていたセレスティアと内務卿カーティスは、少し離れたところから発せられた強い光に注意を引きつけられた。

 セレスティアと内務卿カーティスの動きは完全に止まり、俺とグレイスの動きに注目している。


 俺は周囲の視線を集める中、光の中から慎重に得物えものを取り出していく。

 だが、その過程で、今までとは違った感触を感じた。

 何だろう――? 両手につかんだものに、“一体感”を感じる。


 両手に握ったものを、少しずつグレイスの胸元から引き出して行くと、それは両手で持つに相応ふさわしい長さを持った、一本の“杖”だった。

 杖は頭の部分に凝った意匠いしょうの細工がしてあり、全体が淡い黄金色の魔法の光で包まれている。

 重さとしては片手で持てる程度ではあるが、長さは背の高さ近くまであり、片手で振り回すような品ではない。

 素材は明らかに木ではないのだが、金属でもないように感じる。何の素材で出来た杖なのかが良く分からない。


「まさか――賢者の杖スタッフオブセージ――?」

 宰相オルガが俺が手にした杖を見て、言葉を漏らした。

 宰相オルガはこの杖の詳細を知っているのだろうか?

 俺はそれを確かめる意味も含めて、自らの持つ杖を凝視してみた。


**********

【装備名】

 『賢者の杖スタッフオブセージ

【種別】

 魔人杖(ユニーク)

【ステータス】

 S P:上限+2000

 S P:3秒ごとに20低下

 精神力:+400

 魔法力:+600

 運 勢:+100

 攻撃力:+306

 防御力:+98

【属性】

 光

【スキル】

 光属性魔法+6、火属性魔法+3、水属性魔法+3、風属性魔法+3、土属性魔法+3、光属性耐性★、闇属性耐性+6、回復魔法+4、賢者の祝福ブレスオブセージ、属性付与、付与エンチャント強化、光結界オルター聖なる檻セイクリッドプリズン浄化バニッシュ、魔力制御+4、精神集中+4、魔力増幅、属性耐性+6、精神耐性+6、状態異常耐性+6、自動魔力回復+6

【装備条件】

 契約者および契約者が認めた人物のみ

希少価値レアリティ

 SS

**********


 宰相オルガの言う通り、この杖は賢者の杖スタッフオブセージで間違いない。

 だが、それが判ったということは、宰相オルガはこの杖をどこかで見たことがあるということなのだろうか?

