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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第三部 アンセル篇
30/117

029 突破

 俺がセレスティアに尋ねたのは、彼女が西方騎士団を王都アンセルに向かわせる切っ掛けになった、セレスティア宛に届いた書面のことだった。

 書面の内容については、副団長レドモンドから、国王からの王都アンセルへの召還命令だったことは聞いている。

 だが、俺は書かれていた内容がそれだけではないと考えていた。


 セレスティアは俺の真意を測りつつ答える。

「書面自体は、恐らく査問を担当する内務卿が持っていると思うが――。

 私の記憶にある限り、“王都アンセルに魔人の影あり、急ぎ西方騎士団千五百を率いて帰還せよ”と書かれていたはずだ」

 俺はそれを聞いて得心とくしんがいく。

「やはりそうか。

 副団長レドモンドに聞いたときは、魔人のことが抜け落ちていた。

 でも、魔人のことが書いてあったから、セレスは急ぎ軍を返したんだな?」

 それにセレスティアは静かにうなずきを返した。

 俺はセレスティアに追加の質問をする。

「セレス、もう一つ質問させてくれ。

 君はその書面が届く前から、魔人を独自に追っていたんじゃないかと思っているんだが、それで間違いないかな?」

 セレスティアはその質問を聞いて、俺をじっと見つめながら答えた。

「ああ、その通りだ。良く分かったな。

 ――私は西方に既に四年近くいるが、国境を隔てた隣国ロアールとの交流がある。

 先日そのロアールの知人がこの国ハーランドの建国記念祭に参列した際に、私に“王国内ハーランドに魔人の気配がする。気をつけろ”と警告したのだ。

 それ以降、私は魔人の影を追って、密かに調査を行っていた」

「君が魔人を追っていることを、知っている人間は?」

「西方騎士団の幹部に相当する人間は知っている」

「――なるほど、良く分かった」

 俺はそれを聞くと、ニヤリと笑った。

「この後はどうするのですか?」

 グレイスが俺にたずねる。シルヴィアやセレスティアも興味があるという感じで、俺を見ている。

「明日、王宮へ行こう。

 そこで、内務卿――魔人を倒す」

 俺の発言に、セレスティアが絶句した。

「内務卿――何年も王宮にいるあの男が、魔人だと言うのか」

「まあ、そういうことだ。

 内務卿が偽の書面で君をおとしいれたということになるな」

「――――」

 色々と考えるところがあるのか、セレスティアが無言になる。

「ケイ、それで明日、王宮にどうやって入るのですか?」

 グレイスが素朴そぼくな疑問を投げかける。

「どうって――。

 そりゃあ、正面から堂々と、だろう?」

 その発言を聞いて、グレイスは「またか」というあきれた表情をしていた。




 翌日の朝、王都アンセルの中は、早朝から物々しい雰囲気に包まれていた。

 兵士たちの軍靴ぐんかの音が鳴り響き、王宮の周りはもちろんのこと、いつもは人の歓談が聞こえてくる露店のほうにも兵士の影が見える。


 セレスティアは、俺たちがセレスティアと共に王宮に行けば、拘束されてしまう可能性が高いと言って反対したのだが、最終的には押し切った。

 グレイスは最初から呆れた表情だし、シルヴィアに関しては俺に何か考えがあるならいいんじゃないという感じで、既に状況を楽しんでいる雰囲気さえある。


 セレスティアを先頭に、俺たち四人が王宮の前に近づくと、当然周囲の人々や兵士が俺たちの存在に気づく。

 外套がいとうなどで身を隠さず、セレスティアは見事な装飾の入った白い鎧に額当ての装備だ。

 残る俺たち三人も完全武装の状態ではあるが、注目は完全にセレスティアに集まっている。

 人々はこれまで全く姿を見せなかった白銀の戦乙女ヴァルキリーを一目見ようと、人垣ひとがきを作り始めた。


 セレスティアと俺たち三人は、王宮の門番に来意を告げる。

「――陛下に謁見えっけんしたい」

 セレスティアがそういうと、門番の兵士は半ば圧倒されたように門の中に消えていった。

 それを見て、別の兵士にセレスティアが声を掛ける。

「門を開けてくれ」

「し、しかし――」

 聖騎士デイムセレスティアが謀反むほんの疑いで拘束されたことはみんな知っている。流石に簡単に王宮に入れようとはしない。

「開けろ」

 セレスティアは追い打ちを掛けるように兵士に言った。その気概に気圧されて、兵士は門を開け始める。


 セレスティアを先頭に、俺たちは真っ直ぐ王宮に入っていった。

 王宮内は多くの兵士が武装状態で待ち構えている。

 だが、セレスティアに手出ししようとするものはおらず、まるでモーセの十戒じゅっかいのように、兵士たちが左右に割れていった。

