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美女と賢者と魔人の剣  作者: 片遊佐 牽太
第三部 アンセル篇
28/117

027 理由

 俺たち三人は、西方騎士団支部で、さらに詳しい情報を聞き出した。

 特に聖騎士デイムセレスティアの現状に関する情報は、あればあっただけいい。


騎士団長セレスティアが具体的にどこにいるのかを知りたい」

 俺の端的な質問に、レドモンドは明確に答えた。

聖騎士デイムは王宮の中の一番東南の端に位置する客間におられる。

 元々貴族の宿泊を想定して作られている部屋で、恐らく夜もその部屋でお休みになっているはずだ。

 ――逆に、食事も含めてその部屋から出ることがないと言える。


 室内には身の回りのお世話をする女官にょかんが常に一人はいるはずだ。

 恐らく女官は、監視役も兼ねている。

 ただ、女官は我々が面会する間、席を外させることができる。身分が違うからな。


 ただし、その部屋の窓の外、扉の外にはそれぞれ二人組の兵士が配置されていて、それらの兵士が気づかないように聖騎士デイムを連れ出すのは不可能だ。

 流石に日が落ちた時間は面会が許されていないので、夜にどのような状況になっているのかは、判らないが――」

 レドモンドがそこまで話した時、それまで静観していた尾行の男ジェイルが口を挟んだ。

「――ケイ・アラカワと言ったか。

 お前は聖騎士デイムを助けることができると言う。

 しかし聖騎士デイムをお助けすると言っても、色々な助け方があるだろう。

 中には助けたことにはならない助け方もあるはずだ。

 だからこそ、聞きたい。

 お前は聖騎士デイムの何をお助けするつもりなのだ?

 命か? 名誉か? もしくはその両方なのか?」

 ジェイルは真剣に、俺を真っ直ぐに見つめていた。

 その目を見返しながら、俺はグレイスに向けて質問を放った。

「――グレイス、この国ハーランドにおける謀反むほんには、どういう罪が下されるんだ?」

 グレイスはその質問に明確に答える。

この国ハーランドに限らず、どの国においても、謀反に対しては死罪が下されます」

「――ということで言うと、少なくとも騎士団長セレスティアの命は守れる希望がある。

 名誉の方は判らん。

 何しろ俺は騎士にとっての名誉が一体何なのかが、判らないからな」

 ジェイルは俺の発言を聞いて、素直に引き下がった。

 表情を見ると満足したようには見えない。だが、俺からすると名誉など守っても何の足しにもならない。


 俺は副団長レドモンドに、もう一つ質問をした。

「――西方騎士団が王都アンセルに戻ってきた経緯をもう少し知りたい。

 具体的には、王都アンセルに戻ってくるように、という指示は何で聞いたんだ?

 誰かが伝えてきたのか、書面だったのか」

 俺の質問に、レドモンドは少々苦々しげな表情を作りながら回答する。

「書面だ。

 書面は正式なものだ。

 ――いや、結果的には偽造だったのだから、正式なものではなかったのだが――。

 通常、国王陛下が出される書面には、国璽こくじによる印章いんしょうが押されている。

 我々が受け取った書面にも、確かに印章は押してあった。

 だから、その意味では確かに正式な書面ではあった」

 シルヴィアがそれを聞いて首を傾げる。

「じゃあ何が偽造だった訳?」

「簡単なことだ。

 我々がその書面を受け取り、指示の通りに王都アンセルまで来て、陛下と面会した時、陛下は“そのような書面は書いたこともないし、指示もしていない”と仰ったのだ」

「何よそれ――」

 引き下がるシルヴィアに変わって、今度はグレイスが質問した。

「正式な印章の押された書面が、捏造ねつぞうされる可能性はあるのですか?」

「――――」

 答えにくい質問なのか、レドモンドはそれには即答しなかった。

 答える内容を整理しているのかもしれない。


 レドモンドは、部屋の中を往復するように歩き回ってから、グレイスの方へ向き直った。

「印章は、国王陛下の他に、宰相さいしょう内務卿ないむきょうの二人が押すことができる。

 ――だが」

 一拍いっぱくおいて、レドモンドは続ける。

宰相さいしょう内務卿ないむきょうは、自分たちの押印おういんを否定している。

 ――つまり、書面には正式な印章があるのに、それを押すことのできる三人が、全員押印を否定しているのだ」

 それを聞いて誰もが無言になってしまう。

 俺は状況を整理するために口を開いた。

「――なるほど。

 では現状、可能性としては三つある訳か。

 一つ目が、国王陛下が自分が出した書面を“忘れている”場合。

 二つ目が、国王陛下、宰相さいしょう内務卿ないむきょう――この三人の内の誰かが“嘘をついている”場合。

 三つ目が、正式な印章を押す、“別の手法”があった場合」

 レドモンドは俺の整理を聞いてうなずく。

「――だが、三つ目については、可能性はほぼないと考えているが」

 俺は、それは願望でしかない、という言葉を口にしかけたが、敢えて声にはしなかった。



 一通りの情報交換を終えた俺たちは、王宮に向かうための準備を行うことになる。

 セレスティアに対しては、取り調べが行われている関係で、あまり面会の時間を自由に作ることができないらしい。ただ、昼食前後の時間は比較的面会時間をもうけることができるようだ。

