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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第三部 アンセル篇
31/117

030 剛力

「貴様――」

 内務卿の視線は、完全に俺に固定されている。

 セレスティアは聖乙女の剣ジャクリーンを抜き放ち、盾を装備すると、状況に圧倒されている文官、武官に向かって叫んだ。

「皆下がれ!

 国王陛下と宰相殿下をお守りしろ!」

 武官とおぼしき者たちが、即座に動いて国王と宰相オルガを包み囲んで下がっていく。


 俺の左右には武器を構えたグレイスとシルヴィアが立ち上がっていた。

「まだ魔人化していません。今の内に狙いますか?」

 グレイスが俺に問いかける。

「いや、魔人化させなければセレスティアの疑いは晴れない。

 危険はあるが、力勝負だな」

 俺がそう言って間もなく、謁見えっけんの間に響くように、どくん、と大きな魔力の波動が感じられた。

 途端とたんに内務卿の身体が二回りぐらい巨大化する。

 それを見て、宰相オルガが驚きの声を漏らした。

「まさか、本当に“魔人”だというのですか――」

 宰相オルガだけではない、居並ぶ全員が驚愕きょうがくの表情だ。

 御伽噺おとぎばなしに出てくるような存在が、まさか身近に存在するとは思っていなかったのだろう。

 俺は変化する内務卿の外観を見ながら、慎重に状態ステータスを確認した。


**********

【名前】

 カーティス

【年齢】

 不明

【クラス】

 魔人

【レベル】

 53

【ステータス】

 H P:????/????

 S P:????/????

 筋 力:???

 耐久力:???

 精神力:???

 魔法力:???

 敏捷性:???

 器用さ:???

 回避力:???

 運 勢:???

 攻撃力:???

 防御力:???

【属性】

 闇

【スキル】

 不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、不明、ハーランド語

【称号】

 不明、不明、不明、不明、不明、アラベラの使徒

【装備】

 暗闇の大剣(攻撃力+510)

不明

【状態】

 不明

**********


 内務卿カーティスは、元が中年男性とは思えないぐらい、筋骨隆々きんこつりゅうりゅうとした姿に生まれ変わっている。

 武器は巨大で真っ黒な刀身の両手剣だけに見えるが、レベルだけで言えば、クルトよりも上の敵だ。

 数値パラメータについては、魔人化する前も見えなかったのだが、魔人化によって間違いなく強化されているだろう。どう考えても強敵に違いない。

 特に今回は前情報がほとんどない分、使ってくる魔法やスキルが判らない。油断は禁物だ。


 俺は先頭に立つセレスティアに声を掛けた。

「セレス、気をつけてくれ。相当な力を持つはずだ」

 セレスティアはそれにこたえる。

「わかった。補助を頼む」

 セレスティアはそう言うと、内務卿カーティスの正面に歩み出る。

 俺は次々と付与エンチャントを掛けていった。筋力増マイト防護プロテクション走力強化スピード精神力強化コンセントレーション体力強化ブレスオブボディ魔力強化ブレスオブマジックに加えて、接触魔法もそれぞれに掛ける。