 無理もない、止めようものならセレスティアが剣を抜きそうな雰囲気があったからだ。

 いざ戦いになれば、セレスティアの相手になるような兵士はいない。

 進んで命を散らそうとする者など、存在しなかった。


 俺たちが中庭に差し掛かった時、バタバタと足音が近づいて来て、たちまちセレスティアが取り囲まれた。

 全員赤い鎧を着た集団で、鍛え抜かれた雰囲気が漂ってくる。

 セレスティアがその集団の前で脚を止めると、赤鎧の集団から一人の男が進み出た。

「――フェリクスか」

 セレスティアが呟くと、フェリクスと呼ばれた赤鎧の男は、手に持った短槍をセレスティアに突きつけた。

聖騎士デイムセレスティア。

 そなたは謀反人として謹慎を命じられた身。

 何を思って戻ってきたのかは知らんが、このまま拘束させてもらう」

「フェリクス、私はお前と闘いに来た訳ではない。

 陛下に会わせて欲しい。そこで全てが判るはずだ」

 だが、赤鎧の男フェリクスは道を譲る気配はない。

 俺は正面に立った赤鎧の男フェリクスをじっと凝視した。


**********

【名前】

 フェリクス・リース

【年齢】

 31

【クラス】

 親衛隊長ロイヤルガーズ

【レベル】

 37

【ステータス】

 H P:5567/5567

 S P:760/760

 筋 力:903

 耐久力:1109

 精神力:912

 魔法力:533

 敏捷性:624

 器用さ:501

 回避力:578

 運 勢:438

 攻撃力:1246(+343)

 防御力:1810(+701)

【属性】

 火

【スキル】

 火属性魔法3、挑発タウント2、串刺しスキュア連続突きスラスト、生活魔法、魔力制御1、体術4、槍術8、棒術4、突術7、精神耐性4、状態異常耐性3、睡眠耐性5、苦痛耐性7、自動体力回復2、ハーランド語

【称号】

 親衛隊長ロイヤルガーズ聖騎士サー、赤竜騎士、貴族騎士、蛮族狩り、獣人狩り、クランシー教徒

【装備】

 火炎の短槍フレイムスピア(攻撃力+343)

 親衛隊長の鎧アーマーオブハーランド(防御力+701):セット効果

【状態】

 なし

**********


 ――こいつもセレスティアに劣らないぐらい強い。

 親衛隊長を拝命はいめいするだけはあるということか。


 赤鎧の男フェリクスが退かないのを見て、流石にセレスティアが抜剣ばっけんする。

 セレスティアの聖乙女の剣ジャクリーンきらびやかな光を反射し、周囲を照らした。

 セレスティアは続けて資産インベントリから真っ白な盾を取り出し装着する。

 これで白銀の戦乙女ヴァルキリーは完全にフル装備だ。


 グレイスとシルヴィアも武器を構え、一触即発の雰囲気になったとき、赤鎧の男フェリクスの後方から声が飛んだ。

「双方、剣を引きなさい!

 陛下が聖騎士デイムセレスティアとお会いになる。争いを止めよ!」

 その声の主を見ると、四〇歳程度に見えるローブを着た女性だ。

 声を聞いた赤鎧の集団は、さっと武器を引き、一斉に左右に分かれていく。

 赤鎧の男フェリクスも暫くセレスティアをにらみ付けていたが、短槍を引いて、通路の横に引き下がった。


 セレスティアと俺たちは武器を収め、ローブを着た女性のいる方へと歩いて行く。

 ローブを着た女性は、近づいて来たセレスティアを見ると、ニッコリと微笑んだ。

「セレス、お帰りなさい」

「殿下、お手をわずらわせて恐縮です」

 ローブを着た女性はフフと笑うと、俺の方に視線を動かした。

 それに気づいてセレスティアが紹介をする。

「こちらは冒険者のケイ、グレイス、シルヴィア。

 彼らと共に謁見えっけんすることを、お許しください」

「――判りました。何か理由があるのですね。

 私はこの国ハーランド宰相さいしょう、オルガ・レン・レノックス。

 理由は陛下と共に聞きます」

 なるほど、宰相は女性だったのか――。

 それに、呼称が“殿下”ということは、王族のようだ。

 俺は素早く宰相に魔人の疑いがないことを状態ステータスで確認すると、セレスティアの後ろに引き下がる。


 セレスティアと俺たち三人は、宰相オルガに伴われ、謁見えっけんの間へと通される。

 大きな広間となったそこには、正面に国王とおぼしき壮年の男性が、左右に文官、武官らしき顔ぶれが一列に並んでいた。

 俺は素早く視線を流すと、それぞれの状態ステータスを確認していった。

 並んだ顔ぶれの中に内務卿おめあてもいる。


 だが、内務卿以外に状態ステータス上は特筆すべき人間はいない。武官も数値パラメータの高い者もいるが、赤鎧の男フェリクスやセレスティアのような突き抜けた能力は持っていない。