 今からだと、丁度良い時間帯になる。


 ちなみに王宮へ向かうための準備といっても、大したことをする訳ではない。

 騎士章を持ち、西方騎士団の白い鎧を着るぐらいのことだ。

 ただその際、レドモンドが当然のように言った言葉に対して、グレイスとシルヴィアが強く反応した。

「――王宮に入れるのはケイ殿だけだ。

 女性の騎士章と鎧は用意できないので、ここでお待ちいただきたい」

 考えれば当たり前のような気もするが、改めて突きつけられる事実としては、二人とも納得しがたいところだったのだろう。

 特にグレイスは、最後まで食い下がり、同行を希望した。


 俺は着替えるために使っていた別室に、グレイスとシルヴィアを招き入れる。

「ケイ、わたしは男装でも構いませんし、小間使いとしての扱いでも構いません。

 聖騎士デイムがどういう反応をするか判らない中で、一人だけでの行動は危険過ぎます」

「レドモンドが一緒なんだから、一人だけという訳じゃない。

 しかも何も闘いを仕掛けに行くわけじゃないぞ」

 そういうと、グレイスは目を細めて俺に言った。

「――あの男レドモンドも、どこまで信用して良いのか判りません。

 例えば聖騎士デイムから、身分を偽って王宮に侵入したあなたを捕らえるように命令されたら、レドモンドは従わないと言い切れますか?」

 結構痛いところを突いてくる。

 確かにグレイスの言う通り、そういう危険リスクはあるからだ。


 だが、結果的に俺はグレイスをなだめて引き下がらせることにした。

「グレイス、シルヴィア、ここは俺に任せてくれ。

 ――それよりも、重要なことがある」

 俺のその発言を聞いて、シルヴィアの表情が引き締まる。

「――何か考えがあんのね?」

 俺はうなずいてから説明を始めた。

「もちろん、俺の考え通りの状況だったらという前提付きではあるが――。

 俺は、聖騎士デイムセレスティアの置かれた状況を変えられると思っている。

 だが、実は俺が聖騎士デイムセレスティアを直接救う訳じゃない」

 俺はそこまで言って、グレイスとシルヴィアの肩に手を置く。

「――最終的に聖騎士デイムセレスティアを物理的に救うのは、グレイスとシルヴィアだ。

 そのために、頼みたいことがある」

 それを聞いたグレイスとシルヴィアは、お互いの顔を見合わせた。



 その後、俺とレドモンドは王宮に向かった。

 事前の申し合わせで、基本的に俺は王宮内で何も話さないことになっている。

 俺は聖騎士デイムセレスティアに会うまでは、全てをレドモンドにゆだねることにしていた。


 ただ、一つだけレドモンドに頼んだことがある。

 それは、聖騎士デイムセレスティアがいる部屋に向かうまでに、できるだけ多くの王宮内の人間を“見たい”ということだった。

 多くの人を見るということは、多くの人に見られるということを意味する訳で、レドモンドは難色を示したが、最終的にはこの願いを聞き入れてくれた。

 そのためにレドモンドと俺は、若干迂回うかいコースを取りながら、聖騎士デイムセレスティアの居室に向かうことになる。


 王宮に到達すると、門番のところで暫く待機を命じられた。

 流石に謀反の疑いを持たれている人間への面会だけに、確認を要するというところなのだろう。

 だが、俺が想像していたよりもあっさりと許可は下りた。

 俺はこの王城内ではジェイル・ライムントに成りきらなければならない。


 事前の打ち合わせ通り、レドモンドは複雑なコースを取って、東南の目的地を目指している。

 俺とレドモンドが進む先には、王宮内の召使いや、貴族とおぼしき人間が何人もいた。

 俺は一通りそれらを見て、状態ステータスを確認していく。


 暫く歩いて行くと、レドモンドが豪華な扉のある部屋の前で立ち止まった。

 扉の近くには、護衛らしき兵士が二人、立っている。


 レドモンドが兵士に来意を伝えると、片方の兵士が扉をノックした後に入室し、暫く経った後に戻ってくる。

「西方騎士団長はお会いになるそうだ。

 面会時間は三十分以内にしていただきたい」

 兵士からそれを聞き、さらにレドモンドは女官を部屋の外に出すことを望んだ。

 それを聞いた兵士は若干面倒くさそうな表情をしながらも、改めて部屋に入室していく。


 その時、レドモンドが通路からサッと身を引いた。そして、俺にも従うよう視線を送る。

 俺もそれに合わせて通路の端に寄り、少しこうべれた。


 目の前を数人の中年の男性が歩いて行く。

 こちらには一切視線を向けることなく、スタスタと歩き、通路を曲がって去っていった。

 俺はその後ろ姿を凝視する。

「今のは――」

内務卿ないむきょうだ」

 レドモンドは俺の質問に端的に答えた。


 丁度そのタイミングで、部屋の中に入っていた兵士が出てくる。