「――ケイ、あなたは付与術士エンチャンターだったのか」

 セレスティアが少し驚いたように言う。

「一応な」

 俺が端的に応えると、セレスティアは少し微笑んだ。

「なるほど、これ以上ない補助サポートだ」

 セレスティアはそういうと、改めて内務卿カーティスの前に進み出た。


 内務卿カーティスは魔人化を終え、皮膚が見えている部分は銅色の輝きがある。

 凶悪度が増した顔をゆがませながら、内務卿カーティスは俺とセレスティアに向けて言葉を放った。

「貴様ら――私の折角の計画を台無しにしてくれたな。

 許すわけにはいかんぞ」

 俺はそれを聞いて、笑いながら言う。

「こっそり隠れるのが計画か。

 計画というものはもっと周到しゅうとうに立てるものだ」

 その言葉に内務卿カーティスは、俺に怒りの目を向ける。

 すると、それをさえぎるように、セレスティアが俺と内務卿カーティスの間に割り込んだ。

「来い、カーティス! 私が相手になってやる」

 内務卿カーティスはその発言を聞いて、セレスティアに向けて大剣を両手で振りかぶった。

 内務卿カーティスの姿は、人間の姿形ではあるが、まるで大鬼オーガのように大きい。

 その姿で振るう両手剣は、相当な破壊力に思えた。


 だが、セレスティアは左手の盾で、その攻撃をガッシリと受け止めた。セレスティアの身体に大きな加重が掛かり、彼女の身体全体が沈み込む。

 大剣と盾が激突したところからは、白い魔法の火花が断続的に飛んでいた。セレスティアの持つ盾は、間違いなく何らかの魔法が付与された品だ。

 セレスティアはその一撃を押し返すと、すきを見て右手に持った聖乙女の剣ジャクリーンで突きを放った。

 聖乙女の剣ジャクリーンの一撃は、確かに内務卿カーティスの脇腹を捉える。

 周囲に金属的な衝突音が響き、内務卿カーティスの脇腹に傷が付いたが、かすり傷のように浅かった。


 内務卿カーティスは続いて右手だけで横ぎを放つ。

 俺は無駄と思いつつセレスティアの盾の前に魔壁マジックウォールを二重に作った。

 周囲に破壊音が響き、魔壁マジックウォールが粉々に粉砕される。だが、それで勢いを殺された大剣は、さほど威力のない形でセレスティアの盾を叩いた。

 と、その瞬間、左からシルヴィアの土銃ドレイクガンが放たれる。内務卿カーティスは左腕でガードするが、下腕かわん土銃ドレイクガンが突き刺さった。

「ダメ、浅いわ!」

 シルヴィアが叫ぶ。俺はシルヴィアに攻撃目標ターゲットが移るのを恐れて、立て続けに魔弾マジックボール・小を放って牽制けんせいした。内務卿カーティスはそれを後ずさりしながら避ける。