 強いて言えば、数値パラメータ上は、内務卿も大したことはない。ただし魔人化すれば、どういう状態ステータスになるか、判らないが――。

 見た感じでは、クルトが誰かに化けているということも無さそうだった。

 俺たちは元々クルトを追って王都アンセルに来た訳だが、国王と謁見えっけんするところまで来たにも関わらず、クルトを見つけられないでいる。


 宰相オルガは国王の前に進み出ると、そのまま歩く方向を変え、右側の列の一番先頭に立った。

 セレスティアは国王の前まで進み出て、ひざまづく。

 俺は一瞬どうしようか迷ったが、セレスティアに合わせて跪いておくことにした。

 それを確認して、グレイスとシルヴィアも腰を落とした。

「――陛下、お目通りいただき、ありがとうございます」

 国王からの返事はない。

 その代わりに右側に控えた宰相オルガから、声が掛けられる。

聖騎士デイムセレスティア。

 陛下に代わり、二つお尋ねします。


 まず、あなたは陛下の命により、謹慎きんしんの身であったはずです。

 王宮を抜け出し、そしてまたこうして戻ってきた理由を述べなさい。


 ふたつ目は、そこに控えた冒険者について。

 通常謁見えっけんの間に入れるべき身分ではありませんが、そこへ連れ入った理由を述べなさい」

 それに対してセレスティアが明確に通る声で返答した。

「陛下の命に逆らったことをお許しください。

 私がここに戻ったのは、王宮に巣くう逆臣ぎゃくしん征伐せいばつするためです。

 そして、この者たちは、そのための仲間」

 その発言に、居並ぶ者たちが騒ぎ出す。

 その様子に宰相オルガは全員を正そうとした。

「――静まりなさい。陛下の御前ごぜんですよ。

 聖騎士デイムセレスティア、何を根拠にそうした発言をするのです」

 その宰相の言葉に、セレスティアがわずかに俺を振り返った。

 俺はその場に立ち上がって、宰相オルガの方を見る。

「宰相殿下、一つよろしいですか?」

 宰相オルガは俺を暫く見つめると、発言を許した。

「――話しなさい」

「宰相殿下は、聖騎士デイムセレスティアが受け取った書面を見たことはありますか?」

 宰相オルガは、回答の内容を少し頭の中で考えたようだった。ほんの少し間があってから、答えが返ってくる。

「――いいえ、ありません」

 すると、その答えの直後に列に並んだヒゲの内務卿おめあてが進み出て発言した。

「書面なら裁判の証拠として私が預かっている。

 しかしその書面は既に捏造ねつぞうされたものであることが判っているのだぞ」

 俺は思った通りの展開になりつつある高揚感を隠しつつ、言った。

「ええ、捏造です。

 ――ではその“捏造の書面の中身”は気になりませんか?

 聖騎士デイムセレスティアは、どのような文面を見て、西方騎士団を反転させたのか、興味はありませんか?」

 俺がそういうと、全員が静まりかえった。しばらくの沈黙の直後、口を開いたのは意外な人物だった。

「――確かに興味はある」

 国王がそういうと、一斉に視線が前方へと集まる。

「では、内務卿、書面を用意して読み上げなさい」

 宰相オルガが指示したが、俺はそれをさえぎった。

「いいえ、その必要はありません。何故なら中身は判っていますから。

 書面には“王都アンセルに魔人がいる”と書かれていたんです。

 だから聖騎士デイムは西方騎士団を王都アンセルに向かわせた」

 その発言に、再び謁見えっけんの間の中がざわつく。

「静まりなさい。

 そこの冒険者、魔人というのは、あの“魔人”のことですか?」

「この国では御伽噺おとぎばなしに出てくるそうですね。

 でも――実在しますよ。

 あなたたちの、すぐ近くに」

 俺はそういうと、内務卿に視線を動かし、一気に無数の魔弾マジックボール・小を内務卿に向けて放った。

 さすがにこのタイミングで攻撃してくるとは思わなかったのだろう。ヒゲの中年姿の内務卿はそのほとんどを避けることができず、魔弾マジックボールを身体で受けた。

 激しい金属と金属がぶつかるような音が鳴り響き、内務卿はその場から吹き飛んだ。

「な、何を――!」

 宰相オルガが驚いた直後、吹き飛んだはずの内務卿がムクリと起き上がる。

 服は千切れ飛び、見る影もない。

 だが、身体のどこにも傷がない。


 ――内務卿は、完全に無傷だった。




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