「――希望通り、女官は同席しない。ただし時間は二十分だ」

 レドモンドが感謝の返答をすると、女官が部屋から出てくる。

 俺とレドモンドはそれを注意深く見送ると、共に部屋の中に入った。



 聖騎士デイムセレスティアは武装を解き、部屋の中央からやや窓際に立っていた。

 俺たちに背を向けて、外を見ている。

 どう見ても歓迎してくれているようには見えないが、ブラウスにスカートという出で立ちが、後ろ姿とはいえ俺には魅力的に映った。

 鎧姿の時は気づかなかったが、思ったよりも立体的で女性的な体型であるように感じる。


「――聖騎士デイム

 レドモンドが声を掛ける。だが、セレスティアは返事もせず、振り返りもしない。

 俺はそれを見て、レドモンドの前に進み出た。

「西方騎士団の団長さまは、部下の呼びかけにも答えない横柄おうへいな人物のようだな」

 セレスティアは俺の声を聞いて、サッと振り返った。

 振り返った体勢のまま、俺をにらんで動かない。

「――レド、これはどういうことだ?」

 セレスティアは俺を無視して、レドモンドに声を掛ける。

 レドモンドは、おくすることなくセレスティアに返答した。

「これは、騎士団員のジェイルです」

 その回答にセレスティアは厳しい不審の目をレドモンドに向ける。

「要するに、お前もグルだということか。

 ――この男は検問で見かけた冒険者だな。

 何をしに来たのかぐらいは、説明してくれるんだろうな?」

 セレスティアとは、これまで一言二言しか口を聞いたことがなかったが、騎士団長さまならではのハードな口調がちょっとしびれる。

 一方で、こういうタイプの人間を見ると、どうも俺の中の悪い虫がさわぎ出すのを止められない。


 俺は笑いながら、セレスティアに言った。

「謀反の疑いで捕まった哀れな女を、笑いに来たんだ」

 その発言に、セレスティアとレドモンドの視線が俺に向く。セレスティアの視線は当然ながら厳しい。

「――レド、この無礼な男をここに連れてきた理由わけを言え」

 なじられて、レドモンドは一つ溜息をつきながら話し始めた。

「――聖騎士デイム、私はこの男が聖騎士デイムをこの状況から救えると言ったので連れてきました。

 それ以上でも、それ以下でもありません」

 セレスティアはそれを聞くと、再び俺たちに背を向けて言った。

「――王宮ここから立ち去るが良い。

 私は救いが必要な状況にはない。

 お前たちの勘違いだ」

 セレスティアがそういうと、レドモンドは無言になってしまう。


 恐らく想像するに、今回だけでなく、これまでの面会の場でも、似たような会話が交わされてきたのだろう。

 だからこそ、レドモンドは“聖騎士デイムは甘んじて罪を受け入れようとしている”などと言ったのだ。


 ――であれば、その考えを突き崩すだけだ。


 俺はセレスティアに近づき、部屋に備え付けられたソファに無遠慮に腰掛けた。

「一つだけ聞きたい。

 あんたが王都アンセルまで来た理由は何だ?」

 セレスティアは、それに後ろを向いたまま答えた。

「――陛下のご命令を聞いたからだ。他に何の理由がある?」

「違うだろう」

 俺は即座に断言して笑う。セレスティアは背後を向いて、無言のままだ。

「あんたは確かに命令の書面を受け取ったのかもしれないが、実際に王都アンセルまで“来ざるを得なかった”理由は、別にあるだろう?」

 俺の台詞セリフ看過かんかできなかったのか、セレスティアは振り返って鋭く俺をにらみつけた。

「――何が言いたい?」

 俺は改めて、先ほどと同じ質問をした。

「もう一度聞くが、あんたは何のために、王都アンセルまで来たんだ?」

「――――」

 今度は、セレスティアは無言になる。

 俺はその様子を見て、確信を持って言葉を続けた。

「“さがし物”は見つかったかい。

 ――俺はもうあんたの捜し物は“見つけたぞ”」

 セレスティアは一瞬驚いたように目を見開き、俺をにらみつけながら、ソファの対面に座った。

 レドモンドも、流石に今の発言の真意を計りかねたのか、俺をじっと見つめている。


「――何故、断言できる?」

 セレスティアはしばらくしてから、神妙な表情で俺に問いかけた。

 厳しい表情をしていても、彼女は魅力的だ。

 意思の強さに合わせてするどい表情が表には出てくるが、キラキラと光を反射した金髪を見ると、何か神々しいものに触れているような気分になってくる。


 俺は美しい聖騎士セレスティアを見ながら、ニヤリと笑った。

「簡単なことだ。

 ――俺には“魔人さがしもの”がえるからだ」


 俺がそういうと、セレスティアが息を飲んだのが判った。




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