 その瞬間、内務卿カーティスの影のある方向からグレイスが飛び出し、内務卿カーティスの右脚に向けてチャージを仕掛けた。

 その攻撃は内務卿カーティスの右太ももに突き刺さり、仕掛けられた接触魔法の魔弾マジックボールによって、爆発が起こる。

 流石にダメージがあるのか、内務卿カーティスがぐらりと右側にかしいだ。

「――!」

 その後の内務卿カーティスの行動は、俺もグレイスも予測していなかったものだった。

 内務卿カーティスは右側にかしいだにも関わらず、全くの体勢不十分のまま、グレイスに横ぎを放ったのだ。

 その攻撃はチャージで前に出ていたグレイスが、もろに身体に受けてしまうコースだった。

「くっ――!」

 周囲に激しい金属音と火花が飛び散り、その攻撃が逸れる。

 セレスティアが無理矢理聖乙女の剣ジャクリーンを差し込み、内務卿カーティスの大剣を受け流したのだ。

 結果、攻撃はグレイスに当たらず、空を切った。


 ――やばい、今のはセレスティアが咄嗟とっさに動いてくれなかったら、グレイスはただでは済まなかった。

 こいつはひょっとしたら、想像よりもずっと強いのかもしれない。


 体勢不十分で攻撃して、結局尻餅しりもちをついた内務卿カーティスは、手をつきながら即座に起き上がり、セレスティアの方へ向き直った。

 その間にグレイスは、俺の近くまで後退してくる。

「――ロドニーとは比べものにならない堅さです」

 グレイスが俺に報告する。

 少なくともロドニーとの闘いでは、魔弾マジックボールを乗せた突き攻撃で、片腕を粉砕ふんさいできた。

 もちろん攻撃力に優れたニールの長剣と、今グレイスが持っている店売りの長剣では、かなり違いハンデはあると思うが――。


 俺は右隣に控えたシルヴィアに目配せする。

 シルヴィアは意図をんで、わずかな間、にらみ合い状態になった内務卿カーティスとセレスティアの間に、大きな岩壁ロックウォールを作った。

 視界がさえぎられるのを嫌った内務卿カーティスは、暗闇の大剣でそれを粉砕しようとする。

 俺はそれを見越して岩壁ロックウォール魔弾マジックボール・大を放った。

 内務卿カーティスは、破壊した岩壁ロックウォールの向こうから飛んできた魔弾マジックボール・大を、身をよじって避けようとしたが、上手く避けきれずに右肩に被弾する。

 内務卿カーティスの右肩に傷ができ、青黒い血が飛び散った。

 ダメージになったことは間違いない。

 だが、ロドニーやジノと闘った時と比べると、どう見てもダメージが浅い。


 追撃がやってこないのを確認した内務卿カーティスは、今度はセレスティアに鋭い突きを放ってきた。

 油断なく構えていたセレスティアは、盾の角度を微妙に調節して、その突きを盾で受け流す。

 直後、第二撃として両手持ちでの横凪ぎが襲ってきた。

 今度は受け流すような威力の攻撃ではない。

 セレスティアは聖乙女の剣ジャクリーンを持った右手も使って、盾で攻撃をガッシリと受け止めた。

 だが相当に威力があったのだろう、暗闇の大剣に押されて、セレスティアの身体が大きく流れる。

 内務卿カーティスは暗闇の大剣を引くと、今度は逆袈裟けさの方向に斬撃を放ってくる。

 セレスティアは聖乙女の剣ジャクリーンを器用に使って、受け流す。

 さらに次にやってきた右手での斬撃を、セレスティアは再び左手の盾で受け止めた。


 第五撃、第六撃と、セレスティアは時には器用に、時には力強く攻撃を受け止めている。

 間違いない、セレスティアの防御能力は相当なものだ。

 だが、攻撃がかさむごとに、セレスティアはじりじりと後退していく。

 そのさまは、ただひたすらに防戦に追い込まれていく姿に見えた。


 ふと、セレスティアは内務卿カーティスの横ぎを盾で防がず、ギリギリ身体を曲げて、完全に避けた。

 大きな空振りになった攻撃は、内務卿カーティスの無防備な脇腹をセレスティアにさらす。

 セレスティアはそれを見逃さずに突きを放ったが、かなり距離があって剣が届くようには見えなかった。

 だが、聖乙女の剣ジャクリーンの剣先から生まれた光の弾が、その距離を埋め、内務卿カーティスの脇腹にヒットする。

 セレスティアは剣による攻撃でなく、光属性魔法による攻撃を試みたのだった。

「ちっ――!」

 内務卿カーティスが明らかに嫌がったのが判った。

 光弾スターシェルが当たった部分はあざのように黒くなっている。

 どの程度のダメージかは判らないが、明らかにこれまでとは異質なダメージを与えているように思えた。


「魔法は通るようだな」

 俺はそれを見て、グレイスとシルヴィアに言った。

「光属性だけじゃないの?」

「わからん。

 土属性や無属性はダメだったように思うが――。

 全部、確かめてみるか」

「いいわ。あたしが動きを止める」

「頼む。グレイスは俺の後ろへ」

 シルヴィアはグレイスが下がったのを確認すると、黄褐色の杖スタッフオブタンを高く掲げ、内務卿カーティスの前後左右を岩壁ロックウォールで囲った。

 その瞬間、俺は内務卿カーティスに複数の火弾ファイアボールたたき込む。

 火属性魔法は建物への延焼えんしょうが怖かったので、俺もシルヴィアも使うのを躊躇ちゅうちょしていた。

 だが、岩壁ロックウォールで囲ってしまえば問題ない。

 果たして二発ほどの火弾ファイアボール内務卿カーティスにヒットした。


 内務卿カーティスは自分の周りの岩壁ロックウォールを、うざったそうに破壊する。

 すると再びシルヴィアが岩壁ロックウォール内務卿カーティスの周りに築いた。

 俺は今度は氷弾アイスボールを放ち、内務卿カーティスに当てる。


 同じことを風刃ウィンドカッター岩弾ロックボールと続けると、セレスティアと戦闘を見ていた宰相オルガから、別々の声が上がった。

「四つの属性魔法を使いこなすとは――」

 宰相オルガの発言は感嘆に近いものだったが、セレスティアの発言は抗議に近いものだった。

「これは何の真似だ!?」

 それまで激しく敵と渡り合っていたセレスティアが、ひたすら周りの岩壁ロックウォールを突き崩している内務卿カーティスを眺める状況になっている。

 ひょっしたら俺とシルヴィアが、遊び始めたように思われたかもしれない。

「敵の弱点を探ってるんだ。

 ほら、出てくるぞ!」

 俺は一応説明すると、セレスティアに警告を放つ。

 流石に油断はしていなかったセレスティアが、内務卿カーティスの攻撃を盾で受け止めた。

「どう?」

「ダメだ。光属性だけらしい」

「どうする? このままじゃ、攻撃も防御もセレスティアにんぶにっこになるわ」

 シルヴィアの目は笑っていない。

「――ケイ、武器を」

 俺の後ろから、グレイスが声を掛けてくる。

「判った。それしか方法がない。

 ――セレス、しばらくの間、たせてくれ!」

 俺が声を掛けると、セレスティアは横顔でうなずきを返す。

「シルヴィア、セレスの補佐サポートを頼む」

「了解」


 俺はそういうと、戦線から少し離れた。

 既にグレイスは呪文の詠唱を始めている。

 過去に二度、この呪文を聞いている。ある程度の長さや、あとどれくらいで終わりそうかも判ってきている。

 それだけに、まだ続く時間がもどかしい。


 周囲にはセレスティアと内務卿カーティスがぶつかる音が木霊こだましている。

 ふと闘い続けるセレスティアの状態ステータスを見ると、攻撃を受け止める度に、HPが落ちていた。

 恐らく相当な体力を使いながら、闘い続けているのに違いない。

 その姿を見て、俺の中のあせりが増す。


 ――もうそろそろ、グレイスの詠唱は終わる。


 グレイスが目を閉じたまま、詠唱を終えようとした瞬間、俺は彼女の正面から両手を直接胸元に差し入れた。

 グレイスの鎧の構造上、彼女の胸の下から、手を入れる形になる。

 それにグレイスの身体がビクリと跳ねるが、俺は構わず暖かくやわらかい人肌を、両手につかみ込んだ。

 指と指の間に挟まれたものの感触を感じて、俺は本能的にグレイスを掴んだ両手を動かす。

「――ああっ!」


 そして、グレイスがあえいだ瞬間――そこから周囲を包み込むような、強い光が放たれた。




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