 ――それはさておき、相変わらず反則級の代物であることは間違いない。

 無論、これまでグレイスが持っていた武器は、どれも反則チート級の強さではあったのだが。


 俺は、賢者の杖スタッフオブセージのスペックの中で、“属性付与”というスキルに吸い寄せられていた。

 これが文字通りのスキルなのだとしたら、全員の武器を光属性にすることができるのかもしれない。


 ただ、この杖一本で、3秒で20のSPが吸い取られるというのは、燃費が悪いどころの話ではない。

 しかもこの杖は、単体で攻撃できる武器ではなく、魔法を使うための武器だ。だとすると、さらに魔法を使うためのSPを消費することになる。


 ところが、俺の状態ステータスを改めて確認すると、先ほどからSPは減っていない。

 むしろ今までにないスピードで回復していっているように見える。

 どうやら吸い取られるSPよりも、強化された自動魔力回復の効果が上回っているようだ。

 同じ武器の中でSPの減少と回復が同時に起こっているのは不思議な気分だが、取り急いでのSP枯渇こかつ問題は、杞憂きゆうで済みそうだった。


 俺は鉄の籠手ガントレットを装備し直し、杖を目前のグレイスに向けると、光をイメージしながらグレイスに付与エンチャントを掛ける。

 すると、グレイスの長剣を淡い光が包み込んだ。

「――これは?」

 グレイスは目を開き、俺をうるんだ目で見つめる。

 魔人の武器を取り出した後は、気だるい表情になるのがどうにも色っぽい。

 俺も先ほどの手の感触が思い出されて、ちょっとドキドキする。

「――光属性の付与エンチャントだ。

 闇属性のグレイスに掛かるか心配だったが、武器に付与エンチャントするのは、ひとまず大丈夫なようだな」

 俺はそういうと、内務卿カーティスのいる方向へ向き直った。


 内務卿カーティスは起こった出来事を興味深く観察しながらも、俺がグレイスから武器を取り出したこと自体には、別段驚いた様子がない。

 むしろ、元々知っていたかのように、ニヤニヤと笑みを浮かべているふしがある。

「――なるほど、これが“あの男”が言っていたことか」

 普段はSPの減少が気になって、「ゴチャゴチャ言うな」と、売り言葉に買い言葉を返すのだが、流石さすがにこの発言は気になった。

「“あの男”――?」

「おっと、お喋りが過ぎたな」

 内務卿カーティスはそう言って、セレスティアに暗闇の大剣を振るう。

 構えていたセレスティアが盾で受け止めると、再び両者の間に細かな魔法の火花が飛び散った。


 内務卿カーティスの言う“あの男”というのは、俺たちの追うクルトである可能性が高い。

 何しろこれまで俺がグレイスから武器を取り出す場面を見て生き残った敵は、クルトしかいないからだ。

 この場にクルトが隠れている可能性については、考えなくもなかったのだが、こういう言い方でやつの存在が示唆しさされると、流石に心に不安がぎる。


 過去、二人の魔人によって、戦力が分断されたとき、何が起こったか――。

 クライブがどうなったのかを考えると、嫌な予感が脳裏を駆けめぐってしまう。


「セレス、もう一匹魔人が隠れている可能性がある」

「お前たちが追っていたヤツか」

「ああ――。

 だが、取り急ぎは内務卿カーティスに集中してくれていい」

 俺はセレスティアに情報を伝えはしたものの、それを無視する指示を出す。


 何となくだが、俺はクルトの目的に気づきつつある。

 ヤツの最終目的は判らないが、“この場面”における、クルトの目的は何となく想像がつく。

 もし、それが俺の想定通りであれば、クルトはどこかでこの闘いを見ているかもしれないが、きっと手出しはしてこない。


 ヤツの最終目的が判らない以上、このまま内務卿カーティスと闘うのには躊躇ちゅうちょを覚えるが、内務卿カーティス内務卿カーティスで危険な存在だ。このまま野放しという訳にもいかない。

 まずは目の前に集中するしかないだろう。


 問題は、例え光属性の付与エンチャントができたところで、それだけで勝てるかどうかは判らないところだ。

 何しろ俺たちは、内務卿カーティスの持つ能力を、全く理解していないのだから――。


 内務卿カーティスは、一度バックステップを踏むと、暗闇の大剣を左に大きく振りかぶった。

 これまでの闘い方は、正直大鬼の王オーガキングのジノと大差のない、力押しの、ある意味馬鹿正直な闘い方だった。

 だが、このタイミングで、初めて内務卿カーティスは、闘い方に変化を加えてくる。


 セレスティアはこれまでと変わらず、内務卿カーティスの放った斬撃を、戦乙女の剣ジャクリーンで受け流そうとした。

 そして、両者の剣の間に火花が散った時、別の電撃が内務卿カーティスの身体から暗闇の大剣、そして戦乙女の剣ジャクリーンを通ってセレスティアに到達する。

「――!!

 あああぁぁぁぁっ!!」

 一瞬の驚きの後、セレスティアが大きなうめき声をあげた。

 セレスティアの身体を無尽むじんに駆け巡った電撃が、彼女を数秒間に渡って痛めつけている。

 その間、周囲は俺がグレイスから武器を取り出した時以上のまぶしい光に包まれた。

 それは、これまでの単調な攻撃からは想像できなかった、雷撃ボルトの魔法の一撃だった。


 内務卿カーティス雷撃ボルトを喰らってふらつくセレスティアに、右回し蹴りで追い打ちを掛ける。

 俺とシルヴィアがそれに反応して、魔壁マジックウォール岩壁ロックウォールを作ったが、内務卿カーティスの回し蹴りはその二つを軽々粉砕し、防御姿勢の取れなかったセレスティアを、まともに蹴り飛ばした。

「セレス!!」

 頭の方から転がったセレスティアに俺が駆け寄り、大回復エルダーヒールを掛ける。

 賢者の杖スタッフオブセージによって増幅ぞうふくされた大回復エルダーヒールは、一気にセレスティアのHPを全快させた。

 だが、見た目上のHPは回復しているが、セレスティアは神経系にペナルティを負っている気がする。明らかに立ち方がふらついている。

「ケイ、危ない!」

 シルヴィアの声に反応して、その場を飛び退いた。

 即座の反応が取れなかったセレスティアは、本能的に盾で防御姿勢を取ったが、大剣の一撃に身体が大きく流された。

 セレスティアが追い打ちを受けそうになった瞬間、グレイスが内務卿カーティスの後方から不意打ちバックスタブを仕掛ける。

 その攻撃は見事に当たり、内務卿カーティスの背中に裂傷を作った。

 光属性を付与エンチャントした長剣は、決して深い傷ではないが、作った傷口の周りを黒く変色させる。


 内務卿カーティスは表情をゆがめると、グレイスに攻撃対象ターゲットを移し、大剣を横ぎに振るった。

 グレイスはそれを華麗に避けたが、その後の第二撃、第三撃となって、動きが鈍ってくる。

 俺とシルヴィアは都度、魔弾マジックボール岩壁ロックウォールでサポートを仕掛けたが、内務卿カーティスは一心不乱にグレイスを狙い続けた。


 そもそも、武器を取り出した後のグレイスは万全ではない。

 第四撃目をかわしたものの、足下のバランスを崩したグレイスは、内務卿カーティスの放った左手のパンチをもろに身体に喰らって、後ろに弾け飛んだ。

 俺はその光景の衝撃に、声を上げるのも忘れてグレイスの側に必死で駆け寄る。

 起き上がろうとしたグレイスが、口から少量の血を吐いた。

 俺は大回復エルダーヒールで傷をやす。何となくだが、グレイスの肋骨あばらぼねが折れているような気がする。

「グレイス、下がれ」

 グレイスは、無言で少しうなずくと、俺の後方へと下がっていく。


 内務卿カーティス対峙たいじするのは、防御姿勢が完全じゃないセレスティアだ。

 シルヴィアは内務卿カーティスの動きを阻害そがいするように、岩壁ロックウォール土銃ドレイクガンを放っているが、まさに牽制けんせいにしかなっていない。


 セレスティアは内務卿カーティスの攻撃を受ける度、今までとは明らかに違う歩幅で後退している。

 そして、後退するセレスティアとシルヴィアの距離が近づいた時、俺の目にニヤリと笑った内務卿カーティスの顔が映った。

 得も言われぬ嫌な予感が駆け巡る。

「ダメだ、二人とも離れろ!!」

 俺が叫んだ直後、セレスティアが次の攻撃を盾で受け止めた。

 その瞬間、再び雷撃ボルトの魔法がセレスティアを襲う。

 そして、その魔法は俺の声を聞いて駆け出しそうになっていたシルヴィアをも、後ろから巻き込んだ。

「きゃぁぁぁぁぁああああっ!!」

 シルヴィアの甲高い悲鳴とセレスティアのうめき声が重なる。

 その魔法が終わった直後、セレスティアはその場でひざをつき、シルヴィアはうつぶせにバッタリと倒れてしまった。


 ――まずい。

 魔人の武器を取り出し、光属性の付与エンチャントに活路が見いだせると思ったのだが、内務卿カーティスの魔法剣の攻撃に、パーティが崩壊ほうかいさせられてしまっている。


 ロドニー、ジノの時と違うのは、俺が前線に出ていないことだ。

 賢者の杖スタッフオブセージで前線に立てるとは思わないが、パーティを立て直すためにも、目一杯の能力を引き出すしかない。


「――呆気あっけないものだな」

 セレスティアが崩れ、シルヴィアが倒れ、グレイスが負傷したのを見て、内務卿カーティスが嬉しそうに言った。

 確かにまともに立っているのは俺しかいない。既に勝ったつもりなんだろうか。


 俺はヤツの注意を最大限、俺に集中させて、時間をかせぐことにした。

内務卿カーティス、お前――クルトに利用されていることが、理解できていないようだな」

 その発言を聞いて、嬉しそうに語っていた内務卿カーティスの表情が、一気に強ばったのが判った。

 内務卿カーティスにとって、聞き捨てならない内容だったのかもしれない。

「――どういう意味だ?」

 内務卿カーティスが俺に問いかける。

 俺は鼻で笑って、それに言葉を返した。

「お前はクルトの目的を知らないのか」

 俺の言葉に、内務卿カーティスは少し無言になった後、口を開いた。

「――貴様はあの男の目的を、知っているというのか?」

 俺はそれを聞くと、ニヤリと笑いながら、手を振って言う。

「――ああ、いや、気にしないでいい。

 今、俺が言ったことは忘れてくれ」

 俺の返答に、馬鹿にされたと思ったのだろう。内務卿カーティスは明らかに怒気をはらんだ視線を返した。

「貴様――!」

 内務卿カーティスが俺に歩み寄ってくる。

 俺は賢者の杖スタッフオブセージかかげて、自分に付与エンチャントを掛け直した。

 ――そして、最後に“光属性”を付与エンチャントする。

 増幅された付与エンチャントは、今までの倍以上の威力がある。


 近寄ってくる内務卿カーティスの姿を見て、俺の額には玉のような汗が浮かんでいた。

 ここから先は、俺にも判らない。正に出たとこ勝負だ。


 俺は、この戦闘の最大の危機ピンチにおいて、今まで見たことも試したこともない魔法に挑もうとしていた。




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